2-28 第七副ギルド長ドールンと面会

 赤のダンジョン五階層フロアボス戦の後、俺は冒険者ギルドに立ち寄った。

 いつもの受付担当ワーリャさんに、魔物ランクがFのキングペンが出現した事を告げた。


「ええっ!? 本当ですか!? 違う魔物が出て来るなんて、そんな話は聞いた事がないです……」


「じゃあ、たまたま俺たちの時に強い魔物が出たのでしょうか? ランダムに強い魔物が出るとか?」


「いや……フロアボスは各フロアで固定です。違うフロアボスが出て来る事は無いです」


 俺の予想はあっさり否定されてしまった。

 ワーリャさんは俺が言う事をあまり信じていないっぽい。


「でも、キングペンが出たのは本当ですよ! ドロップ品を回収してきました。見て下さい!」


 ベルトポーチ型のマジックバッグから、キングペンが残したドロップ品コーヒー豆を取り出しカウンターに置く。

 大きな麻袋から、コーヒー豆の匂いが漂う。


「本当ですね……。これは、キングペンがドロップする『ペンギンコナ』ですね……」


「ペンギンコナ? コーヒーの種類ですか?」


「そうです。ペンがドロップするのは、ただのコーヒー豆。ビッグペンは『ペンギンモカ』、キングペンは『ペンギンコナ』ですね」


 何でもペンがドロップするのは、手に乗るサイズの麻袋に入ったコーヒー豆で味はいたって普通。

 ビッグペンがドロップする『ペンギンモカ』は、大きな麻袋に入っていて苦みとまろやかさのバランスが取れた味。

 キングペンがドロップする『ペンギンコナ』は、色の濃い大きな麻袋に入っている高級コーヒー豆で苦みの中にかすかな甘みを感じる大人の味わいだそうだ。


 俺が持って来た麻袋は色がかなり濃い茶色だ。

 間違いなく『ペンギンコナ』だろう。

 飲んでみたいな。


 ワーリャさんは、『ペンギンコナ』の麻袋をじっと見つめてつぶやいた。


「本当にキングペンが出たんだ……赤のダンジョンの五階層に……おかしいな……」


「ええ、そうです。ウソはついていません」


「わかりました。上に報告して来ますので、ちょっと待っていて下さい」


 ワーリャさんは、ギルドの奥へすっ飛んで行った。

 そのまま受付カウンターのイスに座って十分ほど待っているとワーリャさんが戻って来た。


「副ギルド長に話を伝えて来ました。ナオトさんにお会いになるそうです。一緒に来てください」


「ありがとうございます!」


 ワーリャさんと副ギルド長の部屋へ向かう。

 副ギルド長の部屋は三階にあり、俺は副ギルド長と面会した。


 副ギルド長は小柄で髭を生やした五十歳くらいの真面目そうな人だ。

 身なりもきちんとしている。


「第七副ギルド長のドールンだ」


「第七?」


「ああ。ここは大きなギルドだから、副ギルド長は八人いてね。私は新人冒険者を担当している。さあ、かけてくれ」


「失礼します」


 なるほどね。

 帝都ピョートルブルグは大きな冒険者ギルドだ。

 副ギルド長と言っても、一人だけじゃないのか。

 日本の会社で言うと専務取締役くらいかな。

 

 島耕作はいないよな?

 転生していないよね?


 ドールン副ギルド長の部屋は、広い日当たりの良い部屋だった。

 本棚や応接ソファーがあり、品の良い調度品が揃えられている。


 俺はドールン副ギルド長が座るデスクの前にある革張りの椅子を勧められた。

 座り心地はなかなか良い。儲かっているのかな。


「話しはワーリャから聞いたよ。実はね。似たような報告が他のダンジョンから上がって来ている」


 帝都ピョートルブルグには、複数のダンジョンがある。

 俺たちガントチャートが潜っているのは、初心者向けの『赤のダンジョン』だ。

 レベルが上がり経験を積んだ冒険者は、他のダンジョンに潜る。

 他のダンジョンでも同様の事象が起きていると聞いて俺は驚いた。


「本当ですか!?」


「ああ、午前中に二件報告を受けた。今までと違うフロアボスが出現している。1ランク強い魔物がね。今日になってから急にだ」


「今日から急に……」


 どう言う事なのだろうか……。

 俺は疑問をドールン副ギルド長にぶつけてみた。


「今までと違う魔物が出現するのは、良くある事でしょうか? ダンジョンの変化でしょうか? 例えば一年周期で変わるとか?」


「いや、それは聞いた事がないね。原因は不明だ。同じ事がまたあるかもしれないから、危なくなったら無理せず撤退してくれ。いいね?」


「わかりました」


 原因が気になるが、ギルドの方でもわからないなら仕方がない。

 ドールン副ギルド長が言う通り、魔物と戦闘してヤバくなったら即撤退だな。


 話しは終わりかと思い席を立とうとするとドールン副ギルド長から別の事を聞かれた。


「それから……ノンゴロドの冒険者ギルドで大変な目にあったと聞いたのだが、詳しい話を聞けるかな?」


 チラッとワーリャさんを見ると真剣な顔でコクリと肯いた。

 

 ノンゴロドは、ここ帝都に来る前の街だ。

 ジョブ登録をしたら高額の借金を背負わされた。

 身の安全を考えて借金を払って逃げた訳だが……。

 思い出すと理不尽さに腹が立って来る!


「ええ、弓士でジョブ登録をしたのですが――」


 俺はノンゴロドの冒険者ギルドで起こった事をドールン副ギルド長に話した。

 ドールン副ギルド長は、真面目に俺の話しを聞いてくれた。

 話を進めるとドールン副ギルド長の表情はみるみるうちに険しくなった。


「ううむ……。新人冒険者に高額でジョブスクロールを売りつけ、借金を背負わせる。借金が払えなければ、奴隷として売り飛ばす……。悪質だ! 何か証拠は持っているかね?」


「はい。借金を返済した時に証文を書かせました。これです」


 俺はマジックバッグから借金返済の証文を取り出した。

 ドールン副ギルド長は、眉根を寄せて不愉快そうに証文を眺める。


「弓士のスクロールが50万ラルク、鑑定紙が二枚で10万ラルク。合計60万ラルクの借金を返済したと……。受取人はセルゲイ……」


 うん。ドールン副ギルド長は、真面目そうな人だから対応してくれるかもしれない。

 俺は熱を込めてドールン副ギルド長にお願いした。


「他に被害者を出さない為にも、何とかして頂けないでしょうか?」


「いや実は手遅れと言うか……。他に被害者が出ているんだよ……」


「本当ですか!?」


「ああ。この辺り一帯のギルドに奴隷が逃げ込んで来る事が増えていてね。事情を聞くと元冒険者……それも新人冒険者ばかりで、ノンゴロドの冒険者ギルドに売り飛ばされたと言っているんだ」


「時すでにお寿司……」


「何だって?」


「いえ。何でもありません。それで、その逃げ込んで来た人たちは?」


「保護をして奴隷商や買い取った人物と交渉をしているよ。この証文は書き写させて貰って良いかな?」


「かまいませんよ」


 ドールン副ギルド長がワーリャさんに目配せをするとワーリャさんが証文を書き写し始めた。

 ドールン副ギルド長は腕を組み天井を見上げて深くため息をついた。


「ここ帝都ピョートルブルグのギルドがこの辺りで一番大きい。ノンゴロドは自由都市連合にあるギルドだが、何らかこちらで動く事になるだろう。この件は内密に頼む」


「わかりました。副ギルド長にお任せします」


 ドールン副ギルド長にノンゴロドの対応をお願いして副ギルド長の部屋を出た。

 買い取りカウンターで今日のドロップ品を売却し、図書室で魔法やダンジョンについて調べた。


 図書室を出たころには、すっかり夜になっていた。

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