2-26 キングペン戦決着
俺の声にレイアが反応した。
「ああ!? この鳥野郎は、聞いていたのと違うヤツか!?」
「そうだ! 1ランク上だ! 強いヤツだ!」
キングペンがグッと構えたように見えた。
何か来る!
俺の直感がそう告げた。
「レイア! 前!」
「何をっ! グオ!」
キングペンとレイアの間は、ほぼゼロ距離だ。
それにもかかわらず!
キングペンは腹ばい体当たり攻撃をレイアに仕掛けたのだ。
レイアは両手で槍を横にしてキングペンの攻撃を辛うじて防いだ。
キングペンの攻撃は早かった。
レイアは良く反応できたな。
ホッとしたのも束の間……。
キングペンは腹ばいのままレイアを押し始めた。
「うおお! この鳥野郎! 俺様と力比べかよ! 力なら村一番だったぜ!」
レイアは気を吐くが、ジリジリとキングペンに押されている。
俺が横からキングペンに矢を連続で放ち、ネコ獣人のカレンが後ろから短剣で斬り付けているが、キングペンはレイアとの力比べを止めない。
攻撃を続けながら俺は考えた。
(情報収集を間違えたか? このキングペンはどれくらい強い? 俺たちで倒せるのか?)
俺はレベルアップしたとは言え、器用以外のステータスは最弱のHだ。
他のメンバーは初期値が高いとはいえ……まだレベル1だ……。
(ちょっと待てよ……。デジャブ……。この展開は! フォルト様が死んだ時と同じじゃないか!)
あれは忘れもしない出来事だ。
この異世界に転生して初めて潜ったダンジョンで、予想と違って強力なフロアボスが現れた。
炎を纏った三本角のユニコーン……。
俺以外は全滅……。
矢を放ちながら俺は背筋が寒くなった。
(撤退をするべきか?)
俺が撤退を考えだした時、キングペンが大きく鳴いた。
「グエエ!」
キングペンがパワーアップしたのか、腹ばいのままレイアを押し負かし始めた。
一気にレイアを下がらせる。
「うおおおっ!?」
「レイア!」
レイアは辛うじて踏ん張った。
壁際ギリギリでキングペンの圧に耐えている。
(まずい……撤退もさせてもらえないのか……)
冷たい汗が俺の額を濡らす。
どうする?
矢筒の矢は無くなった。
マジックバッグから矢の詰まった予備の矢筒を取り出し、キングペンに『パワーショット』を続けざまに浴びせる。
(効いてはいるのだろうけど……)
どれだけのダメージを与えればキングペンのHPを削りきれるのか?
ゲームならHPゲージが見られる。
だが、今はキングペンのHP残量が分からない。
(どうする?)
俺が迷っていると姫様アリーの声が聞こえた。
「エマよ! バインドはあと何秒で撃てる?」
「あと十二秒!」
「ナオト! わらわが風魔法を撃つ!」
アリーと目があう。
決意のこもった目だ。
彼女が何を考えているのか、すぐにわかった。
初日に見せたあの強力な中級風魔法を撃つつもりだ。
「わかった! エマが『バインド』をかけたら頼む!」
「承知!」
エマのカウントダウンが続く。
「あと十!」
「レイア! あと十秒したら『バインド』でキングペンの動きを止める! そこから脱出しろ!」
「了解!」
「カレン! ギリギリまで削るぞ!」
「ニャ!」
俺はパワーショットを連発し、カレンはキングペンの上に馬乗りになって短剣を突き刺しまくる。
アリーがとっておきの魔法を放つまでに少しでもHPを削っておくのだ。
「ま……まだかよ……もたねえぞ……」
レイアが苦しそうにうめく。
壁際に押し込まれたレイアは、背中を壁につけ腕の力で何とかキングペンの押し込みから身を守っている。
「あと少しだ! 粘れ!」
「クソだらああ!」
「あと五! 四! 三!」
エマが残り秒数を数える。あと少しだ。
アリーの中級風魔法の詠唱が始まった。
「風の大精霊よ! 我の求めに応えよ!」
チラリとアリーの方を横目で見ると、杖を掲げ目を閉じ集中している。
光が杖に集束し、風が巻き上がり出した。
エマのカウントダウンが続く。
並行してアリーの詠唱も続く。
「二……一……」
「疾風よ……」
アリーの魔法詠唱が完成しそうだ。
俺とカレンは攻撃を続行しているが、キングペンが倒れる気配はない。
エマが甲高い声を張り上げた。
「行くんだよ! バインド!」
ダンジョンの床から黒い手が伸びキングペンの体を抑えつけた。
「グエッ!?」
キングペンが戸惑いの声をあげる。
俺は大声で指示を飛ばした。
「離脱だー!」
「おうよ!」
「ニャー!」
レイアが槍を持って素早く壁際から退避した。
ネコ獣人のカレンは、キングペンの背中から飛び上がり俺の横に着地する。
「アリー! 撃てー!」
「我が敵を貫け! シュトルムティーガー!」
アリーの掲げる杖の先が光り、砲弾となった疾風が放たれた。
空気を切り裂きゼロコンマ数秒もかからずにキングペンに着弾する。
同時に、俺も、レイアも、カレンも、エマも、風圧によって吹き飛ばされた。
「ギョエエエエ!」
キングペンの断末魔が聞こえる。
俺は床を転がりながら薄目を開けた。
アリーの放った中級風魔法『シュトルムティーガー』は、キングペンの体に丸い大きな穴を穿っていた。
キングペンは煙となって消えた。
「ふううう……。ナオトに貰ったスキルスクロールのお陰で、わらわの魔法コントロールは向上したのう……。しかし、MP切れじゃ……。ありったけのMPをつぎ込んだからのう……」
魔法を撃ち終わったアリーはフラフラしている。
俺は慌ててアリーに駆け寄り、倒れそうなアリーを抱きとめた。
「ありがとう! アリーのおかげで倒せた!」
「ふふ……そう言ってくれるかえ……」
アリーは微笑み、意識を失った。
俺はアリーをそっと背負い次の階層へと続く階段に向かった。
キングペンのドロップ品は、大きな麻袋に入ったコーヒー豆だった。
俺たちは六階層に続く階段を降り、六階層から地上へ戻った。
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