2-19 U作戦発動!

「で……では……今日は解散します……また、明日……」


 新メンバーで臨んだ初回ダンジョン探索は散々だった。

 赤のダンジョン五階層に行ってはみたが……。

 魔物を一匹も倒せず撤収……。


 俺、長身のレイア、ネコ獣人のカレン、姫様アリー、ちびっ子魔法使いエマ。

 みんなくたびれた顔をしている。


「お……おう!」


「にゃあ……」


「むう……」


「お疲れ様なんだよ……」


 返事にも元気がない。

 当たり前か……。


 姫様アリーは宿をとってあるそうで自分の宿へ向かい、ちびっ子魔法使いエマは、自宅の魔道具店へ帰った。

 だが、長身のレイアとネコ獣人のカレンは、モジモジして動き出そうとしない。


 どうしたんだろう?


「あー、ナオト。言いづらいんだけどさあ……。俺たち金が無くて……」


「にゃあ……」


「……」


 ああ、そうか。

 お金ないって言ってたよな……。


 長身のレイアが背中を丸めて小さくなっている。

 ネコ獣人のカレンも三角形のネコミミがへにゃんとなって、二人そろって困っている。


 お金ないと辛いよな。

 大丈夫だ。安心しろ!

 

 俺はマジックバッグから銀貨を取り出した。


「一人3000ラルクずつで良いか? 今日の晩飯と明日の朝飯で1000ラルク。宿代が2000ラルクで足りるか?」


「おお! オマエ良いヤツだな!」


「ニャニャニャ! ニャア!」


 二人は俺に抱き着いて喜んだ。

 長身のレイアはもちろんネコ獣人のカレンも、柔らかく立派なお胸をしていらっしゃった。


 まだ十三歳なのにな。

 獣人て発育が良いのかな。


「じゃあ! また明日な!」


「バイバイにゃあ!」


「冒険者ギルドに集合だぞ! 朝の鐘が鳴ったら、支度して朝飯を食って来いよ!」


 まとめて銀貨は渡さない。

 小分けに毎日銀貨を渡す様にする。


 そうすれば、二人は毎日俺の所に来るだろう。

 俺の所に来ればメシ代と宿代が貰えると思わせておこう。


 冒険者ギルドへ一人で向かう。

 歩きながら今日のダンジョン探索について考える。


(まいったな……これなら一人でダンジョン探索をしている方が、まだ良いよな……)


 考えなしに敵に突っ込んで行く前衛陣……。

 一発で魔力を撃ち尽くす風魔法使いに、敵と味方を間違えて魔法をかける闇魔法使い……。


(ダメだな……。そもそもこのメンバーで正解だったのか?)


 自分のメンバー選考に自信が持てなくなって来た。

 四人のステータスを鑑定した時はアタリだと思ったけれど、実はハズレを引いてしまったとか?


(冒険者祭りは、まだ開催中だからな。終わりまでちょっと時間がある……他に誰か来るか?)


 冒険者ギルドへ戻ると人出は減っていた。

 中には後片付けを始めている連中もいる。

 もうそろそろ終わりかな?


 俺に割り当てられたスペースに戻り、隣のラリットさんに挨拶をする。


「すいません。俺の留守中に何かありましたか?」


「何人か若いのが来たけれど、兄ちゃんがまだ子供の冒険者だって話したらみんな帰って行ったぜ」


「そうですか……」


 どうやら他の冒険者を採用する手はダメらしい……。


 ラリットさんの所は新人を二人捕まえていた。

 体格の良い若い冒険者が丸テーブルに座って食事をしている。


「兄ちゃんを見習ってウチも食事を出す事にしたんだよ! 行きつけの居酒屋にメシをこさえてもらってなあ。そうしたら匂いにつられて二人来たよ!」


 ラリットさんは、ニカッっと良い笑顔を見せた。

 周りを見ると食事をしているグループがチラホラ……。


 どうやら俺の『食事で新人を呼び込む作戦』を早速真似したらしい。

 逞しいな。冒険者たちは。


「兄ちゃんたちはどうだった? あの姉ちゃんたちはどうよ?」


「ああ……まあ、まだ初日ですから……」


「そうさな。最初からは、なかなか上手くいかねえわな」


 ラリットさんとの話を切り上げて椅子に腰かける。


(さて……明日からどうしたモノかな……)


 ボーっと考えていても仕方がない。

 マジックバッグから紙とペンを取り出し、全員のステータスをかき出してみる。


(うーん……俺が一番ステータスが低いよね……。やはり四人とも優秀なステータス。新人としては破格だろう……)


 なのに今日はダンジョンで目茶苦茶な戦いになってしまった。

 原因は……何だ……?


(ひょっとして俺か!? 俺がリーダーとしてちゃんと指示を出さなかったから、パーティーが機能しなかった……の……か?)


 思い当たるフシはある。

 俺は今日の反省を紙に書きだした。



 ・レイアとカレンをジョブ無しのままダンジョンへ連れて行った。

 ・パーティー編成のスクロールを用意していなかった。

 ・フォーメーションや戦い方を事前に確認しなかった。

 ・魔物の情報をきちんと伝えていなかった。

 ・メンバーの特性を事前に把握していなかった。



(これじゃあ負けて当たり前だな! 何をやっているんだ俺は!)


 これは俺が悪い。

 リーダーとして仕事をしていないな。


 それに冷静に考えてみれば……。

 俺はこの世界では十三歳の子供だが、転生前はアラフォーおっさんだったのだ。


 そう考えると……彼女たちは俺の娘くらいの年齢じゃないか。

 いや、前世では独身だったが……寂しい独身……うるさいわい!


 ま、まあ、もし娘がいるとしたら彼女たち位の年齢だったろう。

 娘に失敗の責任転嫁をしてどうするんだっちゅーの!


 ここは俺がだな。

 ひとつ父親としてしっかりしなくては!


 うーし!

 なんかやる気が出て来た!


 俺は目の前の紙にペンで書き殴った。


『U作戦発動!』


 これだ!

 作戦を練り直してパーティーを立て直すぞ!


 なぜ『U作戦』なのかって?


 それは某大ヒットロボットアニメ『V作戦』の上を行く大成功を収めたいと縁起を担いだからだ。


 Vの前はUな。


 映画『2001年宇宙の旅』に登場するコンピューター搭載の人工知能の名前が『HAL』、ハルなのと同じだ。


 当時コンピューター界の巨人と言われた米国企業『IBM』。

 アルファベット順で『I』の前は『H』、『B』の前『A』、『M』の前『L』。


 それで『HAL』と命名された。

 コンピューター界の巨人よりも先の世界に生きているって感じだろ?


 ちなみにこの『2001年宇宙の旅』の時代にはCGがない。

 映画の中でCGで描いた立体構造図に見えるのは、CG風の手書きワイヤーフレームなのだ。


 そんな訳で『U作戦』発動!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る