2-18 新メンバー新ダンジョン
冒険者祭りで面接採用したメンバーと赤のダンジョン五階層に来た。
・俺ナオト リーダー 弓士
・長身レイア ジョブ無し 木製槍所持
・ネコ獣人カレン ジョブ無し 木製剣所持
・姫様アリー 風・火・水魔法 魔法使い
・ちびっ子エマ 闇魔法 魔法使い
赤のダンジョン五階層は、ペンギン型の魔物ペンが二匹組で出現する。
ペンは動きが早い魔物だが、直線的に突っ込んで来るだけなので、このメンツなら楽勝のはず。
長身のレイアが辺りを見回しながら、俺に聞いて来る。
「なあ、ナオト。ここは?」
「赤のダンジョン五階層だよ。出て来る魔物はペン。ペンの特徴は……」
「とりあえず行ってみようぜ! 戦ってみなくちゃわかんねーよ。行こうぜ!」
レイアは正面の通路を歩き出した。
話の途中だったのだけれど……まあ、いいか!
このメンバーなら余裕だろう!
長身のレイアとネコ獣人のカレンが並んで先頭を歩く。
その後ろを、俺、ちびっこ魔法使いエマ、姫様アリーが並んでついて行く。
「ここがダンジョンなんだね! エマはダンジョン初めてなんだよ!」
ちびっこエマは、ちょっとはしゃいでいるのかな?
姫様アリーが俺に心配そうに話しかけて来た。
「ナオトよ。パーティーを組むにはパーティー編成用のスクロールを使うと聞いたが、使わないのかえ?」
冒険者同士でグループを作るのを『パーティーを組む』という。
パーティーを組むと戦闘時に得られる経験値がパーティーメンバー全員に行き渡る。
この辺はゲームなんかと同じだ。
ゲームと違うのは専用のスクロールを使わないとパーティーを組んだり解散したり出来ない事だ。
パーティー編成用のスクロールはダンジョンのドロップ品で、冒険者ギルドやスクロール屋で売っている。
今日は編成用スクロールを準備していなかった。
冒険者ギルドで買うにも『冒険者祭り』でごった返している。
通常業務を今日お願いするのは、ちょっと無理だろう。
なので、今日は『パーティー』は組まずに、『とりあえず一緒にダンジョンに来た』だけになる。
「今日は顔合わせというか、様子見で来たから……明日はちゃんとするよ」
「ふむ。では軽めの探索という事じゃな?」
「うん。ちょっと戦闘をしてお互いの戦い方を確かめたら終了だね」
「承知した」
しばらく歩くと先頭を行くネコ獣人のカレンの耳がピクリとした。
「ニャ! この先に何かいる!」
カレンは真っ直ぐ延びる通路の先を指さす。
スキル遠見を使ってみたが、俺には何も見えない。
「見えるのか?」
「ニャ! かなり先だけれど魔物が二匹いる!」
凄いな。
俺はスキル遠見を使っても見えない。
カレンのスキル『ネコミミ』か?
それとも『ネコ目』か?
「よっしゃあ! カレン良く見つけた! 行くぜ!」
「ニャ! イクイク~♪」
「えっ! ちょっと待った!」
ああ!
長身のレイアとネコ獣人のカレンが、勝手に……。
敵に向かって走り出しちゃたよ!
「ナオトよ。行ってしまったぞ……。わらわたちも行くか?」
「追いかけるんだよ!」
「仕方ないなあ……。行こう!」
俺たち後衛三人組もダッシュで前衛二人を追いかけた。
前衛二人は流石に早い。
さっきまで目の前をノンビリと歩いていたのに、今は50メートル先を走っている。
「オイ! ちょっ! 待てよ!」
「おっ先に~!」
「ニャ! ニャ!」
長身のレイアは軽快に走り、ネコ獣人のカレンはスキップしている。
あいつらどういう身体能力をしていやがる!
まったく追い付けない!
(あっ! いた!)
スキル『遠見』で強化された俺の目が魔物を捉えた。
ペンが二匹100メートル先にいる。
(いつもなら……ここで待ち伏せて攻撃するのだけれど……)
今回はレイアとカレンが先行している。
二人はもうすぐ接敵する!
(ええい! ままよ! 見せてもらおうか! 新型の性能とやらを!)
どこかで聞いたようなセリフを頭に思い浮かべた。
同時に赤のダンジョン通路にレイアの雄たけび響いた。
「オラオラ! 行くぜえ! 俺がティターン族のレイア様だ!」
「ニャ! レイア! かっこいい!」
レイアとカレンが接敵した!
ペン二匹の前に長身のレイアが立ちふさがり、頭上で木の槍をぐるりと回した。
(さすがに迫力があるな!)
俺は走りながらレイアに見惚れてしまった。
ペンギン型の魔物ペン二匹は、上から見下ろすレイアに圧倒されたのか身動きが取れない。
「トリャー!」
裂帛の気合と共にレイアが槍を左から右へ薙いだ。
空気を切り裂く鋭い音が、離れている俺の耳まで届いた。
木製の槍と言えども当たれば!
その威力は……。
威力は……。
当たれば……。
「どうよ!」
「レイア! 空振り! 空振り!」
魔物の背の低さが災いした。
胸の高さで振り回したレイアの槍は、ペンの頭上1メートルの空を切っただけだった……。
レイアは魔物ペンに背を向け調子に乗ってこっちを向いてガッツポーズをしている。
俺は必死に声を出しレイアに空振りを伝えるが、遅かった!
ペンが反撃に出た。
嘴でレイアの足を鋭く突いた!
「痛てえ! 痛てえな! この野郎!」
レイアが槍をむやみやたらと振り回す。
「落ち着行け! レイア! 隊形を整えるんだ!」
レイアに追い付き、指示を出す。
だが、俺の指示はレイアの耳に届かない。
レイアが槍を思い切り縦に振り抜く。
しかし、ペンはレイアの足元をすり抜けるようにかわした。
「あっ!」
「なぜじゃ!」
「どうして! なんだよ!」
空振りしたレイアの槍は、ダンジョンの床を思い切り叩き、真ん中から折れてしまった。
そして折れた槍の片割れが、グルグルと勢いよく回転し天井にぶち当たり……。
ネコ獣人カレンの頭に命中し、カレンは目を回し失神した。
「ニャー……」
「カレン! しっかりしろよ! オイ!」
ダメだ!
レイアは魔物そっちのけで、カレンを抱き上げて介抱し始めた。
(な……前衛壊滅かよ!)
俺は心の中で悪態をつく。
姫様アリーが俺の右横でつぶやいた。
「やむを得ぬ。ここはわらわが魔法で……」
「アリー! 頼んだ!」
「風の大精霊よ! 我の求めに応えよ!」
アリーは仁王立ちになり右手を真正面に突き出した。
手に光が収束され、風が……空気が……アリーの右手に吸い込まれて行く。
「ちょっ! デカイ魔法? いきなりかよ!?」
「きっと中級魔法なんだよ! 伏せて!」
ちびっ子魔法使いエマが悲鳴を上げる。
アリーはお構いなしに呪文を続けた。
「疾風よ! 我が敵を貫け! シュトルムティーガー!」
アリーが呪文を唱え終わると、アリーの右手からその魔法は放たれた。
強力な圧縮された空気、疾風がアリーの正面に撃ちだされたのだ。
「うああああ!」
「キャア!」
周りの空気を吸い込み、前方へ吐き出す魔法なのだろう。
気圧差か?
耳が痛い……。
(クソッたれ……なんつー威力の魔法だ!)
わずかに顔を上げるとダンジョンの通路に物凄い疾風が突き抜けている。
(風の波動砲? いやいやトールハンマーの風バージョン……)
とにかく物凄い威力なのは、わかった!
わかったのだが……。
アリーの放った強力な風魔法は、ペンギン型の魔物ペンの頭上を突き抜けてしまった。
体高の低いペンには命中していない。
「アリー。当たらないと意味がないぞ……」
「……さて。お茶にするかのう」
「えっ?」
どこからともなく執事とメイド達が現れて、テーブル、イス、ティーセットを用意しだした。
アリーは、優雅にイスに腰かけ紅茶を飲みだした。
「オイ! 戦闘中だぞ!」
「すまんのう。わらわは、魔法の細かい制御が苦手で……。今の一発でMPが切れてしまったのじゃ」
「えええええええ!」
オマエは、魔力:A、MP:Aだぞ!
一発の魔法に全てのMPをつぎ込んでどうする!
二匹の魔物ペンは、キョトンとした顔をしている。
あたりまえだ! あれほど強力な魔法を大外ししたんだ。
俺たちは大ピンチ……。
いや!
ペンが動いていない今がチャンス!
「俺は右をやる! エマは左!」
「わかったんだよ!」
ちびっ子魔法使いエマに指示を出し、俺は弓を構えネコ獣人カレンを介抱する長身レイアの前へ出る。
スキル速射で、右のペンを矢で射抜く!
「速射!」
ポヨン♪
(うんっ?)
矢を射ようと弓を引き絞ったら、右ひじに何かが当たった。
そのせいで矢はペンには当たらず、ダンジョンの床に弾かれた。
クソッ!
肘に何か当たった!
狙いがずれた。
もう一度!
「速射!」
ポヨン♪
(ううううううんっ?)
矢はまた外れた。
何か柔らかい物が肘に……これは何だ?
振り向くと顔を赤くしたレイアが……。
「オ……おい……肘が胸に当たってるぞ……バカぁ……」
カレンを介抱する為に座り込んでいたレイアの胸に肘がヒットしたらしい。
どおおおおりで何か柔らかく弾力のある……。
ありがとうカレン!
今日のMVPは君だ!
そんなバカな緊張感の無い事を一瞬考えた。
後ろでちびっ子魔法使いエマが呪文を唱える声が聞こえる。
「地に巣食う闇の住人よ……」
おおっ! 闇魔法っぽい!
左の魔物は頼んだぞ! エマ!
「我が敵の動きを封じよ! バインド!」
エマが呪文を唱え終えた瞬間、ダンジョンの床から無数の黒い手が伸びて来た。
その黒い手は……なぜか……俺の足に取りつき、俺の手の動きを抑えた。
なぜなのか?
「あー! ごめんなさいなんだよ! あせって魔法をかける対象を間違えたんだよ!」
「いや! 早く解除しろよ!」
「うーんと……。解除の呪文はなんだったのかな? なんだよ!」
「えええええええ!」
ペン二匹が迫って来た。
身動きが取れない俺をターゲットにしたらしい。
左右からペンが嘴で革鎧を突きだした!
「痛い! 痛い! 革鎧がもたない! エマ! 早く解除を!」
「うーんと……。そうだ! 地の底へ戻れ! リバインド!」
エマの解除の呪文で、黒い手がダンジョンの床に消えていった。
ペンを蹴り飛ばして、体勢を立て直し俺は叫んだ。
「撤収! 撤収!」
「「「了解!」」」
俺たちはペン二匹を倒す事なく逃げ出した。
走り去る俺たちの後ろでペンが高笑いしている気がした。
どうしてこうなった!
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