2-16 姫様アリー登場

 軽くウェーブのかかった長い金色の美しい髪。

 エメラルドの瞳に、白い肌。


 少し『おきゃん』な雰囲気があるカワイイ系美少女だった。

 これ……格好から察するに……お姫様だよね?


「ふむ……ご馳走になろう」


 と言うとお姫様は丸テーブルに向かった。

 するとどこからともなく執事やメイドが現れて勝手に給仕を始めた。


(オマエらどこにいたんだ!)


 彼らの存在には全く気が付かなかった……。

 お姫様は優雅に食事を始めた。


(えっ……この展開どうしたら良いの?)


 俺が戸惑っていると執事さんが椅子を引いて着席を促してくる。

 仕方ないので、俺も席について食事を始めた。


「ふむ。なかなか悪くない味じゃ」


「お褒め頂き恐縮です」


「言葉遣いを気にするでない。わらわは、そなたと同じ名も無き新人冒険者じゃ」


(名も無き新人冒険者って……)


 彼女はどこからどう見てもお姫様か貴族のお嬢様だ。

 言葉遣いを気にするなと言われても、気にしてしまう。


「そなたの名は?」


「ナオト・サナダと申します」


「ナオット・サナーダと申すか。サナーダ家と言うのは聞いた事がないが、いづこの国の者じゃ?」


「日本。ジャパンと呼ぶ人もいます」


「ニーホン……聞いた事がない国じゃな。ところでそなたのパーティーに入ると食事は、そなたが支度してくれるのかえ?」


正確にはどこかの料理屋で作って貰った料理をマジックバッグに入れて運ぶだけだが。

まあ、俺が買って来るのだから、俺が支度すると言えば支度する事になるのか。


「えー。はい」


「ふむ。良かろう。わらわはそなたのパーティーに参加しようぞ」


「……ありがたき幸せ」


 ああ!

 勢いで了承の返事をしてしまった!


 こんなドレス姿のお姫様が俺たちと一緒にダンジョン探索をするのか?

 どう考えても無理がある。


 隣でラリットさんが頭を抱えながら悶えている。

 やばいな……厄介なのを背負い込んじゃったかな。


 まあ、まずは現状把握。

 姫様を『鑑定』させて頂こう。


「あの……姫様……スキルで『鑑定』をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「よいぞ」


「では、失礼を……鑑定!」


 謎のお姫様の情報が出た。

 オイ! これはまた凄いな!



 -------------------




 ◆ステータス◆


 名前:アレクサンドラ・アルブ・ニーノシュク

 年齢:13才

 性別:女

 種族:エルフ族


 ジョブ:魔法使い LV1


 HP: H

 MP: A

 パワー:H

 持久力:H

 素早さ:H

 魔力: A-小上昇中

 知力: B

 器用: B


 ◆スキル◆

 中級風魔法

 初級水魔法

 初級火魔法




 -------------------



 魔法特化のステータスだ。

 MPと魔力がAと飛びぬけて高い。


 知力と器用がB。

 それ以外はHだ。


 魔法は、風、水、火と三種類使えるのか。

 特に風魔法は中級だ。


(魔法使いLV1でこれかよ! 伸びしろがハンパないな……)


 種族はエルフ。

 そう言えば耳が細長い。

 年齢は俺と同じ13才だ。


 問題は……名前だな……。


『アレクサンドラ・アルブ・ニーノシュク』


 舌を噛みそうだ。


(この立派な名前……絶対貴族とか王族とかだろう……何が名も無き新人冒険者だよ……)


 アレクサンドラさんの名前を見て気が重くなった。


 彼女の魔法使いとしてのスペックは高い。

 魔法は弓矢と違って複数の敵を攻撃する事が可能だ。

 レベルの高い魔法使いになると一発の魔法で強敵の群れを掃討すると聞く。

 彼女をパーティーメンバーとして迎えれば、パーティーの戦力は大幅にアップする。


 だが、貴族がらみのトラブルは遠慮したい。


 最初の街でエルンスト男爵の三男フォルト様がお亡くなりになった時、家令のフィールスともめた。

 あの事を思い出すと、どうしても貴族を警戒してしまう。


「ありがとうございます。ステータスを確認いたしました。アレクサンドラ・アルブ……」


「ああ、その様な長ったらしい名で呼ぶのは不要じゃ。今のわらわは、一介の冒険者に過ぎんのじゃ。そうさの。アリーと呼んでたもれ」


 ええ!

 こんなあからさまに偉い人な感じなのに、三文字に短縮して呼べと!?


 やりづらい。

 でも、それがご希望なら従う。


「では、アリー様……」


「様は不要じゃ。一介の冒険者と言ったであろう」


「ア……アリー」


「なんじゃ。ナオト」


 アリーはスープを飲む手を休めて、ニッコリと俺に微笑んだ。

 ちょっと嬉しそうだ。


「アリーは、私のパーティーに参加されるのでしょうか?」


「改まった言葉遣いは不要ぞ。普段通りに話して良い」


 俺は一つ大きく息を吸うと普段通りの言葉遣いで話し出した。


「では、改めて。アリーは、俺のパーティーに入ってくれるのかい?」


「うむ。そのつもりじゃ」


 そうか……困った。

 貴族がパーティーメンバーになる事は、想定していない。

 これは何とか断る方向で……そうだ!


「俺はこの国だけじゃくて、他の国に行くかもしれないが……」


「好都合じゃ。わらわは色々な国を旅して見聞を広めたいと思うておるのじゃ。武者修行の旅じゃ。ますますそなたと一緒に活動したくなったのう」


 断る口実作りだったが、あっさりと切り返されてしまった。


 うっ!

 アリーの後ろに控える謎の執事と謎のメイドたちが無言の圧をかけてくる。


『オマエまさか断る気じゃないだろうな?』


 そんな無言の圧をヒシヒシと感じる。

 頼むから睨まないでくれ。

 

 ま、まあ、家柄とか身分はともかく、魔法使いとしてのステータスは文句ない。

 ここはスペック重視、能力重視の採用と言う事で……。


「わかった。じゃあ、よろしく頼む」


「うむ。面倒を見てたもれ」


 アリーは上品にステーキを切り分け口に運ぶ。

 食事の仕方だけで、いかに彼女が良家の出かわかる。

 隣のラリットさんは、俺の事を『良いところの若様』と勘違いしたが、本物とはこれだよ。


 腹具合が落ち着いたのか、長身のレイアとネコミミのカレンが姫様アリーと話し出した。

 アリーは二人と普通に会話している。

 種族が違っても大丈夫そうだな。


 さて……そするとだ……。

 前衛が二人、後衛が二人揃ったな。


 長身のレイアは戦士。

 ネコミミのカレンは剣士だろうか。


 すると……。

 フォーメーションは、こうなるのかな?



 戦 剣

 魔 弓



 うん。悪くないかな。

 レイア、カレン、アリーは、ポテンシャルが高そうだ。

 これからステータスがどう伸びて行くのか楽しみだ。


 俺がパーティーのフォーメーションを考えていると、また来客だ。


「いた! ナオト・サナダなんだよ!」


 どこかで聞いた話し方だな。

 今度は誰だ?

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