2-15 ラリットさんの忠告
ラリットさんは顔を近づけて小声て囁いた。
二人で内緒話を始める。
『その二人には気を付けろよ!』
『なんでですか?』
『どう見ても金欠だろうが! 兄ちゃん食い物にされるぞ!』
金欠……?
改めて長身のレイアとネコミミのカレンを見る。
確かにお金はなさそうだ。
二人とも着ている服はかなりボロイし、武器も木を削っただけの槍に木剣だもんな。
ラリットさんは、コソコソと小声で話を続ける。
『兄ちゃんは、どっかイイトコの若様だろ?』
『えっ!?』
また、何か誤解されているな。
名字持ちとか、言葉遣いが丁寧とか、それが誤解の原因か?
俺は元奴隷だし、転生前は日本人の平民おっさんだ。
イイトコの若様には、程遠い。
俺が困惑しているとラリットさんは俺が話づらくしていると勘違いした。
『いいよ、わかってるよ。俺も冒険者生活が長いから、色々見てらあな。ここに参加するだけでも金がかかるからな。兄ちゃんが若くてもそれなりにコレを持ってるのはわかるよ』
あ、そうか。
パーティーリーダーの参加費用が5万ラルク。
普通の13才だと出せないよね。
どこかの若様と思われても仕方ない。
『まあ、とにかくその二人は金欠だから、兄ちゃんが生活の面倒を見てやる事になるぞ! 慎重に考えろよ!』
『わかりました』
うーん。
ラリットさんの忠告はもっともだな。
確かに他人に『寄生』されるのは、嬉しくない。
しかし、この二人のスペックだったら……生活の面倒見ても良いな。
さて、今は面接の途中だ。
二人に気になっている事を聞こう。
「レイアさんは、ティターン族ですよね?」
「おう!」
「ご親戚にジャミトフさんやバスク・オムさん、ジャマイカンさんはいませんか?」
「……誰だよ。それ?」
レイアは、ポカンとした。
俺の話しが全く通じていない。
残念!
昔見たロボットアニメとリンクしているかと思ったが……。
ゼータ的なアレなんだが。
あれに登場したのは、ティターンズだからな。
ティターン族とは微妙に違うか。
まあ『ティターン族は一階級上だ!』とか言われて、ブライトさんみたいに殴られるのも嫌だからな。
バスク・オムが知り合いにいなくて良かった。
では、次の話を。
「レイアさんは、スキル『再生』をお持ちですが、怪我が治りやすいとか……回復が早いとか……そう言う事はありませんか?」
「スキルってのは知らねえけど、怪我はすぐ治るぜ」
ビンゴ!
スキル『再生』は、自己回復スキルで正解だ。
レイアは、まさに前衛向きだな。
これは買い!
「ティターン族ってのはな、この街から海を越えた北の方に住んでいるんだ。みんな背が高くて力が強いぜ」
俺がティターン族に興味を持ったと考えたのか、レイアが解説してくれた。
結構遠くから来たんだな。
「それでカレンの部族は近くに住んでいてな。俺たちは幼馴染なんだぜ。都会で一旗揚げようって、二人でこの街に出て来た訳だ」
「ほうほう」
レイアは結構喋りが上手いな。
こっちの知りたい事を話してくれる。
意外と頭が良いかもしれない。
「でも、長旅だったからさすがに金がなくなってな。そしたらナオトの所はメシ付きだって言うから、世話になろうと思ったんだ! なあ、カレン!」
「ニャ! お腹すいた!」
清々しいほどの金欠アピールだな。
隣でラリットさんが頭を抱えているがスルーしよう。
金が掛かっても良い!
スペック重視で、この二人は絶対採用する!
「お腹空いてるなら、ご飯食べますか?」
「マジか! 食う! 食う!」
「ニャ! 食べる!」
「じゃ、そちらの丸テーブルへどうぞ」
丁度お昼の鐘が鳴っている。
この世界の人は一日二食だが、俺は日本人の習慣が抜けず一日三食だ。
丸テーブルの席にレイアとカレンが座った。
俺はベルトのマジックバッグから次々と料理を取り出す。
(ここで勝負カードを切るぜ!)
この為に宿屋に頼んでアツアツ料理を用意して貰い、出来立て料理をマジックバッグに収納しておいた。
ここでメシを食いだしたら……目立つ!
その為の料理!
その為のアツアツ!
まずは寸胴鍋に入ったスープ。
ミネストローネのような味で、野菜たっぷりの濃厚なスープだ。
寸胴鍋の蓋を開けると湯気と一緒に、美味しそうな匂いが立ち上がった。
陶器の白い器にスープをよそり、籠に山盛りのパンを出す。
「熱いから気を付けてね。その木のスプーンを使って」
「おおっ! スゲエ! スープが暖かい! これスゲエうめえよ!」
「ニャ! 優しい味! これ好き!」
周囲にスープの良い匂いが漂う。
俺たちをチラ見している人がいる。
そうこれよ!
匂いによる宣伝効果!
焼き鳥屋やウナギ屋が、煙で客にアピールするがごとく、俺も匂いでアピールするのさ。
ウチのパーティーはメシが上手いぞ! ってな。
次々と料理をテーブルに出して行く。
サラダはレタスっぽい葉野菜とトマトのような夏野菜。
パイはひき肉とチーズを混ぜ合わせた濃厚な味。
二人は余程腹が減っているのか、素手で食べている。
「肉を食うかい?」
「おー! 最高だな! 頼むぜ!」
「ニャ! お肉好き!」
マジックバッグから山になったステーキを取り出す。
「さあ、食え! ナイフとフォークはこれな。使い方はこうな」
「お、おう!」
「ニ? ニヤア?」
(あ、やっぱり。ナイフとフォーク使った事がないんだ)
相当な田舎から出て来たっぽいから、ひょっとしたらナイフもフォークも知らないんじゃないかと思ったら、やっぱり知らなかった。
二人にナイフとフォークの使い方をレクチャーする。
「こうやってナイフで肉を切って、フォークで肉を刺して口に運ぶ。手が汚れなくて便利だ」
「お、おう!」
「ニャ!」
レイアとカレンが慣れない手つきでステーキを切って口に運ぶ。
こればっかりは、慣れてもらうしかない。
これからパーティーを組んで行くのに、手づかみで食事をされるのは勘弁だ。
「肉が美味いぜ!」
「ニャ! 美味しい!」
「付け合わせは、ポテト。イモな。体に良いから食べてな」
周囲を見回すとかなり注目を集めている。
チラチラとこっちを気にしている人も多い。
良い匂い作戦成功だな。
もっとパーティー参加希望者が来ないかな……。
「なかなか良い匂いじゃ。わらわにも食事をたもれ」
「へ!?」
おかしな言葉遣いに振り向くとドレスを着て口元を羽根扇子で隠した女の子が立っていた。
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