2-14 冒険者祭りと新メンバー
冒険者祭り当日を迎えた。
帝都ピョートルブルグ冒険者ギルドは、もの凄い賑わいだ。
渋谷や新宿には負けるけれど、相当の人出だ。
採用希望で参加したパーティーには、冒険者ギルドの中にスペースが割り当てられる。
俺は緑カウンター近くのスペースが割り当てられた。
会議室に置いてあるような横長の机が一台ドンと置かれ、そこに俺の名前と割り当てられた番号が書かれた紙がぶら下がっている。
『ナオト・サナダ 256番』
この256番が俺の番号だ。
お隣の255番は、リーダー研修で一緒だった『剣士突撃!』のおじさん。
名前はラリットだったな。
ああ、心なしかプロレスラーのスタンハンセンに似ている。
ウイー! とか叫びながら魔物の群れに突撃して、ウエスタンラリアットでなぎ倒しそうな感じだ。
257番もリーダー研修で一緒だった人だ。
確か回復術士だったかな……。
ちょっと陰湿な感じで名前は……ムットさんだったかな。
ムットさんは、光る玉の様な……光るオーラの様な……光る何かをクルクルと自分の頭の上で回転させている。
あれは魔法なのだろうか?
何かのデモンストレーション?
光る玉が何か聞いてみたいが『話しかけるな』オーラが凄い出ているので、ムットさんの事は気にしない事にする。
割り当てられたスペースごとに横長の机が出ているので、割り当てスペースの前が通路の様になっている。
横長机の後ろに俺が座り、その後ろに大きめの丸テーブルと椅子が数脚配置されている。
他のパーティーは、横長机の所にパーティーリーダーが座り、残りのメンバーが後ろの丸テーブルの所に座っている。
俺のパーティーは俺だけのボッチパーティーなので、誰も丸テーブルに座っていないがな。
「ちっ! 見ろよ! 『雷帝』の連中が剣舞を始めやがった!」
左隣に座る255番、『突撃剣士おじさん』ことラリットさんがぼやいた。
雷帝は大手のパーティーで五十人以上の冒険者が在籍しているグループだ。
この規模になると『クラン』という組織になるのだそうだ。
大手クランは、入り口の近くやロビー中央の良い場所を広く取っている。
そういう場所は参加料金が高くなるのだとか……。
まあ、どこの世界でも大手は資金力があるって事だね。
その雷帝はロビーの中央付近に広いスペースを確保していて、小さなステージをこしらえている。
今、四人の剣士が華麗な剣舞を始めた。
来場者は剣舞に釘付けだ。
他の大手クランも負けてはいない。
オリハルコンの武器や珍しいドロップ品を展示したり、上級、中級冒険者を投入して来場者と話をさせたりとアピールに余念がない。
しかし、あるんだ。
オリハルコン。
買おうかな。
資金力なら負けてないから!
「ヒーロト・サーナダさんは、こちらで良いのかい?」
若いスラリと長身の冒険者が俺を訪ねて来た。
「はい! こちらです!」
「そうか。相談コーナーで紹介されたんだけど、リーダーのヒーロトさんと話せるかな?」
「私です」
「えっ?」
「私がリーダーのナオトです。お話を承ります」
「……わりい! 邪魔したな!」
若い冒険者は苦笑いして去った。
これである。
この繰り返しなのだ。
ワーリャさんと練ったアピールポイントが機能していて、朝一から結構人は来るのだ。
最終的にウチのアピールポイントはこうなった。
・女性歓迎
・種族不問
・新人歓迎
・食事支給
・経費負担
・分配 リーダー:40% 残りメンバーで等分:60%
ワーリャさんいわく、他と比べてかなりの好条件らしい。
俺としては、赤字で構わないので優秀な人に来てもらいたいのだ。
若い冒険者を中心に話を聞きに来る人が絶えない。
だけど俺がリーダーだと名乗ると去ってしまうのだ。
「兄ちゃん、腐るなよ」
隣のラリットさんが励ましてくれる。
ちなみにラリットさんのパーティー名は『力こそ愛』だ。
わかりやすいよな~。
「ありがとうございます。ラリットさんの所は、後衛募集ですか? 魔法使い? 回復?」
「いや、ウチは戦士か剣士が希望だ」
「えっ? 戦士?」
もう、いるよね!?
ラリットさんの所は、前衛揃ってるよね!?
横長机にラリットさんが座り、丸テーブルにも三人いかついのが座っている。
彼らはと筋骨隆々で典型的な『戦士』だ。
「前衛は足りてますよね? これ以上前衛はいらないでしょ?」
「ああ、ウチは全員が前衛なんだ。後衛はいない」
はあ!?
なに!?
それ!?
どこかのスポーツ監督かよ!
俺が驚いた顔をしているとラリットさんが説明を始めた。
「ウチは前衛三人戦士を並べ、後ろは控えなんだ。前衛の誰かが疲れたら、控えと交代する。こうやってグルグル回すのさ。俺は難しい事わかんねえ。魔物がいたらブッ叩くだけさ」
はいはい……『物理で殴る』を、ひたすら実践するのですね。
パーティー名を『力と物理』に変えたらどうだろうか。
「じゃあ、控えメンバーって言うか、交代メンバーが欲しいと?」
「そうそう。見てくれ重視で若いヤツがいいな」
見てくれ重視って……。
ラリットさんの所は控え目に言って『きわめみち』な感じだけど。
「『見てくれ』って、魔物と目が合ったら魔物がビビって逃げる様な『見てくれ』ですよね?」
「そうそう! ウチはスマートなヤツはいらねーんだよ! ガハハハッ!」
やはりな。
ラリットさんは、潔い男だ。
いっそ清々しい。
もう『物理』の道を、極めてくれ。
「ああ、ここじゃねえか!」
「ニャ! ここだよ!」
……と、ラリットさんと話し込んでいたら、人が来た。
横長机の前に二人の女性が立っている。
一人は俺と同い年くらいの小柄な女の子。
目がクリッとしていて、小顔で可愛らしい。
特徴的なのは頭の上に三角形のネコミミがある。
恐らくネコ科系の獣人だ。
髪の色が明るい茶色と濃い茶色の縞模様で、茶トラ猫みたいだ。
獣人は戦闘能力が高いとワーリャさんが言っていた。
こんな小さな可愛い女の子でも、戦闘能力は高いかもしれない。
しかし……。
(しかし……この子は随分ヒドイ格好をしているな……)
ネコミミ女子の着ている服はかなりボロだ。
薄汚れたボロイシャツにボロイスカート。
何かの毛皮をマント代わりにし、腰のベルトに剣をさしてる。
いや、良く見ればあれは剣じゃなくて、木を削っただけの木剣だな。
俺がネコミミ女の子を観察していると頭の上の方から女性の声が聞こえた。
もう一人の女性だな。
「あんたがナオトかい? パーティーメンバーを募集してるんだって? 来てやったぜ! 俺は強いぜ!」
声がした方を見上げると顔があった。
背が高い! 2メートルを超えていると思う。
背の高い彼女は、アスリート体形をしている。
顔は整っているが、勝気な雰囲気だ。
海を思い出させる青い髪を肩口でバッサリ切っている。
こちらの彼女も粗末な服を着て毛皮を巻き付けただけのスタイルだ。
槍を抱えているが……木をナイフで削っただけの槍だな……。
二人が横長机の前に置いた椅子に座った。
「よっこらせ!」
「ニャ!」
俺も椅子に腰かける。
すると……なっ!
2メートル越えの女性の巨大な胸が目の前に!
この人……胸もデカイ……。
目の前に巨星が出現した様な!
スーパーノヴァ!
「俺はレイア! 槍士だ!」
「ニャ! カレンだよ! 軽戦士!」
背の高い方がレイアさんで、茶トラ猫獣人っぽいのがカレンさん。
ちょっと気になるのは、ジョブだ。
槍士? 軽戦士? そんなジョブあったかな?
とにかく話してみよう。
「ナオトです。よろしくお願いします」
「……」
「……」
「……」
やっべ!
どうしよう!
何を話せば良いかわからないや……。
会話が続かねえ!
採用面接なんて、やった事がないからな。
えーと、とりあえず……。
「あの~、お二人を『鑑定』させて頂いても良いですか?」
「鑑定? なんだそりゃ?」
背の高いレイアが答えた。
スキル『鑑定』を知らないんだ。
ひょっとして二人とも物凄い田舎から出て来たとか?
だから鑑定が何か知らないとか?
「鑑定は……お二人がどう言う人が調べるスキルです」
「ふーん……。何か良く分からないけど、構わないぜ。カレンも良いよな?」
「ニャ! オッケー!」
「ありがとうございます。では……鑑定!」
二人のステータスが見えた。
おっ……これは……!
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◆ステータス◆
名前:レイア
年齢:13才
性別:女
種族:ティターン族
ジョブ:
HP: C
MP: G
パワー:C
持久力:C
素早さ:F
魔力: G
知力: F
器用: F
◆スキル◆
再生
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背の高いレイアは、バリバリ前衛向きだな。
HP、パワー、持久力がC。
魔法関係はGで、他はF。
スキル『再生』は謎だが……。
恐らく回復系のスキルじゃないだろうか。
年齢は13才……同い年かよ!
背が高いせいか大人びて見えるな。
レイアのステータスは、かなり高い方だろう。
ジョブが空欄……と言う事は、自己紹介で『槍士』と言ったのは、ジョブじゃなくて戦闘スタイルの事だな。
(ティターン族ってのもロマンがあるし、前衛として欲しい人材だな!)
次はネコミミのカレンのステータスだ。
-------------------
◆ステータス◆
名前:カレン
年齢:13才
性別:女
種族:猫人族
ジョブ:
HP: F
MP: G
パワー:F
持久力:C
素早さ:C
魔力: G
知力: F
器用: C
◆スキル◆
ネコ目
ネコミミ
ネコ鼻
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ネコミミのカレンは、レイアと対照的にスピードタイプか。
素早さ、持久力、器用がC。
魔法関係はGだが、他はF。
スキルを三つも持っている。
これは……種族固有なのかな?
カレンもステータスが高い。
カレンもレイアと同じくジョブが空欄だ。
自己紹介で『軽戦士』と言ったのは、スピードを生かした戦闘スタイル……と言う事じゃないだろうか。
(カレンは、スピードタイプの前衛……欲しい!)
俺が二人とも採用したいと考えていると隣のラリットさんが俺を呼んだ。
「おい! 兄ちゃん! ナオトの兄ちゃん!」
ラリットさんが隣の席から手招きをしている。
何だろう?
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