2-12 二階層とマジックバッグ
二階層と言っても一階層と見た目は全く変わらない。
濃い茶色の木材で出来た床と壁。
左、正面、右に伸びた通路。
背後には洞。
二階層の地図を出す。
これも一枚1000ラルクだ。
「二階層は右か……」
右の通路を真っ直ぐ進む。
五分もしないうちに魔物が一匹現れた。
ネズミ型の魔物グレイラットだ。
まだ30メートル先だが、スキル『遠見』でグレイラットの姿はハッキリ見える。
図書室の資料とまったく同じ。
こいつなら問題ない。
俺は膝立ちになり弓に矢をつがえた。
グレイラットが近づくのを待つ。
グレイラットは小型犬位の大きさの魔物で、ネズミとしてはデカイが魔物の中では小型の方だ。
動きはそこそこ早いがHPが少ないので、初心者でも一撃で倒せる。
ただし『噛みつき攻撃』が強力なので、近づいたら注意が必要だ。
「もっとこっちへ来い……。良い子だ! もっとこっちへ……来た!」
膝立ちの安定した姿勢から放った矢は、正確にグレイラットの胴体中央に突き刺さった。
25メートルの距離も問題なしだ。
グレイラットが煙のように消えてドロップ品『チーズ』が残った。
チーズは普通の食べるチーズだ。
拾い上げてみると日本のチーズより乾燥しているタイプで四角くて軽い。
リュックに放り込む。
(このフロアも問題なさそうだな……。ボス戦の後だし、休憩しよう)
俺は通路を引き返し、洞をくぐって地上に戻った。
地上に戻ると外はすっかり明るくなっていた。
まだお昼前だろう。
広場の隅に街路樹が立っている。
街路樹の木陰に座りしばし休憩だ。
ボス戦で精神的に疲れたのかもしれない。
ボーっと過ごす。
しばらくして面白そうな店を見つけた。
広場のちょっと先に『シャルロッタの魔道具店』と書いた看板が見える。
(魔道具! 面白そうだ! 行ってみよう!)
立ち上がり魔道具店へ向かう。
魔道具は、この世界独特なアイテムだ。
図書室の資料には、『魔法技術で作り上げた便利な道具』と書いてあったな。
シャルロッタの魔道具店は、大通りに面したこじんまりした店だ。
ドアを開け店内に入ると窓はないのに明るい。
天井が発光している。天井自体が魔道具なんだろう。
魔道具屋……のはずなのに、店内に置いてあるのはバッグだ。
リュック、ショルダーバッグ、ポーチ、革製、布製、茶色、黒、赤と様々なバックが並べられている。
「いらっしゃいませ!」
店の奥から若い女性店員が出て来た。
20代半ばくらいかな?
黒いローブを着て魔法使いみたいな恰好をしている。
「すいません。ここは魔道具屋ですか? バッグばかり置いてありますが?」
「そのバッグが魔道具なんだよ。新人さんかな? ギルドカードはある?」
「これです」
「へえ。リーダーなんだ! ナ、オト……サ、ナダ……」
「ナオト・サナダです」
やはり俺の名前は、この世界の人が読むには難しいのか。
女性店員さんはギルドカードを俺に返して説明を始めた。
「それはマジックバッグと言って、見た目より荷物が沢山入る魔道具なんだよ」
「へえ! それは便利ですね! ソロなのであると助かります!」
「ソロならマジックバッグは必須なんだよ。男の子なら、この辺がおススメなんだよ」
お姉さん店員は、店の隅にあるテーブルにバッグを並べた。
大きいベージュの布製リュック、茶色いショルダーバッグ、黒いベルトポーチの三種類だ。
「このリュックは見た目の三倍荷物が入る。値段は10万ラルク。重量軽減の魔法が仕込まれているので、荷物を詰め込んでも重くならないんだよ」
大きいリュックは容量が三倍か!
重くならないのも素晴らしい。
「意外とお手軽価格ですね。安くは無いけど、新人でもがんばれば買えそうな……」
「そうなんだよ! このタイプは新人に良く売れるんだよ!」
売れるだろうな。
食料や備品、ドロップ品を大量に運べるのは、大きな強みだ。
例えば、五人のパーティーで割り勘して買えば、一人2万ラルクだ。
手が届かない金額じゃない。
「じゃあ、こっちのショルダーバッグは?」
「このショルダーバッグは更に凄いんだよ! この店と同じだけ荷物が入るんだよ!」
「えっ!? この店と同じだけ!?」
店の広さは十二畳程度。
この大きさの荷物が、このショルダーバッグに入るのか!
さすが魔道具!
魔法テクノロジー!
「もちろん重量軽減の魔法は仕込み済みなんだよ。値段は100万ラルク」
一気に価格が上がった。
バッグのサイズが小さくなって、入る分量が増えたのだから、その分高いと。
「この100万ラルクのショルダーバッグは作るのが難しいのですか?」
「そうなんだよ。これはお母さんの力作なんだよ」
「じゃあ、お母さんは魔道具士?」
「そうなんだよ」
魔道具士は中級職だ。
魔法使いがレベル50になるとジョブチェンジ出来る。
冒険者ギルドの図書室にはあまり詳しい事は書いてなかったが、魔道具士のレベルが高くなればなるほど、高性能の魔道具を製作出来るらしい。
お母さんが作ったと言う事は、ここは家族経営の魔道具店なんだな。
「このベルトポーチはもっと凄いんだよ! 収納量と重量軽減は、こっちのショルダーバックと同じで、更に時間停止の魔法が仕込んであるんだよ!」
「時間停止?」
「マジックバッグに収納した物は、時間が止まるんだよ。出来立てのアツアツスープを、このマジックバックに収納したら、次の日でもスープは出来立てのまま! アツアツのスープが、いつでもどこでも楽しめるんだよ!」
「時間停止って、そう言う事か……」
お姉さん店員は、無い胸を反らしている。
このマジックバッグもお姉さんの胸も希少価値ですね。
「この時間停止付きのマジックバッグはいくらですか?」
「これは高いんだよ。おばあちゃんの自信作なんだよ。2千万ラルクなんだよ」
お姉さん店員は、無い胸を反らした。
確かに高い。
容量が同じで、ショルダーバッグは100万ラルク。
ベルトポーチは、2千万ラルク。
20倍の価格差か!
それだけ時間停止付きのマジックバッグを制作するのは難しいのだろう。
おばあちゃんが作ったって言うし、おばあちゃんは高レベルの魔道具士なのかも。
俺はリュックから大金貨が入った袋を取り出した。
テーブルに大金貨二十枚をのせる。
「じゃあ、このベルトポーチを頂きます」
「えっ!? これを買うの!?」
「はい。大金貨二十枚で、2千万ラルクですね。お受け取り下さい」
「あ、ありがとうなんだよ!」
ぶっちゃけ100万ラルクのショルダーバッグでも良かった。
けど、俺は弓士だ。
ベルトポーチなら肩回りが自由で動きやすい。
弓を引く時に邪魔にならない。
時間停止機能は……正直……どこまで役に立つか想像がつかない。
けど、お金はあるから良い物を買っておこう。
それにベルトポーチなら目立たないから『新人が高級品を持っている』とは思われないだろう。
変な喋り方をする胸が希少価値のお姉さんは、大金貨二十枚をマジマジと見ている。
今までで一番高い買い物だ。
けど、このマジックバッグがあれば、部屋に放置している銀貨が詰まった袋を両替屋に持ち込める。
他にも使い道が出て来るだろう。
ベルトポーチ型のマジックバッグを受け取り、俺は一旦宿屋に戻る事にした。
さて、早速、銀貨が詰まった袋をマジックバッグに仕舞おう。
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