2-11 ボス戦と二階層へ
翌朝、一の鐘で目を覚ます。
朝食は宿屋『木漏れ日の宿』で済ませる。
メニューは、野菜スープ、ステーキ、パン、サラダ。
この世界は一日二食だから、朝からガッツリだ。
まだ外は薄暗いが沢山の人が出歩いている。
この世界の朝は早いのだ。
十五分ほど歩いて、赤のダンジョンに潜る。
今日は二階層を目指す!
その為に昨日冒険者ギルドでワーリャさんに色々教えて貰ったり、準備を整えた。
さあ、行こう!
巨木の洞から一階層に足を踏み入れる。
昨日冒険者ギルドで買っておいたダンジョン地図を取り出す。
「二階層へ行くには……真っ直ぐ進んで、安全地帯の先を左だね」
地図は落書きレベルの略図で、『大体この辺り』レベルでしかわからない。
それでも無いよりはありがたい。
まあ、地図一階層分だけで1000ラルクは、ちょっと高い気もしたが……。
迷って探索に時間をかけるよりはマシ。
定食二食分くらいの価値はあるだろう。
サクサクとセブンウッドを倒しては、ドロップ品『魔よけの木』を拾いながら進む。
今日は神のルーレットを『銀貨』にした。
経験値の入り方はノーマルモードだ。
レベルアップしたとしても、昨日ほど体が痛くなる事はないだろう。
一時間歩いた所で安全地帯を示す色の薄い壁を見つけた。
このダンジョンは茶色い木目の壁だが、ここだけ黄色っぽ木目になっている。
黄色っぽい木目の壁を押すと自動扉のみたいに壁が開いて隠し部屋が現れた。
隠し部屋の中は誰もいない。
ここでちょっと休憩だ。
水筒を出し水を飲む。
ドロップ品の魔よけの木は、五本ある。
一時間くらい歩いたから、十二分に一回戦闘があったのか。
思ったよりも疲れているな。
横になって目をつぶる。
念の為、三十分休憩した。
かなりスッキリしたから大丈夫だろう。
安全地帯の隠し部屋を出て、角を左に曲がる。
見えた!
スキル『遠見』が仕事をしている。
500メートル先にフロアボス部屋が見える。
ブルリと体が震えた。
エルンスト男爵の息子フォルト様が亡くなった日の事を思い出す。
初めて入ったダンジョン……。
炎を纏たトライコーン……。
全滅したパーティー……。
「いや! 大丈夫だ! ボスの情報は調べてある! 十分勝てる! 俺なら勝てる!」
声に出して自分を励ます。
だが、油断した。
俺の後ろに四人組の別パーティーがいたのだ。
「気合入ってんなあ!」
「良いぞ若いの!」
「そうだ! オマエなら勝てるぞ!」
「かわいいわよ! お姉さんが良い事してあげよっかあ?」
「ど……どうも……」
顔を真っ赤にして、俺はボス部屋に急いだ。
良い事は……またの機会にお願いします!
木製のアーチをくぐって、ボス部屋に足を踏み入れる。
ボス部屋は天井も高く、だだっ広い空間だ。
ダンジョンにはフロアボスと呼ばれる魔物が存在する。
各階層に一匹。
次の階層へ続く階段を守る門番だ。
当然そのフロアに出て来る魔物より強い。
このフロアボスを倒さないと次のフロアには進めない。
部屋の中央に煙が集まりフロアボスが現れた。
一階層のフロアボスは『エルダー・セブンウッド』、セブンウッドを強くした魔物だ。
「デカいな……」
エルダー・セブンウッドは、高さ2メートル50センチ位。
見た目はセブンウッドと同じ樹木型の魔物で、根っこを使ってノソノソと動く。
目の前のエルダー・セブンウッドがゆっくりと動き出した。
普通のセブンウッドと違う所は……。
「来た!」
エルダー・セブンウッドが枝を腕のように動かして、枝になる赤い実を飛ばして来た。
だが、動きが遅いので赤い実を打ち出す予備動作が丸見えだ。
俺は落ち着いて回避する。
「いただきィ!」
回避した地点で膝立ちになり、スキル『速射』と『連射』を組み合わせて素早く二連射を行う。
二本の矢は続けざまにエルダー・セブンウッドに命中した。
「ヒット! 次!」
声を出し自分を励ます。
エルダー・セブンウッドはデカイ。
威圧感があるから、こうして声を出していないと逃げ出したくなる。
もう一度二連射をお見舞いする。
これもヒット!
エルダー・セブンウッドが赤い実を射出する予備動作を取り始めた。
野球のピッチャーと同じ動きで、振りかぶっている。
「来る!」
立ち上がりダッシュで横へ逃げる。
俺が立っていた場所に、赤い実が着弾した。
あれが結構ダメージを食らうらしい。
エルダー・セブンウッドは、動きこそ遅いがHPはある。
レベルが上がった俺の矢を三矢受けても倒れない。
ソロの俺は長期戦は不利だ。
ここは勝負をかけよう!
移動した場所で膝立ちになり、弓に矢をつがえる。
エルダー・セブンウッドが、ゆっくりとこちらに振り向いた。
「パワーショット!」
スキル『パワーショット』で威力が増した矢を放つ。
空を切り裂く鋭い音を響かせながら矢が飛んだ。
エルダー・セブンウッドの胴体中央に着弾した!
エルダー・セブンウッドの巨体がゆっくりと後ろに倒れて行くのを見ながら、俺は勝利を確信した。
エルダー・セブンウッドは、床に倒れると煙となって消えた。
木の板がドロップした。
「ふー、タフな野郎だったぜ……」
大きく息を吐く。
ホッとした。
初めてのボス戦で不安があったが、俺は十分通用する。
やれるんだ!
ドロップ品を拾い上げ、スキル『鑑定』で情報を引き出す。
-------------------
木材 ナナカマドの木:非常に丈夫。火属性防御素材。
-------------------
このドロップ品『ナナカマドの木』は、素材としては悪くない物らしい。
だが一階層のボスドロップなので、供給量が多く在庫がだぶつき気味の素材だ。
買取価格は300ラルクと安い。
まあ、お金は神のルーレットでたっぷり稼がせてもらったから問題ない。
今はダンジョン探索を進め、自分を強化し、仲間を増やし、魔王の情報を集めるのだ。
「いよっ! お疲れさん! 強いのね!」
「安定してたな。良い戦いぶりだったぞ!」
「ほいっ! 選手交代! 交代!」
「後でお姉さんと良い事するう?」
さっきの四人組パーティーだ。
俺の戦闘が終わるまで待っていたのか。
「ど、どうも……ありがとうございます!」
褒められて嬉しい。
ジワジワと俺の内側から何かが込み上げて来た。
歓喜だ!
そう言えば、前世日本で仕事している時は、あまり褒められた事がなかったな。
褒められる事は、こんなにも嬉しい事なんだ。
「じゃあ、二階層もしっかりやれよ。坊主」
「はい! 皆さんもご健闘を!」
四人組とエールの交換を行い、俺は部屋の奥にある洞に入り二階層へ向かった。
良い事は、またの機会にぜひお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます