2-10 経験値倍増でレベルアップ痛い

 鐘の音で目覚めた。

 夜明けを告げる鐘だ。


 この街では、一日に鐘が四回鳴る。


 夜明けを告げる一の鐘。

 役所の仕事初めを告げる二の鐘。


 お昼の三の鐘。

 なんとこの三の鐘が役所の仕事終わりらしい。


 そして、夕方に鳴る四の鐘。

 大まかでも時間が分かるのは、元現代人としてありがたい。


 ここは聖ピョートルブルグの西側にある旅館だ。

 名前は『木漏れ日の宿』。

 冒険者ギルドから15分歩くが、落ち着いた雰囲気の住宅街にあり治安が良い。


 それに風呂がある!

 共同風呂だが夕方利用出来るのだよ。ヤ〇トの諸君!


 宿泊代は個室で1万ラルク。

 安宿は相部屋で千ラルクが相場なので、高級宿屋になるのだろう。

 他の客も商人や貴族風の金持ちが多い。


「ルーレット! カーム! ヒア!」


 朝一で『神のルーレット』を呼び出す。

 昨日まで三日連続のイカサマで、銀貨をタップリ稼いだ。

 もう、数えるのも考えるのも面倒なので、布袋に放り込んで部屋の隅に転がしてある。


(さて! 今日は違う番号に賭けるぞ!)


 今日ベットするのは……『9番』だ!

 9番は『経験値倍増』だった。


 この世界では『レベル』が存在する。

 俺は現在『弓士LV1』だ。


 LV2、LV3、LV4……と、レベルが上がるとHPなどのステータスも上昇する。

 ステータスが上昇し、一定の値になるとステータス表示が繰り上がる。

 例えば『H』⇒『G』の様にステータス表示が変化するのだ。


 ステータス表示に変化がなくても、レベルが上がれば少しづつ自身を強化出来る。

 レベル上昇に必要なのは、『経験値』。

 経験値は魔物を倒す事で得られる。


 だが一階層のセブンウッドじゃ経験値はたかが知れている。

 昨日は12匹倒したがレベルアップはしなかった。


 そこで今日は神のルーレットの『経験値倍増』でブーストをかけるぞ!


 コイン三枚を赤9番にベットする。

 ルーレットが回りだし、白いボールが投入される。


 ここからイカサマだ!

 白いボールが落ちる寸前に拾い上げ、赤い9番のポケットにそっと置く。


 すっかり慣れたイカサマだ。

 誰も見ていないからセーフ!


 ルーレットが消えて空中に文字が表示された。



 《赤の9:経験値倍増 倍率:36倍×36倍×36倍 経験値46656倍》



「経験値も掛け算なんだ……」


 相変わらず目茶苦茶だな。

 だが、それが良い。


 俺は赤のダンジョンへ向かった。



 赤のダンジョン一階層を昨日と同じ要領で左の通路を真っ直ぐ進む。

 スキル『遠見』が常時発動しているので、前方の視界は良好だ。


 いた!

 セブンウッドがノソノソと歩いている。

 俺の経験値になってもらおう。


 昨日は常時発動している『弓術』で射撃を行った。

 今日はスキル『集中』を試してみよう。


 セブンウッドは50メートル先だ。

 弓に矢をつがえて引き絞りセブンウッドを狙う。


「集中!」


 スキル名を唱えると意識がズワッとセブンウッドの方へ向いた。

 そして『◎』の赤い的がセブンウッドに表示された。


(なるほど。こうして照準を合わせるのか)


 狙いが定まった!

 矢を放つ!


 矢は真っ直ぐセブンウッドへ向けて飛んだが、距離があり過ぎた。

 40メートルあたりで落下してしまった。

 どうやらこの弓だと40メートルが最大射程距離と言う事か……。


(うーん。弓の性能不足か……飛距離が足らない)


 セブンウッドが近づいて来るのを待つ。

 さっき矢が落下した地点、40メートル地点にセブンウッドが踏み込んだ。


「集中!」


 スキル『集中』を発動させて、セブンウッドを射る。

 矢は真っ直ぐ飛びセブンウッドの胴体中央にヒットした。


 しかし……。


「パワー不足かよ! セブンウッドの野郎、ピンピンしてやがる!」


 矢がセブンウッドに刺さる事は刺さったが、距離がある分だけ矢に力が無かったのだろう。

 与えたダメージが不足してるのだ。


 セブンウッドをさらに引き付ける。

 距離35メートル。


「集中!」


 矢を放つがダメージ不足。

 セブンウッドの歩みは停まらない。


 また、引き付ける。

 距離30メートル。


「集中!」


 矢は深く刺さったがセブンウッドは停まらない。


 更に引き付ける。

 距離25メートル。


「集中!」


 セブンウッドの胴体中央に正確に矢が突き刺さった。

 同時にセブンウッドが煙になり消えた。


(この弓だと最大射程距離が40メートル、有効射程距離が25メートルか……)


 25メートルならスキル『集中』を使わなくても外す事はない。

 うーん、この弓だとスキル『集中』を生かし切れないのか。


 だが自身の攻撃能力を確認できたのは良かった。

 一階層のセブンウッドは動きが遅いし、一匹づつしか出て来ない。

 25メートルの有効射程距離なら十分だろう。


「うおっ!」


 考え事をしていたら、体中に激痛が走った。


「痛い! 痛い! 痛い!」


 悲鳴を上げてその場にしゃがみ込む。

 あまりの痛さに立っていられない。


(攻撃を受けたのか!? いや、違う……)


 痛みは体の節々、体の内部だ。

 外からの痛みじゃない。


 しばらくして痛みは引いた。

 ゆっくりと息を吐きだして、自分の体を見る。


 外傷はない。

 ゆっくり体を動かしてみるが、特に問題はなさそうだ。


(ああ! レベルアップの影響か!)


 そう言えば冒険者ギルドのワーリャさんが言ってた。


『レベルアップした時は、体に違和感を感じます。新人はレベルアップの感覚に慣れていないから、気を付けて下さいね』


 そうか……これか……。

 人によってレベルアップの感じ方は様々で、くすぐったく感じる人もいれば、痛みを感じる人もいるそうだ。


(俺はレベルアップで痛みを感じるタイプって事か?)


 すぐに自分自身を鑑定してみる。


「げっ! 一気にLV28!?」




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 ◆ステータス◆


 名前:ナオト・サナダ

 年齢:13才

 性別:男

 種族:人族


 ジョブ:弓士 LV28 new!


 HP: H

 MP: H

 パワー:H

 持久力:H

 素早さ:H

 魔力: H

 知力: H

 器用: G-小上昇中 new!


 ◆スキル◆

 弓術

 速射

 連射

 パワーショット

 遠見

 夜目

 集中

 曲射

 鑑定




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「器用さが上昇している! やった! オールH脱出!」


 ステータスの上がり方は、意外と渋いが……。

 それでも器用が1ランク上がってGになった。


 それに表示に変化が無くてもそれぞれのパラメーターは上昇しているはずだ。

 経験値倍増にして、痛い思いをした甲斐があった。


 それにしても……。


「レベルアップの反動が大きすぎる……。あんなに痛いと動けない……」


 時間的には数分だが、ダンジョンで行動不能になるのは非常に不味い。

 俺がうずくまって痛みに耐えている時に魔物が襲って来ないとは限らない。


(一まず今日は引き上げるか……。冒険者ギルドの図書室で情報収集にしよう)


 本日は撤収!

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