2-9 リーダー研修からダンジョンへ
俺は冒険者ギルドのリーダー研修に参加している。
昨日はスクロール屋のパベルさんの店で大人買いをしてしまった。
一人で冷静になって考えてみると、パベルさんに良いように乗せられて大人買いさせられたのではないかと……。
あの勝負を挑んで来たり悔しがったりするのは、俺を煽る為の演技だったのでは?
商人恐ろしい。
あの後武器屋で新人向けの安い弓と矢を購入した。
スキルは他人から見えないから、高額なスキルを購入しても良いけれど、武器は他人から見えるからね。
新人が分不相応に高額な武器を持っていたら変だ。
絶対誰かに目を付けられて、トラブルになる。
しばらくはこの新人向けの弓矢でがんばろう。
スキルの補正が入るから、この弓矢でも何とかなるだろう。
今、リーダー研修は、フォーメーションの訓練をしている。
研修参加者で、前三人、後三人の隊列を組む。
そこへ魔物役の教官たちが襲い掛かり、ボコボコにされると言う嬉しくない訓練だ。
教官から檄が飛ぶ。
「盾役は後ろをしっかり守れ! 前へ出過ぎだ!」
「そこ! 魔法使い! 横にはみ出ないで、戦士の後ろから魔法を打て!」
「オラオラ! そんな事じゃダンジョンで魔物に食われちまうぞ!」
あくまで模擬訓練なので、木製の剣や槍を使い、魔法や矢は打つフリをするだけだ。
しかし、教官からの一撃はかなり痛い。
頭に食らうと、チカチカと星が見える。
「ほら! リーダー役は指示を出せ! 指示! 全滅しちまうぞ!」
「弓は後ろから援護頼む! 剣士は突っ込め!」
「えっ! ちょっと! 守りが……」
リーダー役を任されたイカチイおっさん戦士の指示で、前衛が教官たちに突っ込んで行った。
後列の俺と魔法使い二人は、剣士の突撃を回り込んでかわした教官にボコボコにされた。
参加者は二十人。
経験者ばかりで年齢も高目、俺が最年少で唯一の新人だ。
交代でフォーメーション訓練を行った後は、広い会議室に移動して座学だ。
ギルドのスタッフが講師役で、冒険者ギルドのルールなどの説明を行って昼過ぎに終了した。
「じゃあ、これがナオト君の新しいギルドカードです」
受付のワーリャさんが、金属製のギルドカードを新調してくれた。
白地のカードで、端に金色の線が一本入っている。
カッコ良いデザインだ。
前のギルドカードとは雲泥の差だな。
「それパーティーリーダー用のカードです。そのデザインは、このギルドオリジナルなんですよ」
「へえ。カッコイイですね!」
このカードを見せれば、聖ピョートルブルグの冒険者ギルドでリーダーをやっていると一発で分かる訳だ。
「それと、パーティーメンバー募集のチラシは、そこの掲示板に貼っておきます。希望者から連絡があるかもしれないので、一日一回ここの緑カウンターに顔を出して下さい」
「わかりました。じゃあ、ちょっとダンジョンに行ってきます」
「ソロですか? 気を付けて下さいね。浅い階層で無理しないようにして下さいね」
「はーい」
聖ピョートルブルグには複数のダンジョンがある。
俺は初心者向けと言われるダンジョン『赤のダンジョン』に向かった。
赤のダンジョンは冒険者ギルドから十分ほど歩いた街のど真ん中にある。
「また雰囲気が違うな……」
広場の真ん中に巨大な木が立っていて、その幹にポッカリと巨大な洞があいている。
その洞から冒険者たちが出たり入ったりしている。
最初の街で潜ったダンジョンは神殿からだったが、今度は木か。
ご神木かな?
巨大な木には赤い実がなっている。
だから赤のダンジョンなのかな?
そんな事を考えながら、俺は木の洞から赤のダンジョンに入った。
木の洞を通り抜ける時、一瞬平衡感覚がなくなる。
一歩足を踏み出すとそこはダンジョンだった。
床や壁は木の板で出来ている木製ダンジョンだ。
振り返ると木の洞がある。
なるほどここを通って出入りするのか。
洞の奥は黒々としていて先が見えない。
おそらく魔法陣的な機能があるのだろう。
あの広場の木の洞にワープするみたいな。
「さて、どこから行きましょうか……」
初めてのダンジョンでちょっと不安だ。
ダンジョンに入るのはまだ二回目だしな。
通路は左、正面、右に伸びている。
正面と右に人が見えたので、左の方へ進む事にした。
ゆっくりと直線の通路を歩く。
スキル『遠見』が仕事をしていて、かなり先の方まで良く見える。
「いた……」
魔物を発見!
樹木型の魔物『セブンウッド』だ。
人間の背丈位の木が根っこを使って歩行している。
冒険者ギルドで聞いていた通りの姿だ。
まだかなり距離がある。
俺は弓を持ち、いつでも打てる様に矢の準備をした。
セブンウッドは、変わらぬペースでこちらに歩いて来る。
あと100メートル……。
あと50メートル……。
あと25メートル……いけるか?
俺はスキル『速射』を使って、素早く一動作で矢を放った。
真っ直ぐ飛んだ矢は、吸い込まれるようにセブンウッドの胴体部に当たった。
「よし! ヒット!」
一矢目から当たった! 幸先良し!
俺はガッツポーズをして喜ぶ。
次の瞬間セブンウッドは煙になった消えた。
カラン!
セブンウッドの消えた場所に木の枝が落ちた。
ドロップ品だ!
辺りに注意しながら慎重にドロップ品に近づく。
「あ! これ! アコーギさんの仕事で使った『魔よけの木』だ!」
ドロップした木の枝を拾い上げ鑑定すると『魔よけの木』と情報が出た。
確か……『魔よけの木』は買取価格が、100ラルク、銅貨一枚だ。
「まあ、安い物でも初ドロップ品だからな!」
ちょっと嬉しくなった。
放った矢も残っていた。
まだ使えそうなので回収する
魔よけの木をリュックに仕舞い探索を続ける。
迷子防止の為に、ひたすら真っ直ぐ歩く。
いくつかの曲がり角を過ぎた。
次の曲がり角、右に曲がれるのだが、右の方からギシギシと音が聞こえる。
木の通路を踏みしめる音だ。
なるほどね。
これなら魔物の接近も足音ですぐ気が付く。
初心者ダンジョンと呼ばれる訳だ。
足音はこちらに向かっている。
俺は曲がり角から15メートルほど離れ膝立ちになり矢をつがえ待つ。
魔物が曲がり角から出て来たら、一撃お見舞いする戦法だ。
ギシギシ……。
ギシギシ……。
ギシギシ……。
近づいて来た……。
そろそろお出ました……。
曲がり角からセブンウッドが姿を現した。
まだ、こちらに気が付いていないっぽい。
「パワーショット!」
今回はスキル『パワーショット』を選択した。
パワーショットは、矢の力を増し、相手に与えるダメージを増大させるスキルだ。
スキル『パワーショット』が掛かった矢は、速射で放った時よりも風きり音が大きい。
矢が刺さった瞬間セブンウッドが後ろに弾け飛び、煙になって消えた。
「ちょっとオーバーキルかな?」
一階層のセブンウッド相手にパワーショットは、威力があり過ぎる様だ。
通常の射撃で十分倒せる。
ドロップ品の魔よけの木と矢を拾い上げた。
矢は鏃がダメになっていた。
どうやらパワーショットの衝撃に鏃が耐えられなかったらしい。
ダメになった矢も補修すれば使える。
魔よけの木とダメになった矢をリュックに放り込み探索を続けた。
この日はセブンウッド12体を撃破して引き上げた。
自分を鑑定してみたが、レベルアップはしていなかった。
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