2-8 鑑定スキル
「鑑定系のスクロールはこちらですね。銀スクロールで、『武器鑑定』、『防具鑑定』、『スクロール鑑定』、『アイテム鑑定』です」
「鑑定系スキルは、希少なんですね。銀スクロールですか」
「そしてこれが当店のとっておきです……」
パベルさんは両手で恭しくスクロールを掲げた。
スクロールにかかっているリボンは……金だ!
「うおっ! 金スクロール!」
「そうです! これが当店のとっておきの金スクロールです!」
パベルさんは得意満面だ。
俺はのってやる事にした。
「すげええ! ス、スキルは? スキルは何ですか?」
「ふふふ……スキルは……『鑑定』です!」
「ええええ!」
とノリで驚いてみせたが、俺はパベルさんがなぜ勿体を付けたかちっとも理解していない。
さっきの銀スクロールとこの金スクロールの違いは何なのだろう?
俺が質問をする前にパベルさんが滔々と語り出した。
「まずこちらの銀スクロールは、名前の通り、武器、防具、スクロール、アイテムを鑑定出来るスキルです。情報系のスキルですね」
「ふんふん」
「これらの銀スクロールですが、比較的ドロップしやすく市場に数が出ているスクロールです。価格は80万ラルクと銀スクロールとしてはお手軽な価格になっています」
「戦闘には直接関係がないスキルですね」
「そうですね。ですので冒険者以外の人、私のような商人、冒険者ギルドの買取担当スタッフが購入するスキルです」
「なるほど。それで金スクロールの方は?」
パベルさんの表情がキリリと引き締まる。
ゆっくりと間をおいて金スクロールについて話し出した。
「この金スクロールのスキルは『鑑定』です。これら銀スクロールの鑑定能力は全て網羅しています。更に……」
「更に?」
「更に人物、魔物、生物も鑑定可能です! あらゆる情報を取得できる鑑定系スキルの最高峰です!」
パベルさんは誇らしげに金スクロールを高く掲げた。
けど疑問があるな。
スキル『人物鑑定』はないのか?
「質問です! スキル『人物鑑定』のスクロールはないのですか?」
「ございません。『人物鑑定』や『魔物鑑定』のスクロールは確認されておりません。人物や魔物の情報を知りたければ、この金スクロール『鑑定』スキル一択なのです!」
「うーん、なるほど!」
そう言う事か。
パーティーメンバーのステータスを鑑定するには、その金スクロールが必要になるのか。
ないしは鑑定紙を用意しておくとか……予算的にはそっちの方が安そうだな……。
「それで、その金スクロールはおいくらでしょうか?」
「ドロップが非常に少なく人気のあるスクロールです。価格は金スクロール相場の倍! 1千万ラルクです!」
「うわ! 来たあ~!」
パベルさんの目が語っている。
どうだ!
若僧!
オマエには買えないだろう!
むむっ!
これは勝負なのか?
勝負なのですね!
クリープ!
クリープ!
うーん、何か違う……。
「まあ、駆け出し冒険者には過ぎたスキルではあると思いますが、金スクロールを目にする事自体が非常に稀です。この経験を資とされ今後の冒険者活動に……クドクドクドクド……」
「買います!」
「なっ!? なんですと!?」
「1千万ラルク! 大金貨10枚! お支払いします!」
俺は大金貨10枚をカウンターに置いた。
「クッ! 負けた……負けです……。くー! 持ってけドワーフ!」
勝利!
勝利!
勝利!
ふはははは!
我が軍に敗北の二文字はない!
しかし、『持ってけ泥棒』ではなくて、この世界では『持ってけドワーフ』になるのか。
ドワーフが嫌われているのか?
涙目のパベルさんから金スクロールを受け取り、その場で開く。
光り輝き俺の体内にスキルが染み込んで来る。
落ち着きを取り戻したパベルさんが、スキル指導を買って出てくれた。
一本の銅スクロールをカウンターの上に置く。
「それではまず最初にこちらの銅スクロールの情報を読み取りましょう。この銅スクロールに意識を集中して『鑑定!』と心の中で念じて下さい」
「わかりました……」
カウンターの上に置かれた銅スクロールをじっと見る。
意識を集中して……。
(鑑定!)
俺が『鑑定!』と心の中で念じた瞬間、銅スクロールの上に文字が浮かび上がった。
手を伸ばして宙に浮かぶ文字を触ろうとしたが、手は文字を通り抜けてしまう。
どうやら文字はそこに実在するのではなく、俺の脳内で、俺の視覚なり知覚なりに直接投影されているらしい。
「どうですか? 見えますか?」
「ええ! 見えます!」
俺の目には、ハッキリと銅スクロールの情報が見えていた。
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スクロール スキル:パワースラッシュ 戦士限定
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「パワースラッシュ、戦士限定と出ています!」
「正解です。きちんと鑑定スキルが機能していますね」
「あの、戦士限定と言うのは?」
「パワースラッシュは、ジョブ『戦士』でないと得られないスキルです。戦士以外のジョブの人がスクロールを開いていも、スキルはその人に定着しません」
「スクロールが無駄になるのですか?」
「そうです。ですので、ダンジョン内でスクロールがドロップしてもその場で開かずに持ち帰ります。後で『スクロール鑑定』のスキルがある人に鑑定して、中身を確かめるのです」
へー!
そう言うやり方なんだ。
俺だったらせっかちだからその場でバンバンとスクロールを開いてしまいそうだ。
「次に人物鑑定をやってみましょう。まずはご自分を鑑定してみて下さい。ご自分の手に意識を集中して『鑑定!』と心の中で念じて下さい」
「わかりました!」
自分の手を見つめ『鑑定!』と心の中で念じてみた。
俺のステータスが出た!
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◆ステータス◆
名前:ナオト・サナダ
年齢:13才
性別:男
種族:人族
ジョブ:弓士 LV1
HP: H
MP: H
パワー:H
持久力:H
素早さ:H
魔力: H
知力: H
器用: H-小上昇中
◆スキル◆
弓術
速射 new!
連射 new!
パワーショット new!
遠見 new!
夜目 new!
集中 new!
曲射 new!
鑑定 new!
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「出ました!」
「今日お買い上げいただいたスキルは間違いなく全部定着していますか?」
「はい、バッチリ! 全部あります!」
「それは良かった。では、最後に私を『鑑定』してみて下さい」
パベルさんに意識を集中して、心の中で『鑑定!』と唱える。
情報が出た!
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◆ステータス◆
名前:パベル
年齢:45才
性別:男
種族:人族
ジョブ:商人
◆スキル◆
計算
スクロール鑑定
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「パベルさんの情報が出る事は出ましたが、HPやMPなんかが表示されていません」
「大丈夫。それで正解です。非戦闘職の『商人』には、HPやMPなどのステータスはないのです。覚えておいてください」
「へえ! なるほど」
「それともう一つ覚えておいて欲しい事があります。人に鑑定をする時は、事前に一言断りを入れた方が良いです」
断りを入れる?
鑑定スキルを発動する前に『今から鑑定するけど良いですか?』って相手に聞くのか?
「それは……どうして?」
「鑑定スキルは微量ながらMPを消費するのです。魔法の一種なのです。スキル『魔力感知』を持っている人物は、自分が鑑定されたかどうか察知出来るそうです」
「あー、許可を貰わずに『鑑定』をして、バレたらモメると?」
「そうです。ステータスやスキル構成は、冒険者の生命線ですから。あまり他人に知られたくないものです。ですので、人物鑑定を行う場合は気を付けて下さい」
「わかりました。許可を取ってから鑑定するようにします」
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