2-6 聖ピョートルブルグ

 帝都ピョートルブルグに到着した。

 デカイ街だ!


 船の中で物知りな商人から話を聞いた所、十万人が住んでいるそうだ。

 日本の仙台市や千葉市とほぼ同じ規模って事になる。


 帝都ピョートルブルグの街並みは美しく、白い壁に金色の装飾が施された建物があちらこちらに見られる。


 冒険者ギルドも白壁に金色の建物だった。

 四階建ての大きな建物で、窓枠が金色に塗られ、屋根は薄い緑色だ。

 真っ青な空とのコントラストが美しい。


 アーチ型の大きなゲートをくぐり、両開きの門を開いてギルドの中へ入る。


「ふあっ!」


 広い!


 入ってすぐはロビーなのだが、なんと三階まで吹き抜けになっている。

 柱も石造りの丸い立派で頑丈そうな柱が使われている。


 受付カウンターも数か所にわかれていて、どこか何なのか……。

 人も目茶苦茶多い。


 日本の大きな駅と変わらない人出だ。

 この異世界に転生してこれだけ人が多いのは初めて見た。


 間違いなくこれまでの冒険者ギルドとは格が違う。

 さすがは帝都の冒険者ギルドだ!

 圧倒される!


 だが、気を引き締めよう。

 前の街では冒険者ギルドで大失敗したのだ。


 とにかく確認。

 慎重に行動。

 これが大事!


 ロビーの中央に案内カウンターがあったので尋ねてみる。


「他所の街から移って来た新人冒険者ですが、どちらのカウンターへ行けば良いですか?」


 案内カウンターの年配の女性スタッフが教えてくれる。


「それなら、そこの緑カウンターに行って下さい。ほら、壁の一部が緑色に塗られているでしょう? あそこですよ」


 なるほどカウンターの上部の壁が緑色に塗られているな。

 他にも赤、黄色などカウンターが色分けされている。


(へえ、分かりやすいな。意外とシステマチックだな)


 言われた通り緑色のカウンターへ向かう。

 昼過ぎなのに結構混んでいる。


 緑色カウンターの前で人の整理している女性に声を掛ける。

 ここのギルドは制服らしく、案内カウンターの女性と同じ服を着ている。


 黒っぽいスカートに白ブラウスに黒のジャケット。

 日本の企業制服を彷彿させる。

 少し気持ちが和んだ。


「すいません。他所の街から移って来た新人冒険者ですが、色々と相談に乗って欲しいのですが……」


「それなら……15番の席に座って待ってて。手が空き次第、職員が相談に乗ります」


「ありがとうございます」


 15番の席……あれか!

 横長のカウンターの一番端に、背もたれに15と書いた椅子があった。


(カウンターを色分けして、さらに席を番号で分けるているのか。かなり効率的だな)


 この異世界で業務が効率化されている事に少なからず驚いた。

 15番のカウンターに座りスタッフを待つ間、考えを整理する。


 まずは相談にお金がかかるかどうかを確認だな。

 それから……。


 俺があれこれと考えていると目の前に赤毛の若い女性スタッフが立った。


「お待たせしました! ワーリャです!」


 赤毛の眼鏡っ子だ!

 あるんだな……眼鏡……この異世界に来て初めて見た。


「はじめまして。ナオト・サナダです」


「ナオー……トサーナ……ダ?」


 ワーリャさんは、目茶苦茶ヘンテコな所で区切って俺の名を呼んだ。

 日本の名前ってこの世界では呼びづらいのかな?


「ナオトで結構です。これギルドカードです」


 名前の読み方を説明するのも面倒なので、ギルドカードを見せる事にした。

 ギルドカードを見てワーリャさんの態度が変わった。


「拝見します。えっ! 名字持ちですか? あの……貴族様でしょうか? でしたら、貴族専用のカウンターにすぐご案内いたしますが……」


「えっ? 貴族じゃないですよ? どうして貴族とか急に言い出したんですか?」


「だって名字があるから……それに言葉遣いも話し方も丁寧だし……」


「ああ! 違いますよ。平民です。お気遣いなく」


「そうなんですね! やだあ! びっくりした!」


「あははは……」


「あの……このギルドカードですけど……名前しか書いてないですよね?」


「それはですね……」


 俺はざっくりとこれまでの事情を説明した。

 最初の街エルンストブルグで急いで冒険者登録して護衛任務に出発した事。

 前の街ノンゴロドでジョブ登録したが、ボッタくられて多額の借金を背負わされそれを返済して来た事。


「……と言うような事情でして」


「それは……大変でしたね……」


 ワーリャさんも驚いた顔をして、俺に同情してくれたようだ。

 よく見ると可愛い。

 18才位かな?


 残念な事に今の俺は13才だ。

 何も出来ないのが無念だ。


 イカンイカン!

 意識を本題に戻そう。


「で、ご相談というのは、俺の冒険者に関する知識がツギハギで不完全なのです。補完する方法があれば、教えて下さい。あと費用がかかる場合は、料金も教えて下さい」


「わかりました。まず、私でお教え出来る事は、私が教えて差し上げられます。冒険者のサポートは、私たちカウンタースタッフの仕事ですから料金は必要ありません。それから図書室を利用するのも良いです」


「図書室があるのですか?」


 これは驚きだ。

 文明レベルが低いと思っていたが、帝都は別格だな。


「図書室は入室する時に保証金1万ラルクを預けて貰います。保証金はお帰りの際にお返しいたします。図書室は魔物やアイテム関連の資料が充実しています。私たちも図書室で調べる事があるので、オススメですよ」


「良さそうですね!」


 ここまで話していて俺は気が付いた。


 ワーリャさんは、当然のごとく俺に図書室をオススメした。

 つまり俺は文字が読めると判断した訳だ。


 俺が貴族っぽいからか?

 それともこの帝都では識字率が高いのかもしれない。


「まず帝都冒険者ギルドの説明をしますね……」


 ワーリャさんの説明によるとカウンターの色分けは、こんな風になっている。



 緑:冒険者登録、初心者向けのカウンター

 赤:討伐依頼、護衛依頼の受付カウンター

 黄:素材収集依頼、素材買取カウンター


 青:貴族専用カウンター

 銀:中級冒険者専用カウンター

 金:上級冒険者専用カウンター


 ・青、銀、金、は三階にある。普通の人は入室禁止。



 まあ、これだけ人数が多ければ、システマチックにやらないと捌けないよな。


「それから冒険者のランクですが……」


 冒険者は三つのランクに分かれる。


 初級:一般の冒険者

 中級:特に成績優秀な冒険者

 上級:類まれなる冒険者


 ただ、説明を聞いただけでは、どういう基準で三つに分けているのか良く分からない。


「まず売り上げですね。高額の依頼をこなしているとか、買取カウンターでの販売額が多いとか。次に冒険者ギルドへの貢献。最後はギルド長の気分次第です」


 ワーリャさんは、ニコリと笑ってこの話をしめた。

 まあ、日本の人事と同じで実績と上の覚えが目出度ければ出世するって事だな。


「それから当ギルドのお仕事は、護衛依頼とダンジョン探索ですね。護衛は対人戦が得意な方向けです」


 人と戦うのはちょっとな……。

 まだ魔物と戦う方が良い。


「ダンジョン探索が希望です」


「わかりました。ダンジョンでドロップしたアイテムは、黄色の買取カウンターに持ち込んでいただければ買い取ります。特定の素材の収集依頼が出る事がありますが、あそこの掲示板に貼り出されます」


 ワーリャさんの指さす先に大きな掲示板があった。

 沢山の紙が貼り付けられている。


「それからパーティーはどうしますか?」


 パーティーは冒険者が組むグループの事だ。

 これについては考えて来た。


「可能であれば、俺がリーダーになって自分のパーティーを作りたいのですが。ああ、多少の資金はあります」


 と言うのは、前の街で借金を背負わされた経験で、ちょっと対人関係が怖くなっているのだ。


 どこかのパーティーに入るのもダメではないが……。

 また騙されたらどうしよう……結構不安だ。


 それなら自分でパーティーを作って、気に入ったメンバーをパーティーに組み込んだ方が良い。

 ワーリャさんに反対されるかな?


「わかりました。それではリーダー研修を受けて下さい。そうすれば自分のパーティーを作れます。リーダー研修の参加費は、2万ラルクです。一日で終わります。ギルドカードを作り直す必要があるので、カード作成費用が2000ラルクです」


 あっさりと了承された。

 お金を払えれば、問題ないのか。


「合計2万2千ラルクですね。お支払い出来るので、リーダー研修に申し込みます」


「では、明日の朝一番にこのカウンターに来て下さい。あとは……宿屋、武器屋、防具屋、スクロール屋のご紹介ですね」


 宿屋、武器屋、防具屋はわかる。

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