2-4 ルーレットの大金を両替する

 空中から流れ落ちる銀貨を俺は呆然と見ていた。


(どうしてこうなった!?)


 神のルーレット1点賭けの倍率は36倍。

 普通に考えれば……コイン三枚を1点賭けすれば、36倍×3、つまり銀貨108枚のはずだ。


(それが……なぜ……)


 銀貨が流れ落ちるのが止まった。

 そして部屋の床にこんもりと銀貨の山が出来上がった。



 《黒の22:銀貨 倍率:36倍×36倍×36倍 銀貨46656枚獲得》



 さっき空中に浮かび上がったメッセージには、そう書いてあった。

 この銀貨の山は、46656枚の銀貨のハズだ。


(36×36×36って、何で掛け算なのだ?)


 なぜ計算が間違えているのか?

 疑問は尽きない。


(エラー? バグ? 設定ミス? 単純ミス?)


 いくら考えても答えはでない。

 いや、こんな事は考えるだけ無駄だ!


 現実として目の前に銀貨の山がある。

 これをどうするかを考えろ!


 俺は部屋の鍵をしっかりとしめて、宿屋の受付に向かった。


 宿屋の受付のお姉さんに尋ねた所、この街に銀行はないが両替商がいるそうだ。

 手数料はとられるそうだが、あの大量の銀貨を金貨か何かに交換して貰えそうだ。


 お姉さんに頼んで丈夫な布袋を譲ってもらった。

 豆が入っていた袋らしい。


 部屋に戻り銀貨を布袋とリュックに詰め、今度は両替商に向かった。


「いらっしゃいませ」


 両替商は宿屋『狐のお宿』から、すぐだった。

 とはいえ、銀貨がパンパンに詰まったリュックを背負い、これまた銀貨がパンパンに詰まった布袋を抱えて歩くのは大変だった。


 汗だくで、息を荒げたまま両替商に質問する。


「す……すいません……ぎ……銀貨を……金貨とか……上位の貨幣に……こ……交換して欲しいのですが……」


 両替商は笑顔を崩さずに応対した。


「ええ。やっておりますよ」


「大量の銀貨でも大丈夫でしょうか? あと手数料はおいくらほどでしょうか?」


「銀貨は大歓迎ですよ! 金貨から銀貨に両替するお客様も沢山いらっしゃいますからね。銀貨何枚ほどでしょうか?」


「46656枚」


「えっ!?」


 両替商の顔色が変わった。

 笑顔が引き攣っている。

 俺は繰り返す。


「46656枚」


 手元の布袋を開いて銀貨を見せた。

 大量の銀貨が両替商の目に入った。


 一瞬両替商がギョッとしたが、すぐ笑顔に戻った。


「どうぞ奥へ。奥でお話を伺います」


 両替商は若い男を呼んで布袋とリュックを運ばせた。

 俺は応接室に通され、身分証のギルドカードを両替商に見せた。


「あの……このお金はどのようにして?」


「ギャンブルです」


 ウソは言ってない。

 神のルーレットで当てたのだから、ギャンブルの一種には違いない。

 その後、いくつか質問をされたが、両替をして貰えることになった。


 この世界の貨幣についても両替商に教えて貰った。


 まず、通貨単位はラルク。

 これはこの辺り数か国で共通の通貨だそうだ。


 昔は一つの大国だったが数か国に分裂した。

 それで通貨制度だけそのまま残ったらしい。


 貨幣の単位は……。


  百ラルク銅貨

  千ラルク銀貨

 一万ラルク大銀貨

 十万ラルク金貨

 百万ラルク大金貨


 となっている。



 ・庶民が使うのは銅貨と銀貨が多い。

 ・百万ラルク大金貨は、国や商人が使うので市中にはめったに出回らない。


 という事だ。


 俺が持ち込んだのは千ラクル銀貨が46656枚。

 つまり、4665万6千ラルクだ。


 手数料は交渉の結果45万ラルクになった。

 高いけれど……まあ1%以下だし……。


 このままでは持ち運べないし……。

 銀貨のカウントに十人以上が投入されていたし……。



 手数料を差し引いた4620万6千ラルクを両替して貰った。


 大金貨45枚

 金貨 10枚

 大銀貨20枚

 銀貨  6枚


 と持ち運び可能になった。

 しばらく銀貨に困らないと両替商は喜んでいた。


「お手数ですが、60万ラルク、金貨6枚を別の袋に入れて下さい」


「かしこまりました。では、革袋二つにお分けしますね。小さな方が60万ラルク、金貨6枚です」


 両替商で金貨の入った革袋を受け取り俺は川の船着き場へ急いだ。

 今日はやる事が山ほどある。


 俺はこの街から逃げるつもりだ。

 あんな物騒な冒険者ギルドで、仕事は出来ない。

 もっと借金漬けにされるかもわからないし、奴隷に売られるのは真っ平だ。


 幸い神のルーレットで大金が手に入った。

 借金を清算したらこの街とはおさらばさ!


 その為には、逃走ルートを確保しておかないとな。

 街外れの大きな川がある。

 そこに船着き場があった。

 船なら陸路と違って、追跡し辛いだろう。


 俺は船着き場に急いだ。


 船着き場には、年寄りの係員がのんびり座っていた。


「すいません。ここから出た船はどこへ行きますか?」


「帝都の聖ピョートルブルグへ行くよ」


「帝都? ここはザムザ自由都市同盟の自由都市ノンゴロドですよね? 帝都というのは?」


「聖エーメリッヒ帝国の帝都じゃよ。この街も昔は聖エーメリッヒ帝国の一部じゃった」


 聖エーメリッヒ帝国は、最初の街エルンストブルグがある国だ。

 フィールスとトラブって、せっかくあの街、あの国から、脱出したのにまた戻る事になるのか?


 いや、待てよ……。


 河は北東の方角に流れている。

 最初の街エルンストブルグは南東だった気がする……。


「おじいさん。エルンストブルグは南東の方角ですよね?」


「そうじゃよ。あっちじゃ」


「船が向かう帝都ピョートルブルグは北東ですか? エルンストブルグから遠いですか?」


「ああ。帝都は北西だね。川は北東に向かって途中で西へ向かうのじゃ。エルンストブルグからは遠いね。大分離れる様だよ」


 それならオッケーだな。


「次の帝都行きの船はいつ出ますか?」


「日暮れじゃよ。日暮れに出て翌日の昼に到着じゃ」


 おあつらえむきのスケジュールだ。


「それに乗ります!」


「船賃は1万ラルクじゃよ」


「はい。これ! ちょっと用事を済ませて来ます。日暮れまでには戻ります!」


 係員に1万ラルク大銀貨を押し付けて、宿屋『狐のお宿』に走った。


 宿屋『狐のお宿』で、着替えをリュックに押し込んで宿を出る。

 宿代を払う時に、受付のお姉さんには口止めをお願いした。


 俺はここには来なかったし、宿泊しなかった事にしてもらう。

 大銀貨1枚をチップで渡した。


 さあ、逃げる準備は万端だ!


 最後に冒険者ギルドで、セルゲイに借金を叩き返そう。

 そして逃亡だ!

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