2-3 イカサマ・ルーレット

 神のルーレットが現れた。

 ここは宿屋『狐のお宿』の個室だ。

 俺以外に人はいない。


 神のルーレットは、一日一回だけ回す事が出来る。

 そしてベットするコインが三枚神様から支給される。


 アコーギさんの護衛任務九日間、俺はルーレットを必ず回して来た。

 アコーギさんには、『ちょっと用を足してくる』と言って、離れた所で神のルーレットを回していたのだ。


 ちなみに今日十日目はまだ回していない。

 これから回すのだ。



 そして、九日間回した結果がこれだ。



 34 銀貨

 18 銀貨

 15 経験値倍増

 14 銀貨

  2 銀貨

 36 銀貨

 30 銀貨

  9 経験値倍増

 22 銀貨


 銀貨 7回 銀貨14枚獲得

 経験値倍増 2回



 ベット方法は、赤、黒、0の3か所に賭けてハズレが無いようにしている。

 神のルーレットは、『何番で何が貰えるのか?』が、当たらないとわからない仕組みだ。


 だから、ハズレなしにして様子を見ていた。

 当選した賞品は『銀貨』が多い。


 他に『経験値倍増』もあったが、特に何も起こらなかった。

 恐らく魔物と戦ってないので『経験値倍増』は生かせなかったのだろう。

 今後冒険者として活動していけば、『経験値倍増』は生かす事が出来る。


 問題は先立つ物、お金だ。

 まだ駆け出しの冒険者の俺はそんなに稼げないと思う。

 そうなると神のルーレットで銀貨を稼ぐのは重要な収入源だ。


 だが……。

 今の外れないベット方法、赤黒0の三点賭けでは銀貨二枚……。


 もっと銀貨を稼ぐ方法はないだろうか?

 もっと倍率の良いベット方法はないだろうか?




  0

 1 2 3

 4 5 6

 7 8 9

 10 11 12

 13 14 15

 16 17 18

 19 20 21

 22 23 24

 25 26 27

 28 29 30

 31 32 33

 34 35 36

 縦 縦 縦


 赤・黒




 赤、黒、0の3か所に賭ける方法は、ハズレがない。

 ハズレはないが、赤2倍、黒2倍と低倍率だ。

 0なら36倍だが、確率は低いので、ほぼ2倍で確定だ。


 これでは、うま味があまりない。


 では、縦列に賭ける方法はどうだろうか?

 縦列の倍率は3倍。

 そして三列にコインを一枚ずつ賭ける事が出来る。


 このベットなら0が出ればハズレだが、ハズレが出る確率は37分の1だ。

 ほぼ3倍確定……。


 悪くはない……。

 悪くはないが……。


 もっと儲かる方法はないだろうか?


 そこで行きついたのが『1点賭け』。

 数字一つ、一か所にコインを三枚ベットする方法だ。


 数字1点賭けの倍率は36倍。

 コインを三枚賭ければ、36倍×3で、108倍だ!


 仮に34番の銀貨が当たったとする。

 銀貨が108枚!

 10万8千ラルクだ!


 これはデカイ……。


 じゃあ、毎日1点賭けをしたらどうだろう?


 神のルーレットはベットするコインが支給されるので、元手がゼロだ。

 毎日1点賭けで負けが込んでも、俺の懐は痛まない。


 神のルーレットの数字は0から36の37種類。

 確率で行けば37日に1回は当たる。


 仮に一年が365日とすると、一年に9回当たる確率だ。


 すると一年間で……。

 36倍×3枚ベット×9回当選で……。

 銀貨が972枚!

 97万2千ラルクだ!


 このやり方なら……生活は楽になりそうだ。



 だが、俺は考えた!



 ……。



 ……。



 ……。



 ……。





『もっと上手い方法はないだろうか?』






 常に一点賭けをする。

 そして年間銀貨972枚が手に入る。


 これはあくまでも理論値。

 確率上の話に過ぎない。


 銀貨972枚が確定している訳ではない。

 それこそ一年間アタリが出ない可能性だってある。


 そこに思い至った時に、俺の考えは更なる進化を遂げた。


 それを今日!

 これから実験する!



 俺は汗ばむ手でベットするコインを握りしめた。

 心臓がドキドキしている。


 まずはベット!

 昨日出た数字22番にコイン三枚をベットだ!


 22番は銀貨なので、当選すれば36倍×3枚で銀貨が108枚になる。

 俺はゆっくりと神のルーレットに近づき22番を確認した。


 22番は黒だ。

 黒い数字の22番の上に白銀のコインを三枚積み重ねる。


 ベット完了!


 自動でルーレットの回転盤が回り始める。

 そして白いボールがこれまた自動で投入された。


 俺は回転盤に近寄る。

 回転盤の側面を白い小さなボールがクルクルと回っている。


 ボールのスピードは徐々に遅くなり、もう間もなく回転盤の数字ポケットに落ちようとしている。


「ここだ!」




 ヒョイ!




 俺は回転盤に手を伸ばして白いボールを拾い上げた。


 これは異常事態。

 ベットした客がルーレットのボールに触るのはご法度。


 だが、ここはカジノじゃない。


 ここは宿屋『狐のお宿』の個室だ。

 俺以外に人はいない。


 ディーラーもいなければ、咎め立てする客もいない。

 カジノの用心棒もカジノのオーナーもいない。



 俺は白いボールを拾い上げてそのまま待った。


 手の中のボールに変化はない。

 回転盤も回ったまま。

 ベットしたコインもそのままだ。


 俺はゆっくりと……。

 白いボールを指でつまむと……。

 そっと22番の黒いポケットに……。

 白いボールを置いた……。


 そう!

 これはインチキ!

 これはイカサマだ!



『ルーレットのボールを拾い上げて、自分がベットした番号に投入する』



 ここがカジノならすぐに用心棒が飛んで来て、出入り禁止になるだろう。


 だけどここはカジノではないのだ。

 誰がイカサマと認定するのだ?


 イカサマと認定する人はここにはいない。

 神のルーレットの前には、俺しかいないのだ。


 だが、ひょっとしたら神様が怒るかもしれない。


 当選無効とか。

 罰が当たるとか。

 何か不都合な事が起こるかもしれない。


 俺は息を殺して結果を待った。


「どうだ?」


 ほんの一瞬の時間が非常に長く感じた。

 ルーレットはゆっくりと消えてなくなり、ルーレットと入れ替わりに空中に文字が浮かび上がった。


「やった成功だ!」


 俺のイカサマは通用した!

 イカサマとも言えない様な乱暴な方法だったが、神のルーレットは受け入れてくれた!


「よっしゃー! 1点賭け36倍×3枚で銀貨108枚ゲットだ!」


 俺は声に出し飛び上がって喜んだ!

 しかし、空中に浮かび上がった文字を見て動きを止めた。

 そこには驚きの数字が……。




 《黒の22:銀貨 倍率:36倍×36倍×36倍 銀貨46656枚獲得》





 倍率の計算式がおかしい!

 36倍×コイン3枚のはずなに、36倍×36倍×36倍になっている!


「えっ!? 掛け算!?」


 俺が間抜けな声を出した瞬間に空中の文字が消えた。


 ジャラジャラジャラジャラジャラ!


 入れ替わりに銀貨が空中から床に流れ出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る