1-3 しまった!ここはテーマパークではなく、異世界らしい
荷馬車で移動する間、俺は同乗している男奴隷たちに色々質問した。
情報はかなり集まったのだが……。
彼らも人に説明するのに慣れていないせいか、今一つわからない……。
まず、さっきの立派な馬車に乗っていたのは、エルンスト男爵の三男フォルト様で、俺たちのご主人様らしい。
次にこの荷馬車隊はフォルト様と一緒にダンジョンに行くメンバーで、全員フォルト様の奴隷らしい。
ここまでは良い。
俺も隣の男奴隷さん達の説明で理解できた。
ここから先の説明がわからない。
「これから行くのは冒険者ギルドだ」
「そこで魔法使いの冒険者と合流してダンジョンを探索する」
「手強い魔物がいるから気を付けろ」
何の冗談だろうか?
冒険者ギルド?
魔法使い?
魔物?
まったく理解が出来ない。
馬車は石畳の道路をガタゴトと進んで行く。
街並みはヨーロッパ風で、黒い木材と白い壁が印象的だ。
さては……このエリア全体がテーマパークで……。
冒険者ギルドとか魔法使いとかは、アトラクションの設定の事だろうか?
そんな事を考えていると大きな広場で荷馬車が停まった。
広場の隣に『冒険者ギルド エルンストブルグ支部』と看板の出た大きな建物があった。
看板の文字は何語だろ?
英語じゃないな。
フランス語やロシア語とも違うし、見た事のない文字だ。
(……知らない文字なのに書いてある内容がわかるのは、どうしてだろう?)
隣の男奴隷さんが俺の背中をポンと叩く。
「さあ。仕事だ!
同乗していた男奴隷の皆さんと一緒に荷馬車を降り、背負子を背負う。
俺の乗った荷馬車以外の奴隷は革製の防具や剣を装備している。
「俺たちは防具や剣を装備しないのですか?」
「ああ。俺たちは単なる荷物運びの奴隷だからね。この荷馬車以外の人は戦闘奴隷。ダンジョンの中で魔物と戦うのが仕事だ」
なるほど。
役割が違うのか。
それにしても……。
剣が……本物に見える……。
えっと……まさか……。
(まさか……本当に冒険者ギルドとか、魔法使いとか、魔物とか……そう言う世界なのか……いや、まさか……ねえ……)
考えをまとめる間もなく出発だ。
広場の中央にある石造りのパルテノン神殿みたいな建物の中に入ると床に大きな魔法陣が描かれている。
全員が魔法陣の上に乗ると一瞬頭がクラリとなり、その後は目に映る風景が切り替わっていた。
美しい神殿にいたのに、目の前は石造りの通路が見えている。
ザ・ダンジョンって感じだ。
一体どんな仕組みで、地上からこのダンジョンに移動して来たのか?
俺が考え事をしていると移動が始まった。
全員で三十人? いやもっといるかな?
ゾロゾロとダンジョンらしき場所の通路を進んで行く。
天井を見上げるが照明器具はない。
石造りの天井があるだけだ。
(それなのに光があるよね……。周りが見える……。不思議だ……)
三人横並びの縦に長い隊列で通路を歩いて行く。
俺たち荷物運び奴隷は隊列の後ろの方にいる。
時々隊列が停まる。
すると前の方で恐ろしいうなり声や剣を打ち合わせる音が聞こえる。
前の方を覗き込もうとするが俺の背が低いせいで見えない。
時々炎が上がっているのがチラリと見えた。
「これ……どこへ向かっているのですか?」
「20階層のボス部屋だよ」
「……」
「おとといオマエは18階層で怪我をした。今日は気を付けろよ」
「わかりました……」
隣の男奴隷さんと小声で話しながら通路を進む。
ダンジョンの事を色々と教えてくれるが、最下層にはドラゴンが出るとか半信半疑の話ばかりだ。
途中から背負子に荷物が増える。
毛皮やら牙やらを背負子に積んで歩く。
不思議な事にあまり疲れないし、背負子に荷物が載ってもきつくない。
どうやら今現在の俺は死ぬ前よりも元気で健康らしい。
(はあ……どうやら認めなくちゃならないな……)
状況から冷静に判断すると……ここは違う世界!
異世界ってやつだろう。
そうでもなければ背中に圧し掛かる毛皮の重さの説明がつかない。
この一団にいる猫人間や熊人間は……着ぐるみやコスプレではなく、獣人ってやつだろう。
あの死ぬ間際に聞いた神様の声……。
あの神様は死んだ俺をただ生まれ変わらせるだけでなく、異世界に生まれ変わらせた。
そう考えるのが自然……。
ここはテーマパークではなく。
アトラクションではなく。
新たな現実の人生……らしい……。
なら『名無しの奴隷』なんかじゃなくて……。
貴族とか!
王子とか!
勇者とか!
もっとそれっぽいのに生まれ変わらせてくれれば良いのに!
(はあ……溜息しかでないな……ブラック企業で過労死したと思ったら、次は人生自体がブラックだったでござる……)
隊列は進んでは停まり、戦闘しては進む。
何度かの休憩をはさみダンジョンの奥へ奥へと進んで行く。
安全地帯と言われるダンジョン内の隠し部屋で休憩をとる。
ダンジョン内では魔物が『
どういう仕組みなのかは誰もわからないが、とにかくそういう物らしい。
通路のどこかで魔物が自然と湧き出て来る。
安全地帯は、この『魔物の湧き』がない。
「どうやって判別するんですか?」
「ほら、壁の色が微妙に違うだろ? 安全地帯の壁の色は少し明るい色なんだ」
隣の奴隷さんが教えてくれた。
なるほど良く見ると通路の石壁はかなり濃いグレーだが、安全地帯の壁は明るいグレーだ。
覚えておこう。
食事が支給されたが、カチカチの黒いパン一つだけだ。
口の中で溶かす様にして食べる。
味はすっぱくて不味い。
「次はいよいよボス部屋らしいぞ」
「おう! サクッと終わらせて帰るべーや」
あちこちで次はボス部屋だと話しをしている。
サクッと終わらせるって、出来るのかな?
「ボスって弱いんですか?」
「20階層だから弱いって事はないだろうけど。まあ、これだけ人数が揃っていれば大丈夫じゃないかな。結構強い人が多いらしいよ」
隣の奴隷さんはノンビリとした口調で話す。
そんなもんなんだ。
ダンジョンに入って六時間くらいたったかな?
似た様な所を歩いているせいか、時間の感覚が麻痺している。
今何時頃なのか、まったくわからない。
荷物を持つのは苦痛ではないが、さすがに飽きて来た。
サクッと終わるならありがたい。
みんなが立ち上がり移動を始めた。
どうやらボス部屋に突撃らしい。
安全地帯の隠し部屋からボス部屋まではすぐだ。
ボス部屋の入り口は大きく開け放たれていて扉は無かった。
アーチになっている入り口を通ると大きめの体育館位のスペースが広がっていた。
ガランとしていて何もない。
ボスもいない。
「おい! こっちだ!」
隣の奴隷さんが呼んでくれた。
どうやら荷物持ち奴隷の俺たちは部屋の隅で見学らしい。
荷物持ちチームが背負子を下ろして入り口近くの壁に寄りかかり出した。
俺も背負子を下ろし、壁際に座る。
立っていても背が低いからどうせ何も見えないだろう。
なら座っていた方が良い。
足の間から覗き見出来る。
怒られるって事はないよね?
奴隷とは言え、まだ子供だし。
他の人達はフォーメーションがあるのか、規則正しく並び出した。
体格が良くて盾を持っている奴隷が前。
弓を持っている奴隷が後ろ。
俺たちのご主人様であるエルンスト男爵の三男フォルト様は、後列中央で指揮を取っている。
すぐ横に黒いローブを着て大きな杖を持った男が立っている。
あれが魔法使いだろう。
総勢三十名以上いるからか、なかなかの迫力だ。
みんながさっき話していた通り、これならすぐ終わるだろう。
「おっ……始まるぞ!」
隣の奴隷さんが小声で教えてくれた。
声に興奮が混じっている。
部屋の中央、前列の10メートル先に白い煙が集まり出した。
「あの白い煙がダンジョンの魔力らしい」
「へえ……」
あれが魔力……。
白い煙は集まって密度を増していく。
だんだんと白い煙が……。
何かの形になって来た。
「ほら! 魔物の形が出来て来ただろう! もうすぐ現れるぞ!」
「おおっ!」
凄い!
隣の奴隷さんが解説している間に白い煙が晴れて、魔物が一体姿を現した。
(なんだあれ! 禍々しい!)
出現したのは三本の角を持った巨大な馬だった。
馬と言っても形が馬なだけで、大型トラック並みのサイズだ。
たてがみと尻尾は炎を帯びている。
敵意のある目でこちらを睨にらんでいる。
(ユニコーン? いや三本角だからトライコーンとか? あんなデカいのに勝てるのか?)
トライコーンを見た瞬間、俺は嫌な予感がした。
(あんなのに……本当に勝てるのか?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます