第8話

「はぁ? 幽霊?」

僕は、彼女の言った言葉に疑問を持つ。

「本当に幽霊なのか?」

「本当に幽霊」

本当に幽霊なのか? 幽霊って、足がないんじゃ無かったっけ? ていうか、それ以前に、人間には見えないんじゃ無いのか?

様々な疑問が浮かんでくる。湧き水のように湧いてくる。

不幸中の幸いと言ったところか。さっきまで、怖くて震えていたものが、溢れ出す疑問のおかげで、気を紛らすことが出来た。しかし、怖いことには変わりはない。足が今でも震えている。他のことを考えていないと、気絶してしまう危険もあった。しかも、もし彼女が、枯尾花が、本当の幽霊であるとなったら、もうどうしようもなく、我を失うだろう。ただただ、彼女の言っていることは嘘だということを願うのみである。

「あなたにはいろんな疑問が浮かんできているでしょう。だが、その疑問は今すぐに解消する」

「疑問に答えてくれるのか?」

「いや、答える必要はない。面倒なことを避けたい」

「ならどうするんだ?」

僕の頭は疑問でピークを迎え、足の震えも相変わらず震えている。

僕は彼女を目の前で見ている。その距離三十メートル。

彼女は、目の前で少し低い姿勢になった。

彼女は突然消えた。

「⁉︎」

どこに行った? 周りを見渡してみるけれど、どこにも居ない。

なんだか女の子の匂いらしきものが臭ってくる。結構近くで。

そういえば、なんだか体が暖かいような冷たいような、わけが分からないような。

その疑問が湧くところに目をやると、疑問はすぐに解消した。灯台下暗しとはこのことだ。意外にも、自分の近くには意識がいかないものだ。

「ヒッ、……グフッ……」

彼女が僕の体にぴったりとくっついていたのだ。そして彼女の腕は、僕の体に突き刺さっていた。

痛いはずなのに、痛くは無かった。しかし、それは束の間だった。

「痛ッ、……フ、ヒッヒャアアアア‼︎‼︎」

激痛が僕の体を走る。

さっき、彼女は僕に向かってきて、拳を突き出し、僕の体に腕を突き刺したのだ。

今度は当たった。遊びではなく、本気で攻撃してきた。しかも石ではなく、彼女自身の拳とは。

その拳は、僕の心臓の周りの肉や骨を掻き分け、心臓を掴んでいた。

「痛い痛い痛い痛いーー‼︎」

この痛みは、今まで生きてきた中でも、ダントツで一番痛い。痛いを通り越して、本当に痛いのか? とか思ったが、痛いものは痛かった。

何だ……、これが死か……。

もっとカッコよく死にたかったなぁ。僕は、アニメのキャラクターみたいな、カッコいい死に様を思い浮かべるが、そんなことはどうせ出来なかったと思う。僕はそう決めつけ目を瞑った。

せめて、死ぬのが怖くて泣き騒ぐのだけは防ぎたい。僕は第一の人生の最後に、この自分の意思を貫き通した。

僕の記憶はここで終わり、そして僕はここで一回死んだ。

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