第4話

僕はゾッとした。怖かった。

逃げなければ。と思う前に足が既に動いていた。反射的に、素早く危険を察知して、彼女を背に逃げ出したのだ。

僕は無我夢中だった。ただ、彼女から少しでも遠く追いつかれないように逃げて逃げて逃げ続けた。

死にたくない死にたくない死にたくない。

さっきまで自殺したいと思っていた僕の考えとは真逆だったが、そんなことを考えている余裕なんてものは、この時の僕には無かった。本能的な行動。

あれから五分程たったのか。正確には分からなかったが。今僕は、ショッピングモールから近い公園のど真ん中で辺りを見回している。息が相当上がっている。それもそうだろう。さっきまで、ショッピングモールの三階にいたのに対し、今は外に出て、そこから二百メートル離れた公園に居る。ここまで休まずずっと走り続けてきたのだ。階段を下り下り、途中で転んだりもしながらも、すぐさま立ち上がり、振り返ることもしないでまっすぐここまで来た。

僕は流石に疲れたので、公園の地面に腰を下ろした。呼吸を整え、何があったのか思い出す。転んでできた傷が今頃になって痛く感じられた。

確か、ショッピングモールに自殺しに行って、決意を固められず、中をうろついていたら天使が舞い降りてきて、じゃあなく悪魔が降臨して、攻撃してきたから、怖くて逃げたんだ。よくここまで休まず走ってこれたなと思う。

何となく整理できたところで、ここに居ては危険かもしれないから、早く家に帰るとしよう。

そう思った琉鬼は立ち上がり、家に向かって歩き出す。公園の時計は、午後の九時を指していたから、尚更早く帰りたかった。

しかし、気になることがある。はっきりと覚えてはいないのだが、彼女は笑っていたのだが、僕が逃げる時、彼女を背にした時、横目で見たのだ。彼女が寂しそうな顔をしていたのを。それにこうも言っていた気がする。

「寂しいよう」

なんだか僕には、その顔と声が印象的だった。


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