第19話

「失礼します……」


「あら、いらっしゃい。」


あねさん、こいつは?」


入社した次の日。

もともと『MTB』に探りを入れるために開けておいた日だが、綺柳さんに拾われてしまったので、予定を変更し、僕が入る予定の部署の見学でもしようと『MTB』本部の事務所に来た。


そこにいたのは今日なにかとお世話になる予定の綺柳さんと初めて見る人。

頭に包帯、顔に絆創膏と言った痛々しい見た目と、立派な筋肉。

後者はきっとデフォルトだろう。

いかつい目つきが怖いが、なんというか、いかにも“モブの下っ端戦闘員”のような感じがしてならないため、綺柳さんに感じたような強者の威厳というか、身構える感じがない。


「あぁ、昨日入った新人くんだよ。」


「これが姐さんたち上層部が噂してた新しい原始型ですかい?」


「うん。新人の鈴木くん。部署は戦闘担当員補欠部希望。」


それを聞いた瞬間、筋肉の人の目が少しだけ開かれる。

この人が驚くと見た目的にだいぶ驚いてるように見える。

なんかこう、普段は動じない人が驚いたことの方に驚く感じ。

そんなにヤバイ部署なんだろうか。


「鈴木、今日は見学に来たんだろうが気をつけろよ。あの部署の人はなにかとヤバイ人しかいない。」


「わ、分かりました。」


本格的に怖くなってきた。

今日の見学の時に何されるんだろう。

あの口ぶりは相当まじだったぞ……

あの人の見た目が今ちょうど頭に包帯、顔に絆創膏という見た目だから、先ほどの忠告が実際に被害にあった人の言葉っぽく聞こえてしまう。


「そういえば、その傷はどうしたんですか?」


「あぁ、そういえばその傷について報告しにきたんだったわね。世間話しかしてなかったから本題を忘れてたわ。」


「い、今から話そうとしてたんだよ……」


「えっと、僕は外に出てますね。重要な情報っぽいし、新人の僕が1番に聞くのもどうかと思うので。」


「ああ、それに関しては大丈夫。ボスのお達しがあるのよ。」


「お達し、ですか?」


「なんでも、昨日の戦闘から鈴木君は使える人材として認識されたみたいで、敵の情報について隠す必要はないって。」


知らない間に多大な期待を寄せられていたみたい。

あんまり前線に出るのは好きじゃないんだけどなぁ、


「えっと、じゃあ話してもいいか?」


「ええ、お願い。」


「そうだな、あれは今から、えっとちょうど4時間と37分29秒前のことだ、」


「そこで『ちょうど』を使っていいんでしょうか。」


・・・・・・

・・・・

・・


茂武しげたけ視点】


早朝、まだ日が頭すらも見せていない時間に眼を覚まし、タンクトップに着替え、ガムを口に入れるとバイクにまたがり仲間とともに毎日の日課である地域清掃に出かけた。


おい鈴木、その顔はなんだ、文句は聞いてやるぞ?


ゴホン、話を戻そう。

俺たちの担当はB市とC市を隔てる南北に流れている川の河川敷のゴミ拾い。特に橋の下なんかはB市内では1番ゴミが多い場所なだけあって、太陽が登る前から作業を始めないと犬の散歩なんかで河川敷を使う人の邪魔になっちまう。

だから、毎日ゴミ拾いは暗闇での作業だ。


そんなこんなでゴミ拾いを始めて10分ぐらい経った時だった。

川の中にある橋の足の部分に布にくるまった人らしき影があった。

仲間の一人がそれを見つけて、ひょっとしたら岸に戻れなくなったんじゃないかっていう話になって声をかけてみた。


するとその人影が口を開いた。


『貴方達は能力者ですか?』


と。


『お、おい、何いってるんだ?そんなのいるわけないだろ?』


隣の奴が言う。

こいつスキンヘッドの割に気が小せぇからな。

ったく、ここで反応したら相手の思う壺だろうが、


『お前がなにを知りたいのかは分からんが、少なくとも俺らのことをそんな風なイカした名前で呼ぶ奴はいねぇよ。』


『そうですか、?』


次の瞬間、その人影が猛スピードでこちらに


『避け――』


『れると思った?』


猛スピードで飛んできたそれが俺の首に腕を回す。

そのまま人影とともに壁側まで飛んで行った俺は躊躇わず能力を使う。


『おっと、、流石に火傷はしたくないかな、』


『へっ、最弱と言われるパイロキネシスも鍛えれば体を火で纏うぐらいならできるようになるんだよ。』


能力者の中で数が一番多いのはパイロキネシストであるため、様々な対策がなされた今となっては最弱とまで言われている。が、この茂武は1日と練習を欠かしたことのないナイスガイ。気合いと根性と少しの休養が作り上げたのがこれ、


最終防御形態『炎の鎧』。

発火能力を極限まで使ったもので全身をだいたい強火ぐらいの火加減の火で包む。炎と直接触れないように隙間を作ってはいるが、熱が空気中に逃れることができないので中はどんどん暑くなっていく。そんな訳で使用可能時間は茂武の意識が我慢できるまで。


そう長い時間持つわけではないが、少しでも自分と目の前の敵、今回倒すべき存在との距離が取れればいい。あとは、味方に任せる覚悟で。


『『オラァァァァア!!』』


次に飛ぶのは大量のゴミや石と大きな声。

このチームは3人のパイロキネシスと5人のサイコキネシス、一人の身軽な千里眼で構成されている。

近接戦闘で押さえ込んでからの遠距離射撃と非常にバランスのとれた部隊である。


『オメェら!近所迷惑にならない程度に暴れるぞ!!』


『『『おう!!』』』


このチームの構成員は能力者歴三年越えのベテランだけ、念動力はパワーもスピードもそこそこ鍛えられている。

弾幕レベルまで密集した小石やゴミ達。


それをみた敵は、


川のある所まで下がっただけだった。

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