第18話(入社)
「あぁ、知ってるような知らないような天井だ。」
目を開けたらよく学校とかで見る白い板に所々点々が付いているような板を使って作られた天井が見えた。
ゆっくりと体を起こしてみる。
雰囲気的に保健室っぽいここの三つ横並びになっているベッドのうち僕がいるのは一番窓側、沈みかけた夕日がこちらに強烈な光を放ってくることから方角でいうと一番西側のベッド。
「お、目が覚めたかい?」
「誰ですか……?」
保健室シーンの常套句をそっくりそのまま言ってみせた金髪のチャラい人は僕の寝ているベッドのそばまでやってくるとリア充スマイル(友達の多そうな人がする笑顔、断じてバカにしているわけではない。絶対に。)を浮かべて、
「ああ、俺は永井将翔、将軍の『将』に飛翔の『翔』で将翔。君は『MTB』に入ったから先輩だな、よろしく頼む。」
「なんか名前だけ聞いたらそこまで違和感ないのに漢字にすると不思議な感じがする名前ですね。」
おぉ、なんか凄い、すごく凄い。初対面の人とここまで喋れるなんて、明日は核ミサイルでも降ってくるのだろうか……
といっても、全てこのリア充を具現化したような先輩の会話スキルなんだろう。
はぁ、リア充マジ
……言葉だけでも真似しようなんて、虚しいだけだな。
「よく言われるよ、漢字だけ見れば特徴的なんだけどね、どうしても日常生活では読みしか使わないから特にこれといった特徴がなくてね、」
「そんなことないですよ、そんなカッコいい顔してるだけですごいのに、僕に初対面の人との会話でここまで話を繋げられるほどの会話スキル持ちなんて、リア充の具現じゃないですか!!僕は到底及びませんよ!!」
「そ、そうか……なんというか、すごく悲しいね。というか、そんなこと言って君もモテてんだろ?めっちゃカッコいい顔しといて、嫌味じゃないだろうな〜?」
「はて?何を言ってるんですか?僕ごときがそんなわけないじゃないですか。」
「君は最近のラノベというのを読んでいないのかい?そういうことを言う奴は大抵裏でモテモテだったりする鈍感ハーレム野郎なんだぞ?」
「さすがライトノベル、夢があっていいですねぇ」
凄い、会話が続いてる……
ここまでの出来事を仮にパソコンに打ち込むとしたら会話文だけで画面が埋まって地の文が入り込む余地がないレベル。将翔先輩マジパネェっす!!
「はぁ、まあいいや、ここまでの砕けた感じを見る限り、もう『MTB』とは敵対する意思はないってことでいいのかな?」
あ、そっか、ここは『MTB』の基地だった。まぁいいや、僕は将翔先輩のもとでリア充について学ぶとするか。
「はい、僕はもう将翔先輩にどこまでもついていきます!!」
「そ、そうか、まあ、頑張ってくれ。」
「はい!!」
「じゃあその通りボスに話をつけとくから」
「これで手続き諸々完了ですか?」
「ああ、一応全ての会話を記録してたからね。」
そう言ってスマホを取り出す。さすが幹部、抜かりはないみたいだった。
「と、ここで話が変わるんだけど、君と一緒に奏に連れてこられた“リリー”って子が今面談室で奏と一緒に待ってるから、元気になったなら報告に行っておいで。ついでに奏と一緒に部署とかも決めとくといいよ。」
「了解です。」
ほんと、いい先輩を持ったな
・・・・・・・
・・・・
・・
・
「奏真さぁん!!」
「リリー様、ご無事でしたか!!」
面談室。
ここには五位の人、綺柳さんとリリー様が待っていた。
入った瞬間飛びついてきたリリー様を受け止めつつ、喜びの声をあげるとその奥にいる綺柳さんに顔を向ける。
もう仲間になったといえ先程戦った仲なので少し気まずい気がしないでもない。
とはいえ、仲間になった以上、先輩から学ぶべきことは学んでおくべきだろう。
今一番気になるのはあの戦いでどこから演技に気づかれていたか。
「なんで負けたか気になるの?」
「え、あっ、はい……」
綺柳さんが話しかけてくるのに答える。的確すぎて少しキョドッてしまったが。
「将翔から話は聴いてるし、解説でもしてあげよっか?」
「い、いいんですか?」
「なんか戦ってた時と全然テンションが違うね。」
「後は野となれ山となれでしたから。」
「ふ〜ん、」
「綺柳先輩の使ってる能力を推測するところまではできたんですけどね……」
「じゃあ、どうゆう手順で推測したかを順番に話してくれるかな?」
非常に展開が早い気がするが、まあ適度に仲良くなれたならそれでいい。ここはリア充の宝庫なんだろうか。
僕は順番に綺柳さんとの戦いで思ったことについて話していく。
一通り話し終わった後、今度は綺柳さんがレクチャーしてくれた。
綺柳さんが僕の演技に気づいたのは能力を手で受け止めるあたりからだそうだ。
考えればわかること。綺柳さんは能力上空気の流れに敏感だということを思い出すと、あれで霧散したように見せるというのはかなり難しい。
そこから僕の動きに懐疑的になった綺柳さんは僕の思考を予想し、わざと接近したあとで注意が疎かになっている能力での攻撃。見事としか言いようがない。
「ーーとまあこんな感じだね。」
「ありがとうございました」
しっかりメモを取ったスマホをポケットに入れて頭を下げる。
と、そこで将翔先輩に言われた部署について思い出す。
「すいません、僕の部署について決めといたほうがいいって将翔先輩が仰ってたんですけど、どうすればいいんでしょう?」
「あ、そっか。部署は希望とかある?」
「ないです。強いて言うなら一番人気の無い部署がいいです。」
「そう、まあ人気の無い部署だったら心当たりあるけど……」
そう言って一枚の紙を差し出す綺柳さん。
そこにはお世辞にも上手とは言えない文字(?)で『新人募集中、取り敢えず誰でもいいからおいで』と書かれたいかにもやる気なさそうな広告。
「じゃあこれで。」
「本当にいいの?勧めておいてなんだけど相当おかしな人が集まってるよ?」
「変に上にいるよりはいいですよ。スローライフに興味はありませんが、ハードモードよりはマシです。」
「わかった。じゃあ鈴木君は戦闘担当員補欠部で報告しとくね。」
「お願いします」
「今日はもう遅いから、見学は次来た時に。だいたいいつも事務所にいるから。」
時計を見ると6時ぐらい。
初めて入った会社(?)がホワイトで良かった。
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