第17話(れでぃ〜、ふぁいっ!!part2)

 五位の人が操っているのは空気だ、これは多分間違いない。


 僕が最初にあった時、神力のことをごまかすために言った『音がした』発言に対してこの人は『耳がいいのね』といった。

 その時は特に何も思わなかったのだが、先程この人は『神さまの力を感じて探し当てた』ことを見破った。その理由は『私を見つけた』から。


 ここで少し裏を返してみる。

 後から言い直したことから、前者、『耳がいいのね』はその場で何かしらの理由があってついた嘘ということがわかる。

 では後者。これを決定できるということはそれなりの根拠が存在していることがわかる。

 さらに前者が嘘だとわかった今、さらに新しい情報として一つ、この人には僕がついた嘘、『音がした』発言は必ず嘘だということができる根拠がある。言い方を変えれば、この人は

 まあ本当は五位の人の視線を読んで交わしたわけだけど、最初に僕が五位の人を見つけた印象が大きすぎたのかな?


 不可視、形はなく、音に関係するもの。

 ここでやっと問題文は埋まった。あとは解答するだけ。

 この三つに共通するものは一つ。『空気』しかない。


 ・・・・・・・

 ・・・・

 ・・

 ・


【董花視点】


「おい文加津、今の……」


「ああ、あの子の能力はものを落とすものだった筈。あの跳躍力と腕力は一体……」


「ほんと、今回の新人には期待して良さそうですねぇ。」


「会議中に第八位の言っていたことは本当だったんですね。正直先生とタメを張れるなんて二信八疑ぐらいでしか信じてなかったのに……」


 鈴木君の戦いを見て『MTB』の上層部の人たちが意見を交わす。

 私としても、鈴木君がここまでするとは思わなかったことによる驚きと、『MTB』に入ってきてくれた時のことを考えた期待で大体他の人と同じ考えだった。


 普通、異能力者同士の戦いでは相手の異能を完全に理解している側が何倍か有利になる。

 今回の戦いではこちら側、綺柳さん側が圧倒的に有利な条件だった筈だ。

 それがここまで拮抗しているというのは、鈴木くんの能力がこちらが思っている以上に奥が深く多様性に富んだものだったからか、それとも鈴木くんの戦闘センスによるものか。

 どちらにせよ第五位と今のところどちらかにダメージを与えられることなく戦闘を続けていられるのだから、幹部入りするのはそう難しくない実力だ。


「でもまあ、第五位が勝つんでしょうね。」


 私がこの場の空気をまとめたように言う。

 それに反論する人はなし。


 結局のところ、経験の差というものはこの異能の世界では常につきまとう問題だ。

 今回は主人公を成長させる負けイベントの一つとして始まった試合。鈴木くんがどこまで食いついていけるのかをみる会だ。


「今回の新人はどこまでいけるか。楽しみにしていよう。」


 ・・・・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・

 ・


【奏真視点】


 僕は五位の人に向かって走りだす。もう飛ばすものがない以上は近接戦闘で叩くしかない。

 あの人が放ってくる攻撃は見えない空気のかたまり。でも、直前に髪が大きくなびくをの見ればどこに放たれたかは分からなくてもこちらまで到達するタイミングは先程の攻撃を基準になんとなく測ることはできる。


「お、走ってきたか。もう隠す気はないってことかな?」


「ノーコメントでっ!!」


皮肉を込めて先程のこの人と同じセリフで返してみる。

五位の人はその返答を聴くと一発、また一発と空気弾(今命名)を撃ってくる。

今気づいたことだが、空気弾を放つには少しクールタイムが必要になるらしい。

まあ一つ一つ圧縮して放っているわけだから時間がかかるのは当然か。


僕はそれを大きくジャンプする事で回避。

攻撃こそ見えてないが、そこらへんは五位の人の視線の動きや先程の攻撃を基準に秒数でカウントして、あたかも『見えてます』というように回避する形で五位の人に勘違いさせたまま戦いを続ける。

そうすることで通常の数倍はハッタリがかけやすくなるのは明白だから。


それでも、やはりこの人に攻撃を当てることは難しい。ボタンの時のように今も多分この人は自分の体全体を覆うように空気の鎧を身につけているだろうから、このまま攻撃したとしても体にダメージを与えることは至難の業、いや、ぶっちゃけ不可能だ。


「(やっぱ、試験だけでもしときたかったけど……)」


そうため息をつきながらたった今僕の目の前に飛ばされてきた空気弾を横に飛んで避ける。

その後足をピタリと止め、五位の人をしっかりと見据える。

五位の人は一瞬訝しむような顔をした後、またも空気弾を撃ってくる。

僕はそれを妖しい笑み(奏真基準)で見つめながら手のひらを前に持っていく。

そう、ちょうど


そして、それが手に触れた瞬間、



「なっ……ほんとたち悪いわねあなたの能力。汎用性の範囲内で自分の攻撃消しとばされると勝ち目がないように思えてきちゃうじゃない。」


「降参しますか?」


「しないわよっ!」


また五位の人が爆発的な推進力で前に飛んでくる。

この人は先程の攻撃を消しとばされたから格闘戦で挑もうとしているのだろう。物理攻撃なら効果があると思って。

たしかにこの判断は間違っていない。むしろ最適解だろう。

まあ、のであまり意味はないが。


先程のは神力の強制力をだけだ。別に能力を霧散させるなんて力はどこにもない。

ただ、空気は実体がないため空気をまとめていた神力がなくなった時、その空気は四方八方に飛び散っていく。それが結果的に霧散したように見えた。そんな空気だからこそのハッタリだ。


それにうまく引っかかってくれた五位の人はそのままこちらへ走ってくる。

こちらがあちらの間合いにむかうのではなく、自然にこちらの間合いへ誘い込む。

相手は物理攻撃は防げないと思っているだろうが、そんなもの威力をことにすればどうとでもなる。


相手が手の届くところまできた。これでもう勝負は決まったも同然。僕の……


「勝ちだと思った?」


急に冷たく冷えた声が僕の鼓膜を震わせた。その瞬間、


「ごはっ……!!」


お腹に衝撃を受け、体が強制的にくの字に曲げられる。

肺から空気が抜ける感覚に苦しさを覚えながらも、それをやった本人であろう人を睨む。


「奏真さん!!」


リリー様の声が聞こえた。さっきまでどこに隠れていたんだろうか。


ガタン、と屋根の瓦に膝をつける。

先程の攻撃、空中から放たれたそれは全方向に爆発するかのようなものだった。


「(なんだ、この人も範囲内のものを操る系の人だったのか……)」


たしかに自分の思考の中できっぱりとその考えを否定したことはない。

でも、五位の人、綺柳さんの仕草一つ一つに惑わされ、無意識のうちにその可能性を捨てていたんだ。


「なんだ……順序立てて、自分の思考の道筋をはっきりさせるのは……、証明の、基本…なの……に。」

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