第13話

「異議ありぃ〜」


間の抜けた、眠そうな声が響く。

この会議室(とは名ばかりの神藤家にある物置に机をおいた場所)に集まるのは皆人外と称される部長クラス以上の人たち。

その中で重力に逆らうかのようにピョコンと飛び出たアホ毛を気にすることなくこのような声が出せるのはこいつが命知らずの大バカものだからという訳ではない。


「何ですか、序列八位」


序列三位が軽くたしなめるような口調で続きを促す。


「ねぇその序列八位ってのやめない?俺にはもうちょっとマシな名前があるんだからさ。」


が、序列八位と呼ばれたアホ毛の男は全く違う話をし始める。

するとそこに、


「まだ序列八位は相変わらず中身の全くない餃子のような話が得意なのね。」


「そういう序列五位さんは相変わらず遠回しな言い方のように見えて以外とストレートに心に刺さる言葉を投げかけてくるね。」


二人の間に流れる険悪な空気。

といっても、片方は飄々と、もう片方は気にせず冷たい目をしてだが。


「うぉっほん。

それはともかく、序列八位、異議というのは?」


その場をまとめるように序列二位が咳払いをする。

それに序列八位は一瞬表情を硬くし、そして答える。


「実は俺、報告書で一文字漢字を間違えたんですよ。」


「「「「は?」」」」


何の脈絡もなかった全く関係のない報告に惚けた顔をする面々。

そこでまたまとめ役の序列二位が発言をする。


「それとこの作戦にどのような関係が?」


「俺はちょっと恥ずかしくなりまして、急いで能力を使ったんですよ。」


その言葉にまた空気が張り詰める。

この人が能力を使った。それはここの空気を支配するほどのことだった。

『MTB』に入ってまだ一年ほどしかたたない新人。能力名もまだ公表されておらず、当然名前なんて誰も知らない。唯一知っていることは『過去に戻る能力を持っている』ということ。

つまり、こいつが能力を使ったということは、『自分の知らないところで過去を変えられた』ということ。

そのことに少しの不安を隠しきれなかったのか、序列八位がまた喋り始める。


「心配しないでください。ただ漢字を訂正しただけですから。」


「そ、そうか。で、それとこの作戦の関係は?」


序列二位の言葉。だんだんと確信に迫っているこの発言に序列八位は真剣な顔でこういった。


「一ヶ月後に再び起こる異能対戦で最後まで生き残っていた能力者は『MTB』序列五位以上の人と俺、そしてこの鈴木奏真とその仲間の3人だけでした。このことから鈴木奏真は少なくとも五位以上の力は持っていると思われます。」


誰かが、息を飲んだ。


・・・・・・・・・・

・・・・・

・・


【奏真視点】


いや、あんなご飯をこいつは毎日食べてる訳?

多分高級レストラン街で○万円ぐらい使って食べるようなものだよね?

柚瑪村さんまじパネェっす


といった風に日本の経済界のトップクラスとの差を痛感した昼食だった。

それは置いといて!

午後の予定。

リリー様は食堂(大広間?)でお菓子を食べる。

僕たちは柚瑪村の能力の確認。

これに関してはとっておきの案がある。

というわけで、


「柚瑪村、ちょっと手繋いでもらっていいか?」


「は?!」


柚瑪村に大きな声出された……

僕ってそんなに嫌われてるんですか……?


「な、なんであなたと手を繋がなきゃいけないの?!意味わかんない?!」


「そ、そんなに嫌なの?!」


だいぶ凹んだ。僕のメンタルの弱さをなめるなよ……


「ちょっ、なんで黙るのよ?私はなんでって聞いただけで、別に嫌とはいってないわよ。ただ驚いただけ、それだけよ。うん、きっとそう。」


「そ、そうなのか。よかった、嫌われてるのかと思った……」


「で、結局なんでなの?」


そういえば説明してなかったか。


「ああ、お前に憑いてる神さまを思ってな。」


「落とす?」


やはり聞いてくる。神様を落とすとか罰当たり以外の何者でもないもんな。


「ああ、僕の能力。ものを落とすことができて、テストの点数なんかも落としちゃう厄介な能力。」


「もしかしてこの前のテストって……」


「能力が暴走したから。」


「そうだったのね……」


「別にお前が悲しむ必要はないぞ?」


「でも……」


柚瑪村の顔がどんどん申し訳なさそうなものになっていく。


「別に制御できなかった僕が悪いわけだし、気にするな。それよりお前の能力だ。これはリリーさまに聞いたことだけど、憑いてるものを落とすには物理的な接触が必要らしくてな。そこで手を繋ごうと、それだけだ。」


「そうなの?な、なら仕方ないわね。」


柚瑪村がわずかに頬を赤らめながら僕の右手をぎゅっと握ってくる。僕はそれを優しく握り返すと能力を使う。


「あれ?」


が、なにも起こらない。


「どうしたの?」


柚瑪村が聞いてくる。僕はリリーさまを呼び出した。


「リリーさま、神様が落ちてこないんですけど?」


俺は早速食堂でずっとお菓子を食べて待っていたリリーさまに聞く。

リリー様はずっと考えた後、


「接触している範囲が狭いんですかね?一度抱き合ってやってみてください。じゃあ、私はお菓子を食べてくるので。」


いつものように爆弾を残して去っていった。

まあ、やるしかないよね?


「というわけで柚瑪村、後ろからと前からはどっちがいい?」


「ちょ、なんで決定事項なのよ?!」


「だって神様のお告げじゃん。」


「それでもっ!ちょっとはテンパりなさいよ!その神様と訓練が絡んだ瞬間のあなたの人格の変わり方は一度矯正した方がいいほどのものよ!!」


「もう、うるさいなぁ。」


柚瑪村がうるさいから僕は強引に前から抱きついた。

柚瑪村の体は非常に暖かく、そして柔らかい。が、それを堪能するようなことはせずに僕は能力を発動する。

僕の腕の中であわあわしていた柚瑪村も、自分に能力が使われていることに何か感じたのか、動きが止まった。



すると、僕と柚瑪村との体の間に光が溢れ始める。

目の前で溢れる光に自然と目を細め、やがて光が消えると手に少しの重さを感じて目を開ける。そこには、


「ぱぱ……?」


僕を『ぱぱ』と呼ぶ幼女神様がいた。

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