第9話(VS不良回)
とある偉い人が死ぬ間際に言った。
『神様は敵に回すな』と。
これまた同じ人がテレビドラマに出てくる借金取りをせんべい片手に見ながら言った。
『ヤクザは本当に怖いねぇ。敵に回すんじゃないよ?』
そしてその言葉を受け継いだ今この瞬間を生きる若者が言った。
「やべ、僕が危険を100%回避できる選択肢が残ってない。」
今僕が置かれている状況は神様を見捨てるかヤクザにケンカを売るかの二択。
どちらをとっても僕が窮地に立たされることはたしかだ。だって、僕には戦えるだけの力がないんだから。
僕にも力があれば。人を守るだけの力が。
・・・・・・・・あ、そういえば最近変な力が開花したんだっけ?
という感じの会話を僕は脳内でコンマ1秒ほどかけて行い、不良に立ち向かう。
まあ自分自身が
「やめてください!」
「あ?ウルセェな。女のくせに粋がってんじゃねぇぞおらぁ!!」
なんて品のない。リリー様の正体を知ってるからそんなことが言えるんでしょうに。
「おいお前ら!多少傷がついてもいい。こいつを人目のつかないところまでーー」
「あ、あのぉ。連れが何かしたでしょうか?」
勢い余って声をかけてしまう。
自分でも引くほどカッコ良くねぇなおい。
「奏真さん……」
リリー様、頼むからその期待7割不安2割感動1割みたいな微妙な感じに潤んだ目で僕を見ないでくれ……地味に感動よりも不安の方が大きいのが辛い。
「なんだお前、やんのか?」
「いやいや、滅相もございません。ただ、うちの連れを返してもらえないかなぁなんて……」
「舐めてんのか、おらぁ!」
「ひぃ!」
ほんとかっこ悪いな。
というかやられっぱなしがなんかムカついてきた。少し反撃しよう。
「あ、あの、じゃんけんで勝負しましょ?何人でかかってきてもいいので、一人でも僕に勝てたらリリーさ……この女の人は渡しますんで。」
まあ、こんな方法しかできないけどね!!
なんかほんとに僕はチキンだなぁ。客観的に見ると今になってリリー様のあの目が理解できる気がする。というかさっきよりも不安の色が濃くなった目で僕を見上げてくる。
たしかにこの条件じゃ絶対に負けてしまうだろう。そんなことはじゃんけん覚えたての幼稚園児でもわかる。
「あ゛?じゃんけん?ふざけてんのかおめぇ?」
たしかにこんな条件を出されたらふざけてると考えるのも無理ないよな。
この質問の意味はきっと『何を考えてる?』だろう。
「そんなんより殴り合いの方が断然早いに……」
「まってくだせぇ兄貴!」
「あ゛?なんだ?」
「うちら全員でグーとチョキとパーを出せばこいつに勝ち目はねぇです。確実にこの女を連れてくには最適かと。」
「あ゛?そうなのか?」
「いや、僕に聞かないでくださいよ。」
あれ?わかってないの?もしかしてバカなの?
「おっしゃあ、その勝負乗ったぜ。」
「そ、そうですか。じゃあ参加する人は手をあげてください。」
十数人か……うん、一度に全員を僕の能力で操作することは可能みたい。
すると、ついさっきバカだということが発覚したボスみたいな人が発言をする。
「ところで、『じゃんけん』ってなんだ?」
・・・・・・・・・ほ?
ーー 【解説中 しばらくお待ちください】 ーー
「おし、わかった。要するに手で戦うっつうことだな。」
「えっと、間違ってはないんですけど、あってもないっていうか……」
「ごちゃごちゃいうな。始めるぞ。」
「はい……」
本当にバカだった。うん。舐めてたわ。
てゆうか早く始めたいな。なんかもうめんどくさくなってきた。
あ!リリー様の目が諦めの境地にまで達している!!
「いいか?お前らがパーでお前らがチョキ、俺らが
あれぇ?おかしいなぁ?なんか最後の方に不穏な単語が聞こえたんだけどぉ?
「準備はいいかお前らぁ!!」
『『おおぉ!!』』
「いくぜ!」
「「『『最初はグー(ゲンコ)じゃんけんポン!!』』」」
・・・・・・・・・
・・・・
・・
・
「リリー様ぁ、いい加減に機嫌なおしてくださいよぉ〜」
「ふん、です!もう奏真さんなんて知りません!」
「結局勝ったんだからいいじゃないですかぁ。」
「決して中は覗かないでください!」
いや、どこの鶴ですか。
ここは僕のマンション。
結果から言うと僕は勝った。
ちなみに結末はーーー
ーーー「「『『ポン!!』』」」
「なっ!!お前ら、鉄拳出せって言っただろ!!」
「いやそれが兄貴、なんか手が勝手に動いて……」
「ていうか兄貴こそ鉄拳じゃなくて平手じゃねぇですか!!」
「あ゛?そんなわけあるか!!……あれ?」
「ま、まあ勝負は終わりましたし、僕たちはここら辺で……」
「お前、何したんだ?」
「ぼ、僕は別に……」
「ふざけてんのかぁ!!」
「ぼ、暴力はんたーい!」
ドサッ……
ドサッ……
ドサッ…… ーーー
みたいな感じ。
種明かしをすると、最初のじゃんけん。あれは運なんかでもあいつらがバカだったからでもない。
ここで当たり前のことをいうが、人間の動きは筋肉が伸び縮みする事で起きる。
僕はただ手の筋肉の収縮率の数値を落としただけだ。そうすることで人間は手を握れなくなる。
そして必然的にグーを出せる人はゼロになる。ルールでは一人でも勝ったらリリー様を渡すことになっていたので、あいこは負けに換算されない。よって僕はチョキを出せば勝てる。とまあこんな感じ。
最後の大量に倒れる音は襲いかかってきた人たち全員を深い眠りに落としただけ。
まあ最後のは僕を監視していた人たちに対する威嚇の意味もあるけど、リリー様が訓練しただけで出力が桁違いに上がったのは良かった。
その
そこで僕は1つ個室に向かって声をかけてみる。
「あ、そういえば今日駅前の美味しいせんべい屋さんで新しいのを買ってきましたよ。」
ピクッ
「あ〜でもリリー様今機嫌悪いからなぁ。部屋にこもってて食べるどころじゃないもんなぁ。」
ピクピクッ
「湿気っちゃってもいけないし、俺が食べtーー」
ガラッ
トトトト
ストン
「ん」
「はいはい」
やっぱり神様は可愛い。
これからも神様とは楽しく過ごせるといいな。
「奏真さんはずるいです……」
「なんとでもいってください。」
パリッ パリッ パリッ
「そういえば、」
「何ですか?」
「私、天界に帰れなくなりました。」
・・・・・・・・・
・・・・・
・・
・
【『MTB』緊急会議】
「で、伝えたいこととは?」
「はい。今日ちょっとしたトラブルがありまして。」
「なんだ?もったいぶらずに言えよ。」
「わかりました。
鈴木君を『危険指定』して、『MTB』への勧誘に武力を行使したいと思います。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます