第8話(テンプレ遭遇回)
今日も鈴木くんと近づくことなく帰りのHRを迎えることになってしまった。
ただ話しかけるだけでいいことなのに。
これはもう、治癒系の能力者に見てもらうしかないのだろう。明らかにコミュ症のレベルではない。
「神藤さん、
「は、はい」
やはりこの一言目と二言目の間が広い。頑張って縮めてはいるんだけどね。
私が転校初日にあんな発言をしたせいか、先生を含めたたくさんの人が私の周りにいることが多くなり、先生の手伝いが増えた。少しでも長くいてあげるみたいな感じだろうか。
まあいい、それよりも重要なのは鈴木くんとの接点の少なさだ。今では隣の席のよくわからんやつぐらいの認識しか持たれていないだろう。
きりーつ、きおつけー、れい。
ありがとーございましたー。
相変わらず間延びしたすごく間抜けな感じの号令を聞きながら他のみんなと同じように形だけ頭を下げる。
鈴木君は……うん、いつも通り今日の授業の復習か。だいたい10〜15分だからプリントを運んだ後でも
「神藤さ〜ん」
「あ、はい!」
私は慌てて先生の後を追う。
・・・・・・・・
・・・・
・・
・
鈴木君は私の思った通り職員室から帰ってきた時にもまだ教室にいた。
みんな早々に家へ帰ったというのに。
ほんと勉強できる人ってなにやってんだろ。
「(お、動き出した)」
しばらく教室の後ろのドアの陰に隠れて鈴木君の行動を確認していたが、5分ぐらいで鈴木君は動きを見せる。
バッグをかけているのは机の右側に付いているフック。
普段教科書を入れているバッグはふつうに持つ感じのバッグだけで、リュックサックなどは持っていないのだが、今日はなぜかリュックサック装備だった。何かあるのだろうか?
おっと危ない。これじゃまるでストーカー予備軍(もう十分ストーカーです)みたいじゃないか。
「(やばい、もう先いっちゃってる。)」
などと誰にしているのかもわからない言い訳をしていると鈴木君に置いてかれるところだった。
本当にここら辺は自分でも抜けていると思う時がある。
「(とは言え、今日はなんであんなにも早く帰ろうとするんだろ?)」
鈴木君は下駄箱に入る。私の下駄箱は鈴木君の2つ上。神藤と鈴木だから近くなってしまうのは仕方がないことだ。でも、今回は尾行なのでバレるわけにはいかない。
下駄箱に入ったら私は人に見られないようにしながら能力を使うことでそのような問題を解決する。
私の能力は『原子移動』。
物体を原子レベルで移動させることができる私はこう見えてもB市内に数多いる異能組織でTop3を務める高異能力者。能力は当然『原始型』だし、この能力の使い道は数え切れない。
今回の場合は『靴全体』を動かしたけど、『靴紐だけ』や『足を入れる口だけ』にすれば手を使わなくても靴を履くことができるし、自分を空中に『移動』させれば空を飛ぶことだって可能だろう。
そんなことを悠長に考えていたら鈴木君にいつもと違う動きがあった。
「(こっちは……いつもランニングをしている公園の方?)」
どういうわけか、鈴木君は能力に目覚めてから毎朝ランニングをしている。
鈴木君のマンションから公園までおよそ1キロ、そこから公園を3周ぐらいした後に休憩のためか人がちらほら見えてくるまで自販機でジュースを10本近く買っては飲み干し、遠くにおいて睨んだりして時間をつぶす(奏真が訓練している姿は普通の人にはそう見える)。
そちらに向かうということはきっといつもと違う何かがあるのだろう。
例えば、『決闘』とか。
新人能力者を潰しては高笑いするような人種が隣町のC市には多い。そのような人たちがたまに流れ込んでくることがあるのだ。
そこからはしばらく怪しい動きはなかった。
私は後を追いながら鈴木君が何をするのか見守る。いつもと違う動きをした以上監視レベルをひきあげる必要が出てくる。面倒だが規則は規則だ。
何分経ったか。鈴木君は無事公園に着いた。
この公園はそれなりに大きいのだが、近くにガラの悪い工業高校があるため、下校時刻とそのまま重なるこの時間帯は不良がはびこっている。『決闘』の場所だとしてもおかしくない。
私は、これまでの経験則かはたまた生き物の本能か、胸あたりに靄がかかったまま言葉では言えないような不安を抱えたまま鈴木君の後を追うのだった。
・・・・・・ストーカーじゃないんだからねっ!
・・・・・・・・
・・・・
・・
・
【奏真視点】
なんか後ろをつけられてる気がする。
まあいいや。どうせ神藤だろう。リリー様によるとアイツ能力者っぽいし。
おお、そういえばリリー様の紹介(誰に対して?)を忘れていたな。
リリー様というのは昨日僕が落としてしまった神様のこと。
僕が奏真さんと呼ばれるのが嫌だと言ったらリリー様は不平等だとおっしゃり、結果『リリー様』と『奏真君』とお互いのことを呼ぶようになった。
と、噂をすれば。
「おーい、リリー様ぁ!!」
ジョギング用の運動着を着ているリリー様の後ろ姿に声をかける。
リリー様はお優しい方で、僕が『能力を使うたびに疲れるのは嫌だ』と申し上げたところ、『だったら私が走ります。』とおっしゃった。
ん?なに?脅迫したんじゃないかって?僕はただ満面の笑みで手を怪しく動かしながら詰め寄っただけだよ?
まあそれはいいとして。
「ねぇちゃん、別にいいだろ?一緒に晩飯食うだけだって。」
「や、やめてください」
ちなみに2個目のセリフはリリー様のもの。
もうこれ、あれだよね。テンプレだよね。
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