第7話(能力説明回Part2)
「えっと、まず奏真さんは『神憑き』というものをご存知ですか?」
「『神憑き』?」
僕は神様に飲んでいただくためのお茶を用意しながら神様の言葉に声をかける。
「はい。これを理解すれば最初の2つの疑問の答えがわかります。」
僕から提示した疑問は3つ。
1つ目が神様が僕を『認めた』といった意味。
2つ目が神様の『不手際』と能力の関係。
3つ目が『もう』襲撃されていると言った意味。
この3つが僕の中でどうも引っかかってしまっていた。
先ほどの『神憑き』を理解すれば1つ目と2つ目は理解できるらしい。
「まず、人間さんたちが使っている能力が神の力を利用しているということは知っていますよね?」
「はい、そこそこ有名な話だと思います。」
「ここからは多分どの人間さんも知らない話だと思うんですけど、この『神の力』というものは与え方で2つに分けられるんですよ。」
「与え方?」
「実は神が定期的に人間さんに異能の力を与えるのは原始との取り決めによって定められた義務なのですよ。ですが、神は原始の事件があって以来、人間をひどく嫌っています。そのため『神の力』、便宜上『神力』とでもしておきましょうか。『神力』“だけ”を人間に与えるということを始めました。」
「原始の事件というのは?」
「初めて現れた異能力者が起こした事件です。それのせいで天界は文字通り地に落ち、今ではこの地球の並行世界の1つとなってしまっています。地上では贅沢ができないので、能力こそ使えますが、人間と同じような生活をしなければならなくなったことに反感を覚える神も大勢います。」
なんというか、ずいぶんとスケールの大きなお話だこと。
頭が追いつかないから話を戻そう。
「で、『神力』だけでない場合というのは?」
「今の私のように人間さんに直接力を与えるというものです。これは所謂マンツーマン(マンツーゴッド?)のような状態で、イメージとしては神が人間さんに『取り憑く』ような状態です。その状態のことを『神憑き』と言います。」
ずっと神様の話を聞いていた僕は、そう言って一旦話を区切った神様にお茶を差し出す。
まだ話の先が読めない。
「ここで奏真さんの疑問点に戻ります。先ほども言いましたが、大抵の神は人間さんを嫌っています。ですが、私はある神から奏真さんに取り憑くようお願いされました。そこで私は奏真さんの生活風景を観察して取り憑くかどうか審査しました。それに見事合格したのが奏真さん。『認めた』というのはそういうことです。」
「なるほど。僕は知らない間に審査を受けていたんですね。」
“ある神”というのも気になるところだが、話を妨げるほどでもないだろう。
「はい。そして、重要なのがここからです。先ほど言った『神力』は人間には扱うことのできない神だけの特権のようなものです。すると当然神力は一度与えられたらもう一度神に頼まない限り最大の量が増えたり減ったりはしないわけです。
『神力』の量はそのまま異能の強さに直結します。さらに私たち神は人間さんと関わりたがりません。そのため、最大出力は異能を与えられた瞬間に決まっていると言ってもいいでしょう。この限界は人間さんたちに『壁』と呼ばれています。」
普通の場合は最大出力が決定されているってことか。
なんとなく神様が最終的に言いたいことが見えてきたぞ。
「ですが、『神憑き』の場合は『神様』がついてきますから、取り憑いている神の力の強さによって異能の力は変わります。また、神という生物には成長限界というものが存在していないので、神が頑張れば頑張るほど異能力者の力は強くなるわけです。」
つまり僕にも成長限界というものは存在しない、訓練すればするほど強くなれると。オラワクワクしてきたぞ。
ゴホン。いけないいけない。私の中の訓練魂が火を上げるところだった。
「それで、二つ目のことなんですけど……」
「ああ、『不手際』のことですね。結局なんなんですか?」
「怒りませんか?」
「怒りません。あ、そのせんべいどうぞ。」
「ありがとうございます。で、『不手際』についてなんですけど……」
「どうしたんですか?私は怒らないので正直に言ってください。こういう時は正直さが大切なんです。」
「わかりました……その、大変言いにくいことなんですが、」
そういうと神様は大きく息を吸う。
やがて、覚悟を決めたような顔をすると、
「奏真さんが訓練しているとは知らずに1日ずつ規則的に能力の最大出力を上げていたので、その、奏真さんの努力はあまり意味がなかったと言いますかなんと言いますか……」
「本当にごめんなさい!!」
神様が再度頭を下げる。
いやいや神様。私は全然怒っていませんよ?え、なに?右手に握っていたせんべいが粉々だって?いや、怒ってないし。
「奏真さん、その目が笑ってない笑顔と極限まで握り締められた右手を納めてください。お願いします、怖いです。」
神様が上目遣いでいう。この“美少女+上目遣い=最強”の公式は全世界の男を悩ませる最大難問の一つだと言っても過言ではないだろう。証明する必要性すら感じさせないほどの素晴らしさだからな。うん。ここはこちらが折れる必要がありそうだ。
「はぁ。じゃあ2時間やっても1時間の場合と伸び率が変わらなかったのも?」
「私が人間さんたちの世界で奏真さんが何をやっているのか確認していなかったからです。」
「なるほど。一つ聞かせてください。」
「はい、何なりと。」
「能力を使った際に感じる疲労感をなるべく少なくする方法はありますか?」
「ああ、それですか。その疲労感は奏真さんの肉体を鍛えても意味がないんですよ。」
「はい?」
「その疲労感は奏真さんに取り付いて神力を使っている私の疲労が奏真さんに回っているだけなんですよ。」
「つまり?」
「私を鍛えればその疲労感は……って奏真さん?!そのキラキラ光る目はなんですか?!」
「いや、別に明日から神様を五キロのランニングに連れてこうとか思ってませんよ?」
「奏真さん、だったらその怪しく動く手を止めてください、ちょっ、何してるんですか?!この、隠れ訓練マニアぁぁぁぁぁ!!」
神をも恐れぬ訓練魂。
あ、僕を襲撃するとかしないとかの話聞くの忘れてたな。
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