第5話(ヒロイン二人の登場回)
「はじめまして、私の名前は神藤董花です。この時期にない急な転校ですけれど、仲良くしてくれると嬉しいです。」
うん、自己紹介は及第点といったところだろうか。無難な言葉を選んでおいたから間違いはないだろう。
私の名前は神藤董花。B市内の能力者を統括する組織『MTB』の序列一位であるお父さんからの命令で先日『落神』に目覚めた鈴木君なる人物の学校に転校してきたところだ。
お父さんの命令は不審人物が鈴木君に近づくのを未然に防ぐことと、一般人に能力のことがばれないようにすること。余裕があれば『MTB』へ勧誘せよとのことだった。
昨日のボス会議は途中で邪魔が入って中途半端なところでお開きになってしまったが、
あの口ぶりだとまだ他に何かあるのだろうけど、それよりも今は鈴木君とコンタクトを取らなければ自然な流れで監視することも、『MTB』へ勧誘することもできなくなってしまう。
異能に目覚めた5歳の時から『MTB』で献身的に働き、積み上げてきた実績がみとめられ、この前のボス選抜で念願のボスになることができた。このキャリアに泥を塗りたくはない。
「神藤さんは窓側の空いてる席、鈴木君のとなりに座ってね。」
「わかりました。」
私を目で追いかけるのは男の子たち。もう慣れたけれど、正直いうと鬱陶しい。
でも、席が鈴木君の隣だというのは嬉しい。任務を遂行するにあたって大きなポイントになるだろう。
さあ董花、自然な感じで、“よろしくね”とか、そんな感じで。
私は隣の鈴木君の方に顔を向けて、
(あれ、同年代の男の子とはどうやって話すんだっけ?)
固まってしまう。
「?……よろしくな。早く席に座ったらどうだ?」
「う、うん」
やばいやばい、これまでろくに友達を作らずに仕事に集中していたことが裏目に出た。
まさかここまでコミュ症こじらせてたとは。
と、そこで後ろからヒソヒソと声がすることに気づく。
「まただよ」とか、「アイツメェェ」とか、「あんな綺麗な子も……」とか。
当の本人は全く聞こえてないみたいだけど、何かあるのだろうか。
そんなことを考えているとチャイムがなる。
「じゃあ、朝礼終わり。1限目は時間割変更があったから体育館じゃなくてここの教室だって、神藤さんとお話ししたい人は今のうちにね〜」
先生が出てく時にそんな言葉を残していく。
どこの学校でもやはり転校生という存在は珍しいのだろう。人がこちらへ一斉に押し寄せてくる。
鈴木君はというとあまり人混みが好きではないのか廊下の方へ行ってしまった。
追いかけようにも、この大群。はは、お父さん。私、この任務には向いてないみたいだよ……
私は目の前の大群に目を向ける。
視界を埋め尽くす男の子たち。
「どこからきたの?」とか、「昨日のテレビ見た?」とか、「我が眷属にしてやろう」とか。色々聞こえたけど、コミュ症のわたしには答えることができない。
そんな感じに、コミュ症というぼっちへの鍵を手に入れてしまった私は質問ぜめにオロオロとしていると、不意に後ろから声がかかる。
「ちょっと、神藤さんが困ってるでしょ?」
黒髪の女の子。何の変哲も無い普通の子(本当は普通とは程遠いのだが、それをまだ知らない)だが、困っていた私を助けてくれたこの人に、今は後光が差しているようにも見えた。
「あ、ありがとう」
女の子相手だと、緊張はするけど話すことはできるみたい。
「大丈夫?転校生って珍しいから、みんなはしゃいでるの。悪気はないから。私は柚瑪村明梨。これからよろしくね。」
「う、うん。神藤、董花です。」
すごくいい人だ。質問ぜめにあった私を助けてくれて、それでいて質問を繰り返していた人たちもさりげなくカバーする。
コミュ症の私とは正反対の場所に位置する人だ。
「緊張しなくていいよ。話すのには慣れてないの?」
「人と話すのは久しぶりだったから。前の学校では全然話をしなかったの。みんな(を、仕事が忙しくて)、無視してたから。」
そう答えると、途端にみんなが悲しそうな目でこちらを見る。
あれ?なんでそんな目を?
そんな感じで私の頭の中を『?』の嵐が吹き荒れる中、突然誰かが私の頭を包み込むように抱きしめた。
「辛かったでしょう。大丈夫。わたし達はそんなことしないから。」
「う、うん」
勢いで頷いちゃったけど、どういう意味だろう。
ーー 状況整理中 しばらくお待ち下さい ーー
あ、私の言葉のせいですね。はい。
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・
【奏真視点】
ふぅ。今日の学校は特にひどいこともなし。柚瑪村とは仲直りできたし、上出来だろう。
そういえば、新しく来た転校生。神藤だったけ?なんか柚瑪村とだいぶ仲良くなったみたいだな。はじめての時の反応から
話を戻そう。今日は良い日だった。最近のと比べると、100点を挙げたくなってしまう程に。うん。
いや、今の言葉は言ってて悲しいぞ。なんの変哲も無い今日という1日が100点だなんて、どれだけ酷い日常を過ごしているんだ。
・・・・・・・・・・・能力の訓練でもしよう。
一週間訓練をしていた結果、やはり能力には分からない点が多すぎることがわかった。
つまりは何もわかっていない。
分からないところを2個あげよう。
1つ目
どれだけ体力を鍛えてもあまり意味がないこと。
能力を使用する際に体力を消費することはこの前の実験でわかった。
そこで僕は1日1キロのランニングを5キロの重りとともにこなすという地獄のメニューを一度もサボることなくこなした。
なのに、なのに、一向に成長しない体力。
筋肉は付いている。能力を使わない際の体力も付いただろう。
でも、能力で使う体力は成長しない。
これは訓練方針を見直す必要があるということだろうか。
2つ目
1日1時間の訓練を毎日欠かさずに一週間やってきた。
と、この前言ったと思う。でも、これには少し嘘が混じっている。
ここで思い出して欲しいのが、僕はボッチだということ。
不本意ながら私はボッチと言われる属性を持っている。これが何を意味するか。
土日は暇ということだ。
そこで私は土日は1時間の訓練を2時間にした。
が、伸び率は全く変わらなかった。
これは1日の最高伸び率があれだけだということなのだろうか。
と、まあこんな感じで分からないことが多すぎる。
都市伝説のサイトによるとこの異能は神様の力をそれぞれの潜在能力に合わせて発動させたものらしいから、こればかりは神様に聞くしかないだろう。
神様を召喚する能力とかないだろうか。
ラノベとかのが本当なら神様は天界に住んでいることになる。
ーー ああ、神様がここに落ちてこないかなぁ。
「きゃあ!」
うん?
僕は音のした方を振り返る。
尻餅をついた姿勢で涙目になる青髪の女の子。
いや、思っただけで能力が発動するって不便ですね(現実逃避)。
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