第4話(能力説明回)

「はぁ〜」


僕は家に帰るとリビングに置いてあるソファーにぽすんと音を立てて倒れこむようにして寝転がると、今日1日のことを振り返る。


・・・・・・・・地獄だ。


唯一の取り柄を失い、最終的には歩く不幸製造機と化してしまった。

商店街で僕の能力についてわかったのはいいものの……いや、あまり良くないか。

それはさておき、僕が自分の能力を自覚したら周りへの無差別攻撃はなくなり、商店街には再び平和が訪れた(元凶が言うセリフじゃない)。

その後僕は耐え難い罪悪感でいっぱいになったので、逃げるようにここへ帰ってきたというわけだ。


「てかなんなんだよ『落神』って、めっちゃ弱そうじゃん」


『落神』

なんでも“落とす”ことができる能力。

今日のことを振り返る限り、ハンカチなどの物質から成績という形の存在しない数値まであらゆるものを落とすことができるんだろう。

戦いになった時に全く役に立ちそうにないけど、もっと深く調べておく必要があるかもしれない。またテストの点数が落ちてしまったら今度こそおしまいだ。


「よし。」


昨日のように気合を入れると能力の調査に入る。目標は“戦いに巻き込まれた時に対処できるだけの力を持つこと”としておく。


実験1。

一番重要な能力の発動方法を調べようと思う。

これは案外簡単で、机の上の消しゴムに向かって『落ちろ』と念じたら落ちた。

声に出したりする必要はないみたいだ。


実験2。

次は射程(というか効果範囲)を調べる。

リビングの端から端、少なくとも10メートルは効果があることがわかったので、今度は外に出てみる。

誰もいない夜の学校は少し怖いけれど、この辺りで広い所といえばここぐらいしかない。

1500メートルを走ったこのグラウンドは端から端まで約80メートル。

端にある手洗い場の上に消しゴムを置いて反対の端まで行ってから念じてみる。

双眼鏡で確認すると消しゴムは落ちていない。

じわじわと近づいていくと、15メートルのところで落ちた。今日は無風なので風で落ちたということはないだろう。


実験3。

壁で隔たれていても使えるのか。

難なく使えた。壁では僕を止められないらしい。


実験4。

落とせるものの重さなどに制限があるか。

危うくノートパソコンを落としそうになったが、それ以上の重さは無理だった。商店街の出来事から、メロンまでは落とせると考える。


実験5。

次は形のないものを落とし始める。

僕のマンションの前を走っていた車の落とすことができた。

他にもブレーカーとか、テレビの音、料理の腕なんかも落とすことができた。

まだ実験していないが、もし敵の攻撃の落とすことができたらディフェンスに関しては強いかもしれない。


実験6。

一気に何個まで落とせるか。

また消しゴムを使って測定する。

押入れにあった新品の消しゴムを一気に6個落とすのが限界。

落とす物の重さによって落とせる数も変わるかもしれなと考える。


以上の実験から、この力は『落ちる』という概念を操れるんじゃないかと推測。

ひょっとすると結構強いんじゃないかと思う。

さらに、能力を使うと体力を消費することがわかった。


訓練すれば、距離や限界の重量、一気に落とせる数が増えるかもしれない。





次の日の早朝。

4時に家を出て1キロ先の公園に向かう。

能力で消費する体力を補うためのランニングと、学校のグラウンドより広い公園の広場を使った射程を伸ばす訓練のためだ。


能力の練習で使う重り約5キロを持って走る。結構辛い。

4時の公園には全く人がいなかった。少し警戒していたのだが、少し拍子抜けだった。

そこから一時間、人がチラホラ現れてくるまで練習を重ねる。距離が15メートルから18メートルに、重量が1.5キロから2キロに上がった。


一週間後。

距離が33メートルに、重量は大体61キログラムまで上がった。

距離の伸び率に対して重量の伸び率が凄まじい。

距離は1日3メートルずつと言った感じだったが、重量の場合は落とすのが可能になっていった重さを数字にして並べるとフィボナッチ数列と同じような関係にあることがわかった。簡単にいうと1日目が1.5から2キロになったら、2日目は1.5+2の3.5キログラムを落とすことが可能となり、3日目は3.5+2の5.5キログラムを落とすことが可能になる。

そんな感じに増えていって七日間。遂に60キロ超えを達成したのである。

このままいけば一ヶ月で電車の車両一個分ぐらいのものを落とすことができるようになるだろう。(ちなみに、60キロの測定はそこらへんにいた男の人を段差で転ばせる感じで測定しました。)


とまあこんな感じで、あっという間に時間が過ぎていく中、1日一時間欠かさずに練習をする事で確実に力を伸ばしていき、この力を最強に近づけていっている。


・・・・・・・・・

・・・・

・・


その日の学校。

附津卯高校2年A組はいつになく騒がしい。特に男子が。

慎吾はB組なので詳しい事情は知らないと言っていたが、耳に入ったみんなの会話をまとめてみたところ、どうやら転校生がくるらしい。それも女の子。

なぜこの時期なのかはわからないが、みんなが騒がしくする理由が少しわかった。

たしかに新しい友達(候補)がくるのは嬉しい事だろう。多分僕には縁がないだろうけど。

そんな感じに自分の友達づくりのセンスについてかんがえていると僕に声がかかる。


「あんた、全然騒がないのね。」


ツンとした声。すぐに柚瑪村だとわかる。同じA組で僕に話しかけてくるのはこいつだけだ。

まあ、僕に話しかけてくるのは全クラス合わせても慎吾か柚瑪村かしかいないんだけど。

・・・・・・やべ、泣けてくる。


「ああ、どうせ僕には縁のない人だよ。僕に近づこうとする人なんてそうそういないさ。」


「そ、そう。」


最初の『そ、』が気になるところだが、ここで聞くのは野暮だろう。

会話が途切れてしまったので今度はこっちから話題を出す。


「そう言えば、この前の試験ごめんな。こっちもわざとじゃないんだが、やっぱりああいう結果を出すとお前のプライドをだいぶ傷つけちゃったと思うんだ。」


「そうよ、私が全く勝てなかった相手が簡単に私以外の75人に負けるなんて。本当に馬鹿にされたとしか思えなかったんだから。」


「本当に悪かったな。」


能力を訓練していく上で、このことをおもいだしたら少し柚瑪村が可哀想になってきた。それを誤るのは当然のことだろう。


「じゃあ今度のテストは勝負をしましょう。買った方が負けた方になにか奢るという条件で。」


「ちょっと、それは流石に社長令嬢さん相手だとこわいんですけど!!」


「あら、貴方がこの勝負を降りてもいいと本気で思ってるの?」


「申し訳ありません、ぜひ参加させていただきます。」


「分かればよろしい。」


そのあと、担任の先生が来るまで柚瑪村とずっと話をした。最後には笑っている顔も見られたので仲直りできたと言っていいだろう。

僕は胸に引っかかっていたものが1つ取れたので、スッキリした気分で転校生を迎えることができた。


ちなみに、転校生の名前は神藤董花しんどうとうかと言った。

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