28話 銀の兎と鎌鼬

「残業代でます?」


「こんな遅い奴には出ない。」


「いやいや、頑張ったんですけど?」


「うるさい。文句は勝手から言え。」


「えー」


今の攻撃は真のおかげで助かったが、状況が好転した訳ではない。


あいつは、能力を吸収する。


しかも複数の能力が使える。


勝てるのか?


スライムは右手と左手の穴を近づけ、先程使っていた能力を同時に発動させる。


『水濁』+『迅風砲』


合技『海神と風神の神楽(かいじんとふうじんのかぐら)』


風により作った竜巻と水の合わせ技。


「渦潮か…真!各自で防ぎ切れ!」


「ラジャァ!」


止めてみせる!!


『銀蜻蛉 発』


渦潮ならば凍らせられる!


しかし、この清の行動は悪手であった。


確かに水を凍らせることはできた。


しかし、風はその勢いがなくなることはなかった。


故に、風によって氷の礫が二人を攻撃することとなった。


しまった、俺のせいだ…


真を巻き込むわけにはいかない。


『白銀兎 卍月(はくぎんうさぎ まんげつ)』


スライムによる攻撃が終わると氷の塊によって守られた真と攻撃を直接受けることになった清がいた。


「清さん!!なんで…各自でって自分が…」


「うるさい…俺のミスだからだ…」


真は先程の一連が早すぎて何が起きたのか理解していなかった。


だが、1つだけわかっていた。


清が傷ついており、それをしたのはあのスライムだといことだけは


『超鎌鼬』


ダメだ…


奴は能力を…


しかし、清の予想とは裏腹に真の放った『超鎌鼬』はスライムの左腕を切り落とした。


切り落とされた腕は一瞬にして気化した。


何?


いや、まさか…


「おい、真…」


清は傷ついてはいたが、これくらいの傷なら何度も経験している。


立てる!


「あいつを倒せるのはお前だけだ。」


「え?」


「厳密に言えば、俺ではあいつを倒せない。あいつは冷気を吸い成長している。」


最初から考えればそうなのだ。


俺が技を当てるたびに成長していた。


昨日の冷気が無いというのもこの事から説明がつく。


「で、どうするんですか?」


「正直、どうしようもない。今から俺が4区に戻って応援をよんだとしても4時間は

かかるが、耐えれるか?」


「無理に決まってますよ。」


「だよな。こいつは万事休すだ。」


「1つ考えがあります。」


「なんだ言ってみろ。」


「最近、未來視能力の子に今日のことを予言されたんですよ。そしたら、空から助っ人が来ると言われたので、それを待ちませんか?」


「よく分からないが、それで行こう。作戦はいのちだいじにだ。」


「はい!」 


避け切るか防ぐしか無い。


だが、


『風神の怒り(かざかみのいかり)』


「「ぎゃーー」」


『凍てつく雨の降る日(いてつくあめのふるひ)』


「「ぎゃーー」」


『爽存甘用(そうぞんかんよう)』


「「ぎゃーー」」


『迸る水氷(ほとばしるすいひょう)』


「「ぎゃーー」」


『海神と風神のワルツ(かいじんとふうじんのわるつ)』


「「ぎゃーー」」


こんなのを繰り返すのか…


「清さんこれ、俺が言っといてなんですけど…無理じゃね?」


「奇遇だな、俺も全く同じことを思っていた。あのスライム弱点はないのか?複数も能力を使いやがって…」


「清さんきます!」


『迅風砲』


『銀蜻蛉 壁』


ドガオォ


これくらいなら防げるが…


『迅風砲』+『水濁』


合技『水水砲(すいすいほう)』


先程の技たちと比べると範囲は狭い。


しかしそれは威力が上がるということ…


銀蜻蛉では防げないだろうな…


鬼力がまだ回復しきっていないが…


『白銀兎 卍月』


「すげぇ、この威力の技を防ぐなんて…」


確かに、技を防ぐことはできたが相手の水を凍らせてしまった。


相手はその氷を当然吸収する。


「やはり…吸収されるか…」


まずい…


鬼力が…


『氷樹 牢獄(ひょうじゅ ろうごく)』


しまった!


360度からの攻撃。


同時に発動していたのか…


まずい…今はまだ…


「清さん、鬼力回復に専念してて下さい。ここは俺が、」


真…!


『鎌鼬 ヤマツミの舞(かまいたち やまつみのまい)』


真は360度から迫りくる氷を全て破壊した。5本の指から放たれる鎌鼬は全てが同じ動きをしていなかった。一つ一つ全く別の動きをしていた。


氷の位置を確認し5本の指を全て的確に操る。


これは、真にしかできない戦い方である。


極限の集中力。


真は自分の強さを知っていた。


「真、お前…」


「俺は確かに、頭脳で入りました。でもだからと言って、強くなることを忘れた日はありませんから。」


清は心のどこかで真を守るべき存在としていた。


真がNeCOに入るまえ清は真を助けた。


「あのとき、泣いていただけだったのに…成長したな」


「そりゃね…あと、良いですけど俺年上ですからね?」


「なんだ?少し俺を助けたからと言って調子に乗るなよ。」


清は右手以外の鬼力の使い方が抜群に下手なのである。


十二星会どころか普通のNeCOよりも下手なのである。


しかし、清がそんなことで困ったことはない


他の誰よりも速く鬼力を回復する体質だからである。


清はコントロールが下手で無駄に使ったりしているが、それを上回る回復力。


それが、清が十二星会たらしめる要因ある。


「真、死ぬ気で生き残るぞ。」


「死ぬ気でって、生きる気で生き残りますよぉ!」


ドガーーン


その時天井が割れ物凄い爆音と熱気が二人のいる場所に轟く。


真は知っていた。


空から降ってきた助っ人を…


少し顔つきや体格、髪も長すぎるような気もするが、間違いない。


「おせーよ!」


「なんだぁ?助けてもらって第一声がそれかぁ?センスがねぇなぁ!」


姿は少し違うが、声や言葉は全く変わっていなかった。


その右腕から無数の問題を持ってきた12区の王者さんと並ぶほどのトラブルメーカー。


土岐貢であった。


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