27話 残業代でます?

「はあ、疲れたなぁ。」


昨日の一件でものすごく疲れている。


たしかに戦ってはいないので、なんでだよ!とか思われるかもしれないが、思考って疲れるんだよ?


糖分を飲みまくってどうにかしたけど、あれは必要だからであって回復するわけじゃない。


とにかく、今日は絶対に部屋から出ない!


しかし、何しようかな。


昨日穴に落ちたときにスマホ壊れたから何もできねぇ。


この村にも一応電波は届いている。


しかし機器がないのでは使うことはできないが…


二人だったらどうにかなったかもしれないが、一人なんだよなぁ。


清さんは今日の朝に地下に行っちゃったし…


何かあったときのために清さんから無線はもらっているので、清さんとの連絡が困ることはないが…


ログインボーナスが…


悲しくなって窓の外を見ていたとき不意に思い出した。


そういえば、あの女の子の占いってなんだったんだろ?


一週間くらいって言ってたから、今日くらいのはずなんだけどな。


カチコチは清さんだろうが、他の3つが分からん。


特に助け人がくるであろう奴は一番分からん。


ん?


もしかして、今日なにかと戦う感じなのかな?


いやいや、そんなことはないでしょ。


はっはっはっ!


え…


大丈夫だよね?


怖くなったが、今更どうしようもないので冷蔵庫に入れてあるオレンジジュースを取り出して、コップに次いで一気に飲み干す。


やっぱりだ…


昨日クチアジュースを大量に飲んだからしたが馬鹿になってる。


オレンジジュースごときでは、水と変わらん。


冷蔵庫にオレンジジュースを戻した後清が入れていた水を一本取り出す。


新品なのでキャップが少し固かったが、さすがの真でも開けることができた。


先程とは違いペットボトルから直接飲んだ。


はあ…


先程のオレンジジュースと変わらん。


これ、直るのかなぁ?


というか、清さんの水勝手に飲んじゃったけど殺されないよね?



真の嫌な予感はほぼ当たっていた。


清は昨日訪れた地下のDoGの基地に来ていた。


DoGの計画や幹部などの情報がないかを調べにきたのだ。


本来なら昨日のうちにでも調べたかったのだが、『白銀世界』の反動で動けなかった。


清以外つまりは真に行かせる案もあったのだが、『銀世界』により、常人が活動するにはいささか厳しい。


そこで、1日待つことにしたのだった。


そして今に至るのだが、清は1つ気になっていることがあった。


あきらかに、この部屋の温度が高すぎる。


普通の部屋と比べれば寒いのだが…


俺の能力で一度冷やしたはずだ。


それにここは閉鎖された空間なのだから冷気が逃げることはほぼあり得ない。


どういうことだ…


清が悩んでいると、目の前で何かが動いた気がした。


「誰かいるのか?」


清は右腕を鬼に変えいつでも能力を発動できるようにする。


一歩、また一歩と少しずつ距離を詰める。


先程、何かが動いたように見えた場所を覗く。


「これは…スライム?」


緑色のスライムのようなものがあった。


これは、DoGの作ったものなのか?


とにかく、回収する必要があるな。


清がスライムに手を伸ばすと、緑色の体をしたスライムはその体を清を覆うように広げる。


「なっ!」


清は何かがあったときのために常に後ろへと飛ぶことが出来るように警戒をしていた。


故に、スライムの攻撃も間一髪ではあったが避けることができた。


「回収できなくても、怒るなよ!」


『銀蜻蛉 発(ぎんかげろう はつ)』


清はスライムに目掛けて氷の塊を撃ち出す。


清の銀蜻蛉は一切狂うことなくスライムに命中する。


清はスライムを凍らせようとしていた。


しかし、スライムは清の放った氷を喰らっても一切凍ることが無かった。むしろ、氷を吸収していた。


「吸収したのか?」


いや、まだ分からない。


検証する必要があるみたいだな。


清は腰にある水の入ったペットボトルを取り出した。


『氷剣』


「これは、どうだ?」


清は右腕に鬼力を集中させ、200kmは出たであろう速度で氷でできた剣を投げる。


尋常ならざる速度の氷剣をスライムは避けることはできなかった。


いや、避ける必要がなかった。


「ちっ、速度は関係ないか。」


スライムを貫いた氷剣はスライムを通った後にはペットボトルだけになり、カランと音が鳴っていた。


清がスライムの生態を少しずつ検証しているが、スライムはすでに飽きていた。


『水濁(すいだく)』


スライムの真ん中のあたりに口のような穴が空き、そこから清に水が噴出される。


「攻撃もできるのか…」


『銀蜻蛉 壁』


氷でできた壁でスライムの放った水を防ぐ。


触れた水はすぐに凍り、水で攻撃すればするほどその強度は増す。


丸い形をしているスライムの両サイドから人の腕のような物が生える。


しかし、人のように指などはなかった。


右腕と左腕、両方の真ん中にまた、穴が空く。


「まずいな…攻撃の範囲と手数が増える…」


『迅風砲(じんぷうほう)』


スライムの両手から放たれたのは、先程とは違い風の力であった。


「なっ?」


『銀蜻蛉 壁』


清はとっさに防御するがあっけなく防壁は割れてしまい、清は風の力により後ろの壁に吹き飛ばされる。


こいつ、2つ持ちか?


「くそが。」


清は12区リーダー各務原王者を思い出し、怒りが頂点に達した。


「ずるいだろぅがあああああああああああああ!!!!!」


『白銀兎 雪兎(はくぎんうさぎ せっと)』


清は怒りに任せ、出来る限りの全力技を放つ。


スライムはそんな技でさえも吸収する。


な!?


『氷樹(ひょうじゅ)』


両手からは今度は風ではなく氷でできた木の根のような物が清を襲う。


しまった!


鬼力がまだ…



「着きました。」


「はい、ありがと。」


DoGの基地の位置を知っているのは幹部を含めかなり限られている。


『サル』のような幹部でもないのにもかかわらずその位置を知っているというのは極めて稀なケースなのである


「しかし、よかったのですか…」


「ん?ああ、AIスライムのこと?」


「はい。」


「いいわけねぇだろうがぁぁ。」


『スコル』の声は、先程の少女のような声ではもうなくなっていた。


「おまえぇちょうしのってんのかぁぁ?」


「い、い、ああ。」


『サル』は『スコル』の放つ鬼力により身体中がすくみ声を発することができなくなっていた。


「むしかよぉぉ、いい度胸ぉしてんじゃぁぁねぇぇかぁぁ。」


『スコル』はその声とは裏腹にゆっくり『サル』に手を伸ばす。


その手に気づいたとき、『サル』は逃げ出していた。


『重力支配(グラビティルーラー)』


『サル』の能力は右手で触れたものの重力を軽減するという物である。


その能力は移動には便利なため『スコル』の運び屋となっていた。


本気であった。


あの目は、本気だった。


今逃げなければ死ぬ。


間違いなく死ぬと『サル』の本能が体を動かした。


能力を使い、自分にかかる重力を軽減し足の力のみで一気に逃げた。


「何してるのぉ?」


ビクンッ!!


その声を聞いた瞬間身体中が震えた。


「なぜ…」


かろうじて出た言葉はそれだった。


重力を軽減している自分に追いつくなんて


それは、『スコル』の能力を把握している『サル』にとって自然な考えだった。


「ん?ああ、知らないの?さっき出来てたのにぃ」


何を言っているのだ?


出来ていた?


俺がか?


「鬼力はねぇ身体中に流れているのぉ、それを右手に使えば能力を発動させることができる。じゃあ、右手以外に使うとどうなると思うぅ?」


「身体強化?」


「せーーーかいぃぃ。そうだよぉぉ、よく気づいたねぇ。」


鬼力は右手以外に使うと身体強化がされる。


これは完全にあっている訳ではない。


右手ではなく鬼となっている部分に鬼力を使うと能力が発動する。人の部分に使うと能力のない鬼になる。


つまりは身体能力が上がるということではあるのだが、『スコル』の解釈だと各務原王者や『フレキ』、郡上敦などの存在を証明することができない。


『スコル』はこの3人のことを知らないので仕方がないのだが。


「御褒美にぃぃ心臓をぉぉ食べてあげるうぅ。」


『スコル』は『サル』の胸を突き破り、その右手で心臓に触れる。


『太陽を喰らう狼』


『サル』は声を発する事なく死んだ。


「さてと、かーえろっと」


距離にして10キロほどあるにも関わらず『スコル』は3秒ほどで帰還する。


「おい、部下を始末するのならもっと目立たないようにやるか俺に言え。」


「あぁぁ、ラプスくんだぁぁ。」


基地に帰ってきた『スコル』の前にいたのはDoG幹部『ライラプス』だった。


「俺をラプスと呼ぶな。」


「ごめんごめん。でもさぁ、今日はなんか殺したい気分だったんだよねぇぇ。」


「基地がバレたらどうするつもりだ?」


「そんなの、皆殺しだよぉぉぉ。」


「そうか。」


『ライラプス』はこの異常女と話すのが疲れてしまったので空返事であった。



『鎌鼬 裁き(かまいたち さばき)』


清の前に現れた氷で出来た木の根は清に届く寸前で、切り刻まれた。


「清さん。これって、残業代でます?」

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