26話 白銀世界

「いやあぁあ。しかし、本当にきてくれるとわねぇ。揖斐川だっけ?あの氷使い。これであれが完成するわぁ。」


「そうですね。」


「それはそうと『サル』あなたの仲間弱すぎない?能力は面白いから使ってたけど、あんな簡単に負けちゃうなんて…」


「『ゴリラ』も『チンパンジー』も戦闘向きでは無いですから…」


「あらぁぁ?あなたは戦えるみたいな言い方ねぇぇ?今からでも行っていいわよぉ。」


「ご冗談を。私は戦闘など…」


「そうね。まあでもいいわ、私の車がなくなるのは嫌だもの。」



「おっさん、これで子供は全員だな?」


「ああ…しかし、凄いな。こんなにも簡単に…」


簡単じゃねよと言いたいが、まあいいや。


「仕事なんでね。じゃ、俺も戦いに行こうかな。」


あ…


ダメだ。今行ったら死ぬわ。


「どうしたんですか?」


「いや、今日はもう働いたので終わりです。宿で寝てます。」


「え?」


知らない人は仕方がない。


俺はサボってるわけじゃない。


清さんの『銀世界』なんて、近くにいるだけで死ぬっつーの。



『銀世界』


「さてと、俺に追いつけるかな?」


清は辺りを走り始めた。


円形の部屋なのでずっと回り続けることができる。


十倍の速さの世界の『コピーケルベロス』にとっては清に会いつくなんて言うのは動作もなかった。


目の前へ行き右足で清を蹴りつけようとした。


余談だが、鬼の能力者で右手で攻撃するのは直接的な能力者のみである。


『ケルベロス』の様な当たるイコール攻撃ではない様な能力者は基本的には右手で攻撃はしない。


今回の『コピーケルベロス』も右腕で攻撃すれば清を十分の一の世界に送ることもできるのだが、万が一何かあった時に右腕を失う可能性があるので、基本的には右腕での攻撃はしない。


貢や清などの右腕で攻撃するタイプの人間のほうが実は珍しかったりする。


遠距離などの技があれば別なのだが…


そして今回の『コピーケルベロス』は右足で攻撃をした。


それは、いつも通りのことであった。


リスクを背負うよりも十倍の速さの蹴りのほうが有効だであると判断したのだ。


そしてそれは、たまたまではあるが正解だった。


『コピーケルベロス』の右足は清に当たる前に氷となり砕け散った。


「なっ!」


それは、寡黙な『コピーケルベロス』を話させるほどの衝撃的なことだった。


「さてこんなもんか。」


清が走っていたのは当然逃げるためなどではない。


この部屋を冷やすためだ。


清の『銀世界』は右腕から発せられる冷気の箍を外す技である。


部屋の温度はマイナス50度まで下がっていた。


当然源泉の清の周りはもっと冷えているのだ。


右足くらいなら凍らせるのに1秒もいらない。


「死ぬ覚悟はできたか?」


『コピーケルベロス』は生まれて初めて汗をかいている。


この極寒の部屋の中で清の殺気によって。


自分はクローン俺に人生などは無い、使い捨ての人形。


そう思い生きてきた。死ぬということなんて何も思っていなかったはずの心に清の殺気は恐怖を与えた。


『銀蜻蛉 白銀世界(はくぎんせかい)』


清は右腕に冷気を纏い『コピーケルベロス』の元へと行く。


周りの冷気が清を助け、右腕の冷気はさらに高まる。


それに伴い、清の『コピーケルベロス』への歩みの速度は上がり常人では捉えきれないまでに加速していた。


しかし、それでも『コピーケルベロス』がそれを避けることは可能ではあった。


だが、全くもって動くことができなかった。


足が一本だとかそういう理由ではなく、ただ単純に恐怖が体を動けなくさせた。


もうどんなに頑張っても避けることができないと思った頃には体の全てが凍っていた。


「さらばだ。」


『銀蜻蛉 白銀世界』は銀世界によって周りの温度を下げれば下げるほど威力のます清の最終奥義である。


この技は周りに味方がいると使えないため今回のような一対一での状況下でしか使えない。


逆を言えば、一対一に持ち込めば清は最強なのである。


一対一のみであれば六連星の中でも一番強いだろう。



「終わりましたね。」


「ああ。」


「これ飲みます?」


「ああ。」


俺たちは子供も救出してそこにいたDoGも倒してくつろいでいた。


ほんとは早く研究所であろうあの施設を調べたかったのだが、『銀世界』で冷やしすぎて清さんしか入れなくなってしまった。


なんなら清さんも入りたくは無いらしい。


というわけで、待っているのだ。


多分明日には行けるだろ。


「真。」


「なんスカ?」


「村長ってどうしたの?」


「ああ、村長さんはおっぱいの中にいましたよ。」


「は?」


全くふざけていない。


あの村長はマンホールに落ちたわけではなかったのだ。


なんと小さくなるという能力の持ち主だそうで、村一番の巨乳の巨乳の中にいた。


なんであんな人を心配したんだろ。


「まあ…生きているのならばいいか…」


「そすね。」


あの村長とは関わりたく無い。


ちなみに今村長はあのおっさんの家の庭に犬の様に首輪をつけられ飼われている。


可哀想だとは思ったが、自業自得といえば自業自得。


いや、完全に自業自得。


というわけで、能力を使えなくなるという『鬼力調整剤』をあげた。


だいたい、3日くらいだろ。


反省せい!


羨ましい。


おっと。






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