13話 土岐貢 再点火(リ・バース)

ほう、気づきましたか。私の『血塗られた操り人形(ブラッディマリオネット)』に。」


「ああ、つーか。その左手が答えみたいなもんだろ。」


「確かにそうですね。」


『オルトロス』の左腕には先程自分で流した血が剣のように固まっていた。


奴の能力は血を操ることだ。


DoGのメンバーだから自傷行為なんてのは気が狂っているからだと決めつけてしまったがそうじゃぁねえ。


いや、少し気も狂っている気もするがそこはどうでもいい。


奴の狙いは左側の隙を無くすことだ。


今までいろんな奴と戦ってきたがほとんどの人間は左側がおろそかになる。


当然と言えば当然。


能力のある右手と能力のない左手どちらを犠牲にしなければならない状況になったら、左手を選ぶ奴なんて存在しない。


うちのリーダーみたいな例外を除けば、左側の使い方で強さが決まると言ってもいい。


よくいるのは囮にしたりする奴だが、『オルトロス』はそうじゃねぇ。


奴は、左手から流れる血を剣にし左手で戦うという戦法に出やがった。


そして、右手からは血を細く伸ばして糸のようなものにして操る。


おそらく、操るためには血を相手の体内に入れ、返しを作り固定して操っていたはずだ。


だとすれば、俺が操られているときに感じた腹が引っ張られている感覚や腹をえぐった事によって解放されたことの説明がつく。


血を操る能力。


これがもし、どんな奴のものでも操れたらやばいが恐らくそれはねぇ。


もし他の人間の血も操れたら俺の体の中に入れているときに俺の血を操って爆発でもなんでもすれば良かったが。


それをしねぇっていうのは自分の血しか操れねぇからだろうな。


「あなたは今までで一番早くに私の能力に気づきましたよ。素晴らしい脳だ。是非切り裂きたい。」


「俺が一番?ふんっ。てことはお前今までたいした奴と戦ったことねぇんだな。ちなみに俺は俺より早くお前の能力に気づける奴を2人知ってる。今の発言でお前の底が見えた。お前、センスねえな。」


「何を言っている?そんなにボロボロで勝つつもりですか?あなたこそセンスがありませんよ!」


『オルトロス』は腹から出た血液を使い右手にも剣を作る。


二刀流で貢の方へ走り出す。


「やっぱテメェはナンセンスだよ。」


最初から少し思っていたが、今確信に変わった。


この男は俺のことをしらねぇ。


俺のことを知っていれば近接攻撃なんて絶対にしてこない。


もし知っていたとしてこの行動に出たのならば、ヤケになったか血が足りなくて頭が回らないのか知らないが、センス以前の論外だ。


「しね、死ね死ね死ね死ね。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。死ねーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」


『オルトロス』はヤケクソか数で攻める戦法に出たのかただ闇雲に振り続けた。


そして、『オルトロス』は右腕で貢を刺そうとする。


剣の長さを知ったうえで、策でもなんでもない突きを避けるなんて簡単なことだった。


だから貢は少し下がるだけだった。


剣の長さ的にギリギリ届かない位置に下がるだけだった。


貢は忘れていた。


『オルトロス』は自分の左腕に拳銃を5発も撃った上で演技をしたのだ。自分がイカれていると思わせるための演技をしたのだ。


今回のことだって演技だと思うべきだった。


右腕の剣が伸びた。


何ぃ?


伸びただと?


そうか、継ぎ足しでもしたのか。


まずいこのままだと、奴の血が体に入ってしまう。


さっきは遊ばれていたから何もなかったが本気で殺そうと思えばあの時もうすでに負けていた。


2度目はない。


次は確実に俺の中で自分の血を操り俺を殺すに違いねぇ。


今ならまだ間に合う。


『点火』


『オルトロス』の剣の先を狙い殴りつける。


貢の狙い通り剣を弾く事に成功する。


そして、突っ込んできたため『オルトロス』は顔から貢に飛び込む形となってしまう。


貢は鍛えた足で体を止め、腰を捻り左側にある右手を右側へと運ぶ。


そして、その途中貢の裏拳は『オルトロス』の顔面に当たる。


『点火』


『オルトロス』は吹き飛び壁に激突する。


貢はこの機会を逃さないために体に鞭を振るい、もう一度あの腹に『点火』を撃つために走り出す。


「あああああーーーーーーーーーーー。死ねーー!」


『点火』


綺麗に決まった。


しかし、三連発は今の『オルトロス』に傷つけられた体ではしんどかった。


よって、3発目の『点火』の威力はとても低いものとなってしまった。


『オルトロス』を殺すには足りなかった。


「残念でしたね。」


『悪魔の爪(デビルクロウ)』


右手と左手の血がまるで爪のような形となった。


「これで、あなたは終わりだ!死ね!」


10の爪が貢に襲いかかってきた時貢は何の恐怖もしていなかった。


ただ、ゆっくり深呼吸をしていた。


目を閉じて、長く吸い、長く吐く。


それをただ繰り返していた。


そして、『オルトロス』の爪が刺さる寸前。


貢は目を開けた。


そして…


『再点火(リ・バース)』


今までで一番の火力を『オルトロス』に叩き込む。



真二は、琴に貢の状態がおかしいのですぐに向かってくれと言われた。


音的に出血がひどく敵もかなり強いと思われるらしい。


敵に見つからずに貢の下へ行こうとした為少し時間がかかってしまった。


かといって、敵を連れて助けに行くわけにもいかないので後悔はしていない。


真二が琴に言われた場所に着くとそこには爪のようなもので攻撃されかけている貢がいた。


助けなければいけないと思ったが、なぜか体が全く動かなかった。


爪のようなものが仲間に刺さろうとしているのにもかかわらず。


しかし、貢は死ななかった。


それどころか、敵を倒した。


そこでようやく体が動いた。


「貢!大丈夫か?」


近づいて気づいたが貢の全身は火傷や刺されたような傷が沢山あった。


最後の技も自分への影響があるほどのものだった。


「真二か…大丈夫に決まってんだろ…さっさとあの犬っころを運べ…俺は少し昼寝してから追いつく…からよ…」


「何言ってんだ?こんな体の君をおいて行けるわけないだろ!」


「真二…似合わない大声出すな…響くだろうが…それに…甘い事言ってんじゃ…ねぇ。これは、仕事…だぞ…」


仕事。そんなことはどうでもよかった。


真二はただ貢を助けたかった。


しかし、それを貢自身が望んでいないというのであれば。


それを選ぶことは真二には出来なかった。


「分かった…任せろ。」


そう言って、真二は『苺』を抱えて部屋から出た。


すまない。


絶対に助けてやるからな。


死ぬな。


絶対に…



「ああー、全くねむいったらありゃしねぇ…少し、寝るか…」


そう言って貢は死体と自分しかいない部屋で眠る。


ああ、気持ちがいい。


誰だかわからんが、包まれているようだ。


この振動もまた悪くねぇ。


振動?


目を開けるとそこは車の中だった。


「やっと起きたか。君には少し手伝ってもらいたいことがあってね、死んでもらっては困るんだ。」


「あ?」


よく見ると貢の体に傷は一つもなかった。


「これは…あんたがしたのか?」


「傷の事ならそうだ。しかし、直したわけではない。一時的なものだ。すぐに戻る。」


「何だそりゃ?そんな事より手伝いってのは何だ?俺は今することが他にあんだよ。」


「そんな事はない。君があの場でしなければならなかったのは『オルトロス』を倒すことだけだ。後のことに君は必要ない。」


「なんだと?俺が足手まといだってのか?」


「相性が悪いのだ。仕方がない。諦めろ。それに、今から君がしなければならない事も君にとっては大事な事だ。なんたって、君の仲間を守る事でもあるのだからね。」


「はあ?意味がわからん。こいつは今どこに向かっている?」


「4区だ。君は今から4区に行き、坂祝 真と揖斐川 清を助けなければならない。」


「あの2人がかなわない相手、俺がかなうと思うのか?俺よか清さんは強いだろ。」


「相性の問題だ。」


「だとしても、うちのリーダーの方が良いじゃねぇか。」


「確かにそうなのだが、それは出来ない。理由は言えないが。それに、実力が足りなくても問題ない。その為に私がいると言っても良いのだから。」


「あんたは俺を強くする能力でも持ってんのか?」


「いや、持っていない。ただこんなものを持っている。これを君にあげよう。」


「なんだこれは?」


「『十戒』と呼ばれる薬だ。これを飲むと10年歳をとり、その10年間の力を1時間使える。まさに夢の商品だ。」


「なるほどな。あんたを信用はしてねぇ。ただ、俺の体を一時的とは言え回復させてくれたのと仲間のためと言われたらしょうがねぇ。手伝ってやるよ。あんた名前は?」


「特にないのだがな、そうだな『鬼の子』と名乗っておこう。そして、これをあげよう。」


そう言って『鬼の子』と名乗った男は貢に髭剃りを手渡した。



真二が貢の元へ向かった少し後、貢が『オルトロス』能力に気づく少し前。


真希と凪沙は三銃士と出会っていた。

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