9話 電光石火の犬を探して…
「いたか?」
『まだ、見つからないよ…』
『こっちもまだ。』
大野 真希に言われて俺たちは犬を探している。
最初はめんどくさい仕事かと思ったがそうでもなかった。
ただの犬ではなかったのだ。
この鬼の力が発現してから初めて観測された人以外の能力保有生命体らしいのだ。
能力は『電光石火(でんこうせっか)』雷の力を使い高速で移動するらしい。
右腕以外も力は使えないが雷への耐性があるらしい。
5区で保護していたらしいのだがなぜかそれが急に逃げてしまい、12区に入ったらしく捜索しているわけなのだが…
「見つかんねーよ!」
『ちょっと、耳元で騒がないでくれる。無線のせいで全部聞こえるんだから!』
「うるせー!お前だってさっき叫んでたじゃねーかよ!」
『それはだって…目の前に虫が出たんだもん…』
「女子か!」
『女子だよ!』
『2人とも喧嘩は…』
「真二オメーは黙ってろ!」
『真二くん口挟まないでくれる?』
『ええー…。』
3人はというか貢と凪沙は全く手がかり1つないこの状況でイライラし始め20分以上ずっとこの調子である。
しかしそんな状況を180度いや540度変えてしまうようなことが起こる。
突然の12区全体での大停電である。
「なんだ?何が起きた?」
突然のことすぎて貢は瞬時に判断できなかった。
無線も繋がらなくなり、孤独となった。
ドンッ。
なに?
近くの交差点で事故が起きた。
そこで貢は現状の状況を少しずつ把握し始めた。
停電だ。
完全に自動化された車が事故を起こすなんていうのは停電しかありえない。
そしてその原因は犬っころしかありえねぇ。
「琴!聞こえてっか?」
『何?まあ、何となく状況は分かってまーす。』
「で?詳しく頼む。」
『停電というよりショートの方が正しい。外から強力な電気を流されて電気回路系がつぶれちゃってまーす。そしてそのせいで車の事故が多発していまーす。』
「なるほどな。大方予想通りだ。真二と凪沙にも伝えろ。」
『はーい。』
そこからは犬の捜索よりも事故のために混乱した市民を誘導したり色々大変だった。
基本的な事は全て警察に任せたのだが手伝いや事故に乗じたひったくりや万引き、空き巣そいつらを捕まえさせられた。
〜
「真希さんどういうこった?能力の威力が高すぎるだろ。本当に犬なのか?」
「犬だよ。ただのワンちゃん。ただ、生後2年のワンちゃん。」
「そういう事か。だからあんたが出てきてきたのか。リーダー様が来るのはおかしいと思ったが、それなら理解できる。」
「え?どういう事?」
凪沙は貢が理解したことに理解できなかった。それを真二がフォローする。
「生まれてから2年経つとアレが起こるだろ?だから…今回の犬の能力がすごく高かったんだよ…」
「アレ?ああっ!暴走期!だから真希さんが来たのか。」
暴走期というのは生後2年の赤ちゃんに起こる能力現象である。
個人差はあるが生後2年になってからの1週間能力が際限なく発動する。
人によってはその1週間の間は十二星会並みに強くなる。
なぜそんな時期があるのかは不明。
子育てをする親の1番の問題である。
普通はNeCOの機関に1週間預ける人が多い。しかし、経済事情により預けられない人も多い。
そんな人たちは子供を殺したり、捨てたりしてしまい、社会問題となっている。
12区のNeCOのほとんどはこの時期に親に捨てられた。
今まで人以外で能力が発動したことがなかったので人外にも暴走期があるのかは不明であったが今回の件で判明した。
そして、なぜ大野 真希が来たのかというと、暴走期の赤ちゃんは泣いたり怒ったりした時の感情が高まる時に能力を発動してしまう傾向にある。
逆に言えば寝ている時は落ち着いているのだ。
大野 真希の能力『植物園の管理人(ガーデンキーパー)』は触れた植物の種を自由に成長させることができるのだ。
そこで催眠作用のあるセイヨウカノコソウなどの催眠効果のある植物で眠らせて落ち着かせている。
大野 真希は戦闘も一流なのだがこのような暴走期の赤ちゃんへの貢献などもしているのだ。
「もともと5区で飼っていたのを逃してしまった罪悪感や罪滅ぼしもあるけど、まあ私がいるのは対象が暴走期だからだね。」
「で?どうやって捕まえんだよ?正直今日あの犬が攻撃してきた時、見るどころか気配も分からなかった。『電光石火』ありゃやばすぎる。作戦なしじゃあ不可能だ。1週間もあれば12区は落ちるぞ。」
「うんうん、貢の言う通りだね。あの子の暴走時の威力はなんとなく予想してたけど正直予想以上。後6日間もあると思うと恐ろしいよね。」
「そんなに余裕があるって事は作戦があるって事ですよね?」
「もちろん。その為のこの2人なんだから。」
そう言って真希は一緒に来た2人を指差す。
「こいつらは?」
「この子達はね、あの犬を捕まえる為の最終兵器だよ。」
「この2人がか?どうやって捕まえる気なんだ?」
「この子達はね5区の誇る雷使い。この2人で強力な電撃を発生させる。電気の磁場を利用して引き寄せて捕まえる。」
「なるほどな、その作戦で異論はない。今日はその為の準備でもしてたのか?」
「ははは、お見通しってわけだ。そうだよ。絶対に失敗するわけにいかなかった。この1週間を過ぎたらただの犬との見分けがつかないからね。そのせいで今日12区に迷惑をかけたのは謝罪する。」
「謝罪なんてどうでもいい。この件が終わってからリーダーと話し合ってくれ。俺たちはあの犬っころを捕まえるだけだ。どうせ手伝わされるんだろ?」
「すまないな。」
「真希さん、あの犬って名前ってあるんですか?」
凪沙が真希へ質問する。
「ん?ああ、あるぞ。」
それに対して、真希は少し下を向いて答える。
「『1-105e-15』という研究コードの最後の『15』のところをとって『苺(いちご)』って私は呼んでる。」
その時の何とも表現できない、ただ悲しそうな顔が貢の頭から離れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます