7話 センスのない奴

誰だこいつは?


今俺の『爆裂』を殴ったのか?


ありえねえ。


その男の胸に光るバッチがついているのが見えた。


あれは…


そうか思い出した。


「お前、土岐 貢だな?」


「なんで知ってんだよ?」


やはりそうだ。


おそらくさっきのは奴の能力『点火』だろう。


それなら合点が行く。


傷ついてフルパワーではないとしても俺の『爆裂』がただ殴られただけで消えるわけがない。


あいつの『点火』は高い威力を持つ能力だ、おそらく今の俺では一撃でも喰らったらゲームオーバーだろう。


だが、そのかわりあいつの能力は近接攻撃しかない。


俺の『爆裂』は遠距離タイプ。上手く間合いを取れれば負ける事は無いだろう。



貢の『点火』が男の『爆裂』を殴り飛ばした事によって男と貢は全身に火傷を負った。


あっちいなあー。


ったく、めんどくせー。


相手は遠距離の能力者。正直、部が悪い。


どうしたもんかねぇ。


ん?


なんであいつ左耳から血が出てるんだ?


あいつの顔にほとんど傷はないというのに。


そうか、琴がやったのか。


てことはまずいな、あの技を使うと確か琴は体力が半分以上なくなるっつてたよな。


真二に淳を運んでもらったついでに琴の様子も見てもらうか。


淳を早く運ばなきゃいけねぇ。


だが、あいつの能力は遠距離で火力も高い一撃でも喰らえば淳は死ぬ。


真二が安全な場所に行くまでに奴は3発くらいは撃てるだろう。


その全てを俺が先ほどのように防ぐのは不可能ではないがそのあとこいつに殺されるだろう。


「お前土岐 貢だな?」


「なんで知ってんだよ?」


急に思いもしていなかった質問だったので、つい答えてしまった。


あいつが俺を知っているという事は俺の能力を知っている可能性は高い。


近距離しかできないことを知っていたら距離を取られて遠距離攻撃をしてくるだろう。


そうなれば勝ち目は薄い。


だが、淳を逃すということにおいては好機と言える。


あいつは淳との戦闘で傷を負っている。


俺の『点火』を1発でも喰らえば終わりだろう。


そしてそれは奴も気づいている。


つまり、俺が近づけばあいつは下がる。


貢は男に向かって走り出した。


そして男は貢の予想通り後退した。


「真二!淳と琴を任せたぞ!」


詳細には言わなかったがあいつには伝んだろ。


とにかく今は目の前のあいつを倒すのが俺の役目だ。


「なるほど、仲間を逃すためにわざと来たのか。俺の考えを逆手に取ったな?いいね、殺し甲斐があるってもんよ!」


貢は全身が焼けており身体中が熱かったが思考に関して言えば至って冷静であった。


そしてその上で自分ではこいつを倒すことができないと思っていた。


相性が悪すぎた。


遠距離使いと近距離の戦いなんて相当の力量差がない限り近距離が勝つ事はないだろう。


だが不思議と貢の顔はまだ笑顔であった。


『爆裂』


男の炎が飛んでくる。相手も本調子ではないので貢も避けることができた。


それから男は炎を何発も打ち続けた。


ったく、センスがねえ。


なすすべなく防戦一歩で死んじゃいましたなんて笑えねえ。


地獄に行っても閻魔さんに笑われちまう。


あと少ししたら真二か誰かが来てくれるだろう。


それまで持ちこたえたら俺の勝ちだ。


だが、そんなの俺のプライドが許さねえ。


あと10分というところだろう。


それまでにこいつを倒す。


これは俺のプライドをかけた戦いだ。


俺があいつに勝つためには俺の一撃をあいつに当てるだけでいい。


一撃だ、一撃。


当たりそうで当たらねえ一撃。


いいねぇ。


おそらく無傷で勝つ事はできねえ。


1発くらいは当たるつもりじゃねえと勝てねえ。


「おめえを今から殺してやるよ。遺書を書く時間はいるか?」


『爆裂』


貢の質問には答えず、炎を撃ってきた。


「DoGってのは返事の仕方も知らねえんだな。」


貢はそれを間一髪のところで避ける。


今までの球であればもっと余裕をもって避けれていたのだが、ここに来て能力の精度が上がり始めている。


その証拠に先ほどまでは傷が付くくらいしかできなかったのが、今回の物は少し床をえぐっている。


その後貢は実に8分間全く手が出せないでいた。




速度や威力が上がった球を避け続けていた。


男は貢に反撃のチャンスを与えたくなかった。


故に永遠に打ち続ける選択を選んだ。


そのおかげか威力やスピードなどが急激に上がった。最初は傷をつけることの出来なかった壁が今ではボロボロである。


ったくこのタイミングでレベルが上がりすぎなんだよ。


これじゃあ一撃を喰らわせるどころか近づけねえ。


このビルにある唯一の柱に隠れているのだが、もうこの柱も持たない。


こうなると自殺覚悟で突っ込むしかない。


男の炎が柱を打ち続けたことによって柱が壊れた。


しゃがんでいた貢の頭の上を炎の球が通過した。


そして貢は立ち上がった。


「ちょうど、十分だな。」


それは男の耳には聞こえないほどの小声だった。


「ふんっ、わざわざ出てくるとはな。お前はバカだったんだな!」


男が右手にこれまで以上の力を溜め打ち出そうとしていた。


しかしそれが打ち出される事はなかった。


なぜなら急に地面が揺れたからである。


突然のことに男は動揺し能力をキャンセルしてしまった。


そんな男とは対称に貢は至って落ち着いていて、右手に集中していた。


『点火』


貢は目の前にある柱を上から叩いた。


大爆発により柱は当然壊れた。


そしてそれに続くようにビルが倒壊した。


「何が起きているんだーーーーーー!」


男はただ叫んでいた。


周りを見る余裕なんてものはなかった。


だから貢の攻撃に気づけなかった。


貢は柱を壊した後即座にまた力を溜めた。


落ちながらでは移動はできない。当然直接殴る事は不可能である。


しかし男に打ち込むための弾は沢山ある。


ビルの倒壊によってできた大量の岩。


落ちながら貢は集中していた。


取り乱す事なく狙いを定めていた。


「ったく。俺は1人じゃ何もできねぇのかよ。全くナンセンスだぜ!」


『岩石飛翔波』


目の前にあった岩を男めがけて殴り飛ばした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る