6話 手頃な犯罪?

鬼の能力は1人1つそして、右腕にしか宿らない。


なのに、掟破りの『両利き』を有している12区のリーダーは今、


「やりすぎたー。」


『火炎球』の威力が強すぎて犯人が灰になってしまった事で書かされるであろう始末書のことで嘆いていた。


ちなみに、人質になっていた子供達は最初の風の時にガスを捨てながら風で子供達を無傷で運び、助けていた。


凄すぎる。


「あっ!」


「どうした貢?」


「あいつの体見つけました!しかもまだ生きてます!」


「なんだと!まさか俺の『火炎球』をくらって生きているとは!すごい防御力だな!それともなんだ、人は死にかけたらそんなに頑張れるんかい。」


そう言って、さっきの風の力で自分と犯人を飛ばせて『熱風』へと超特急で向かった。


「これが、最強のリーダーだとは思えん。」


淳は呆れながら言った。



「はいっ!みなさん今から会議を行います!」


倉庫の事件の2日後に王者さんが急に会議を開いた。


当然みんなめんどくさそうな目をしていた。凪沙はずっと光っているが。


「リーダー、議題はどんなの?物によってはナンパに行きたいんだけどー。」


「チャラ男。死ぬのと黙るのどっちが好きだ?」


「強いて言えば、黙る方かなー。もう、そんなに怒らない怒らない。」


「今度殺す。えーっとなんだっけ?ああそうだ。今回の会議のテーマはですね。」


『なんで12区のチームは嫌われているの?』


「です。」


「今更何言ってんすか?俺たちが嫌われてるのはいつのもことでしょ?」


真二も無言でうなずいていた。


「いやでもさ、おかしくない?俺たちずっとみんなを守ってるわけじゃん。なのになんで嫌われるかな?俺なんてあれよ、六連星よ。」


六連星とは、十二星会の中でも特に強い6人に与えられる称号である。だたしこれは正式な者ではないので、なったからといって特に何も無い。


「まあそうなんですけど…」


「最年少だぜ?16よ。なのになんで嫌われるかな?」


「でも私は、世界中の人が嫌いって言っても、私だけは好きだよ!」


「ありがとう…グス。」


「えへへ。」


「あっ!そうだ!もうこの際直接聞きましょうよ。」


「何言ってんだお前?道行く人に俺のどこが嫌い?って聞くのか?」


そんな奴がいたら、そういうことを聞いてくるところが嫌いと即答されそうだ。


「そんなわけないっしょ。淳くんっすよ。元3区の人なんだから世論を知ってるんじゃないっすか?」


え?


僕?


12区の悪口は確かによく聞く。


でもほとんどが作り話なのだ。


なぜそんなことが起きたのかというと、彼らが皆孤児だからである。


孤児は人のことを考えられない。愛を知らない。などの勝手な偏見で差別がされているのだ。


さらにそれに拍車をかけるように、12区の人たちは建物をよく壊す。


そのせいで、やはり孤児だからな。


というのが根付いてしまい、それが勝手に一人歩きした結果嫌われているのだ。


しかし、こんなことを直接言えるはずがなかった。


「えーっと…その…何というか…」


「孤児だからってはっきりいやあいいだろうが。気なんか使ってんじゃねえ。センスがねえ。」


それは今まで一言も話していなかった貢さんだった。


「そんな事は…」


「だったらまっすぐこっち見て否定しやがれ。」


「ごめんなさい…」


「謝んじゃねえよ!」


『点火』


貢は淳にめがけて本気の一撃を打ち込もうとした。


そして淳はそれを避けるつもりはなかった。


しかし、その迫力によって足も動かなかったのだが。


ドゴゥオン。


「やめとけ、貢。こんなの仲間に打つ威力じゃねえ。それに淳は悪くねえだろ?」


『紅炎』


淳の目の前でいつ移動したのか王者が貢の手を止めた。


「チッ。」


「悪かったな、淳。」


「いえ…僕こそ…」


「さっきの話本当なのか?」


「確かに孤児であることによる差別のようなものがあるのは確かです。でも、それが大きく広まったのは、任務中に建物をたくさん壊したりするところとかです…」


自分で言ってて言葉がおかしいのはわかったが、今の自分にできる最大の言葉だった。


「貢。分かったか?さっきみたいな言動が下げてるんだ。淳のせいにすんな。」


「い…あん……だ…」


「何てった今?」


「いや!あんたのせいだろ!」


「へ?」


「昨日だって倉庫ぶっ壊したし、前も家10個くらい壊すし、チビって言われたらすぐに『火炎球』とか撃ってんじゃねえよチビ!」


貢の意見に対して誰も反対しなかった。


というかみんな聞いてからすぐに思ったので、貢に振ったのもボケかと思っていたらマジだった。


「何だとてめえ!ぶっ殺す!」


一瞬なりかけたシリアスな空気は速攻で壊れた。


まあ、らしいといえばらしいが。



「なあ琴。どっかに好感度が上がるような犯罪は起きてない?」


なんて物騒な質問だろうか。


「今は…無い…」


「そっか…」


「NeCOのリーダーがそんな不謹慎なこと言わないでくださいよ…」


というか、好感度があがる犯罪って何だろ?


「だってさあ、手っ取り早く好感度を上げるにはさ犯罪者をカッコよく捕まえるのが早いだろ?」


「いやまあ…そうなんですけど…そのせいで建物壊して好感度下がってんじゃ無いですか。」


「すみませんでした…」


しまった。


卑屈モードになってしまった。


今この部屋には琴さんと卑屈な王者さんと僕しかいない。


他の4人は仕事に行ってしまったのでいない。


琴さんは集中するために喋らないし、卑屈の王者さんは何を話してもネガティブに捉えられてしまうし…


ああ、気まずい。


「どうせ俺なんて、どうせ俺なんて…………」


早く手頃な犯罪起きないかなあ…



「貢…前のことなら誰も気にして無いから…貢も気にしなくていい…」


「うるせえ。別に気にしてなんかねえよ。」


「だったら…さっきみたいなミスはやめて…」


貢は先ほどの戦いでミスをした。


一瞬気が抜けて戦いの最中に他の事を考えていた。ほんの一瞬1秒ほどではあったが戦いにおいてその1秒は勝敗を決めるほどのものであった。


貢は近接攻撃のみであるので離れられるとただの人と同じである。


焦れば焦るほどうまくいかなくなるものである。


結果としては真二が岩を作り出し、とっさに『岩石飛翔波(ロック・バースト)』を使い倒した。


倒しはしたが真二は当然納得などできるはずがなかった。


「うっせー!分かってるから喋りかけんな。」


「本当に分かってるのかい…淳くんはあんな事を思っている子じゃ無いと思うよ…」


「分かってるつってんだろーが。分かってる。悪いのはあいつじゃねえ…」


「ちゃんと謝りなよ…」


「うっせ…」



『熱風の砦』14階はふとした事から無音であった。


その状態を淳は耐えることに限界を覚え始めていた。


全くの無音。


たまに聞こえる音は、王者のネガティブな言葉。


頭が狂いそうだった。


しかしそんな淳とは対称に琴にとってはものすごく仕事のしやすい空間となっていた。


それ故にいつもより集中することができ、犯罪を見つけることに成功した。


「淳さーん。お手頃な犯罪が見つかりましたよー。」


「マジで?見つかった?行くわ、すぐ行くわ!」


生まれて初めて犯罪が起きて嬉しいと思った。


というか、お手頃では無い犯罪なら見つけていたのだろうか?


「ほら、リーダー行きますよ。」


そう言って背中を叩く。


「痛いー。」


「淳さんダメでーす。卑屈状態の時のリーダーは何が起きようとも1時間くらいはそのままでーす。」


マジか。


「じゃあ、1人で行きますよ。」


その言葉の後僕は琴さんに正確な場所を教えてもらった。


ここから現場までは約10分で着く。


しかしそれは普通に行った時の場合だ。


「琴さん前言ってたやつ試してもらっていいですか?」


「オッケーでーす。」


僕は一階ではなく屋上に行った。


頼みますよ。


心の底から祈った。


そして僕は屋上から飛び降りた。


『チビ』


琴さんの『音綿』がすぐに発動する。


そして僕はそれを足場にして現場に向かう。


『短小』


『チビ』


『短小』


『童貞』


『短小』


やばい、心が折れてきた。


もう少しまともな言葉をチョイスしてほしい。


てか短小に何か恨みでもあるのか?


結果。


心が折れそうになりながらも約3分ほどで目的のビルの上についた。


「琴さん。この中にいるんだよね?」


『はい。この中に5人ほどの方とその方達に殴られている方がいます。』


この時淳はキレていた。


誰かが殴られている。当然それも腹に立ったが、集団で誰かを攻撃するというやり方が気にくわない。


「許さねえ。」


この時の淳は怒りによりいつもとは口調が変わっていた。また、右手ももう人の物の形はしていなかった。



「なあ爺さん。このビルを俺たちに譲る気にはなったか?」


「こんなビル金さえくれればいくらでもやるがただ譲れというのは難しいのですよ…もう解体しようと思っていたので解体業者にお金を払ってしまいまして…」


「だったらキャンセルすりゃあいいじゃねえかよ。」


「キャンセル料がかかってしまうんです。その分を払っていただけるというな構わないのですが…」


「おいじじい、払うわけないだろ。死ぬかビルを渡すか選べ。」


この老人は5年ほど前に退職しており、多くはないが年金をもらい残りの人生を妻と2人でゆっくり生きようと思っていた。


しかしそんな中妻が病気にかかってしまい入院することになった。


医療代は高く年金では到底まかないきれないものだった。


そこで所有していたビルを売り払う事を決意した。


しかしビルにはほとんど価値がなかった。


ボロボロで誰も寄り付かないようなものだった。


だが、土地の方には価値があったのだ。


その場所は歩いて5分の所に7区との連絡橋がある。


今7区は産業が発達しており、そことの連絡橋に近いというのは商売をする上でアドバンテージとなるので、いまそこら一帯の土地の値段が高くなっているのである。


「金さえあればいくらでもあげます。ですから…」


「ああー、俺こいつうざくなっちゃったよ。このジジイ始末していいっすか?」


「仕方がない。あまり血を飛ばすなよ。服が汚れるから。」


「あざーす。」


そう言うと男の右手は鬼のものへと変貌した。


『水針(みずばり)』


男の右手の人差し指からお爺さんの心臓にめがけて細く速い水の針が飛ぶ。


しかしその針がお爺さんの胸にあたる頃にはただの水となっていた。


『イカズチ』


「てめーらの人生にピリオドを打ってやるよ。」


淳が男の右腕を切り裂いたからである。


「うがーーー。右腕がー!」


右腕を失った男は突然の激痛に叫んだ。


「おい。うっせーぞ。黙ってろ。」


『スパーク』


淳は右腕を失った男の全身に電気を流し気絶させた。


「なあ。お前らつっ立って見てるけどさあ。死ぬ準備くらい済ませたか?」


「こいつ!イカれてやがる!」


『スパーク』


淳は今度は男たちではなくお爺さんの方に打ち出した。


その電気はお爺さんの後ろにある窓を割った。


「爺さんそこから飛び降りろ。」


「え?しかし…」


お爺さんが戸惑うのは当然のことだった。


なぜならここはビルの10階なのである。


琴の『音綿』を知らないものにとっては死ねと言われているようなものであった。


「聞こえなかったか?」


その言葉に体が勝手に反応したのかお爺さんは窓へ向かって走り出していた。


その姿はまるで倉庫の時の淳のようであった。


淳は今我を失っているが体はあの時のことを覚えていたのだ。


故にの行動。


お爺さんを助けるためのいまの淳の思いつく最善の選択だった。


『音綿』


『もう大丈夫。』


「なんだ?」


お爺さんはいま自分に何が起きているのか理解できなかった。


ただ分かるのは自分は10階から飛び降りても生きているということ。


そして飛び降りた時に聞こえた声はまさに女神のような声であったことだけである。



『お爺さんはもう大丈夫だよ。』


琴は淳がいつもと違う琴は当然気づいているのだが、NeCOとして人を助ける。弱い人のみ糧であり続くるという気持ちがまだ残っていることにも気づいている。


でなければ、お爺さんを助けはしないしそもそもキレたりもしないだろう。


『イカズチ』


淳は二度目となる『イカズチ』を一番近くにいた男に打ち込んだ。


いつもなら一度打つだけでも右手以外が痺れたり麻痺するのだが何故か今はその痺れさえも気持ちいいと感じつつある。


まだ打てる。


『イカズチ』


もっと早く。


『イカズチ』


「あとはお前だけだーーーーーーーーーーーー。」


『イカズチ』


いまの状態の淳は確かに『イカズチ』の副作用が発現していない。しかしそれは受けていないわけではない。我に忘れた男は痺れという感覚が無くなるほどに1つのものしか見ていなかった。


ただ純粋に目の前にいる奴を殺す。


これだけである。


そのせいで、相手が右腕を人のものではないものに変貌させて自分に向けていても何も思うことなく突っ込むことができるのだ。


『爆裂(エクスプロージョン)』


男の右腕から出る王者の炎にも匹敵するような炎に淳はノーガードで突っ込んでしまったのだ。


当然淳は吹き飛んだ。


壁に激突をした。


音から察するに左手の骨が折れた気がする。


しかしそんな痛みは淳は構っている暇などなかった。


5発の『イカズチ』の反動を今感じてしまったのだ。


男の一撃をくらい我に帰った淳に今まで感じていなかった痛みや痺れそれ全てが1人の人間の体に流れ込んだのだ。


動けるはずがない。


「ああああああああああああああーーーーー。」


呼吸するだけでも苦しい。むしろ呼吸が苦しい。


「なあ、さっきお前聞いてきたよな?当たり前だけど、お前もできてんだよな?人生にピリオドを打つ準備はよお!」


男の右手から先ほどと同等の威力の炎が打ち出される。


しかしそうはならなかった。


『音爆弾(ノイズボム)』


『短小!』


特大音量で男の鼓膜に直接響いた。


人の鼓膜は今の音に耐えるほど強くはなかった。


琴の『音爆弾』により鼓膜が破れ耳から血が出てくる。


そして男の技もキャンセルされる。


「痛ってーな!」


『次は右耳をやる。それが嫌なら、その子に近づくな。』


この言葉は全くのハッタリである。


確かに男の左の耳の鼓膜を破ったのは琴ではあるが、『音爆弾』は集中がかなり必要な上に琴の体力がほとんどなくなってしまう。


よって右を攻撃するのは不可能なのである。


しかし、琴は知っているのだ。


あの2人が今ここに向かっていることを。


だからこそ今琴にできるのは時間稼ぎ。


3分。たった3分でいいのだ。


「てめえー。どこにいる?出てこいやー。」


出ても殺さないのであればいくらでも出てやるのだがそうもいかない上にそこには居ないので出れない。


「まあいい。こいつを殺せば出てくるだろう。」


まずい。


今彼の方に行ってしまうのはまずい。


男の足が一歩彼の方に進む。


『音綿』


『聞こえなかったか?』


『音爆弾』は出来ないが『音綿』であればあと数度打つことができるだろう。


ダメージは与えられなくても足止めをすることくらいならできる。


「なんだこれは?見えない壁?」


男の足は一度止まったが攻撃ではないと確認すると今一度足を動かす。


『音綿』の持続時間は約3秒。男の足を止めるには短すぎた。


一歩また一歩と男は足を進める。


それに対抗して琴も『音綿』を出すのだが最初に比べて明らかに威力が落ちている。


最初は3秒ほどあった時間も今では1秒ほどである。


男が淳の前に行き右手を構える頃にはもう音を聞くことしか出来なくなっていた。


「全く、意味がわからんがとにかくこいつを殺さねばな。死ね!」


『爆裂』


琴は少し安心していた。


いつもはうるさいやつくらいにしか思っていなかったが、こういう時に頼りになる奴だ。


『点火』


「ったく、センスのねえ炎だな!」

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