4話 働くぞ! 主人公!

「いやーしかし、王者さん卑屈モード治ってて良かったですね。」


「ああ、今日も会議があるっつってたからな。あのまま行かれたら、恥さらしよ。」


僕の最初の仕事は迷子の創作である。


12区で今子供が5人ほど行方不明なのだ。


最初のうちはただの家出だと思われていたのだが5人も同時期にいなくなるのは不自然であるとなり、NeCOに依頼が来た。


事件性は高いが戦闘にはなる確率は少ないと判断し新入りの淳に割り振られた。


「しかし、子供なんてどこにいると思うます?」


「さーな。ただの家出ならほっといても見つかるだろうが誘拐とかなら、簡単には見つからないだろーしな。」


「じゃ、じゃあどうやって探すんですか?」


「え?琴が怪しい音を聞いたら教えてくれるからそこに向かうだけだけど?」


当たり前かのように言われたが、それでは今僕らは何をしているのだろう?


「じゃあなんで僕らは歩いてるんですか?」


「そりゃ、見回りだよ。俺たちがいるってだけで犯罪の抑止力になるからな。」


意外にちゃんとした理由だった。


もっと適当な理由かと思っていたので驚いた。


学びだ。



「なあ、今日は何を話すんだ?もう昨日大体の結論は出ただろ?」


時を同じくして1区のNeCOの拠点『鋼鉄の城』では12星会の会議が行われていた。


「まあまあ、王者くん怒りなさんな。たしかに昨日過半数以上の賛成があったけど六連星の半分が否定じゃまだ決まりとはならんよ。」


「黙れ九(きゅう)そもそも六連星なんて勝手に強い奴らがそう言われてるだけで議題の場においては全員が同じ平等に発言権があるはずだろうが。」


「そてはそうだけどね、この鋼鉄さんが断ったらなんとも言えんでしょ。」


そう言って、9区リーダー岐南 九(ぎなん きゅう)は1区リーダー恵那 剛(えな つよし)を指差す。


「俺は絶対に反対だ。そもそもこのメンバーで一緒に戦う事なんて想像もできん。」


「だったらそもそも議題になんてあげんなよ。自分の意見が通らないからって無理やり自分に拒否権なんてものを与えるくらいならよ。」


「まあまあ、王者さんも落ち着きなさいよ、議題にあげたのは鋼鉄さんじゃないんだからさぁ。」


「ちっ。」


王者は舌打ちをしながら椅子に座りなおす。


「鋼鉄さんも悪いって分かってるよな?あんたの言い分も分かるけど少し自分自分しすぎだよ。」


「すまない…」


この最強の2人にここまで言えるのは九くらいであろう。


この後も九が司会を勤めて会議は進んだ。


最終的には、1区リーダー恵那 剛2区リーダー安八 助六(あんぱち すけろく)、4区リーダー揖斐川 清(いびがわ きよし)が折れる形となった。


そして今回の会議を持って十二星会全てによるDoG討伐選抜チームの決定が決まった。



DoG討伐選抜チームとは、NeCOの上層部の人間たちが極秘にDoGの幹部の1人の居場所を突き止めたらしくそれを討伐するためのチームである。


当初は1区のみで討伐をするつもりだったのだが、幹部が潜伏しているのは7区であった。


1区のNeCOが全員7区に行くと言うのは当然論外である。


しかし、少数で言っても未知の相手、しかもそれがDoGの幹部となれば相当強い。


それに少数というのもまた論外であった。


次に7区のメンバーで討伐はできないかという話になったのだが、7区リーダー川辺 智(かわべ さとし)がこれに強く反対をした。


7区は犯罪件数が多くただでさえ忙しく人手が足りないのにそこに来てDoGの幹部なんていうのは無理な話であった。


そのことを十二星会の代表として剛がNeCOの幹部飛騨 重美(ひだ しげみ)に伝えた。


そして重美は剛にこう伝えた。


12のチームから1人づつを出し合い合計12名のチームを作れと言った。


しかし1区2区4区のリーダーはそれに反対の色を示した。


そしてそれを説得するのに時間がかかってしまい結果的にここのところ連日会議となってしまった。



「悪かったな、さっきは。」


「先ほどとは態度が全然違うが何かあったか?」


「公私混同したくねんだよ。とはいえ、お前の場所がしんどいってのは知ってる。その上であんなことを言っちまったからよ。」


「お前らしくもない。謝るだなんて気持ちが悪い。ガキならガキらしく騒いでいた方が可愛げがあるというのに。」


俺は会議の後剛に誘われて、1区の研究を少し見せてもらうこととなった。


昔は仲が良かったのだが、今は2人ともリーダーという立場にある。


今まで通りにずっと仲良くなんて出来なくなってしまった。


「うるせー。で?今回はどんな商品を見せていただけるんですか?」


「今回のはすごいぞ。期待してくれて構わない。」


前回もそんなこと言って見せてきたのが、つけるだけで水系の能力で発生した水がほのかに甘く感じるとかいうものだったからな。


今回も期待はしないでおこうと思う。


「これだ。」


そう言って見せてきたのは薬だった。


「なんだこれ?」


「わかりやすく説明すると、これはいわば禁じ手だ。俺たちの最終兵器みたいなもんだ。」


「要はドーピングか?」


「まあ、そうなるな。ダメか?」


「いや、全く。競技におけるドーピングを良しとは思わんが、俺たちのような世界にはあってもいいと思う。自分の信念は曲げなかったけど、あなたの子供は守れずに死にましたなんて死んでもいいたくねえ。」


「同感だな。俺たちには、プライドなんかよりも守るべきものは確実にある。そのためなら俺はどう言われても構わない。」


「かっこいいな。で?それはどんなものなんだ?」


「こいつは、10年間という時間を喰う。」


「は?」


「こいつを飲むと10年間分成長する。そして、その10年で使うはずだったエネルギーが使えるようになる。」


「へーえ。お前は使ったことあんのか?」


「ああ。一度だけな。」


そう言ってから、剛は使った時のことを語った。


「昔俺たちがDoGの幹部を倒した話は聞いたことがあるだろう。その時に使った。敵は8人いる幹部の中でも2番目に強いらしい。まず飲んで変化が顕著にわかるのは髪と髭だ。10年分伸びる。髪はあまり邪魔にならなかったが、髭が邪魔だった。使うときは髭だけは永久脱毛することをお勧めする。そして能力だが、基本的なことは変わらない。俺の能力『鋼鉄の城(メタル・パニック)』は触れた物を鋼に変えたり右手から鋼を生成してそれを操るものなのだが、薬を飲んだときは触れていない場所でも鋼を生成したり変えることが可能だった。範囲にして自分を中心に2メートルというところだろう。薬の効果は1時間ほどだった。たった1時間だが、断言しよう。そのとき俺は誰よりも強かった。」


「なるほどね。大体は分かった。」


「あまりが2つほどある。お前にやろう。身長が伸びるかもしれんぞ。」


たしかに今から10年あれば少しくらい身長が伸びてもおかしくはない。いやむしろ、成長期だし伸びるだろう。


「じゃあ、今度の任務で使わせてもらおうかな。」


そう言って、2つをもらった。


「俺が言っといてなんだが、それはやめとけ。喰われた10年は戻ってこないからな。」


「そうか。」


それは忠告であると同時に、自分は寿命が10年縮んだ事を伝えていた。


王者はもう帰ろうと思ったその時であった。


『リーダー。琴です。港の倉庫で土岐さんと郡上さんがトラブっています。音的に交戦中と思われます。相手は人質を取っています。』


それは琴の『管弦楽団』の能力だった。


貢と淳の心音や周りの音を聞いて異常を察知し、リーダーへと声を届けた。


「悪いな、剛!もう出るわ!」


「何かあったか?」


「ああ、なんかやべえっぽい。」


「頑張れよ。」


手伝おうかではなく頑張れ。それは剛なりの信頼の表現でもあった。


「琴!今向かう。貢に伝えろ!」

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