1話 鬼の手
ここ鬼ヶ崎市(おにがさきし)にはある特徴がある。
それは、そこで生まれたものの右腕に鬼の力が宿ると言うことである。
約二世代前ほどから発現し始めた。
しかし、鬼ヶ崎市以外では発現はおろか、能力者でさえ使用することが出来ないのだ。
原因はまったく不明。
そしてほとんどの能力が人を殺めることができるほどに強大な力を持ってる。
そのせいで、その力を用いた犯罪が大量に発生した。
強盗に殺人、力を手に入れた人間が行う行動がいかに愚かなことかを知る事となってしまった。
能力を用いた犯罪の全てを法で裁くことはとても難しい事だった。
そこで、鬼ヶ崎市は非公認犯罪取締組織通称N eCOを設立した。
国としても能力者が鬼ヶ崎市以外で能力を使えるようになるかもしれないと言う可能性がゼロではないと判断をし、非公認と言うよりは黙認というのが正しい表記である。
NeCOは鬼ヶ崎市内にある12の区に1つづつの支店のようなものが存在している。
一つの区で一つのチームとなっており、基本的には区ごとに行動をしている。
そしてそのチームのリーダーの12人の事を12星会と呼ばれている。
その中でもとりわけ1区のリーダーは強い。
そして12区はNeCOの恥さらしと呼ばれているため、1〜12が強さ順とかんちがいされていたりもする。
なぜ12区が恥さらしと呼ばれているかというと、基本構成メンバーの6人全てが孤児であり、なおかつ気性が荒いメンバーが多く街への被害が大きかったりするところからそう言われてる。
そう言った噂をよく聞くので、郡上 淳(ぐじょう あつし)は今回の異動が嫌で仕方がなかった。
もともと3区で働いていたのだが、3区のNeCOは人が多く、何人か他の区に異動するというのは聞いていたが、まさか自分が12区に異動させられるとは思わなかった。
異動決定の紙を見ながら何度目かのため息をつく。
12区は孤児の多い街である。
その理由としては、協会や神社や寺などが多くあり、育てられねくなった親が捨てに来るらしい。
電車の窓からも何個か協会を見かけた。
目的の駅まではあと五分くらいなので寝ようにも寝るほどではないし、かと言ってぼーっとするには長すぎる。
まあ、ぼーっと外を眺めるのだが。そんな事は、すぐに出来なくなってしまった。
「うごくな!」
そう誰かが叫んだ。
声の方を見ると、ナイフを女性の首元に向けていた。
「俺に近づくな!近づいたらこの女を殺す!」
あの男は、ここが異能力に溢れたところだとわかっているのだろうか?今捕まえている女の人が強い能力者という可能性もあるのに。
なんて、呑気に見て要られたのは男の左手の人差し指を見るまでだった。
(あれは!DoGの指輪ではないか!)
DoGとは、Devil of Gardenの略称で、いかれた思想の奴らが集まるところである。
そして構成員は全員が手練れ。
理由などないのだろうが、奴はこの電車に乗っている人間を皆殺しにするつもりだ。
奴らはそういう奴らなのである。
普通のチンピラ程度なら、NeCOのこのバッチを見せれば怖気付くところだったのだが、奴らに脅しは聞かない。
人を殺すためなら死んでも構わないと本気で思っているのだから。
今奴は僕がNeCOだとは気づいていない。なるべく気づく前に倒したい。
奴の持っているナイフに僕の能力を当てれば、女性も無傷とはいかなくても助けられるはずだ。
そして、犯人に気づかれないように右手を人のものから異形のものへと変貌させる。
(頼むぞ。雷鬼。)
そう心の中で思い、さらに心の中で技を叫ぶ。
(我が右手に宿る鬼『雷鬼』よ、力を貸したまえ。『ミニスパーク』)
人差し指からいつもより小さく威力の小さい雷を打ち出す。
ナイフを避雷針の代わりに使い、奴の体に流し込む。
殺す事はできなくても、気絶くらいならできるレベルである。
これで女性の方に流れても、被害は最小で抑えられる。
「ぐあぁ。」
電気を浴び力が抜けたのかその瞬間に女性も逃げ出した。
乗客には何が起こったかわからず戸惑うものもいたので、ここで正体を明かす。
「みなさん大丈夫です。今のは僕の雷です。僕はNeCOです。皆さんの味方です。」
そう言って、胸のところにある猫のバッチを見せた。
すると乗客の顔が緩み始めた。
緊張から、顔がこわばっていた人たちが一気に解放された瞬間を見て、この仕事の良さを再確認する。
「なに調子乗ってんだ?」
「え?」
さっきの男の声聞こえ振り向くとすでに男の右腕は淳の顔の近くまで来ていた。
とっさにガードをしたが急だったので吹き飛ばされてしまった。
喰らった場所が少しピリピリするのと、さっきの電撃がきかなかったことから、奴は僕と同じ電気系統の能力だろう。
電気系統の能力者は全員ではないがほとんどのものが自分の体内にある電気を活性化して放出する以外に、外にある電気を取り込むことが可能なのだ。
先ほどの攻撃は吸収されたと思って良いだろう。
「さっきの電気のお返しだぜ。」
そう言って、電気を撃ち放つ。
僕の後ろには沢山の人と操縦席がある。避けたり、受け流す事はできない。
「はっ!」
僕がとったのは先ほどのやつと同じ行動、吸収である。
「ほう。では、おかわりをやろう。」
4発ほど吸収して体に限界がきた。
体の右腕しか電気を入れることができないため、あまり容量自体が多くない
それに加えて、右手以外は電気に強いわけではないので痺れてきた。
あと1発吸収する事は可能だが、早く発散しなければ右腕がもげるだろう。
だが、立ち塞がらなければならない。
なぜなら、僕はNeCOだから!
「ほう、まだ立つか。将来有望だが残念だ。ここで死んでしまうのだから。悪く思うな、もっと遊んでやりたいが、俺も仕事があってな。この電車を爆破せねばならん。そのためにお前は邪魔だ。」
そう言って、名前も知らないおっさんは僕に右手を向けた。
乗客の誰もが負けを悟った時、奴に後ろから声が聞こえた。
「なあ、邪魔なんだけどよー。どいてくんねーかな?」
しかしそれに対して男は無視した。
そして、吹き飛ばされた。
「無視してんじゃねーぞ、このゴミやろーが!」
彼の右腕からは炎が少し出ていた。彼は炎系の能力者なのだろう。
「あの…ありがとうございます。」
「気にすんな。俺はNeCOだからな。人を守るのが仕事なんだよ。」
悪人みたいな声で言われても説得力がなかったが、助けられたのでなにも言わなかった。
「なあ、お前、そのバッチをつけてるって事はNeCOか?」
「は…はい。」
まだ体が痺れてうまく話せない。
「そうかそうか。じゃあ、お前が3区から異動になった郡上 淳だな?」
「そうですが…なぜそれを?」
「俺もNeCOだって言ったろ?12区のNeCOのメンバーの土岐 貢(どき みつぐ)だ。これからよろしく。」
悪人感満載のその人が僕の12区生活の最初にあったNeCOメンバーであった。
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