第11話
「今日も霧がすごいな」
寝ぼけ眼を擦り、ロウは閉めていたカーテンを開ける。昨日に引き続き、窓の外には一寸先も見えない霧がかかっていた。
「晴れない霧とかこの世界では当たり前なのか?」
ロウが生きていた世界では晴れない霧などあり得なかった。しかし、この世界とでは常識も環境も全く違う。その為、この世界では霧が晴れるというのはさほど珍しいことではない可能性があった。
「キャシーに聞いてみるか」
宿屋を営んでいるキャシーならこの霧のことを知っているだろうと考え、フロントへと降りる。
階段を降りていると出入口に立っているキャシーを見かけ、声をかけようとするが、少し様子がおかしかった。一度を足を止め、様子を伺うと物陰から小太りの中年男性が現れる。
そして、食べ頃の豚が飼い主にのしかかるように抱きつきくとホテルから出ていった。
謎の男が去った後、ロウはようやく階段を降り、キャシーの傍に行く。
「あの人は?」
「……お客様ですよ」
間を開けて、キャシーは不快な様子で答える。声は震え、汚れを落とすように服を叩く。
客にしては距離感が近すぎるとロウは不審に思った。どう考えても親しい関係でなければおかしい。
「随分と遅くに来たんだな」
気になって探りを入れるが、話したくないのか頑なに口を開けようとしない。
誰にだって話せない事情というものを抱え込んでいる。政治家なら賄賂の受け取り。人妻なら不倫関係。ロウには異形の姿がある。それを深く入り込むというのは野暮である。
「俺には関係ないな。聞きたいことがある。いいか」
「はい。答えられる範囲なら」
これ以上の追及は止め、ロウは本題の霧についてを聞こうとする。
一方でキャシーは警戒心を剥き出しにしながら、ロウの話を聞こう耳を傾ける。
「この町の霧って晴れないものなのか?」
「そうなんですよ。珍しいですよね。でも、つい最近なんですよ。霧が出たのって」
「そうなのか」
「始めは工場から出た煙じゃないかと言われてたんですよ。毒性があったから。でも、調査の結果は全くの無関係」
キャシーの話によればこの町を覆う霧は突然発生したもの。人の手によって作られたものではない。疑惑が確信に変わる。
「なるほど。貴重な話をありがとう」
些細な情報でもないよりかはマシである。触れらたくないことに首を突っ込みかけ、迷惑をかけたにも関わらず親切に答えてくれたキャシーに頭を下げる。
「これから何処に行かれるのですか?」
「ちょっとこの町を散歩しようと」
「ならガスマスクを!」
「いいさ。俺の体は人一倍頑丈だから」
そう言って、ロウは霧かかる町に出る。
「さて、何処にいるのか。転生者」
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