第九話 地上へ!
ナスタが王になり、ブルー達が王国へ来てから二年の間、世界は大きく変化していった。
竜人と人間の間には正式な同盟が結ばれ、これにより魔人による人間への侵略行為があった場合などは、竜人が人間への支援、ならびに援護を認められた。
この事が功を奏したのか、魔人の人間への侵略行為は収束に向かった。
だが、魔人がこのまま完全に退くことはあり得ないと両国は重々理解していた。引き続き魔人への警戒と、今後の対策について頻繁に議論はなされた。
さらにアルストロメリア、ゼラニウム両国は獣人の代表国であるガザニア王国とも同盟を結ぶべく動き出していた。だが、ガザニアの王シャガは人間に対し根強い敵対心を持っており、中でもゼラニウム帝国とは一時期戦争になりかけたという歴史もある。
同盟を結ぶには多くの時間が必要とされていた。
竜人と人間は、同盟を結んでから双方の交流がとても順調だった。
竜人は地上へ赴いては人間に戦い方や、国や町を守るための壁の作り方を教えた。魔力を用いて小さな村や町にも結界を張ったり、怪我人の救護に回復魔法を使っての治癒も行った。
アルストロメリアにも多くの人間がやって来ていた。もちろん空を飛ぶ術がないので、大型のドラゴンになれる竜人が人間をまとめて送り迎えするという流れだ。
人間もその手先の器用さや独自の知識を元に、竜人の国にはない農作物、薬草等を持ち寄り、育て方を教えた。また地上でしか採れない素材や鉱石も竜人に与え、それを使った武器、防具の作り方も教えた。
長い間途絶えていた竜人と他種族との交流。双方の国が互いの技術を教え合い、大きく発展していった。
だがもちろん問題がないわけではない。
人間の中にはドラゴンという存在に怯え、竜人自体に近寄れない者も多かった。同盟自体に抵抗感のある者も少なからず存在している。自分と違うものを受け入れる事はたしかに容易な事ではない。
ナスタは人間と接する竜人は、必要以上にドラゴンの姿にならぬよう命令を下した。
この二年間働き通しのナスタだったが、民の前では顔色一つ変えずに王としての仕事をこなしていた。
18歳になった王は髪がさらに伸び、それを後ろにくくっていた。
「失礼します」
「ああ、ソレルか。また僕の大好きな仕事を持ってきてくれたのかい。優しい男だな!」
「まあそうおっしゃらずに…」
ソレルは字が読み辛くなったと言って眼鏡をかけ始めた。この眼鏡が老眼かそうでないかは…気を使って誰も聞けずにいた。
「たまにはこう言う事も言わせてくれ。真面目な話ばかりしてると顔がかちかちに固まってしまいそうだ。で、どうしたんだ?」
「地上にあるカランコエ王国なんですが、少し気になる情報が入っております」
「魔人か?」
ナスタが厳しい表情になる。
「いえ、魔人絡みではないのですが…その国の姫君が、国の決まりで15歳になると必ず旅をさせるらしいのです」
「…ほう。確かカランコエの王族は、代々女性はかなり強力な魔法を使えるんだったな。で、旅とはどういったものだ?」
「本格的に魔法の訓練を始める前に、三つの遺跡で祈りを捧げなければならないらしいのです。そのために国から選ばれた兵士一人と、姫君の二人だけで遺跡を巡る旅をさせると…」
「なんとも危険な話だな。…王国の姫ならもっと大勢で守らんのか?」
「その旅で姫自信がある程度強くなる事も目的とされているのと…王国からさほど離れていない場所に全ての遺跡があることから、そこまで危険ではないらしいのです」
「しかしな…人間で唯一の強い魔法使いと言っても過言ではないのだろう?そのお姫様は。それを何もこんな時に…中止にできんのか?魔人に狙われても知らんぞ」
ナスタは御立腹だ。
「カランコエの王は中止にする気は無いと言っています。大した事では無いので竜人は気にしないでほしいと…」
ナスタは大きな溜息を吐いた。
「迷惑な話だ。それで何かあればせっかく同盟を結んだのに、竜人は何もしてくれなかったとどやされるのだろう」
「その可能性はあります。なので提案なのですが、ケツァール隊から見習いを一人、行かせたいのです。竜人の見習いを一人つけるだけと言えば、カランコエの王も承諾してくれるのではないかと」
「あまり強くない者を護衛につけるから、姫の修行の邪魔はしませんよ、ってことか。で、本当に見習いを行かせるわけではないよな?そう行っておいて強い奴を行かせるんだろう?」
「いえ、実際に行ってもらうのは見習いです」
「…おいソレル。ケツァール隊の万年見習いはアイリスだけじゃないか!彼女を行かせる気か?」
「はい」
「だ、大丈夫なのか」
「ご安心を。表上はアイリス一人に行かせますので」
「…なるほど…いや、しかし…それならば最初から奴だけに行かせれば…」
「竜人を行かせなければ、竜人が手助けした事になりません。国としての恩を売れませんよ」
「あ、ああ…まあそうだが…本当に大丈夫なんだろうな…魔人は来ないとしても、彼女に護衛が務まるのか」
「ご心配なく。見習いといっても二年間、隊で訓練してきましたから。美しく、輝いてくれますよ」
「おまえ…時々ちょっと怖いな…」
「そうですか?」
◆
「アイリスがんばれ!」
「今度は絶対いける!」
「落ち着いて!」
仲間の声援に後押しされながら、アイリスは剣を鞘から引き抜いた。群青色のマントが風にたなびく。
「では、行きますよ」
ネリネが手を上げる。
「はじめ!」
「でええい!!!!」
勢いよく大地を蹴る。目の前にはアイリスと同じ歳の眼鏡の少女が、同じく剣を握りしめ立っている。
「はっ」
少女は素早く手を振りかざすと、突風がアイリス目掛けて放たれた。
「効かーぬ!」
ふんぬと剣を振り下ろし突風を蹴散らした。
そのまま眼鏡の少女目掛けて剣を振りかざす。少女がそれを剣で受けた。ぶつかり合う音が響き渡る。
「ふんぎぎぎぎ…」
「あ、アイリスダメだってば、そんな変な声出したらまた落とされちゃうよ…」
「わかってるよおおおお」
ガギンッ
鈍い音と共に両者が一旦距離をおく。
「ヘルの魂、ここに君臨せよ!」
アイリスの剣が瞬く間に氷の刃と化す。
そして再び少女に挑んだ。少女は呪文を素早く唱える。そして持っていた剣を地面に放り投げると、両手を高く掲げた。
「ファイアウィンド!」
炎の塊がゴオ、と音を立ててアイリスに襲いかかる。
剣で叩くか。でもあの威力では氷の剣でも凌げない。ならば…
炎にぶつかる寸前、アイリスは下を掻い潜るように低くスライディングした。前髪が少し焦げるのがわかる。
「しまった!」
眼鏡の少女が剣を取ろうとしたが、一足遅かった。目の前には氷の剣先が真っ直ぐに少女を捉えていた。
「やめ!勝負あり!勝者、アイリス!」
ネリネの声にアイリスがホッと息を吐く。
「アイリス!ほら、忘れてる!」
眼鏡の少女が小声で教えてくれた。
「か、華麗に舞い!この国を守るために光り続ける事を誓う!」
そう言うと、アイリスは剣を高々と掲げた。
肩まで伸びた白い髪とマントが華麗に風に舞う。
しばらくの沈黙が続く。
ぱちぱちぱち…
遠くから誰かの拍手が聞こえてきた。
「素晴らしい…アイリス…合格です!…見習い卒業です!やりましたね!」
ソレルが涙ぐんでいる。アイリスはようやく緊張の糸がほつれ、その場に力なく座り込んだ。
「やったー!アイリス!!」
「よくやった!」
「おめでとう!」
「今日はお祝いだー!」
仲間が駆け寄ってくる。あるものはアイリスの頭を叩き、またある者は思い切り抱きしめた。泣いている者もいる。
「よ、よかったー…」
アイリスは天を仰いだ。眩しい太陽がアイリス達を照らしていた。
◆
「長い道のりだったな、アイリス」
ナスタから、ケツァール隊に正式に所属した事の証である、尾の長い鳥が掘られた銀の勲章を授与される。
「ありがとう!ナスタ!」
「こら、アイリス。王と呼びなさい!」
ソレルが叱る。
「あ、ごめんなさい王様…」
「はは、かまわんさ。それよりブルーはどうした。せっかくの晴れの舞台におらんとは」
「今日も仕事が忙しくて来れなかったの。あ、来れなかったです」
「そうか。奴もかなり忙しそうだからな。モンステラが武器を持ってきてくれる時に、いつも自慢げに弟子の話を聞かせてくれるよ。なんせ彼曰くブルーは天才らしいからな」
「天才かー…なんかモン爺があまりに町の人に言いふらすもんだから、当の本人はすごく嫌そうだけど」
モン爺とはアイリスがつけたモンステラのあだ名である。
「今日は家でお祝いか?」
「うん!あ、はい!」
「そうか。羨ましいな」
「ナスタ…様もおいでなすって?」
「ふっ…なんだその言葉は…せっかくだが先約があってな。今日はゼラニウム帝国のラナン皇帝と、楽しい会食だ」
「あ、じゃあ先生もそっちに行くんですか?」
「いえ、そちらへはコリウスが言ってくださいます。ナスタ様の計らいで今日は私も…この後あなたと家に帰る予定ですよ」
「やったあ!先生の手料理が食べられる!ナスタありがとう!」
「だから!呼び捨てにしない!」
「おいおい、俺は早く帰らしてくれねえのかよ王様」
ライラックが書類の束を持ってやってきた。ボロボロの赤マントは新調され、綺麗な真紅のマントが揺れている。
「ライラック。あんたは自分で仕事を溜めすぎただけだろう。早く帰られるかは自分次第だ」
ナスタが冷静に言い放つ。
「っち、やってらんねえよ…なんで俺がこんな地味な仕事…」
ライラックはがっくりと肩を落とした。
「地上でモンスターと戦ってる方がマシだぜ」
「文句言わないでください。あなたの分も作って待ってますから。早く終わらせてくださいね」
「しかたねえな…」
ライラックはおとなしく書類を持って去っていった。
いつもの二人のやりとりに、アイリスとソレルは顔を見合わしてクスクスと笑った。
◆
「ブルーまだかな…」
「きっともうすぐ帰ってきますよ。アイリス、お皿を出してください」
外は真っ暗だ。アイリスは溜息を吐きながら椅子から立ち上がった。
ガチャ
扉が開く。
「ブルー!」
「おう、ブルーじゃなくて悪かったな」
ライラックが先に帰ってきた。アイリスはがっくりと肩を落として大人しく皿の用意をし始めた。
「おまえなぁ…」
ライラックが呆れた様子で文句の一つでも言おうとしたその時。
「ただいま」
「ブルー!」
アイリスが走って出迎えに行く。この数年で背が大きく伸びたブルーは、入口の戸を屈んで入らなければいけなかった。ソレルよりも少し背は高くなり、ライラックと同じくらいになっていた。
「おかえりなさい!」
「はいよ。遅くなって悪かったな。これ、入隊祝いのプレゼント」
ブルーはアイリスに腕輪を渡した。
白地にゴールドのラインと、ホワイトドラゴンが二匹、描かれている。大きなドラゴンも小さなドラゴンも、どちらも嬉しそうに笑いながら空を飛んでいた。
「こ、これ…ブルーが作ったの?」
「うん。絵、下手でごめんな。モン爺に何遍もダメ出しくらってやり直したから、ちょっとはマシだと思うけど」
「…ありがとう…ブルー」
「おう。あー、腹減った。わ、やった!今日先生のハンバーグじゃん!卵のせて卵!」
ブルーが早々に椅子に座った後も、アイリスはしばらく入口の前で腕輪を眺めていた。その眼にはうっすらと涙が滲んでいた。
「…アイリス、さあ、いっしょに食べましょう」
「…はい先生!」
溢れる涙を拭い、アイリスは元気良く言った。
◇
「アイリス。ブルー。二人にお話があります」
「どうしたんですか」
「突然ですが一週間後、二人には地上へ行ってもらいます」
アイリスは口に含んだ食後のバナナを一気に飲み込んでしまい、激しくむせ込んだ。
「地上って、どこで何をしに?」
ブルーが尋ねる。
ソレルはカランコエ王国の、例の件について二人に話をした。
「カランコエ王国って…あそこに俺たちが?」
「ええ。姫様の護衛をお二人にお任せしたい」
「私でいいのですか?二年越しで今日やっとケツァール隊に入れたような奴ですけど…」
「だからこそです。あなたの力を今こそ存分に発揮してきなさい」
「…はい!」
「ブルー。あなたは姫様ももちろんですが…アイリスを守ってあげてくださいね。お願いします」
ソレルがブルーに頭を下げた。
「先生、頭なんか下げないでくださいよ。わかりましたから」
ブルーが慌てる。
「なにみっともねえことしてんだ」
ライラックはワイン片手にふんぞり返り、赤い顔でブルー達を見た。
「守ってくれる奴はもういねえ。お前達だけでしっかり任務をこなして来い。わかったな」
ライラックはひっく、としゃっくりをする。
「大袈裟だな。話だけ聞いてたらすっげー楽そうな任務なんだけど。…わかったよ、ライラック」
「よーし!私、がんばる!」
その日夜遅くまで四人で話をした。そういえば、最初に竜人の国へ来た日も、こうして四人で食事をしたな。ブルーはそんな事を思い出しながら、ソレルとライラックの顔を眺めた。二人共、皺や白髪が少し増えた気がする。
あれから五年。
ついに地上へ戻る日がやってこようとしている。しかも生まれ故郷のすぐ近くだ。
自分はあの頃と、見た目はともかくとして、何か変わっただろうか?
四人の期待と不安を飲み込むように、夜は更けていった。
◇
「ブルー、寝た?」
「いや、起きてるよ。どうしたの?」
「あのね、私ちょっと怖いの」
「任務の事?」
「だってさ、私小さい時にドラゴンになって暴れちゃったからさ、みんな怒ってたらどうしようかと思って」
「大丈夫だろ。あれから五年も経ってるんだ」
「そうかなぁ…家がなくなったり、怪我しちゃった人もいたんだよね」
「まあな」
「やっぱり謝った方がいいよね」
「…べつにいいだろ。アイリスだってわざとじゃなかったんだし」
「うん。でもね。わざとじゃなくっても、謝った方がいい時もあるよ」
「そう?」
「そうよ。ケツァール隊の訓練の時も、わざと怪我させたわけじゃなくても、謝るもん」
「じゃあ謝っとこう」
「うん」
「タンジー村、寄るか」
「うん!お母さんとお父さんとルドに会いたい!」
「そうだな」
ブルーは大きな欠伸をした。
「寝るか…おやすみ」
「…すー…」
「…もう寝てる…」
アイリスの寝付きの良さは昔から変わらなかった。
ほどなくして、ブルーもすやすやと寝息をたて始めた。
◆
出発当日の朝、二人は準備を済ませるとナスタ王の元へ向かった。
ブルーは前日のうちにモンステラに別れを済ませていた。
幸い、今はブルーの評判を聞いて電気整備士として働きたい若者が、竜人、人間合わせて数人集まっているので、モンステラの負担はだいぶ軽くなっていた。彼らはブルーのわかりやすい指導でそつなく仕事をこなせるようにまでなっている。もしものためのキカイの使い方を分かりやすく記したマニュアルも残してきたので、これでアルストロメリアの明かりはしばらくは消えはしないだろう。
さらにこの二年間、ブルーとモンステラは銃の研究も続けていた。
なんとか似たようなものは作ることができたが、やはり威力や使いやすさに関してはまだまだ改善の余地ありといったところだった。
モンステラは餞別として、二人で作った最も出来栄えの良い銃をブルーに持たせてくれた。
同盟後、ブルーが人間だった事を告白した後もモンステラは何も変わらなかった。むしろ、国民の中で一足先に人間と交流したと皆に自慢していた。
別れの時、モンステラは眼鏡の奥の胡麻の様な眼から涙をポロポロと零しながら送り出してくれた。
目の下にくっきりとクマを作った王が二人を出迎えた。
「ナスタ…大丈夫?凄く疲れてそう…」
アイリスが心配そうに尋ねる。
「案ずるな。大丈夫だ。それより自分の心配をしろよ?始めての国を背負った任務なのだからな。気を引き締めてかかれよ。…では、アイリス、ブルー、カランコエ王国の姫君のこと、よろしく頼むぞ」
「「はい!」」
二人は声を揃えて返事をした。
「ブルー」
「ん」
「そなたの町での功績、非常に感謝しておる。ありがとな」
ナスタがふわりと笑う。
「べつに…楽しんでやってたから」
「そうか。それはよかった。…よし、では行って参れ」
ブルーとアイリスはナスタの書状を持ち、城を後にした。
「ブルー、アイリス」
ソレルとライラックが城の入口に立っている。
「書状はもらいましたか?」
「はい」
「忘れ物はないですか?剣は持ちましたか?薬草は?」
「過保護すぎんだろ、おまえ。こいつらももう18と11だ。アイリスはともかく、ブルーはもう大人だぜ」
ライラックが欠伸をする。
「わかってますよ…。二人共、しばらく会えなくなると思いますが、寂しくありませんからね。辛い時はケツァール隊の言葉を思い出すんですよ」
「あ、はい…」
ケツァール隊の美しい言葉に果たして救われる時がくるのかどうかは不明だ。
アイリスがホワイトドラゴンになる。風が体毛を揺らした。ブルーが荷物を載せ、自分もアイリスの体によじ登る。
「なんか…でかくなってない?」
「そうかな?」
「太ったんじゃないか?」
「失礼ね!成長したの!」
アイリスが急発進する。ブルーは衝撃でがくんと首が揺れた。
「いってらっしゃいブルー!アイリス!」
「いってきます!」
アイリスは最初ふらふらとしていたが、途中から軌道に乗り、優雅に飛んでいった。
ソレルとライラックは二人の姿が見えなくなるまで見送っていた。
「…にしてもよ。やっぱり気に入らねえな。カランコエの王」
「娘を危険に晒すことがですか?」
「ああ…なにもこんな時代に、しきたりに忠実にならなくてもいいだろう」
「それは私も気になっていました…」
「お参りなんざしなくても、さっさと魔法教えてやれよってんだ」
「魔法…」
ソレルはもう一度空を見た。アイリス達の姿はもちろん見えない。
何か妙な胸騒ぎを覚える。
「ライラック、あなた確かアイリスを探していた時に、獣人の情報屋と知り合いになったと言ってましたよね」
「へ?ああ、まあな」
「お会いできませんか?」
「なんだよいきなり」
「ちょっと…気になる事があるんです」
強い風が二人のマントを激しく揺らした。遠くから、さっきまではなかった雨雲が、ゆっくりと近づいてきていた。
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