第十三話 旅立ち
ライラックがアイリスを連れて家に帰ると、玄関には目を腫らせたローズが立っていた。
「早い方がいいわ。アイリスを探してる奴らがいる…」
カランコエの王にはアイリスを地下牢から連れて帰ることを承諾してはもらったが、他の人間はまだアイリスを自由にすることに反対している者が少なからず存在していた。
「わかった」
ローズは手に持っていたアイリスの荷物をライラックに渡した。
「アイリス」
ジニアがアイリスをきつく抱きしめる。
「すまない、アイリス」
「お父さん…」
少し離れたところで、怯えた様子のルドが立っている。
「ルド…」
アイリスが声をかけると、ルドはすぐにローズの後ろに隠れてしまった。
家の扉が開いて、荷物を持ったブルーが出てきた。
「ブルー、おまえ…」
ジニアが驚きの声をあげる。
「ライラック。俺も連れて行って欲しい」
「ブルー!!」
アイリスがブルーにしがみつく。
「本当にいいんだな?」
ライラックが尋ねる。
「うん。俺の居場所がどこなのか、それはまだわからないけど、今はアイリスのそばにいてやりたいんだ」
「…なるほどな」
ライラックは二度、三度と頷き、ぽりぽりと頬をかいた。
「おまえさ…」
「なに?」
「いや…なんでもねえよ」
「ちょっとあんた」
ブルーが振り返る。ローズにどさっと大きな荷物を渡される。
「どんだけ長旅になるかわからないんだから、こんぐらい持って行きなさいよ」
「あ、ありがとう(重い…)」
「ローズ…知ってたのか」
ジニアが戸惑いながらローズに尋ねる。
「あたりまえさ。自分の息子の考えることぐらいわかるわよ…冒険者だったあたし達の血をしっかりと受け継いでるんだから!…ブルー!アイリスを頼んだわよ!!怪我でもさせたらしょうちしないよ!」
「よし、いくか」
ライラックがドラゴンに変身する。ブルーが荷物を載せている間に、アイリスはローズに駆け寄っていった。
「お母さん…ごめんなさい…大嫌いなんていってごめんなさい…アイリス、お母さん大好きだよ」
「…アイリス!」
ローズは力いっぱいアイリスを抱きしめた。
「ごめんねアイリス…ごめんね…」
「大丈夫だよお母さん」
ローズはアイリスから離れると涙を拭って懸命に笑顔を作った。
「いってらっしゃい。アイリス」
「うん!」
「…アイリス」
ルドがアイリスに近付く。
「これ、持ってて」
「いいの?」
祭りで買ったネックレス、輝く月の石をアイリスの首にかける。
「いつか…必ず返しにきて…僕、待ってるから」
「うん」
「ルド、俺には?」
「兄ちゃんにはないよ」
「おい、そろそろ行くぞ!」
ライラックが呼びかける。
先にライラックの上に乗ったブルーがアイリスを引っ張り上げた。
なんかつるつるしてるー、とアイリスが騒いでいる。ブルーは二人とも落ちないようにライラックの背にある硬い鶏冠のようなものに二人の体をロープで括りつけた。
「いいか、飛ぶぜ」
「うん!」
ライラックの翼が上下に羽ばたくと、ふわりと浮かんだ。
「ねえ!また会えるわよね!」
ローズの問いにライラックは、
「人間が俺達竜人を必要とするなら…必ずまた来るさ!」
そう言い残し空高く飛び上がった。
城の窓から、シオンは真紅のドラゴンが青空を飛び去っていくのを見た。
ドラゴンの背には、まだ自分と変わらない歳の子供達が乗っていた。噂の竜人の少女だろうか。彼女達がこれからどこへ行き、どんな運命を辿るのかはシオンには想像もつかない。
「姫様」
モンスターの襲撃で多少の傷を負ってはいたものの、爺やは無事に生還していた。
「大きなドラゴンですなぁ」
「ええ…」
「皆ドラゴンはモンスターと同じだと言っていますが…私にはそうは思えません。彼等はその昔、星の戦いで我々人間と共に戦った仲間だったのですから…」
シオンは口を開かぬまま、ドラゴンが遠く見えなくなった後も、その空をじっと見つめていた。その横顔に、爺やは在りし日のアザレア姫の面影を見た。
日々成長していくシオンがこの先どの様な大人になり、どの様な思想をもち生きていくのか、自分の身体が動けなくなるその日まで、できる限り側で見届けていたいと、爺やは思った。
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