第13話 しゅうせん

 愛里沙が槙侍と共に因幡黎を倒すと言った時、槙侍は何を言っているのかわからなかった。戦闘経験ゼロの少女が世界の生死の一択戦に参戦するのだそうだ。

「一緒に戦えば怖くない。それにあたしは王様からあることを託されたの。これでも私は大地の女神ガイアなのよ。」そう言い、白と薄ピンクで彩られた杖を取り出した。

「私には女神の力がある。槙侍には新の光の勇者とアミュレットと経験という力がある。けどあたしは魔物と戦ったことは無い、けど魔力を使うことが出来る。因幡黎の討滅に必要な力、虹属性魔法・ノクティスを。」

「討滅に必要な力があるのか。」

「うん、ノクティスを使えば因幡黎の心の深淵にある憎悪をかき消して、闇と化した因幡黎ことギドウバーンを倒すことが出来るって。それ以外にも回復とか補助とかできるし一緒に戦わなかったら勿体ないよ。」

「勿体ないのか……それは嬉しいが、ノクティスを使う時にはそれに集中して欲しい。魔法は使えないが、アミュレットを使うだけでもかなり身体の消耗が激しい。自身の魔力から魔法を繰り出すとなるとそれ以上に体への負担が大きいはずだ。あまり多用はしないでくれ、いざって時に倒られたら困るからな。」

 愛里沙の本当の笑顔を見たのはいつ以来だろうか、何故か槙侍は癒しを感じた。この感覚は何なのかふと疑問が過ぎる。だが槙侍は前を向きひたすら因幡黎が待っているであろう頂上に向かう。



 愛里沙の戦意を聞き、槙侍は少し冷静さを取り戻した。どうやら戦うことだけを考え視野が狭くなっていたようだ。これではアメリカ軍と同じだ。しかし、これ以上アメリカの方にも罪を被せたりしない。平和な世界を作るんだ。

 槙侍と愛里沙は頂上へやってきて目の前にいる人間、因幡黎を睨みつける。

「初めましてだね、君たちの活躍は見ていたよ。えぇ、非常にいらぬ真似をしてくれました、そのアミュレットを司る精霊に異界の者、そして大天空城の者達。そして何より瑞島槙侍、貴様さえいなければ、貴様さえ死んでいれば私は混沌の世界を創世できた。時と運命には逆らえない。その理を設けられてから感じたのだよ。私も所詮哀れで愚かで新の光の勇者に倒される運命なのだと。さぁ、終わらせようか、この無意味な世界をどちらが手にするのかを。」

「必ず勝つ。信じよ、皆の想いを。光の加護よあれ!」

 因幡黎と槙侍は互いに剣を抜き斬りかかる。槙侍は光のアミュレットで剣に力を与え戦う。黎は混沌の力で剣に纏わせるがどちらも互角。互いの剣が交わる度に火花と鉄の想い音が周囲に飛び散る。

 互いに隙を見せない互角の戦いが続く。しかし、黎は華麗に体を回転させながら件を振るって、槙侍は横からかなり強い魔法をくらった。槙侍はその衝撃で塔の隅まで吹き飛ぶ。その刹那、黎はさらなる追い打ちをかけ剣突進してくる。透かさず槙侍は対抗するが、腹に蹴りを入れられてさらに吹き飛び塔から落ちる。

「槙侍ぃ!!」愛里沙の悲鳴が聞こえた時には遅かった。槙侍はガイバオ塔から現実世界の地上目がけて落下している。手を伸ばそうにも掴まるところはない。

 槙侍は死ぬことを覚悟してしまった。力が及ばなかったことを含めて。槙侍はそのまま落下し続けていた。

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