第3話 しれん

 瑞島槙侍は崩壊した日本を旅する戦士だ。故郷であるオクタマで風のアミュレットを手にし、次の目的地である富士山を目指していた。

 このアミュレットは、天に翳すだけで誰でも魔法を使える代物で、恐らく先日聞いた声は4精霊のうちの風を司る精霊だろう。

 その声が発した言葉通りに、燃え尽きる山こと富士山を目指す。「新たな神具がある。」や「我らが4精霊のものがいる。」ということは、恐らくそこにもアミュレットがあるはずだ。槙侍は夜になっても歩き続け、ひたすら山の中をさまよう。


 タチカワを出て何日経っただろうか。もうすぐで旅立ちから1ヶ月は経つはずだ。もはや今が何月で何日なのか分からない。既に時間すらも狂っているのかもしれない。今は暑い季節としか言えなかった。

 そんな過酷の中、槙侍は富士山の入道に辿り着いた。ここからが本番で、ここも地形が変わっており、至る所に空洞ができている。

 槙侍は最も地上に近い空洞を選び、中に進む。空洞の中は狭く、岩から水が垂れてきてジメジメしている。オクタマの森の中の足場の悪さと同じかそれ以上かに悪く滑りやすい。槙侍は気をつけながら、中を探索する。どうやら、この空洞は地中深くまで続いているようだ。

 しばらく歩くと、魔物のお出ましだ。風のアミュレットと剣を駆使しながら戦う。さすが火山の魔物だけあると槙侍は思う。当たり前かはわからないが、ここの魔物は火の魔法を扱う。水のアミュレットが存在するのならば、それで戦いたいくらいだ。風だと分が悪い。

 炎の魔物は今まで戦った魔物とは格が違って手強かった。槙侍は諦めずに先へ進む。

 最深部だろうか、開けた場所に出て、細い道はあるが落ちれば溶岩にダイブすることになる。奥には台座みたいなのがある。

 槙侍は細い道を慎重に進み、台座まで歩み寄る。台座には風のアミュレットと同じ形状の物がある。これが火のアミュレットだろうか。槙侍は手を翳そうとした瞬間、大地が揺れ溶岩から溢れる炎が槙侍の目の前に襲いかかる。次第に炎は人間のような形になり問いかけられる。

「我は炎を司る4精霊なり。汝は己の力を何処へ。」

「私は世界の平和のため、この崩壊した世界の真相を知りたい。」

「風に認められた子よ、その輝く力を我に試せ。さすれば、火の加護を認めよう。」

「了解した。精霊といえども容赦はしない。全力で行かせてもらう。」

 槙侍は剣を抜き火の精に立ち向かう。火の精は口から炎を吹いたり火の玉を無数に投げつけたりしてくる。槙侍はそれを避け火の精目掛けて剣で斬りつける。

 火の精はすかさず距離を取って再び同じ攻撃をする。槙侍は剣で炎の玉を切り付け、盾で防いだ。

「同じ攻撃が通用すると思うな。精霊らしく本気で戦わんか!」

 槙侍は火の精を挑発し、再び攻撃しに行く。

「いいだろう、その心意気とまっすぐ心情を認めよう。」

 火の精は溶岩の炎から力を蓄えて、力強い拳を槙侍がくらい、壁に吹き飛ぶ。一撃が非常に強烈で立ち上がるのが困難だ。

「どうした、さっきまでの戦意はどこ行った。もっと我を楽しませてくれ。」

 槙侍はボロボロになった体を無理矢理起こし、戦いの構えをする。そして、風のアミュレットを剣に翳し、剣が風を纏う。

 火の精はさらに力を蓄えて拳に炎を纏わせる。

 互いの攻撃は互角のように見える。両者一歩も譲らない戦況だ。この戦いは長時間続き、共に身はボロボロだ。

「改めて問う。汝はなんのために世界を見る」

「失われた世界をより戻すため。私がやらなければ、何も進まない。再び美しい世界をこの目で見たい。」

「我は汝の性格、嫌いではないぞ。いいだろう、火の加護を与えよう。受け取るがよい。」

 火の精は台座にあるアミュレットを槙侍に渡した。

「感謝する。世話になった。」

「待たれよ。赤石山脈に氷の精がいる、水の加護を与えてくれるかもしれん。行ってみるがいい。」

「承知した。情報感謝する。」

 槙侍は火の精に礼を言い、その場を後にした。

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