2.曇の空
引っ張られながら歩きつつ。
分からないことをいくつか聞くと、男は快く教えてくれた。
恐らく、私のことは歯牙にもかけていないのだろう。死ねばいいのに。
――――この世界では、100年以上前に大きな戦争があった。
その戦争が終結するとともに、世界中が黒い雲に包まれた。
雲は現在に至るまで、一度たりとも晴れたことはなく。
同時に、一度たりとも止んだことのない、冷たい雨を降らしている。
私の身分は奴隷。
それもオークションに出される前の、主人が決まっていない状態。
まだ商品のため、肉体に傷をつけるわけにはいかず。
傷の残らない電流という鎖で縛り、罰を与えている。
買われた後の待遇は千差万別。
首輪付きから解放され、幸せに暮らす者もいれば、
地獄のような目に遭わされ、自ら死を選ぶ者もいる――――
さて、こうして情報を纏めて分かったことだけど。
私にはどうやら、記憶と呼ばれるものが存在しない。
親類縁者から友人に至るまで、その顔も名前も……自分の名前すら憶えていない。
神に嫌われるでもなければ、こんなことにはならないと思う。
昔の私、死ねばいいのに。
しばらく歩いた先には、部屋が1つ。男は、その部屋に私を押し込む。
鎖は壁に繋がれた。私が外そうとすると、高圧の電流が流れるらしい。
対策バッチリかよ。
「久々に良いものを見せてもらったよ。じゃあな」
……いつか絶対に殺す。
――――――
――――
――
ぼんやりとしていた意識が、歓声によって目を覚ます。
一体どれほど、目を瞑っていたものか。
数分か、数十分か。まあ、どうでもいい。
今の私には、時間というものの意味もない。
どうせこれから、人生そのものが売り飛ばされるのだし。
……不細工に買われた時のために、舌を噛みちぎる練習でもしてようかな。
考えを巡らせていると、さっきとは別の男が部屋に入ってくる。
とはいえ、装備は同じだった。ここには、こういう奴が何人もいるのだろう。
「立て、14番。次はお前の番だ。
会場に出たら、中央まで黙って歩け。
中央についたら、膝を折って座りじっとしていろ。
くれぐれも、余計な真似はするなよ」
「……しないわよ。
もう痛い目見てるし。何もできないし」
「物分かりは良いようだ。行くぞ」
男が壁から鎖を外し、鎖ごと私を引っ張る。
黙ってついていきながら部屋を出ると、強い光が私の目に差し込んだ。
……眩んだ目を何とか開き、周囲に広がる景色を見渡す。
半円状に広がる座席。天井から差す光に包まれたステージ。
特に座席に座っているのは、誰も彼もが豪奢な服装をしていた。
とはいえ、そいつらの見た目は、生理的嫌悪感を催すような奴ばかりだ。
美形と言えるのも、右端の方に座って膝を組んでいる、金髪の男ぐらいか。
吐きそう。吐いていいかな。ダメか。電流嫌だし。
舌を噛み切る場所を考えながら、中央まで歩いて座り込む。
目を瞑りじっとしていると、会場中に声が響き渡った。
「最後は14番、今回の目玉商品。
世にも珍しい、アルビノの少女です!
腰ほどまで伸びた白髪は、なめらかな絹のごとく。
鋭い目つきを携えた紅眼は、透き通った珠玉のごとく。
小柄な身体は、誰にとっても扱いやすいと言えるでしょう!
自らの子のように愛し、育てるもよし!
人形のように着飾り、楽しむもよし!
愛玩物のように弄び、欲望を満たすもよし!
この商品には、見た目以上の価値はありません。
しかし、この見た目以外に、一体何が必要と言えるでしょうか!
ここで買わなきゃ、二度と買えない一点もの!
出し惜しむ必要はありません。存分にご放出ください!
14番、アルビノの少女。1000万Gからスタートです!」
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