今日もこの世界には雨が降る

@ORSP

1.雨の音

……雨の降る音が聞こえる。


私は静かに目を覚ます。

痛む身体をゆっくり起こして、周囲を見渡す。

冷たい石の床。無機質な石の壁。外と中を遮る鉄格子。

部屋の中には、私の手首と壁とを繋ぐ、鉄の鎖が1つだけ。


「……どう見ても、檻にしか見えないのだけれど」


え、なに。……私、今、檻に居るの?

わけがわからない。状況が呑み込めない。

少しでも理解しようと、こうなった経緯を思い出す。


…………思い出す。思い出したい。思い出せない。

何があったのか、なんにも覚えてない。え、なんで?

冗談じゃない。こんな現実認めない。認めてたまるか。


憤慨しながら頬をつねる。痛い。夢であってほしかった。


「……どうすればいいのよ、これ」


こんな状況、どうしようもないことなんて目に見えていた。

窓の小さな格子は外れそうにないし、表の大きな格子は言わずもがな。

隙間も通れるほど大きくはなく、扉の鍵だって頑丈にかかっている。


なるほど。これはつまり、諦めろということか。


ふざけるな。ぶち殺すぞ。私を誰だと思っているんだ。

この私の力を以てすれば、この程度どうにでも、

…………私の力?私は一体、いや、私は――――。


かつ。こつ。動揺していた心が、近づいてくる音で引き締まる。


「次はお前だ、14番。

 大人しくしろよ。死んだ方がマシ、と思わされたくなければな」


やってきたのは看守……には見えない。

どっちかと言えば、兵士みたいな見た目の男。

重要なのは、あまり逆らわない方が良さそうな装備であることか。


要所を守る鎧。扱いやすい長さの槍。

少なくとも、小柄な私が生身で勝てる相手じゃない。

まあ、私をこんな目に遭わせた奴か、その一味だ。

流石にそこまでバカではなかったのだろう。

クソが。


「うるさい、指図しないで。私を誰だと思っているの?

 さっさとここから出しなさい。さもなくば、命の保証はしないわよ」


立ち上がりながら、敵意を剥き出しにして男を睨む。


こいつは、次はお前だ、と言っていた。

つまりこいつは、私をここから出すためにやってきたわけだ。

ならば、今は従うふりをして、隙を見て逃げ出すべきか────


「……忠告が聞こえなかったのか。

 それとも、犬だから人間様の言葉が通じなかったのか」


「は?舐めたこと言ってんじゃな、っぎ、ぃっ!?」


全身に走った激痛が、容赦なく私の膝を折る。

為すすべなく、その場にぺたんと座り込む。


なに、なに。なに?え、え、なにが起こったの。今、なに……なにをされたの?


呆然とする私に対して、男が愉悦の表情を向ける。


「電流さ。これがお前を縛り付ける枷であり、お前に罰を与える手段でもある。

 首のところにあるだろう。お前がペットである証の、魔道具の首輪が。

 ああ、当然、無理やり外そうとすれば……分かるよな?」


「…………クズ。さっさと死ねばいいのに。」


こんなもの、どうしろというのか。

せめてもの抵抗として、男の顔を見上げ、蔑視を向ける。

心が憎悪で燃え滾る。あまりにも悔しくて涙が出そうだ。


でも、ここで泣くわけにはいかない。

こんなところで泣いてたまるか。

こんな奴に見せるほど、私の涙は安くない。


「はっはっは、褒め言葉だ。……もう一度罰がお望みか?」


「……」


「嫌なら、最初から大人しくしていればいいものを。

 行くぞ、さっさと立て。……二度と逆らうなよ、野良犬」


男が檻の扉を開け、枷と繋がる鎖を壁から外す。

鎖に引っ張られるまま、私は立ち上がって歩き出す。

周りを見れば、私と同じような境遇の人間が複数見えた。


一体ここはどこなのか。私はこれから、どこへ連れていかれるのか。

何も分からなくて、何もできなくて。でも、私に諦める気はない。

こいつも、他の邪魔する奴も。全員ぶち殺して、絶対に自由を手に入れてやる。


「魔道具を使えば、誰でも平等に、魔法による奇跡を扱える。

 雨が絶えず降り続けようが、俺みたいな平民には関係ない。

 実にいい時代になったもんだ。お前もそう思わないか、14番。」

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