Ⅵ “時間はときに、黄金よりも輝きを放つもの”

【“テッサ”――デ・ダナンⅡ・甲板】


 息を切らせて走りまわる。自分にこれほど似つかわしくない行動もないと分かってはいるんですが・・・・・・小さな女の子の失踪事件というのは、冷静さを失わてしまうものらしく。


 ましてや少女が消えた責任の一端を自分が担っている、そう思えてならない状況でしたから。


「どうでしたかッ!?」


 大声をあげ、反対方向から戻ってきたベリンダちゃんとマリルーちゃんの2人組に声をかける。ですがその浮かない顔からして答えは明らかでした。


「いえ・・・・・・こちらは影も形も」


 鳥籠の少女がその姿を忽然と消してから、すでに1時間が経過していました。


 わたしが少女の部屋を訪れたとき、ドアはちゃんと施錠されていました。ですがドアはともかくも――丸い船窓には、鍵なんて掛かっていなかったのです。


 まさか!! そんな気持ちで慌てて窓から顔を突き出してみれば、落下死した少女という最悪の可能性こそ見当たらなかったものの、代わりに隣の部屋の窓がふしぜんに開け放たれているのを、わたしは発見してしまったのです。


 足場になりそうな小さな出っ張りが窓の下にありはする。ですが足をすこしでも滑らせれば、ちょっとしたビル並みの高さから転落してしまう。文字どおりに綱渡りの状況を、ましてやかさ張る鳥籠を抱えながら少女はやり遂げてみせた。


 窓の鍵を失念していたのがまず最初のミス。そして勇気とも、無謀ともつかない覚悟をあの子が持ち合わせていたことを読みきれなかったのが、ふたつめのミス。


 考えてみれば、あの子の方からすれば当然かもしれません。奴隷商人に売り買えされた矢先に、態度こそ優しげではあるものの、自分を問答無用で監禁してきた謎の女ことわたし・・・・・・少女の主観を考えていなかった、それが3つ目のミスでしょう。


 心理的ケアを怠ったわたしの責任をどう償うべきか? そんな後悔をするためにも、まず少女を保護するしかない。ましてやコンテナ船というのは、子どもにとってとても危険な環境なのですから。


 一刻も早く、連れ戻さなければ。


『ウルズ9より、アンスズ』


 手に握る無線機ウォーキートーキーから、アンスズというわたしのコードネームが聞こえてくる。こんな時でも正しい交話法を忠実に守る、事務室にいるヤンさんからの連絡でした。


「こちらアンスズ。どうでしたかヤンさん? 監視カメラの映像は?」


 唯一の出入り口である船と港を繋いでいるアコモデーションラダーには、監視カメラが設置されています。わたしはヤンさんに頼み、ここ数時間その監視映像を洗ってもらっていたのですが、


『駄目ですね』


 予期していた答えが返ってくる。


 監視カメラがなくとも、ケティさんたちがずっと入り口の辺りでわちゃわちゃ騒いでいたのです。鳥籠の少女が発見されずに船を降りるのは、不可能だったでしょう。


『新しく設置した、港側を監視しているカメラの方にも人影はありません。裏からボートに乗って逃げたというのでもなければ――』


「・・・・・・まだ船内に居る、ということですね」


 他にも、不用意に安全柵を乗りこえてコロンビアの海に落下してしまったという可能性もあえて否定はしませんが、薄いと感じている。


 なぜなら、一言もまだ声を発していませんが少女の双眼からは、たしかな知性の煌めきを感じていたからです。そんな不合理な行動をするとは思えない。


 こうなると消去法です。船の外に居ないのなら内に、どこかに潜んでいるに違いない。ですがコンテナ船は広く、隠れる場所に事欠かないのです。


 子どもたちを総動員しても、捜索は遅々として進んでいませんでした。大人にとってすら広大にすぎるコンテナ船を、子どもたちの足で虱潰しにするのですから。


 一応、上からはじめて捜索範囲を下に広げていくという方針をすでに立ててはいる。探した箇所をあとでちゃんと施錠すれば、包囲の輪は自然と狭まっていき、いつかかならず発見できる。


 問題は、それまで何時間・・・・・・下手したら日をまたいでしまうかも、という懸念の方でした。


 とりあえず落下死の危険性がある甲板から捜索をはじめる。単純に隠れる場所が少ないですし、船内に入るための横道が多いためでもありました。ここを抑えるだけで、かなり少女の行動範囲を狭めることができる。


 気づけば、甲板のほうぼうに散っていた子どもたちが全員、わたしのもとに戻ってきました。


 やはり甲板にはいない。となれば、次は船内でした。てきぱき二人一組で班を作り、船内図にもとずいて捜索範囲を分担していく。そこに声がかけられる。


「なあなあ名前とかないのかよ? 探しづらくって仕方がないんだけど」


 バウティスタくんの意見ももっともでした。

 

 捜索に駆り出された子どもたちの感情はさまざま。わたしと同じような危機感を抱いている子もいれば、平静を保っている子もいますし、今のバウティスタくんのように嫌々やっていることを隠しもしない子もいる。

 

 いきなり現れた素性不明な女の子。自分たちの問題だけで手一杯なこの子たちからすれば、他人にそこまで肩入れはできないでしょう。


「ごめんなさい・・・・・・まだ聞き出せてなくて」


 仮に名前を知っていたとしても、迷子になった訳じゃありませんから呼んでも出てきやしないでしょう。むしろ隠れようとするはず。これも捜索が難航する理由でした、逃げてる相手を追い詰めなきゃいけない。


 広くはありますが、部屋でマス目に区切られている上部構造物の探索はまだ楽でしょうが・・・・・・問題は、機関室の存在です。


 広く、複雑で、なにより暗い。小さな女の子どころか成人男性だってらくらく隠れられる隙間がたくさんある空間。巻き込まれれば命のない、大型機械がいまだって蠢いているに違いない。


 人海戦術は捜索活動の常道ですが、ああも危険な場所に子どもたちを近づけたくはありません。これまで口を酸っぱくして、立ち入り禁止を貫いてきたのですし。


 となると機関室の捜索を安心して任せられるのは、ヤンさんにノルさん、そしてこのわたしと、准大人としてケティさんと百歩譲ってハスミンちゃんの名が挙げられるでしょうか? このたった5人しかいないのです。


 海賊に占拠されてしまったコンテナ船の乗組員たちが、海賊からの捜索から逃れるために機関室に隠れ潜んだ。そんな事例も過去にはあったそうですが・・・・・・結局、数十人もいた乗組員たちは、最後まで海賊に見つからずやり過ごすことができたと聞きます。


 船の構造を熟知している船乗りと、あの鳥籠の少女を同列に並べられたりできないでしょうが、それでも前途多難に変わりありません。


 気が急いている、その自覚がありました。


 腕時計をチラ見すると、当たり前ながら時計の針が動いてました・・・・・・CIAとの対決の時間は、すぐ間近まで迫っている。


「テッサさん、あとはこちらにお任せを」


 ハスミンちゃんの冷静な声が聞こえてくる。やはりこういう時、肝の座り具合はハスミンちゃんが突出してました。


「捜索はわたしたちだけでも可能ですが、CIAラ・シーアとの交渉は、テッサさんお一人にしか出来ません」


 万全を期すなら、わたしみずから捜索の指揮を執るのほうが良いに決まってる・・・・・・でもハスミンちゃんの指摘は、正鵠を射てました。


「そう、ですね・・・・・・」


 こちらから日時を指定しておいてすっぽかす。相手が相手ですから、心象なんてどうでもいいんですが、交渉の有利には働かないでしょう。


 代替案は、あまり多くはありません。ですから答えを出すのも早い。


「捜索の指揮は、ヤンさんに一任します。

 捜索範囲をエリアごとに区切り、塗りつぶすように探すこと。それとくれぐれも、小さな子たちは機関室に近づけないように」


 無線機にそう吹き込むと、すぐ了解との返事が返ってきました。


「俺はどうする?」


 事態を黙って眺めていたノルさんが声をあげる。


 当初の予定では、カルテルの専門家として彼にCIAとの交渉に同席してもらうつもりでしたが、そちらに話題が傾くことはまずないでしょう。どちらかといえば、見届けてもらうためという意図が強い。


 ならノルさんには申し訳ないですが、捜索の手は1人でも多いほうがいいでしょう。


「こっちはどうにかします。ですからノルさんは――」


「危険な機関室まわりを頼む、か」


「はい。コンテナハウスへの出入り口は、元から厳重に施錠していますし、あの子が逃げ出した当時、上部構造物にはみんなが集まっていました。ですから隠れたいならば、機関室を選ぶのがベターでしょう」


「うん、CIAとの舌戦よりもこっちのほうが俺向きだ」


 麗しい見た目に反し、基本的にノルさんは兵隊気質なのです。自分で何かを考えるよりも、こういうシンプルな作業のほうが意外と好みなのかもしれません。


「ただどうしてかあのガキには蛇蝎のごとく嫌われてるから、こちらの顔を見た途端に逃げられるかもしれない」


「たぶんノルさんに限らないと思います。あの子はきっと、誰も信用していないんだわ・・・・・・」


「だが安心しろ、足の長さならこっちの方が圧倒的に上だ。すぐひっ捕まえてやる」


 元シカリオのサガなのか、いちいち言動が物騒なので落ち着けない。

 

「あのノルさん、くれぐれも穏便にですね?」


「分かってる。優しく気絶させる」


 穏便の意味について途方もないすれ違いカルチャーギャップを感じましたが、そこは良識派のヤンさんの手綱さばきに期待しましょう。


 人には、向き不向きがあるのです。


 CIAとの交渉はハスミンちゃんが言うとおり、わたしにしかできません。ですから後ろ髪を引かれる思いのまま、わたしはサーバールームへと急ぎ足で向かったのでした。





✳︎





 長い付き合いだけあって、WEBカメラ越しですらわたしの余裕のなさをどこかで嗅ぎ取ったみたい。予定の時刻よりおくれて現れたわたしを、一時代前のコンピューターの中で眉をひそめながら見つめるメリッサ。


『何かあったわけ?』


「ちょっと・・・・・・大した問題じゃありません」


 メリッサの側からすれば、聞かされたところでどうこうできる内容じゃありません。心にもやを抱えたままCIAを脅すのは、わたし1人で十分でしょう。


「用意は万端ですか?」


『咄嗟に引用できるよう各種資料は準備済み。まあアンタの記憶力を思えば、余計な配慮かもしんないけどさ』


「そんなことありませんよ」


 軍人としての知恵比べであれば、わたしに一日の長があるでしょう。ですがことが法律に話がおよべば、わたしは専門家からはほど遠いのです。


 それはメリッサも似たようなものでしょうが、彼女には知り合いの弁護士という切り札がある。この資料はそういった予想されうる法的問題について、簡潔にまとめられていた。


 わたしが資料にかるく目を通したあたりで、メリッサが話しかけてくる。


『法律関連については、まあそんなとこよ。ただ相手は、悪辣でもってなるCIA様だからねぇ〜、個人攻撃ぐらいは覚悟しといた方がいいわよ』


「ご心配なく。それこそわたしの専門分野ですから」


 あんな小娘に何ができる? どれほどこの言葉に苦しめられ、それをことごとく跳ね除けてきたことか。


 今となっては中傷なんて、1周回って春のそよ風のごとく、どうでもいいものにしか感じられない体質になってしまった。


『久々ね、肝っ玉テッサ・モード』


「変なあだ名をつけないでください!!」


『イヤなら、可愛い顔して敵に中指突きつけるなんて真似するんじゃなかったわね――準備はアー・ユー・レディ?』


 すぅ、と息を吸うと、思考が冷めていくのを感じる。


 感情を切り離しながらわたしは、ちょっと大柄な固定電話にしか見えないSTU-III、秘話用に開発された特殊な電話機へと指を添えていく。


「いつでも」


 そう答えてから、わたしはCIA本部との回線を開いていきました。





✳︎


 


 

【“コッファー”――CIA本部、中南米部門の会議室】


 私ことコッファー=ホワイトは、椅子に背を預けながら目を閉じて物思いに耽っていた。


 だってそうだろう? これからの数十分、下手をしたら数分たらずで自分の人生の今後が決定づけられるのだから。


「チーフ」


 時間だった。Ms.アンサーが声を潜めて、電話の着信を告げてくる。


 わざわざ秘話回線を指定してくるあたり、やはり侮れないお嬢さんだと思う。明確な戦略目標を持ち、決してその方針から脱線せず、余計な色気はかかない。プロとはかくあるべしという感じだねぇ。


 まぶたを開き、ちょろっと肩を回してほぐしてみる。この会議室にいるのは私と、Ms.アンサー、そしてここ3ヶ月というもの本業と掛け持ちしながら中南米部門に詰めていたマイクの、たった3人だけだった。


 壁の時計に目を走らせてみたら、なんとまあ告知した時間そのものだった。1秒の誤差すら許さないとは、その完璧主義につけ込みたいところだが、はてさてどうなることか。


「じゃあ、はじめようか」


 着飾っても仕方がない。わたしはいつものように間抜けな微笑みを浮かべてから、電話をスピーカーに切り替えていった。


「はじめまして、かな? どうもどうも、私がCIAの中南米部門を預かってるコッファー=ホワイト。それと同席者の――」


 名前を挙げようとした途端、Ms.アンサーは彼女にしてはちょっと必死そうに首を振り、マイクは大袈裟なジェスチャーでそれだけはやめろと私に訴えかけてきた。


 だがテスタロッサ嬢もさるもので、こちらに名乗る機会すら与えてこない。


『そちらもお忙しいでしょうから、余計な手間は省きましょう。

 こちらの要求はハッキリしてます。12人の子どもたちの身の安全の保障と、アメリカへの亡命手続き、そして彼らの今後の人生のための慰謝料です』


おやまあウフタ・・・・・・これまた単刀直入だね」


『あの子たちは、もう十分に苦しみましたから。これ以上、大人の都合で人生の遠回りをさせたくないだけです』


「雑談の余地もなしかな? 私は好きなんだけどね、そういう無駄な時間」


『まだ交渉の余地があると思っているなら、お生憎さまですね。これが最初で最後のオファーです。

 もしこの要求が受け入れられない場合、即座にプランBに移させてもらだけです。12の大手報道機関、これら国も違えば、話す言葉もことなる記者たちにわたしが握る証拠のいっさいを提供する』


「CIAの影響力は強大だけど、他国の報道機関まではそうもいかない。考えたね」


『報道機関のほうも裏取りに時間がかかるでしょうが、そちらが提案を突っ張るのであれば、わたしとしましては、この暴露策に全力投入するしかありません。

 手元にあるデータだけでなく、必要であれば生の証言もそこに加えるつもりです。

 気が進まなそうでしたけど・・・・・・彼にお願いして、この船で見聞きしたものを記者たちに証言してもらいます。

 データと、そして生々しい証言。このふたつが組み合わったとき民衆がCIAと報道のどちらを支持するか、結果は言わずもながでしょう』


 “彼”・・・・・・ねえ。


 Ms.アンサーが無言のまま、会議机のうえに書類を滑らせてきた。それは、彼女が表現するところの12人の子どもたちについてのデータだった。氏名と年齢、だが顔写真の方はまちまちだった。


 本日、数万人もの難民が亡くなりました。


 そういった悲惨なニュースが世界をひび駆け巡っているが、数字の上にしかないその人々にほんとうの意味で興味を抱くような人間は、悲しいかな少数派にすぎないのだ。


 “1人の死は悲劇だが、数百万の死は統計上の数字でしかない”


 スターリンが言ったとか、いやアイヒマンだチャップリンだと、諸説さまざまなこの格言なのだが、真実をつかしめているからこそ出本が怪しげだったとしても、現代にまで語り継がれているのだろう。


 結局、赤の他人と家族の命を天秤にかければ、誰だって家族を選択するものだ。


 人は、より近しい関係の相手を優先していく。いや、現実感を抱けないものなのだ。家族、友人、国家と・・・・・・まあ人によってそれらの優先順位プライオリティは前後するけども、そういう風に世の中はできている。


 だが“彼”か。


 何となく手間のかかる弟について語るような口ぶりだった。ここ3ヶ月、会議室という名の密室でずいぶん議論を重ねてきたが、我々が立てた人物評価ばどうも正しかったらしい。


 彼女は、あまりに心根が優しすぎる。


 見ず知らずの相手に感情移入して、その相手のために身命を投げうとうとしている。それこそマザー・テレサのように・・・・・・おやまあ、とは。歴史のニアミスというやつかねこれは。


 だがマザー・テレサと異なり、この女性の悲劇は、その才覚があまりに戦争に偏っていることかもしれない。彼女は、自分の善意を実現するための手段として、闘争しか選べないのだから。


 自覚しているのだろうか彼女は? 理想と相反する、自身の呪わしい才覚について。


 まあ、いいか。尊敬に値するとはいえ、敵の心情を慮ってばかりもいられない。卑劣なスパイとしては、この美点であり、同時にどうしようもない欠点を最大限に利用させてもらうだけのことだ。


『で、そろそろ答えを聞かせてもらうと助かります』


「知りたいかい? でもまあ、あんまり選択肢は多くないけどね」


『こちらも暇じゃないので、さっさと結論を出してくれると助かります。取引に応じるか、はたまた際限のないスキャンダルでアメリカ全土を染め上げるか』


「じゃあ君に習って、単刀直入に答えてみようか」


『お願いします』


「どうぞ」


『・・・・・・はい?』


 呆気に取られたような声が電話からする。そうだろうとも、まさか相手が諸手を挙げてひれ伏すとは、予想だにしなかったはずだ。


「色々と考えたんだけどね、これはもうお手上げだよ。君らにカルテルを経営していた証拠を握られた時点でこちらに勝ち目なんてない。だから私は、素直に刑務所に行くことに決めた」


『それはつまり、負けを認めたということですか?』


「その認識は正しいが、同時に間違いでもあるねMs.テスタロッサ。

 我々は敗北した、完敗だ!! もうどうしようもない――だがこちらとしては、君の出してきた提案をそのまま飲むわけにはいかないのさ」


 電話機から沈黙が返ってきた。


 それはそうだろう。互いにとって良い妥協点である彼女の提案を蹴っ飛ばして、自分たちに最大の被害をもたらすであろう地獄に向かおうとしているのだから。


 死にたくないと叫んだ相手が、100階建てのビルから飛び降りていくような異様さを、銀髪の彼女は感じているに違いない。ちょっと慌ててる様子が電話機越しから察せられた。


『ほんの12人を亡命させるだけ。それを受け入れたくないばかりに、刑務所に行くというの?』


「個人的にはイヤだとも。だが公人としては、別の見方があるものだ」


 しばし考え込んだ様子だったが、賢い人間と話すとこれだかたまらない。彼女は数少ないヒントから、的確にこちらの考えを読んできたのだ。


『まさか、テロには屈しないという法則をわたしに当てはめるつもりですか?』


「大当たり」


 この事件が私個人の問題であれば、どうしても家族に迷惑がかかるなとさきに考えてしまうだろう。そこにくると彼女の申し出は寛大すぎるほどだ。陰謀を闇に葬る代価としてほんの12人の亡命手続きは、破格の取引といえる。


 だが短期的には有益でも、長期的には話が変わるのが政治の厄介なところだ。


「CIAが一個人からの脅迫に屈した。その前例は、時を経るごとに重みを増していくに違いない」


 そうとも、私がいま守ろうとしているのは今後のCIAのブランドであり、その威光に守られている諜報部員や情報提供者たちなのだ。


『わたしもアメリカ人です。国のやり方を全肯定はできませんけど、無闇に傷つけるつもりはないわ』


「君の良心を信じよう。だが人は変わるものだし、君が絶対的に優位であることは揺るがない。

 ある日、君が手のひらを返してこの件を世間に暴露したら? それを阻止する手立ては、こちらにはまったくないんだよ?」


『・・・・・・』


「だったらいっそ、先手を打って罪を認めるほうが被害は最小限で済む。なにより君の手から、切り札ワイルドカードを奪い去ることができる。これは悪くない取り引きさ」


 どうもこちらが本気かどうか、図っているような気がした。


 相手の機先を制して、動揺を誘う。いかにも熟練のスパイがやりそうなトリックだ。だがあいにくと、こちらは正真正銘に本気だった。


『・・・・・・長年連れ添った奥様と2人のお子さんは、一家の大黒柱が刑務所に行くことをどう捉えるかしら?』


「性に合わないことはやめたほうがいいよ、Ms.テスタロッサ。脅迫なんて君らしくない。

 だがどうしてもやりたいのなら、本物から学ぶといい。ハイメ=モンドラゴンは、まず交渉開始前に相手の末っ子から殺すという」


『・・・・・・』


「それから順繰りに死体を増やしていくのさ。末っ子、次男坊、長男ときて娘に妻に母親・・・・・・1人死ねば、つぎも死ぬと考えるのは必然だ。

 脅迫は、実行力が伴わなければ意味がない。そこにくるとね、ハイメ=モンドラゴンのやり口が当たり前として受け取られているような土地で、わたしは半生を過ごしてきたんだよ。

 私はね、Ms.テスタロッサ。CIAに入局したその日からずっと死ぬ覚悟をしてるんだ」


 嘘でもトリックでもない。会話の始まりからずっと、私はずっと本音で語りかけていた。すると会議机のうえを1枚のメモが滑ってくる。そのメモにはたった一言、


“ご立派です、チーフ”


 と書かれていた。自他ともに認めるYESウーマンな私の部下だが、この文面からはどうも、いつもとは違うニュアンスを感じられた。


 私はボールペンを借りて、そのメモに返答を書き記していく。


“良いかっこしいなだけさ。君はもっと、うまくやるといい”


 Ms.テスタロッサは、沈黙していた。あるいはミュートボタンを押して、仲間と相談しているのかもしれない。しばし間を置いてから会話が再開される。


『ならこちらとしては、もう手段を選ぶ理由はありませんね』


 わずかな劣勢程度では、この女性の鼻はどうも明かせられないらしい。そう気丈に言い放たれてしまった。


『交渉の結果としてではなく、アメリカ政府に未曾有のスキャンダルを吹っかけることによって、実力であの子たちの安全を買わせてもらうだけだわ』


 これぞ正しい脅迫だった。彼女にはその手段があるのだから。だが聞いてる私は、ついつい頭を掻いてしまう。


「いやいや、それは困る」


『なら条件を飲みなさい。

 刑務所に行くというその覚悟は、潔いものであるとわたしは思います。ですがその結果としてあなた方が得られる成果は、微々たるものだわ。

 CIAは脅迫に屈しなかった。あなたの目論見通りにそういった実績は得られるでしょうけど、組織そのものがスキャンダルに晒されることは必定。

 CIAによるカルテル運営だけではなく――ジェレミー=ティーチ主席補佐官によるご乱行ぶりまでもが、世間に明るみに出てしまう』


 おや、ついにこの件を切り込んできたか。遅すぎるぐらいだ。


 正直、一番この話題が恐ろしかったりする。だってこちらとしては、ティーチがなにをやらかしたのかその全貌は掴めていないのだから。


 親友同士、なにより陰謀の共犯者としてこの件を話し合うべく、もちろん私はティーチと連絡を取ろうとしたのだが、どうしてかここ3ヶ月ほど居留守を使われていた。


 ふむ、さすがティーチだ。親友からの電話が取れないほどに、我らが祖国のため身を粉にして働いるらしい。私がそう言うとマイクは、異常者を見る目でこちらを睨んできたものだった。


『国民はどう感じるでしょうね? 大統領の懐刀が、麻薬王から融通されたお金をつかって高級ボートを購入して、湖で乗り回していると知ったら』


 マイクが忌々しげに自分の額を叩いたかと思えば、次にこっちをまっすぐに見つめて首を掻き切る仕草をした。


 まだベジタリアンフードじゃなく、普通のビッグマックを差し入れにもっていったことを根に持っているらしい。ちょっと怖い。


『ちなみにこれは氷山の一角です。正直、ここまでコテコテの醜聞をやらかすなんて、今でも信じられないぐらいだわ。

 ちなみに先の高級ボートですけど、それに満面の笑みで同乗しながら、一緒に釣りに興じている大統領の写真が手元にあります。マスコミがたいへん喜ぶでしょうね』


 なるほど、あまりに分かりやすすぎて、私もついつい引き攣った笑いが出てしまう。これは大統領の弾劾どころか、辞職もありえそうだ。


 これだけでもお腹いっぱいという感じなのだが、そこから更にこの女性ときたら、ズラズラと証拠を並べたてはじめた。


『怪しい選挙資金の出どころ、謎めいた政治献金、不可思議な企業買収の数々・・・・・・これらの詳細なデータについては、すでに資料にまとめたので、後ほどメールに添付してお送りします』


「それはまたご親切に」


 どうも、私の預かり知れないところでMr.キャッスルとティーチは、随分と交友を深めていたらしい。その資料とやらには、たぶん私が指揮した作戦オペレーションとはまるで関わりのないお金の流れが、たくさん載っているのだろうね。


『“クレイドル”には、すべてが記されている。これがわたしの手中にあることをくれぐれもお忘れなく』


「“クレイドル”ね。Mr.キャッスルにしては、珍しいネーミングセンスだが、それが彼のダミーカンパニーの名前なのかな?」


『・・・・・・なんですって?』


 違和感が胸をかすめる。


 これまでの会話はすべて、予想の範囲内に収まっていた。だが“クレイドル?”、はじめて聞く名前になんのきなしに答えてしまったが――彼女の反応はなんだろう? まるで私が“クレイドル”について知らないことに、ひどく衝撃を受けた様子だった。


 いくつも修羅場を超えてきた私は、まあ年季の差だね。態度にこそ出さなかったものの・・・・・・それでも、違和感は抱かざるおえなかった。


 どちらともなく会話が途切れる。その間隙をついて、また一片のメモが差し出されてきた。


 あるいは、Mr.キャッスルの連絡係であったMs.アンサーなら心当たりがあるのではないかと期待したが、あいにくメモの内容は違った。


“そろそろこちらの策について、提示するタイミングでは?”


 どうも、彼女も“クレイドル”について知らないようだった。


 私は人を見る目だけはあるつもりだから、自分の後継者の主張をとりあえず今は、信じることにした。


「じつは私は愛国者パトリオットでね。あまりそう見られないんだが、国家に害をなすのは避けたいところなんだ。

 政府、CIA、そして私個人に降りかかるこのスキャンダルを回避するすべは、どうにも思いつかない。だが親愛なる友人に相談してみたところ、スキャンダルを軽減することなら可能だっていうんだ。

 ちなみにその友人というのは、元ミスリル情報部の部長だったというのだけど――この名前にたぶん、君は心当たりがあるんじゃないかな?」


 もちろん知っているはずだ。メイヤー=アミットという人物は、かつて彼女が属していたミスリルなる傭兵組織における上官にあたるのだから。


 分かりやすく息を飲んだりは、彼女はまあしなかった。むしろ冷静さをさらに増した声音が、電話機をとおして会議室に響いていった。


『なるぼとスキャンダルには、スキャンダルをですか』


 そうとも、これが私が発案し、Ms.アンサーが調べ、マイクが法的な筋道を立てくれた対テレサ=テスタロッサ対策の奥の手だった。


 ようするに、死なば諸共という理屈だね。


「知ってのとおり、法に照らせばミスリルの存在は違法そのものだ。

 えーと、“傭兵の募集、使用、資金供与及び訓練を禁止する条約”において、傭兵なる存在は、国際条約下で禁止されているのだからね」


 私は老眼鏡をかけて、マイクが用意してくれた文章量おおめの資料を読み上げていった。こういう法律あたりの話題って苦手分野なので、この資料はとても大助かりだったのだが、この天才でならしてきた銀髪の女性ときたら、資料でなく明らかに頭の中の文章を諳んじてみせたのだ。


『お忘れなく、1989年12月4日に採決された同条約をアメリカは批准していません』


「そうなの?」


 私が尋ねた相手って、じつは頭を抱えてるマイクなのだが、どうもMs.テスタロッサは自分に投げかけられた言葉だと勘違いしたらしい。


『そうです。それにミスリルは法務部も充実していたわ。

 組織の立ちあげ当初から、こういった法律問題について気は配られていた。隊員はいずれも警備会社に籍をおいてましたから、条約が定義するところの傭兵には該当しません』


「アルギュロスだっけ? そうだね、補足項目に書いてあった。

 この条約が定義するところの傭兵の概念には、実態はどうあれ警備員は含まれないと」


『そもそも・・・・・・あなた方の小賢しさを真似るようで嫌なんですけど、ミスリルは巨大組織でした。

 利害関係が複雑に入り組み、それを守るための態勢もまた盤石。

 アミット元部長の名前を出してきたのは、よく調べたものねと感心しますけど、それだけでは脅迫は成立しえない』


「そうだね。せめて隊員の名簿でもあれば、話は変わるんだが」


『あるはずがないわ。シドニーにある本部が破壊された時点で、ウォッチドッグタイマーが発動するもの』


「なにそれ?」


 Ms.アンサーがメモにペンを走らせるのと同じ速度で、Ms.テスタロッサも答えを述べてきた。


『一定期間、コンピュータにいかなる入力もされなかった場合に発動するタイマー。この場合、世界中にあるミスリル関連のデータ削除の合図です』


 一字一句おなじではないものの、即座におなじ内容の答えが書かれたメモを差し出してくるあたり、私の部下ももしかしたら天才の部類なのかもしれない。才女なのは、これまでの経験から明らかだけども。


『データはすべて自壊し、すでに痕跡すら残されていません』


「お陰で組織の全容はもはや、誰にも知り得ないか。もっとも、当時の関係者にでも聞かない限り、という但し書きはつくだろうけど」


 わたしのその答えを、彼女らしくもなくMs.テスタロッサは鼻で笑った。


『アミット元部長とは、あまり親しくない・・・・・・といいますか、ついついおじさまが発案した制裁計画に乗っかって、ミスリルを裏切った責任を超法規的にとらせてやろうと、ちょっと本気で考えたこともある程度の間柄です。

 あの人物の思考回路なんて、知りたくもないわ』


「どうやら犬猿の仲みたいだね」


『彼のせいで、少なからずわたしの部下が死んでいったんです。これでも抑えてるぐらいだわ。

 ですが・・・・・・一方で、あの男がひどく利にさとい人物であることは、よーく存じてます。

 かつてのミスリル関係者は、別に組織の人間だけに限りません。今なお要職を占めている各国の政府高官や制服軍人たちもそこに含まれるわ。半分は、かつてのミスリルに仕事を依頼したかつての契約者として。残り半分は、裏から支援してきた影のプロデューサーとして』


 そうとも、ミスリルの経営にもっともズブズブ関わっていたのは、誰あろうアメリカ政府なのだから。


『そんな大物たちに害をなす情報を、どんなに脅されようとアミット元部長が提供するはずがない。だって報復は免れませんから。それを考えれば、どんなに大金を積まれてたって割りに合わない』


「うん、まさしく当人からそう言われたよ。

 “仮に、私がその謎の傭兵組織とやらの名簿を持っているとしても、売買には慎重にならざるおえないだろうね。最低でも値札に、1億ドルと書き込みたいぐらいだ”」


 私の下手な声真似についての感想はなかった。まあいっか、話をさきに進めよう。


「まったく、その言葉に衝撃を受けたよ――1だって?」


 今度の沈黙は、呆れでないのは明白だった。


 Mr.キャッスルという供給源は絶たれてしまったものの、それでもこれまで積み立ててきた麻薬マネーは、相当な額にのぼる。もう増えやしないが、まだ自由に使えはするのだ。


『・・・・・・お金の問題ではないと、よく知っているはずだわ』


 私に言い含めているというよりも、それは己への問いかけのようだった。


 そうとも、利害という点だけで見れば、国防関係者を第一の顧客としているアミット・ストラジテック社としては、旧ミスリル関係者を敵に回したくはないだろう。


 ビジネスは順調ということは、目先の大金に浅はかにも飛びつくような三流経営者じゃない証左だ。1億ドルをポンと投げ渡されても、笑って拒絶されるのがオチだ。


 だがそこはそれ。スパイという人種はしばしば、相手にカネを受け取らざるおえない状況を作ることに長けている。


「よく言うだろう? この世には、カネで買えない大切なものがあるって。

 だけど会社は別だ。敵対的買収というのは、醜いものだね。たった一晩で経営陣が入れ替わり、身を粉にして会社を大きくしてきた創設者があっさり追い出されてしまうのだから」


 これで十分、Ms.テスタロッサは察してくれるだろう。アミット・ストラジテック社のボスはいま、私であると。


『ですが』


「会社が奪われても、カネや家族は残るだろう? わかっているとも。

 だが不幸というのは重なるものらしく、折よくアネット氏が預金していたパナマ銀行に匿名のタレコミがあったとかで、当局の手入れが入ったんだよ。なんと可哀そうなことに、せっせと貯めてきた隠し資産はすべて没収されてしまった。

 そのうえどうも善意の第三者が義憤に駆られて、アネット氏と秘書のダイアン女史がどのように真昼の情事に明け暮れていたのか、34本ものDVDを駆使して奥方に解説したらしくてね。

 会社を奪われ、隠し資産も消えてと、失意のダブルパンチにしょげかえっていたアネット氏を自宅で迎え入れたのは、もぬけの殻となった我が家だった」


『よくやるものね・・・・・・』


 呆れと嫌悪感が、電話越しから伝わってきた。


 先ほどの語り口からしてMs.テスタロッサは、あまり良い感情をアネット氏に抱いていないようだが、たった一晩で人生のすべてを奪い取るというのは、彼女の目には酷に映ったらしい。


 やはり優しすぎる。

 

「ああ、ありがとう。この工作活動はほんとうに手間が掛かったからね、そういう褒め言葉は、ほんとうに励みになる。

 ちなみにその後のアネット氏だが、無一文になったのがよほど堪えたらしくてね。地元の薬中メスヘッドたちと粗末な家のなかに籠もって、仲よく覚せい剤に耽溺しているところを後日、発見された。

 そこで改めて彼にオファーしてみたところ、こころよくミスリルの隊員名簿を引き渡してくれたよ。引き換えにこちらは、奥さんと子どもに例の映像はアダルトビデオを加工して作られた、精巧なフェイクであると説明させたもらった。

 だから言ったろう? カネで買えないものもあるって。Ms.テスタロッサ、君が大切にしてる部下たちの名前が載った名簿はいま、私の目の前にある」


『・・・・・・』


 これまでずっと謎だったミスリルの全貌が、こうして明らかになったわけだ。


 かつてミスリルのメンバーであった者たちの氏名は、有名どころであれば、その筋の人間のあいだでそれとなく共有されていたのだが、末端の隊員までとなると、把握したのはおそらく我々が初めてだろう。


 マイクがまとめてくれた資料をめくると、そこには苦労して手に入れた元ミスリルのメンバーたちの名前と、彼らが犯してきた罪状が記されていた。


「知ってのとおり、傭兵というのはグレーゾーンな存在だ。

 その罪状について追求する権利は、傭兵の国籍ではなく、彼が活動してきた地域の法制度に依存してる。ちょっと待て小難しいな? マイクちょっと要約してくれない?」


「このバカ野郎!! 俺の名前を出すなとあれほど――」


「あっ、もういいや、隅のほうに書いてあった」


 指をなめてページをめくりやすくしてから、内容を朗読していく。 


「西太平洋戦隊トゥアハー・デ・ダナンの人員構成は、なんともそうそうたるメンバーだったようだね。第一級の軍人ばかりが名を連ねているよ。

 数少ない潜水艦による戦闘を経験した、英国海軍の雄たるリチャード=ヘンリー=マデューカス。現在はロンドンで、赤いドアの一軒家でさるご婦人と親しく過ごしているそうだが、なんと彼は北朝鮮における日本人の人質救出作戦に関わっている。

 あんな国でも一応は国連加盟国だから、自国でおこなわれた違法な軍事活動の関係者を起訴する権利が、彼らにはある」


『・・・・・・』


特別対応班SRTのナンバー2として君臨していた、元海兵隊員のメリッサ=マオ少尉。彼女は、ずいぶんと人生を謳歌しているみたいだね。幼い娘を抱えながら会社を興そうとしている。

 こんな大切な時期に、国際司法裁判所から起訴されるのは、彼女としては避けたいところだろう。それに・・・・・・おや? 資料によればどうしてか、君とおなじ住所になっているね。不思議な偶然もあるものだ」


『卑劣ね』


「さきに私の家族について言及したのは、そちらの側だよ。

 ミスリルなる極秘の傭兵部隊が、これまでどれほど好き勝手に行動してきたか。この名簿と、過去のニュースを照らし合わせればすぐ分かることだ。その意図が善意だったとしても、法に基づかない武力行使であることに変わりはない。

 なるほど、利害が絡みあってミスリルの存在を暴露するという動きは、これまでずっと阻止されてきたんだろうが・・・・・・どうせ刑務所にいく身だからね、私は報復なんて気にしない。

 せいぜい派手に世論を燃え上がらせてやるさ。こういうディスインフォメーション工作は、CIAの得意技なのだから」


『こちらを泥仕合に巻き込むことで、すべてを有耶無耶にするつもりですか』


「いや違うよ、これは報復的処置というやつさ。

 CIAは脅迫者に屈するぐらいなら、自分たちの被害を度外視にしてでも絶対に報復する。この前例はいまは何の意味ももたないだろうが、未来のCIA局員たちにとっては、大いなる加護になる」


『なぜなら一度でも譲歩すれば、敵はかならず次を求めてくるのだから・・・・・・ですがこの報復案は、控えめにいっても自爆そのものだわ。

 ミスリルの運営については、アメリカの資本がかなりの部分を占めていたことはご承知のはず。ジオトロン社はじめの西側の有力企業たちとミスリルは、密接な関係にありました。

 もしミスリルの存在が公になれば、そういった国防関連企業までもが被害を被ることになる』


「だから言ったろう? ――だって刑務所に行くんだからさ」


『・・・・・・』


「では、続けようか」


 そう宣言してから、私は彼女のウィークポイントである名簿の読み上げを再開していった。結局、政治うんぬんよりも彼女には、こちらのほうが堪えるのだ。


 目のまえで危機に瀕している人々を見捨てられるなら、彼女はそもそもこんな問題に首を突っ込むことだって、なかったに違いないのだから。


「ベルファンガン=クルーゾー、ヤン=ジュンギュ、ロジャー=サンダラプタ・・・・・・おやおや、陸戦部隊だけでこの大人数か。潜水艦乗りだったという君には、船乗りたちの名を挙げるほうがより身近に感じられるだろうか?

 だがなんとも国際色豊かな面子だねー、中には読み方すら分からない者までいるぐらいだ。これは、なんと読むんだろう?

 セ、セガール?・・・・・・いやこれは、どうも読み方が違う気がするな。セじゃなくサかな? じゃあこれは、サガラと読むのが正しいのか――」


『やめなさい・・・・・・』


 まだ取り繕ってはいたが、気丈な物言いの裏からは、どうしようもない弱さが姿を表しつつあった。


「大変だろう? 死を覚悟した敵と戦うのはさ」


 これを勝利宣言と捉えるのは、我ながらみっともなさすぎるだろう。


 せいぜい先頭をひた走る相手の足をひっぱって、1位から最下位まで引きずり下ろしたようなものだ。これはそういう卑劣な作戦だった。


 だが堂々と回線を切ってやっても、向こうは掛け直してきたりしなかったあたり、有効ではあったようだ。とりあえず時間稼ぎぐらいには、なるだろう。いまの私たちにとってそれは、十分に勝利に値するものだった。


「とりあえずは1勝、というところか?」


 そう言ったマイク自身、一難去ってまた一難という空気が拭えずにいる。それに答えていく私の声だって、勝利の高揚感よりも心労のほうがはるかに色濃い。


「どうかな・・・・・・マラソン大会でいきなり100mダッシュをかました気分という方が、よっぽど正確ぽそうだねー。

 それはまあ容易に1位にはなれるだろうけど、どう考えたってあとがつづがない」


 彼女は賢い、こちらの意図はすでに読まれていることだろう。


「私が宣言したとおり、報復をなによりも優先するならば、わざわざ彼女に手の内を明かしてやる必要はないのさ。問答無用で実行すればいい」


「そりゃそうだ。自爆ってあの小娘の表現は的確すぎる。この作戦ってようは、すべてを台無しにする手なわけだからな」


 そうとも、ミスリルについて一切合切、暴露すれば、我らが愛すべき祖国の傷になるというMs.テスタロッサの主張はひどく正しい。


 第3世代ASを米軍に納品しているジオトロン社。あの会社がどうやって世界の先をいく次世代機の開発に成功したかといえば、それはミスリルが実戦データを積み立ててきたことが大きいんだそうだ。


 どの国も大なれ少なれ、ミスリルについてのスキャンダルに巻き込まれることだろうが、もっともダメージを負うのは、彼女が言うようにアメリカに違いない。


 祖国たるアメリカを守るために陰謀を練り、その陰謀が暴露されてしまうリスクを回避するために、とうのアメリカを犠牲にする。これほど本末転倒という言葉が似合う話もないだろう。


 ずっと黙っていたMs.アンサーが、おずおずと会話に加わってきた。


「いずれミスリル関係者と会合を重ね、こちらの暴露が政治的に意味をなさなくなるよう手を回してくるでしょう」


「だね。我々が動かせる予算は、一組織としてはそれなりのものだが、もちろん国家予算に勝てるような額じゃないし、政治力という点ではほぼ皆無だ。

 これからありとあらゆる政治的な介入を受けることだろうが、一番大きいのは、きっとアメリカ政府内にいる元ミスリル関係者からに違いない」


 こっちは10人にも満たない少所帯なのだから、いずれ数に任せた政治力で押しつぶされてしまうだろう。


「彼女の方からすれば、自分のエゴの押しつけに過ぎないとしてもだ。だけどそれに巻き込まれる側としては、本音はどうあれ全力で身を守るしかないのさ。

 ただしそもそもが秘密組織だったんだ、根回しは一苦労だろうね」


「“時間はときに、黄金よりも輝きを放つもの”」


「うん?」


 Ms.アンサーの言葉が引用であるとすぐ気づけたが、元ネタが分からない。


「それは、誰からの引用なのかな?」


 ちょっとした好奇心で尋ねてみると、Ms.アンサーは彼女らしくもない豊かな感情を瞬間、浮かべた。懐かしさと、一抹の陰りを。


「・・・・・・母がよく口にしていたものでして」


「お母様が? へぇ、どうやら母君は哲学者だったようだね」


「そうですね・・・・・・母はこういう、持ってまわった言い回しを好んでいました」


 ふむ、この気まずい空気からして、どうも故人らしいと私は察した。


 我がホワイト家は、どうも血筋のせいかおっとりした人格の持ち主ばかりで、複雑な家庭環境とやらとは無縁だったのだ。


 きっといまも乳搾りに明け暮れているに違いない私の母なんて、実は息子がCIAの職員だと知ったときにこう言ったものだ。“そうなの・・・・・・ところでミルクが切れてるんだけど”


 べつに私がCIAの人間だと疑っているわけではなく、真実を受け止めたうえでこのコメントなのだから堪らない。


 うん、そうだね、家庭環境は千差万別。興味本位に部下の過去について首を突っ込むのは、やめたほうがいいだろう。そもそも、そういう個人的な話をするような状況でもない。


 どうやらMs.アンサーもその点は同感らしく、いつものプロらしいキビキビした口調で発言していく。


「ではチーフ、第2段階に移りますか?」


「うん、そうしようか」


 どうして我々がこうして小細工を弄して時間を稼いでいるかといえば、それは直接行動DAしかなかった。


「Ms.アンサー、この作戦の法的根拠はどんな具合かな?」


「すでにそこのマイク=ヒンシェルウッド氏と協力し、インターポールにかけ合って国際指名手配レッド・ノーティスは発行済みです。ただし名義は、テオフィラ=モンドラゴンですが」


 私は、Ms.テスタロッサの知られざる双子の姉のような容姿をしているテオフィラ=モンドラゴン名義の指名手配書を手にとった。


 実はインターポールの指名手配制度というのは、各国の判断基準に大きく依存している。それはどういう意味かと問われれば、ある独裁者が国外で活動しているウザったい活動家を排除したいときなどに、こいつは犯罪者だから逮捕してくれとインターポールに泣きつくだけでいいという寸法だった。


 裏にどのような政治的な意図が絡んでいるとしても、インターポールは粛々と指名手配の準備をするだけで、要求を拒否したりは絶対にしない。この汚職なんだが、お役所仕事なんだか判然としない制度を、我々はこんかい悪用させてもらったわけだ。


 わたしは、しれっとMs.テスタロッサの顔写真に入れ替えられている手配書をしげしげ眺めながら言った。


「これでコロンビア政府は、とりあえず我々の活動に協力してくれるわけだね」


「あくまで協力程度でしょうが・・・・・・」


 Ms.アンサーの懸念ももっともだった。


 この手配書のお陰で正規の捜査活動だと偽ることはできるが、こちらの本来の目的をコロンビアの警官たちの真ん前でやらかすわけにはいかない。せいぜい職務質問を躱せる程度だろう。まあ、ないよりずっとマシではあるが。


「おいコッファー」


「なんだいマイク?」


 乗用車に突っ込まれてたって逆に轢き返しかねない鋼の肉体の持ち主のくせして、妙に弱気な声でわたしの友人がたずねてきた。


「具体的にどのぐらい勝算があるんだ? あの小娘から奪われたデータを奪い返すっていう、第2段階について」


「ほぼ無い」


「・・・・・・やっぱりか」


 彼は良い弁護士ではあるが、諜報活動や順軍事行動について疎い部分がある。それ以前にここからは、もうマイクが首を突っ込んでいい領分じゃない。


 とはいえ、これまでさんざん骨を折ってもらったのだ。ここでもういいから出ていってくれというのは、いくらなんでも目覚めが悪い。


 丁寧に、まさしく素人を相手にするように私は説明していった。


「通常ならこういう難易度の高い作戦には、CIA直属の特別行動部SADの手を借りたいところなんだけど・・・・・・」


「できる訳ないだろコッファー。指名手配なんて裏技を駆使しても、正規の命令を出せるような作戦じゃない」


「分かってるって。身内CIAはもちろんのこと、軍から特殊部隊JSOCを借りるといった正攻法も無理な相談だろう。

 かといって、お得意の非正規部隊を投入したくとも、その当の非正規部隊自体が銀髪美人側についている以上どうしようもない」


 まさにお手上げだと、実際に両手を掲げて示してみせる。


「あー、なんかあるんじゃなかったか? コッファーお前さん、コロンビアの民兵組織に個人的なコネがあるとか言ってたろう」


「あるとも、カスターニョ弟にね。だけど彼ってコロンビア軍にべったりだからさ。政府の意に反して、港に本拠地を築いているような傭兵崩れに強襲を仕掛けるとか、そんな大立ち回りはできやしないのさ。

 だって今のコロンビアの政府の方針は、われわれの工作のかいもあって平和志向なんだから」


「チーフ、事なかれ主義のほうがより正確では?」


 Ms.アンサーの指摘は辛辣だったが、実態としては、彼女の言葉のほうがより正確だろう。


 とにかく大事にならないなら、麻薬取引から殺人までなんでもござれ。だが完全武装の民兵たちを市街に入れて、埠頭でドンパチというのは、流石に目こぼしは無理だろう。


「まあそうともいえるねえ・・・・・・」


「おいおい、それってどん詰まりって事にならないか?」


「だからさ、これって基本的に悪あがきに過ぎないんだよ」


 たとえるならこの奪還作戦、逆転ホームランを狙うようなものなのだ。


「類まれなる指揮能力をもつ女傑と、少数とはいえ精鋭の名にふさわしい実戦部隊に守られたデータの奪還。

 どこに隠されているか不明で、彼女の周到さを考えれば、まず確実にバックアップも取っているだろうデータを奪うんだ。無茶という言葉がこれほどふさわしい作戦もないさ」


「まずそのデータ探しからか・・・・・・気の長い話だな」


 ここ3ヶ月ばかし、別にこの自爆作戦にだけ全力投球してきたわけじゃない。私だってもてるコネを総動員してデータの探索を行っていたのだが・・・・・・そりゃまあ、そう簡単に見つからないよう隠すわな。


「まず手元にひとつ、念のためにバックアップもひとつ、そしておそらく保険として信頼できる誰かにひとつ」


 Ms.アンサーが淡々と可能性を述べていったが、マイクの浮かない顔からしてこれは推測に過ぎないと、とうに見抜いているようだった。


「希望的観測ですら、俺たちは3つも探さないとならんわけだ」


「最低限の支援のもと、雇ったばかりの非正規要員ノン・オフィシャル・カバーを使って、それも広いコロンビアからね」


 これを悪あがきと呼ばずしてなんと呼ぶ。


 まあいいさ、上手くいったらめっけ物ぐらいの感覚でやっているのだから。本命はあい変わらず、死なばもろとも作戦のままだった。


 本音で言うと、失敗してもいいさという心境だった。私事で恐縮だが、僅かな期間とはいえ家族孝行ができるだろうから。


「ですが」


 そう、Ms.アンサーはまず言葉を区切ってから言った。


「そのぶん人選には、気を使わせていただきました」


 どうもマイクは、あまりMs.アンサーに好感を抱いていないらしい。あえて嫉妬とは表現しないけど、優秀な若者への反感というものからマイクすらも、ついに逃れられなかったのか? はたまた、もっと別の理由があるのか。


「フン。詳細は明かせないが無理難題を成し遂げてほしい。そんな要求をされて、勤労精神に目覚めるような輩がそうも大勢いるかね」


「今回のケースの場合、数を揃えるよりも質を高めるほうが優先と考え、それを念頭に2名ほどリクルートいたしました。能力と動機、ともに水準以上の人材です」


「具体的には?」


「まず指揮官として、元ネイビーシールズの隊員として実戦経験がある人物を。

 とりわけコソボ紛争の折り、少数のチームを率いての潜入作戦を指揮。表沙汰にできない戦犯たちの暗殺作戦に従事して、かなりの功績を挙げた人物です」


「どうも国防総省ペンタゴンらしくない作戦だな」


「仰るとおり、CIA発案の作戦でした。

 作戦後に軍を退役し、民間の警備要員GRSとしてCIA極秘施設の警備業務を担当。そのためセキュリティクリアランスの面は、十分にクリアしています」


「なるほど腕は良さそうだな、だが動機面がさっぱりだ。どうして好き好んでドツボにはまったCIAの尻拭いなんかに参加するんだ、コイツは?」


 Ms.アンサーの答えは端的で、かつ万人が納得するものだった。


「Mr.キャッスルのご子息だからではないでしょうか?」


 マイクがどうしてか天井を見上げた。よく見ると、会議室の電灯のひとつがチカチカ明滅してる。あとで取り替えないとねえ。


「・・・・・・あっそう、親父がロシアに亡命した理由が知りたいってか」


「強力なモチベーションです」


「昔からよく言うだろうマイク? やりたい奴にやらせるのが一番だって」


 とりあえずMs.アンサーが強力に推してきたこの人選について、私としては異論はなかった。能力面は十分、不安要素があるとしたら、個人的感情のあまり暴走しないかぐらいのものだろう。


「うん、良い人選だと思うよ。ただ私の方でももう1人ばかし選ばせてもらったけどね」


「なんだコッファー? もったいぶりやがって。どこのどいつにババを引かせたんだお前さんは」


 上手くいけばMs.テスタロッサに対する最高の切り札になるだろうが、その逆にこちらに向けて暴発する危険性もある。難しいところだったが、どうせ成功率の低い作戦なのだから、思いきった人選をさせてもらった。


「さしものMs.テスタロッサだって、かつての同僚が追いかけてきたら戸惑うだろうさ」


 







【“テッサ”――デ・ダナンⅡ、サーバールーム】


「即座にミスリルの存在を暴露していれば、こちらに打てる手はありませんでした・・・・・・なのにあえて自分たちの手を晒してきたのは、牽制と時間稼ぎが目的ね」


 まさか自分たちの優位になる交渉にのってこないとは。万が一の可能性として考えてはいましたけど、こういう結末はしょうじき予想外でした。


「ごめんなさい・・・・・・メリッサ」


 もっとも避けたかったこと、それは巻き添えを増やすことでした。


 戦争から離れて、別の人生を歩みつつあった部下たちを自らの問題に巻き込む。ヤンさん1人にすら申し訳ない気持ちでいっぱいなのに、ついに問題は、元部下全員に波及してしまった。


 この体たらく、自分で自分がイヤになる。とりわけメリッサには、なんと詫びればいいのでしょうか?


 ロニーを勝手に引き取ったりと、これまでもさんざん迷惑を掛けてきたのに、あげく大切な家族の安全までをもわたしは脅かそうとしている。


『まったくいい迷惑よ』


 歯に衣着せず、メリッサはそう断言してきました。


『とんだことに巻き込んでくれたくたもんねぇ、テッサ――で? 次はどうする?』


 大げさに文句を言ったかと思えば、あっさり手のひらを返して、いつもの不敵な態度を見せつけてくるメリッサ。


 古い仲ですから、その態度から色々なものを察してしまう。本当にもう・・・・・・得難い友人である彼女に心のなかで深々と頭を下げる。ここで諦めるなんてありえません。それは、あの子たちを見捨てるのと同義なのですから。


 指揮官なら指揮官らしく、逆境にあってこそ余裕ぶる必要がありました。弱気の虫をふり払い、決然とした態度で言いのける。


「万事解決からは遠のいてしまいましたけど、“クレイドル”のデータがある以上、いぜんこちらの優位は揺るぎません。ただ――」


『ただ?』


 ふと気づくと、こちらの会話の邪魔にならないようサーバーラックの近くにノルさんが立ってました。わたしに話しかけるの遠慮しているみたい。


 その気持ちに感謝しつつ、手早くメリッサに新たな方針を聞かせていく。


「今からもう憂鬱ですけど・・・・・・旧ミスリル関係者に片っぱしから連絡をとって、警戒を促すしかないでしょうね」


『まったく頭が痛いわ・・・・・・西太平洋戦隊の面子だったら、ちょっとした同窓会気分で連絡できるだろうけどさ。

 もしかしたら、こちらの問題のせいでそちらに火の粉が行くかもしれないので、どうかCIAに対する自衛策を考えてくださいって世界中のお偉方に話をつけるのは、想像するだけでイヤんなるわね』


「そこら辺はわたしの落ち度です。できるかぎりこちらで引き受けます」


『誰よりもボーダ提督をね』


「・・・・・・」


『ああもう、わだかまりがあるのは知ってるけど、あの人の人脈がなけりゃ連絡しようもない相手もいるでしょ?』


「分かってます・・・・・・あとで電話しておきます。ところでメリッサ、これが時間稼ぎなのは良いとして、今後のコッファー=ホワイトの出方ですけど」


『侮ってたつもりはないけど、想像以上のおっさんだったわね』


 的確な人物評価でした。


「かつて相対したMr.キャッスルは、こう、色々と屁理屈を並べ立ててましたけど、煎じ詰めれば彼の行動原理って、自分のエゴに過ぎませんでした。

 ですが・・・・・・どうもコッファー=ホワイトは違うみたい。あの人物は、自分たちの秘密結社が掲げている理念を本気で信じ、必要であればそれに殉ずる覚悟がある」


 予想よりも強大な敵。まったく、真のスパイというのは、外観だけでは判断できないみたい。


 不思議ですけど、有能な敵というのは嫌悪感よりもさきに、尊敬の気持ちが湧いてくるものなのです。敵もさるものだと。


『相手が一発逆転を狙うなら、ま、打てる手はひとつしか無いわよねぇ』


「データの奪還ですね」


 ビデオチャットの良いところは、頷きが相手にも見えるところでしょう。


「実戦部隊を送りこんで実力で奪い返す。この場合、第1目標はわたしということになるでしょうけど」


『そのまえにCIAに勝算なんてあると思う? 容量は大きいけど、ぶっちゃけデジタル・データなんて複製させ放題なんだし。こっちの隠し場所をCIAがぜんぶ正確に把握してるとは、思えないんだけど』


「わたしもそのあたり気になりますが、さほど期待してないだけかも」


『上手くいけば幸いって?』


「ええ。でも脅威であることに変わりはないわ。こちらの警備体制は万全ですけど・・・・・・」


『寡兵も良いところなのに言い切るもんねぇ。ま、あんたの言うことだから信頼してあげるわよ。自分1人で問題を抱え込んだりはするけど、誇張とかしない子だから』


「むしろわたしが心配なのは、メリッサの方ですよ」


 だって“クレイドル”のバックアップデータを預けた相手は、誰あろうメリッサなのですから。わたしの手元にあるオリジナルと予備を除けば、国際郵便で彼女に預けたHDDの中身だけが“クレイドル”のデータのすべてになる。


『こっちだってプロよ、備えはしてるわ。具体的には、うちの有望なる新入社員どもを警備要員に充てるとかね』


「・・・・・・まだ会社、出来てないって聞いたんですけど」


 すると、ブラック会社の社長の武勇伝みたいなものが飛び出してきました。


『書類上はね。でもあたしがとうの昔に口説き落とした古馴染みどもは、まだかまだかと会社の立ち上がりを待ってるわけ。

 そりゃ給料はまだ払えないけどさ、世の中にはストックオプションてのがあるからね。こいつを取り消されたくないなら、ちょっと気は早いけど今すぐ働きやがれ☆ って発破をかけたのよ。

 お陰であたしだけでなく、クララにラナにロニーにと、みなに歴戦の勇士による警護がついてるわ。それも日当ゼロ・ドルで」


「やり口が悪徳企業のそれですね」


 呆れるわたしに、メリッサはチェシャ猫じみた悪どい表情を作りました。


 メリッサに会社経営なんてできるのかしら? その心配はいま完全に吹き飛びました。ですがそれに代わって、このままだと労働争議まったなしという、新たな心配のタネが芽吹いた気がします。


『出世払いで償うわよ、気が向いたらね。

 それにデータについてもご心配なく、一家団欒の場に隠したりとか間抜けな真似しないわよ。いくら天下のCIAたって、ニューヨークで銀行強盗まではできないでしょ』


「銀行強盗? あのHDD、まさか銀行に預けちゃたんですか?」


『せっかくの物理媒体、手元に置くよりそっちの方が安心ってもんよ。世界の金融の中心地だけあって、この街じゃどデカい銀行には事欠かないしね』


 確かに手元においておくよりも、その方がずっと安全かもしれない。


 銀行側が無数にいる顧客からの信用を放り捨ててまで、CIAに肩入れするとは思えません。だってお金になりませんもの。だったら貸し金庫に放り込んでおくのは、大胆ですけど最善の策かもしれない。


『CIAは国内では活動できないけど、自分たちの裏庭である南米では別。

 ヤバさの度合いでいえば、どう考えたってそっちのほうがマズイわよ。過信は禁物よテッサ?』


「最悪の場合には、オリジナルのデータをくれてやりますとも。

 一番大切なのは“クレイドル”へのアクセス権限ですし、これはわたしがセキュリティを書き換えたので、外部からの突破はまず不可能です」


『ですが・・・・・・って、続けたさげな口ぶりね』


 やはり隠し通せませんか。


 ノルさんは、こちらに遠慮してずっと待っていてくれている。ですがそのせいでこちらの会話はすべてが筒抜けになっていました。


 いえ、今さら隠しても仕方ないでしょう。わたしたちは一蓮托生、ましてやCIAの実働部隊が仕掛けてきた時に矢面に立つのは、やはり彼なのでしょうから。


「相手の目的がデータの奪還ただそれだけであれば、別に構わないんです。対処法はいくらでもある。

 ですが言っていたでしょう? これは“報復的処置”だって」


 かつてCIAのライバルである、旧ソ連の諜報機関ことKGBの工作員の1人が、ゲリラに拉致されたという事件がありました。


 それに対してKGBがどのような手段に出たか? 身代金を支払う代わりに、誘拐犯たちの親族を片っぱしから拉致して処刑し始めたのです。その結果どうなかったかといえば、誘拐犯たちは大慌てで人質を解放し、二度とKGBの関係者が誘拐されることはなくなった。


 CIAならそこまでやらないと信じたいのは山々ですが・・・・・・この船トラソルテオトルという前例もあります。

 

 つまり彼らは――わたしたちをただ殺したがっているだけかもしれない。


『それはないとは、思うけどね』


 メリッサはあっさりと、そうわたしの懸念を切って捨てました。


『そうも直接的にやらかすつもりなら、名簿やら法律うんぬんやら持ち出さないでしょう?』


「壮大な擬態の可能性も・・・・・・いえ、そうですね。考えすぎかしら」


 どのみち当面は守勢に立たざるおえませんから、こちらの選択肢はそう多くはありません。


「とはいえ、こちらの方針はハッキリしてます」


『身辺の守りを固めつつ、根回しを大急ぎでってね。やれやれだわ』


 話が早くて助かります。それから2、3みじかい実務的な相談をしてから挨拶を交わし、わたしはWEBチャットを切りました。


「すみません、お待たせして」


「その謝罪癖って、日本ヤポンで学んだのか?」


 ノルさんの皮肉げな返しに、不穏な話を聞かせたばかりですし心配させまいと、あえて不敵に答えていく。


「いえ、ただの素です」


「そっか・・・・・・」


 自分の才能に自惚れていたころに畑違いな指揮官職につき、そこで本物の戦士たちに鼻っ柱を折られたというのが、わたしの腰の低さの真の原因なのですが、あえて語るまでもないでしょう。恥ずかしいですし。


「それよりあの子は? 見つかりましたか?」


 気がかりだった問題を問うてみましたが、ノルさんはゆっくり首を横に振られる。


「言い訳がましく聞こえるだろうが、やっぱり頭数が少なすぎる。広い機関室を探索してるのは、俺とケティのたった2人だけな訳だからな。DEAラ・ディアは司令塔として、事務室に詰めてないといけないし」


「そうですか・・・・・・」


「ただ残りの面子で総力をあげて上部構造物を虱潰しにしてるまっ最中だ。だからもし上部構造物に隠れているようなら、そう遠からず見つかるだろう」


 まったく気苦労が絶えません。でも悩んでばかりもいられない。


 わたしは、みずから望んで指揮官になりました。かつてはトゥアハー・デ・ダナン号の、そしていまは名をちょっと変えたデ・ダナンⅡの総責任者として、常に答え続けなくてはならないのです。


「で、これからどうする?」


 この終わらない問いに対して。


「買い出しに行きます」


 あえてキッパリと明言してみましたが、予想どおり、微妙そうな顔をされる似非ラテン美女。


「この状況下にか?」


「この状況下、だからこそですよ。

 十中八九CIAがつぎに打ってくる手は、実力行使だわ。その規模、時期ともに判然としませんが、南米における工作活動を大きくカリ・カルテルに依存していた手前、あまり大規模なものにはならないでしょう。ですが侮るわけにもいきません」


 それをやって痛い目をみたばかりなのです、後悔からは学ばなくては。


 田舎者というのは、あるいは巧妙な擬態に対する、周囲からの賛辞としてのあだ名だったのかもしれませんね。


「そんな状況下で、わたしたちの食料庫ときたら空っぽなんですよ?」


「ピザ屋に出前を頼むんじゃ駄目なのか?」


「毒殺ぐらいは警戒すべきでしょうね。食料の供給をすべて外部に委ねるなんてありえません。だいたい武器弾薬までバイク便で届けてくれたりしないでしょう? こちらも足りないって、つい今朝方ノルさん嘆いてたじゃないですか」


 CIAの工作員たちがすでに入国し、作戦の準備を整えている可能性は大いにあります。致し方なかったとはいえ、敵に3ヶ月もの猶予期間を与えてしまったのは、やはり痛恨でした。


「どんなに難攻不落の要塞も、武器庫や食料庫がカラだったら3日と持ちません。必要な物資は、できる限り早くかき集めておきたいわ」


「なら俺が行ってくる。テッサはここで、あのはた迷惑な鳥かご娘の捜索をだな」


「ダメです」


「・・・・・・自分が狙われてるかもと予期しておきながら、その矢先に外をひょこひょこ出歩くなんてナンセンスだ、ありえないぞ」


「もっともなご意見ですけど、ですがノルさんお1人で、どうやってお金を銀行から降ろすおつもりですか?」


 これは慰謝料ですからと言い訳しつつ、カルテルの隠し口座から必要最小限の金額をわたしは、新しくつくった地元コロンビアの銀行口座へと移していました。


 ビューティフル・ワールド号に支払ったお金の出本もこの口座です。お買い物の予算についても、またぞろここから出すほかないでしょう。


 14人、いえ鳥籠の少女も含めて15人もの人数が、向こう半年間食べていけるだけの食料というのは、それなりの金額になります。ましてやそれ以外にも色々と買い込む予定でしたから、出費はさらに跳ね上がるはず。


 少額であれば、別にわたし自身でなくともATMは操作できます。ですがそれなりの金額を引き落とすつもりなら、わたし自身が出向かないと銀行側が納得しないでしょう。


「どうして・・・・・・自分の名義になんか」


「使い込み防止ですよ。何を買ったのか、必要経費としてぜんぶ記録してるんですから。

 銀行からお金を降ろしてから、わたしだけ先に帰るという選択肢もありはしますけど、そうすると帰路のために護衛が必要になるでしょうね」


 その場合、ただでさえ手の足りてないわたしたちの中から、さらに護衛役を割くことになる。


 残留組と買い出し組という、ただでさえ戦力分散の愚をこれから犯そうとしている矢先なのに、そこからさらに人員を分割したりしたら、襲ってくださいというようなものです。


 色々と知識不足なノルさんですが、こと戦術眼については天性のものがある。こちらの意図をちゃんと読んでいるはずなのに、実際に口から出てきたのは、ちょっとピントのずれた意見でした。


「そいつは面倒くさいな」


「でしょう? だったらわたしも買い物に同行します。わたし自身、幾つか欲しいものもありますし、自分の目で品質をちょくせつ確かめてもおきたい。

 だったらぱっぱっと済ませてしまいましょうよ」


 これからデ・ダナンⅡの警備体制を見直したり、旧ミスリル関係者への根回しといいますか、ジェリーおじさまへ気まずい電話も掛けなくてはならない。もちろん鳥籠の少女の捜索だってしないと。


 どれも一筋縄にはいかない大問題、まず優先順位を決めるべきでした。


 警備体制はとりあえず大丈夫。鳥籠の少女を見つけるのは、根気はいるでしょうが隠れられる場所が限られているので時間の問題。どうにもならないのは、買い出しだけなのです。


 未来はまだ不透明、それもやや暗雲が垂れ込めつつありますが・・・・・・どうも忙しくなるのだけは、間違いなさそうでした。









【“ポーター”――在コロンビア米国大使館、荷物仕分け室】


 お前、荷物を運ぶために生まれてきたような名前だなと、昔からよく言われてきたものだ。きっとCIAに入局すればこのひどい偏見も変わるとばかり思ってたのに、相変わらず私は、荷物の仕分け作業に追われていた。


 必死になって勉強して、輸送会社からCIAに転職してやったというのに、まさか中南米部門に配属されたその日のうちに、はるか遠くコロンビアなんて僻地に飛ばされるとは・・・・・・酷いよ、あんまりだ。そのうえ、不満はそれだけにとどまらない。


「今日中にこいつを投函所デッド・ドロップに置いてこい。壊すなよ」


 などと、いざ配属された先の上司も冷たいものだ。きっと宅配業者に礼を言わず、もっと早く運べたはずだとクドクド文句をいうタイプに違いない。人を運び屋ポーターとしてしかみなしてない。


 だけど裏方とはいえCIAの諜報最前線に関わっていることに違いはなく、そこにやりがいがないかといえば、嘘になる。


 大使館付きの荷物係。


 こう聞くと一般人はすぐ侮ってくる。通訳や、パスポートを発行したりといった重要な仕事たちに比べたら階級が低いというわけだ。だけであまり知られてないが、世の中には外交行嚢という制度があるんだ。


 これは、いわゆる外交官特権のひとつにあたる。大使館を構えている国から検閲を受けることなく、荷物を本国とやり取りできる制度。だけどこの制度にはある盲点・・・・・・というよりも、みな便利だからあえて改定してない裏ルールがあるんだ。


 この外交行嚢、じつは重量が限定されてないのである。


 古くはアフガニスタンにおいて、ソ連製の最新戦闘ヘリをゲリラから買い取り、それを丸ごと外交行嚢扱いで本国に発送したという歴史すらある。トン単位の品ですら外交行嚢あつかいにすれば普通に送れてしまうのだから、諜報機関にとってこれほど便利な制度もないだろう。


 とはいえ今回の荷は、戦闘ヘリよりずっと小さいもの、一抱えほどのパッケージだった。発CIA本部、宛て在コロンビア米国大使館。つまりスパイ道具一式のご到着だった。


 まず輸送用のダンボール箱を外そうと、カッターナイフを手にとった。上司の言っていた投函所デッド・ドロップとは、こちらの要員アセットが受け取れるよう、荷物を隠しておける場所のことだ。


 小さな物であれば、ベンチの下かなんかに貼りつけておけばいい。だけど今回の荷は、ライフルケースぐらいのサイズがある・・・・・・というか、まさしくライフルケースそのものがダンボール箱の中から飛び出してきた。


 これは、ビジターセンターのロッカールーム送りのパターンだな。荷物をロッカーに収め、それからチョークで駐車場にちょっと落書きをしてやる。線1本なら荷物アリ。のちのち見にいってその線が2本に増えているようならば、滞りなく荷を受け取ったというサインになる。


 地味だけど、なんともスパイらしいお仕事だ。ちょっと心が踊りはするけど、直後には面倒な書類仕事が待っているので、そのときめきもすぐ収まっていく。


 大体いまだって、ちゃんと荷物が揃っているかどうかのチェックと受領確認のために、クリップボードに挟んだ書類にボールペンを走らせている真っ最中なのだし。


 CIAの仕事の9割方は、そこらのお役所仕事と変わりがない。私の役割は、その残りの1割にあたる実戦部隊が暴れられるための環境を過不足なく整えることにあった。


 書類に文字を書き込んでいく。


「5.56mmライフルが2挺・・・・・・ひとつめは、オリンピックアームズ社のOA-93、と」


 ライフルケースに収まっていたのは、対象的な大小ふたつのライフル銃だった。


 このOA-93という銃は、米軍も採用しているアメリカでもっともありふれたM16ライフルをそのまま縮めたような外観をしていた。


 まず糸鋸で前後を切り落とし、残った部分がちゃんと動くよう、あとは設計者にすべてお任せしたようなデザインだ。なにせストックすら見当たらない。たぶん後部に取り付けられたスリングがその代わりを果たすのだろうけど、撃つがわは反動の制御が大変そうだ。


 このサイズなら上着の下にも隠せるだろうけど、やはり扱いづらそう。まあ、現場には現場の考えがあるんだろうと詮索するのはやめにして、いったんOA-93を分解してから、シリアルナンバー等がちゃんと削り落とされているか確認していく。


 基本的にCIAの隠密作戦コバート・オペレーションでは、出どころのわからないよう加工されたゴースト・ガンしか使われない。最近だとヤスリで削る程度では、特殊な器具でナンバーが読み取られてしまうと聞くが、その辺りはうちの技術支援部が上手くやっていることだろう。


 けれど自分の目でチェックしないと規定違反に当たるので、仕方なく手を油まみれにしながら分解と再組み立てをしていく。


 1挺目は良し。付属品のAimpoint社製のドットサイトもちゃんと機能していた。つぎに、最初のを思えばずっと平均的な見た目をしているライフル――Mk12.SPRライフルを手にとった。


 こちらは資料によれば、例によってM16ベースの5.56mm口径の狙撃銃であるらしい。だが狙撃用途としては、珍しい口径だと思った。


 5.56mmのような小口径弾は、重量の問題でたやすく風に流されるし、そもそも炸薬量が少ないから飛距離も低い。その対策らしく、弾頭重量を増した狙撃用の特殊弾がいくつか同封されていたけど、わざわざ新しい規格を作るぐらいなら素直に狙撃用弾薬のスタンダードたる、大口径の7.62mm弾を使えばいいのにと思う。


 そろそろ疑問というよりも、現場に出られない不平に思考が傾きかけており、私は自分の仕事に集中することにした。


 こちらもシリアルナンバーは綺麗サッパリに消えている。スコープにサプレッサーといった付属品もすべて揃ってる。他にも、SIG P228とFN ブローニング・ハイパワーという2種類のハンドガンも同封されてはいたが、こちらはありふれた装備品なのでさして興味を惹かれなかった。チェックも手早く、すぐ済ます。


 ライフルとハンドガンが2セットずつ。どうも新しい工作活動に当たるのは、2人組の要員アセットであるらしい。


 あとは、輸送用のライフルケースから町中で人の目に触れても違和感のないバックに詰め替えるだけでいい。そういう備品は、あらかじめこの荷物室にたくさん用意されている。


 ギターケースがベターだろうか? 布製だったらかさばらないだろうし、コロンビアにはギター使いのミュージシャンは多い。ライフルを保護するための緩衝材を配しつつ、いかにもギターが入っているようにバックの形を保つことも忘れずに。


「ん?」


 よく書類を見てみると、受領予定品は3つと書かれていた。


 ライフルのセットと、ハンドガンのセットで2つ。あとひとつはどこかと視線を走らせてみると、変わった形状のダンボール箱が隅のほうに置いてあった。


 大抵は長方形の箱で届けられるのに、どうしてかそれは正方形をしている。中身の想像がまったくできない。壊れ物注意と、精密機器のシールが貼られているせいでますます謎が深まっていく。


 精密機器だって? 特殊な盗聴装置でも収まっているのだろうか? それにしては形状が妙だが。念には念を入れて、カッターの刃で表面だけでなぞるようにしてテープを切り裂き、丁寧に開いていく。


 不思議なこともあるものだ。箱を開ける前よりも、開けたあとの方がよっぽど不可解だなんて――その箱の中にはどうしてか、アンティーク調の鳥籠が収まっていた。




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