XXX “続・3:10 to Colombia”


 世の中には明確な、善行と悪行がある。これについては、議論の余地はないわ。

 盗むな、殺すな、やるなら正当な理由を述べ、なによりも最後に責任をとる覚悟をせよ・・・・・・でもね、面倒なのは、世の中がそうシンプルに終わらないことにあるの。

 善が白、悪が黒とするなら、人間というのはマダラ模様なのよ。

 そうね、あなたの知り合いのザスカーのようなハッキリしてるタイプは、私からすればむしろ好ましくすら映る。それほどまでに、悪党や善人よりもよほど、“普通”と呼ばれる人々は複雑なのよ。

 心の赴くまま善行をなし、鼻歌まじりに悪行を働く。その時々にベストだと信じることを行うが、結果がどうなろうとも気にはしない。いえそもそも、善と悪という概念すら相対的なものにすぎないのよ。

 先住民を赤肌レッドスキンと誹り、彼らを殺した人数の多さが英雄の証明となる時代もあった。でも今は? ただの人種差別主義者に過ぎない。

 善と悪、この2つの概念にすら無自覚な者が、この世界には無数に息づいている。





――“ママ”の声は、誰にでもある種の郷愁を抱かせる、そんな幻惑的な声をしていた。

 本物の母親との思い出がろくにない俺ですら、つい懐かしそうに目を細めながら彼女の話に聞き入ってしまうほどだ。

 母性というのは、きっとこういうものを指すのだろう。

 説教してるようにも聞こえるが、ただ哲学的な対話をしているだけにも聞こえる。そんな小難しい会話が、暗闇のなかでずっと続いていた。





 善と悪という概念が、文化、時代、人によって変わるのならば・・・・・・私たちはどうするべき? 何を信じ、何にを成すべきか、あなたならどうするノル?





――その問いかけにどう答えたか、思い出すことができなかった。いや、そうだ・・・・・・そうだった。俺は素直に分からないと答えたのだった。

 いつもそうだ。この人の話は、無学な俺にはいつだって難解にすぎて、半分も飲み込めない。





 私の語り口が悪かったかもしれないわね。あまり難しく考えすぎないで。

 人は成長しつづけなければならない。生あるかぎり、善を成すことを諦めるべきではない。でも、時に善と悪は見分けがつかず、悪が善とされることすらある。

 どう? あなたは自分を悪だと思う?





――今度の質問はずいぶんと簡単だった。質問に質問を被せる、一見するとそう聞こえるかもしれないが、実際には単なる解答を俺は述べた。

 子ども殺しは悪の内に入るか?、と。





 そうね、は悪党だわ。いずれ冥府でその罪を審判されるでしょう。

 でも忘れないで、真の悪はあなたとは違う。わたしやあなた、悪であることに自覚的である者より、おぞましい存在はこの世に実在している。

 真の悪には罪悪感なんてものはないの。そう、彼らを自らを悪とすら認識せず――善であると名乗る。

 いずれ分かるわ。あなたも、本物の悪魔と出会う日が必ずやってくる。





――それはいつもの予言かと俺は聞き返した。

 怪しげな妖術師が本気で跋扈している土地に生まれると、こういう話を頭から信じるのが逆に難しくなるのだ。

 いや、それを言い出したらこの人もか。時に“ママ”は、まるで見てきたように先のことを見通しているようだったが、当人ときたらオカルトをまるで信じていなかったのだ。それなのに彼女はサンタ・ムエルテへの供物は欠かさない。そう、矛盾した人だったのだ。

 彼女は小さく笑い、それから言った。





 そういう便利な能力じゃないのよ、これは。

 見れるのは都合のいい場面ばかりじゃない。靴紐を結ぶため身を屈めた瞬間、ふと信号機を見上げて色を確認する時、あるいは・・・・・・空港で途方に暮れる、銀色の髪をした三つ編みの女性を遠巻きに眺める。

 そんな、切り取られた日常の風景ばかりが見えてしまうの。

 自分の人生を左右する決定的瞬間ばかり見れていたなら、今ここに私は居なかったでしょうね。





――気まぐれな千里眼の話より、俺はこの人でもそんな悔恨じみた言葉を口にするのかと、驚いていた記憶がある。





 私は万能じゃないもの。





――こちらの表情から読み取ったのか、それとも夢で“見た”のか。こちらの台詞に先んじて、トラソルテオトルの神たる女性は言った。





 私に救いがあるとしたら、この能力のお陰で自分がどのような最期を迎えるのか、それをあらかじめ知れたことに他ならないわ。

 この世には、あまりに罪の裁きから逃れる者が多すぎる。でも、私は違う。

 もう真の悪の定義はあなたも知っているわね。これから正義とは何かについて、あなたに話しておきましょうか。

 こちらも始まりはシンプル。だけど結果はあまりに複雑で、時に頭がこんがらがりもする。だから表層を見ずに、本質にだけ目を向ける方法を教えてあげる。

 正義とはであることなのよ。

 目には目を、歯には歯を・・・・・・。





――小遣い稼ぎに殺人を請け負っていながら、日曜日は教会で過ごせばすべてチャラになると本気で信じていた実の父親のことをまだ覚えていたから、結局は聖書じみた説教なのかと、俺はちょっと困惑していた。





 あなたが神の言葉を嫌うのはよく分かるわ。神は代償を求めるけど、恩寵は決して与えない。そうでなくても、神の言葉の名の下にどれほどの詐欺師たちが跋扈してきたのか思い出せば、私だって反吐が出るもの。

 でもね、人は洞窟で暮らしていた頃からまるで進化していないのよ。そんな人間が文明を紡ぎ、未来をこうまで発展させてこれたのは、何あろう言葉の力なのよ。

 それなら少しは聖書も興味深く見えるのではない? 数千年にわたって繰り返されてきた人の過ちが、経験訓として記された書物というのであれば。

 だって世界は移ろえど、人は変わらないのだから。

 目には目を、歯には歯を、死には死をMuerte a la muerte――長話が過ぎたわね。





――狭い密室の中、設置されたWEBカメラから聞こえてくる彼女の声に耳を傾けながら、俺は考えていた。

 正義とは平等だとするなら、いつか俺の身にも、これまで犯してきた罪の代償が降り注いでくるのだろうかと? それとも“ママ”が言うところの真の悪がそうであるように、俺もまた自分の罪から平然と逃げ切って、いつしか昔なにをしたかすら忘れてしまうのだろうか?

 俺には、彼女のように自分の最期を見通すことはできない。そんな能力はない。だからあやふやな将来の中、ずっと悩み続けるしかないのだろう。

 ムエルテが尋ねてくるその瞬間まで。





 私たちはとうに道を外れている。でもね、悪を裁くために悪に堕ちるしかないのなら、私はそれを喜んで受け入れるわ。さあノル・・・・・・引き金を引きなさい。





――命令というよりはお願いという口調。実際、強制力なんてなかったかもしれない。このまま俺が歩み去っても、きっと彼女は何も言わない気がする。

 だがあの頃の俺にとって・・・・・・いや今もなお、その言葉は絶対的なものだったんだ。だって彼女は“ママ”なのだから。俺にとっては、この世で唯一の家族なのだ。

 そうして俺は、床に横たえられ、怯えた視線をこちらに向けてくる金色の髪をした5、6歳の少年に向け、銃弾を放ったのだった。









【“ノル”――隠し地下区画・“クレイドル”前ホール】


 どうも古いの夢を見ていたらしい。


 これが噂に聞く走馬灯かと訝しんだが、その割に死んでいないのが妙だった。死んだなら地獄の悪魔が出迎えにくるはずなのに、実際に目の前にいるものときたら、腹を抱えて悶え苦しむ、消火オノ男の姿だけだった。


 手の中には、とっさに腰だめで抜き放った硝煙をたなびかせるPSSピストルが握られ、額から血が滴ってくる。


 ああそうだ、そうだった。オノの一撃をかわすべく、咄嗟にガリルを盾にしたのだった。


 お陰で頭をかち割られずに済んだが、かなり緊急対処だったので衝撃を殺しきれず、反動で跳ね返ってきたガリルのレシーバーに額をしたたかに強打されてしまったのだった。


 あの威力で、よく気絶しなかったものだ。というか、我ながら凄いなこの反射神経。意識朦朧としながらもピストルを引き抜いて、消火オノ男の腹めがけてありったけの銃弾を浴びせたのだから。


 だが衝撃から立ち直り、冷静さが戻ってくると、下手を打ったという後悔ばかりが浮き上がってくる。なにも全弾使い切らなくとも、急所に2、3発で十分だったろうに・・・・・・PSSピストルはホールドオープンして、俺に弾切れを告げていた。


 ガリルの方はといえば、恐るべきタフさで知られるAK−47の血脈を讃えるべきか、高品質な削り出しレシーバーは表面に傷こそついていたが、あんなオノの強打を防いでおいてなお歪んですらいなかった。


 これなら新しいマガジンを叩き込めば即座に発砲できるだろうが、いかんせんそのマガジンがあるべき箇所は空っぽのままなのだ。これでは恐ろしく硬い棍棒としか使えない。


 Tシャツを筋肉でパツパツに膨らませた、さながらジムか脱獄してきたような|ストロイド中毒のオノ男が倒されことで、金に目が眩んだほかの私兵たちは、すこし距離をとって状況を見定めようとしていた。


 こちらとしては、ありがたい対応だ。頭を振って、息を整えるわずかな時間が稼げた。まあ、長続きしないのは分かっていたが。


 銃器について初歩的な講習を受けた者ならこちらが弾切れだと一目で分かるし、体調だって万全からはほど遠い。


 額の血は止まらず、息切れもひどい。


 ベルトに挟まれているこの“箱”は、周りを取り巻いている男たちからすれば100万ドルの宝くじみたいなものだ。先着1名さまの争いに、自分たちの指揮官に向けて躊躇なくロケット弾なんて撃ち込んでみせた奴らが、譲り合いの精神を発揮するはずもない。


 すぐさま新たな鬨の声が迫りくる。


 箱を壊さぬよう最低限の理性はあるようで、飛び込んできた男たちの得物はナイフや警棒とかだった。


 ここでリロードするのは得策じゃない。フル装弾状態のガリルであれば、こんな奴ら一瞬で掃射してやれるのだが、弾込めしてる合間にナイフでブスリというのは、楽しくない末路だろう。


 だが銃剣をガリルの銃身に差し込む時間なら、まだかろうじて残されていた。


 バイポット基部にある着剣ラグへと俺は、銃剣をはめ込んでいった。カチッという小気味いい音がしたら、あとは銃剣の後端にあるレバーを落として固定してやるだけでいい。


 一番槍を買って出た私兵は、ナイフを持った腕をいっぱいに伸ばして、フェンシングのような突きを放ってきた。古典的な刺突。だが剣ならばともかく、刃渡り10センチ程度のナイフではあまりにリーチが短すぎた。


「!!!!ッ」


 フェンシング男の死に顔は、驚愕に染まりきっていた。


 ガリルの全長は1メートルちょい。そこに銃剣も加われば、ナイフを含めた相手の腕よりずっと長くなるのは自明の理というものだ。


 ストックを床に固定しながら、飛んで火にいるなんとやら。飛び込んできたフェンシング男の喉をそのまま銃剣で貫いていった。


 21世紀になってまだ間もないのに、古代の戦よろしく槍衾を再演する羽目になるとは、人間はほんとに進歩しない生き物だな。


 絶命したまま倒れかかってくるフェンシング男の勢いをむしろ利用して、くるり身体を入れ替え、まさかこちらにくるとはと驚き顔の後続第1号に槍とかしたガリルを突き立てる。


 珍しくちゃんした普通の服を着こなしていた後続第1号、その上着の背中部分が風船のように膨れあがり、血塗られた銃剣の切っ先がちょこなんと飛び出していく。


 これで串刺し男がもう1体。これは不味いと示し合わせたのか、新たな敵であるらしい2人組が左右に分かれ、挟撃を試みてきた。


 銃剣を引き抜くというのは意外に難しい。


 死ぬと筋肉が引き締まるから、あまり切れ味がよろしくない銃剣だとそれだけで抜きづらくなるし、死体に寄りかかられている今の体勢では体重も邪魔になる。


 だから引かず、あえて進む。


 死体を左に押し退けながらペースは崩さず、右に向けて回転しながら棒術の要領でガリルで切りつける。


 こっちから見て左から迫る男からすれば、“元同僚”が邪魔をして攻撃できず、右側の男はといえば、もはや避けようもない死の鎌になすすべなく、命を刈り取られる運命が待ち受けていた。


 重心が先に偏っているから純粋に槍としてみるなら、銃剣付きのガリルはひどく扱いづらい。だが遠心力の力を借りれば、ストックの最後部を握るだけでもこの重量級の凶器を十全にコントロールすることができた。


 さながら砲丸投げの銃剣版。ただし、コイツを投擲する気なんてさらさらなかった。


 かかとを起点に全身でぐるりと回転。つい先ほども似たようなことをやったが、今度は一度で止まらず、まず旋風のように右から迫る男の喉を文字通りに引き裂いてから、そのまま角度を変え、咄嗟に凶刃を手で塞ごうとした左男の手首から喉にかけてを、鮮血で染め上げていった。


 ・・・・・・やはり調子が悪いな。


 回転をやめた途端、ガリルの重量に足を引っ張られてついたたらを踏んでしまった。さっきまでは、この重荷が嘘のようにライフルを腕の延長線上のように感じられたのに、重力ってやつはサンタ・ムエルテ並みに平等な存在であるらしい。


 刃の角度が悪かったようで、左男の最期は醜いものだった。何本か指が欠けてしまった手で必死に喉元を抑えているが流血は止まらず、呼吸はむしろ苦しみを増していく。


 陸に打ち上げられた魚よろしく、血みどろになりながら左男は苦しみ抜いて死んだ。あの死に顔を見るに、人生最後の決断を呪いながら死んでいったのは、まず間違いないわけで・・・・・・周りの残る10人ほどの男たちは、同僚の死に様をみて、急に頭が冷えていったらしい。


 ザスカーの言い分は正しい、俺は接近戦の専門家スペシャリストだ。間合いを取りつつ、カネに目がくらんだ私兵たちは、お前が先に行けと無言で目配せしあっていた。


『学ばねえ馬鹿ばかりだなッ!! 格闘戦はソイツの間合いだつったろうッ!!』

 

 事態を上から目線で(比喩でなく)見ていたらしいザスカーが、不甲斐ない部下たちに叫んだ。


『素直に銃を使えよ、銃をようッ!!』


 100万ドルは惜しいが、こうなっては命あっての物種だ。


 そもそも判断力に欠ける奴らなのだ。ボスのボスの命令に逆らうことにはなるが死ぬよりマシと、幾人かが思い思いのライフルやらピストルだかを取り出そうとする。


 これはマズイ・・・・・・そう思い、俺は咄嗟に地面へと這いつくばった。


 平坦なホールのど真ん中でやるには、やらないよりマシという弾除け動作だろう。だが俺の目は私兵たちのはずか頭上、大きく足を振りかぶるサベージに釘付けになっていたから、この回避動作は大正解なのだった。


 俺を援護したいというケティの気持ちは分かるが、何せ根がサイコパスなので、やり方も自然と常軌を逸したものになる。


 想像して欲しい。自分の髪の毛を掠めるぐらいの距離を10tトラックが、それも時速100キロで駆け抜けていく光景を。


 気分はまさしくこの状態だったし、実態もさして変わりがないだろう。なにせアーム・スレイヴの本気のキックを浴びると、人体はひき肉になるのだから。


 俺の周りを取り巻いていた私兵たち、その半分あまりの上半身はぐちゃぐちゃになり、残った下半身はといえば、無傷で空をかっ飛んでいく。


 たまたま射程外だった、あるいは俺と同じように伏せることで助かった奴らが見えた。このようにわりと私兵たちは生き残ってはいたのだが、こっちはこっちで悲惨な感じになっていた。


 同僚の血反吐に服が赤く染まって、顔面は蒼白なままガタガタ震えているもの多数。


 その気持ちもよく分かるが、同情はしない。サイコパスが操るASのまえにノコノコ躍り出でてきたのはコイツらなのだから、自己責任というものだ。


『よくもやってくれたなぁッ!!』


 これまで足元に部下たちが居たからこそ、ザスカーも自分を抑えていたのだろうが、子飼いの兵たちの虐殺現場を前に奴は、珍しく激昂していた。


 ただし、どうも怒りに目が眩んで生き残った部下たちは眼中にない様子なのがザスカーらしいが。


 これまでが嘘のようにがむしゃらに、ザスカーのフロッグマンがケティのサベージへと飛びかかっていく。足元のアリ共なんて無視した、第2ラウンドの幕開けだった。


 激しく揉み合うASたち。この騒動、逃げるには格好のシチュエーションだったが、とくに嬉しくはなかった。俺だっていつ踏み潰されてもおかしくはない。


 またぞろ始まった人工地震の中でなんとか体勢を整えていると、釘抜きハンマーなんて構える若い男が立ちはだかってきた。


 懲りない奴だ・・・・・・いや、奴らと複数形に訂正しないと。


 あのサベージの蹴りから運良く助かったていうのに、その無鉄砲そうな若造と、それとは正反対に落ち着いてがっしりしている中年親父の二人組は、まだ100万ドルの夢を諦めていないようだった。


 無造作に振りかぶられた釘抜きハンマーをガリルで捌き、そのまま若造の手を取って関節を固めて、いい感じに伸びた奴の足首を急角度から思い切り踏みつけてやった。するとまるで関節がもう一本増えたように、足首があってはならない方向を向いていった。


 若造の絶叫は、ドタバタと殴りあうASの打撃音にすぐ様かき消されていった。


 あらゆる身体裁きがど素人そのもの、どういう勝算のもと挑みかかってきたのか不明にすぎる若造は、ごろごろ地面をのたうちまわり、自分はもはや戦闘不能だと周りに宣伝していた。


 となれば残る問題は、中年親父の方だけだった。


 これまで攻撃してきた奴らは、誰もがわかりやすい武器を携行していた。叩いたり、刺したり、切りつけたり、血が出やすそうなそんな品々を。


 だが中年親父の武器ときたら、なんと革ベルトが1本。気が狂ったとしか思えない貧弱な武装だったが、あの堂のいった構えといい、鋭い眼光からして、そうではないと俺の直感が告げていた。


 よりにもよって最後の最後に、格闘のプロと相まみえることになろうとは・・・・・・ツイてないにも程がある。


 素早く、かつ迷いのない中年親父の踏み込みに得体の知れないものを感じ、俺は咄嗟にガリルの銃剣を牽制のために突き出したが、これが面白いぐらいにあっさりベルトに絡めとられてしまった。


 たかがベルトだが、面で受けて相手の力を逆用すれば、こういった芸当もできる。気づけば俺の手の中からガリルの姿はかき消えて、床かどこかへ転がっていってしまった。


 日常的に手元にある備品で身を守るテクニックというのは、実地的な護身術として広く研究、教えられている。ナイフの斬撃をベルトで躱すというのもその一種だ。


 この中年親父の技術の源流はまだ分からないが、十中八九、体形だった格闘訓練を何十年も受けてきた達人に違いない。


 ロシア人の教官に教え込まれた、鼻で吸って口で吐くという呼吸法ブリージングを俺が無意識に実施しているのと同じく、相手もまた、まるで呼吸を乱れさせずに自然な動作で打撃を放ってきた。


 これまでとは比べ物にならないテクニカルな技の応酬。俺たちは互いに素手で裁き、攻め、目まぐるしく立ち位置を変えていった。


 熟練者同士の格闘戦は、まるで息のあったダンスのような様相をしばしば呈すものだ。正直、これまでの敵とは比べものにならないほど歯応えがあって、ちょっと楽しくなってくる自分もいた。


 そもそも純粋な殴り合いというのがひどくレアだし、この道に通じてる相手というのは更に少ないものだ。


 教官にいわく、打撃ストライクは不毛だ。


 格闘戦を制せられるほど身体を鍛えるには弛まぬ努力がいるし、それでいていざ戦闘となれば、格闘のプロですら一対多数だと勝利すら覚束なくなるのに、現実では大抵、敵は複数人で仕掛けてくる。


 そもそも人間というのは、そう簡単に殴り倒すことができない生き物なのだ。一撃で相手を仕留めるなんてことができるのは、人生を賭けて拳を鍛えあげたプロボクサーぐらいのもの。だったら同じ訓練期間で刃物を学んだ方がよっぽど効率がいい。どんなに身体を鍛えてみても、人類は動脈にまで筋肉は纏えないからだ。


 そう、結局は武器を使うのが一番手っ取り早いのだ。


 もっといえば、そして色々と台無しにするならば、銃がベストなのは明白だ。プロボクサー以上の打撃力をはるかに短い訓練期間で、それも長距離から発揮することができるのだから。だからこそ打撃ストライクは不毛だと教官は喝破していたのだ。相手よりも良い武器を使ったほうが絶対に強い。


 だからハリウッド映画のクライマックスにありがちな、拳で相手を分からせるお決まりの殴り合いは、現実にはまず起こり得ない。


 なのに今の状況ときたらどうだ。この特殊さときたら。


 こっちの銃火器はことごとく弾切れで、いつもの刃付き500ペソも慣れない警備服姿だから咄嗟には取り出せない。中年親父の方からすれば、“箱”は絶対に傷つけたくないし、こちらに奪われることを危惧してのことだろう。潔く銃を捨て去り、腰元には空のホルスター提げている始末。


 純粋に身一つだけの勝負。こんなシチュエーション、人生で二度と起きやしないだろう。


「おいっ!! 先に俺を助けてくれよぅ!!」


 人が真剣勝負をしてる横で無様に寝っ転がりながら、足首を抑えながら悶えている若造は、まるで場の空気が読めていなかった。


 自分本位の権化みたいな台詞に、中年親父すら眉をひそめる。


 無茶いうな。そう答えようとしたのか、はたまた単にうるさすぎて集中力を乱されたのか、どちらにせよ中年親父の意識が削がれた――これを突かない理由があるのか。


 打撃ストライクは不毛とはいえ、いざとなったら急所を的確について、相手を素早く無力化するテクニックそのものは叩き込まれていた。


 相手の防御器具であるベルトを逆手にとる。柔らかい革細工を腕で巻きとりながら一気に中年親父へ距離を詰めた。


「!?」


 相手の動揺を見逃さず、距離を取るためだけの牽制の拳に逆に敵のベルトを絡みつけ、十八番の首絞めまで持ち込んでいこうとした。


 殴り倒すより絞殺するほうがいくぶん楽だが、それでも時間がかかる。この床の揺れ具合からして、ちゃんと周囲を確認できていないが、ケティはどうにも俺の存在を忘れてAS同士の殴り合いに夢中になっている気がしてならない。早く中年親父を処理しないと踏み潰される危険性がある・・・・・・まったくもって度し難い。


 油断してたのは中年親父じゃなかった。次の行動に気を取られて慢心していた、俺の方だったのだ。


 すべては誘いだった。あの若造への目配りも、ベルトを奪われたことすらも。


 こちらが技を決めたと信じ込んだ瞬間、中年親父は見た目に似合わぬ軽やかさで自らの身体を宙に浮かし、軟体動物のように両足でこちらを挟み込んできたのだ。


 驚く暇もない。気がつけば、中年男の体重に導かれるまま真っ逆さまに地面へと叩きつけられ、後頭部をしたたかに打ち付けて目の奥に星が散っていた。


 飛び付きからの理想的な腕十字固め。ここまでされてやっと、中年親父の源流を察することができた。


 日系ブラジル人を元祖としつつ、南米の地で独自に発展した格闘技――この男、ブラジリアン柔術の有段者に違いない。


 仕事柄、いつも敵は多人数であったため寝技とは縁がなかった。どう頑張っても寝技と多人数戦は相性が悪い。1人を絞め落としている間に、別のやつに好き放題に攻撃されるのが目に見えているからだ。


 教官は、関節を固める技術ならいくらでも教えてくれたが、どれもが拘束から武器でトドメを刺すまでの繋ぎの技であって、それも立ち技が中心だった。


 いくら1対1の格闘試合形式なら無敗を誇るとはいえ、多人数戦に致命的に弱いという先ほどの理由から、実戦で寝技を仕掛けてくる相手なんて金輪際あらわれないとばかり思っていた。迂闊だった。


 右腕の肘関節が限界以上に引き伸ばされていくのを感じ、思わず歯を食いしばる。すると、鉄の味が口中いっぱいに広がっていった。


 これが試合であれば、レフェリーが問答無用で待ったをかけるシチュエーションだろうが、中年男はこちらを破壊するまでやるつもりだった。腕が、軋む。


 よりにもよってこんな名手が最後の生き残りとは、本当にツイてない。


 対して中年親父からしては、ありえないほどの幸運だろう。得意の寝技を仕掛けても敵味方から邪魔の入らない理想的な戦場。そんなもの、そうそう手に入りやしない。


 肘からバリバリと嫌な音がしだした。 


 首を挟み込んでくる相手の両足へなんとか左手を挟もうとしたが、中年親父の脚力ときたら万力のごとくでまるで歯が立たない。


 かといってパンチを見舞ってみても、この体勢では駄々をこねる子どものそれと大差ない威力だった。


 逃れる手が見つからない。考えようにも、肘の激痛が集中力を奪い取っていく。


 頼みの綱は、腰元のコインホルダーに収まった500ペソだけだが、なんとか左手を伸ばしても指先がやっと触れるのみ。中年親父も直感的に危険を察したらしく、身体をくねらせ肘への圧迫感を高めることで、俺が硬貨を抜き取るのを妨害してくる。


 打つ手が、まるで思い浮かばない・・・・・・。


「クソッタレめ!!」


 涙声で吐き捨てながら、視界の隅に這い進んでくる若造の姿が見えた。奴が這いずりながらピッケルのように床へと突き立てているのは、小柄でも切れ味十分なネックナイフ以外の何者でもなかった。

 

「死ね」


 単刀直入、トドメを刺すべく振り上げられたネックナイフが、俺の顔に影を投げかけてくる。


 絶体絶命・・・・・・一撃ぐらいなら躱せるかもしれないが、2度3度つづけば命はない。


 なんともくだらない終わり方かもしれない。だが遅かれ早かれ、こうなると俺は知っていた。シカリオの平均寿命はせいぜい23歳ほど、10代で死ぬほうが普通なのだから。


 何よりも――俺のような悪党バンディードが生き延びるよりも、この結末の方がはるかに道理に合っている。


 そんな風に物思いに浸っていた矢先にバン!!と轟音が・・・・・・いや、この擬音語は正確じゃないな・・・・・・なんと表現すべきか・・・・・・バンとネチャが複雑に絡みあった詩的ポエミーな音色が響き、若造は唐突に死んだ。


 死因・ASに下半身を踏み潰されたことによるショック死。


 無傷だった若造の上半身がびくと飛び跳ねて、ネックナイフを抱えたまま動かなくなる。あまりにもあんまりな最期に人の腕を固めていた中年親父も、されるがままになっていた俺すらも状況を忘れて硬直してしまった。


 仮にここが闘技場だとしたら、そいつは人間用じゃないと今更ながら俺たちは思い出したのだ。好敵手との戦いなんて所詮はサイドストーリー、真の主役はどう考えたって、我を忘れて拳を交える巨人たちの方なのだから。


 そう、操縦者たるバカ2人は完全にこちらのことを忘れ、今もまた豪快に足を振りかぶって――ふいに腕が解放された。


 さっきまで命の取り合いをしていた俺たちは2人揃って、泡を食って左右にごろごろ回転、あわやのところでプレスされるのを回避した。


 なんというか、即座に戦いを再開できる雰囲気でもなかった。


 膝立ちになりながら俺と中年親父は、謎のシンパシーを感じながら茫然と周囲を眺めていった。


 あたりは死屍累々。それもほとんど人間ペーストまみれという惨状だった。圧倒的な暴力の痕跡を前に・・・・・・今は戦うより逃げるべきでは? なんて今さらながら常識的感情が湧いてくる。そうお互いに。


 中年親父がはじめて声を発した。


「なんてこった、グロすぎる・・・・・・」


 当人もまさかこれが最期の台詞になるとは、夢にも思わなかっただろう。ふたたび来襲してきた巨大な足に、あれほどの強敵があっさり踏み潰されてしまったのだ。


 いちおう勝負は決した。だが、たまらない虚無感が胸に去来してくる。巨大すぎる力というのは、人にこうも無力感を呼び起こすらしい・・・・・・そんな感慨を抱きつつ、よろよろと俺は立ち上がっていった。


 そう離れてない場所に運よくも、ASに踏み潰されていなかったガリルARMを見つけ、軋む左肘を庇いながらキャリング・ハンドルを握って拾いあげた。


 うむ、まあ・・・・・・ケティに作戦を伝えるという目的はとうに達成されているわけで、ならもうここには1秒だって居たくはない。


 自分はろくでもない死に方をすると知ってはいるが、これはない。虫ですら殺虫剤で殺されるこのご時世に・・・・・・これはあんまりだ。


 なぜだか身体よりも精神に重いダメージを抱えつつ、とにかく走ることにだけ集中しようとした。その矢先のことだった。


「グゥ、ぐがぁぁぁぁぁァァ!!」


 いの一番に飛び込んできて、PSSピストルの弾丸をありったけ浴びせられて死んだはずのオノ男。


 熊のようなその偉丈夫は、容姿にふさわしい身体能力を持ち合わせていたらしい。あれだけ撃ってまだ死んでいない。それどころか復活を遂げて、地面から立ち上がろうとしていた。


「勘弁してくれ・・・・・・」


 ため息のひとつぐらいつきたくなる。


 よりにもよって人の進行方向に、オノを杖代わりにしてよろよろ迫ってくる大男が立ちはだかっているのだ。もういい加減にお腹いっぱいだ、連戦にもほどがある。


 恐るべき執念だったが、手負いはお互い様でもダメージの桁が違う。あっちは瀕死でこちらにはまだ余力があった。


 あのオノ男、避けるには邪魔な位置に立ってはいるが、倒す術はいくらでもある。


 のたくさオノを引きずりながら接近される前に、冷静にマガジンを入れ替え、ガリルなりPSSなりで額を撃ち抜き、引導を渡してやってもいい。


 だがそれをやれば、立ち止まるぶんだけ巨人に踏まれる可能性が増えてしまう。それだけは御免だった。


 ならばいつものスタイルで切り抜けるのみ、か。俺は、徐々に身体を加速させていった。


 片手で振り回すものじゃないだろうに、重症ゆえにタガが外れているのか、大男は消防用オノを片方の腕だけで上段に構えていた。


 だが愚かしいほどに隙だらけだった。


 怪物じみた大声を張り上げてみても、先ほどの中年親父の無言の圧力に比べたら屁でもない。刃が振り下ろされるその遥か以前、すでに俺の足は、奴の腹部を捉えていた。


 ボディチェックをされても硬貨のフチが研ぎ荒まれているかなんて誰も調べないのと同様に、俺がいつも履いているハイヒールのかかとが実は暗器であり、相手を思い切り蹴飛ばせば華麗に突き刺さるなんてことに、普通は誰も気付きやしないのだ。


 これぞプロの暗殺者アサシーナの本領発揮といったところ。


 俺の戦い方は、昔ながらの南米式シカリオの暗殺スタイルからほど遠い自覚はあるが、ここら辺はPSSピストルといい、変テコな暗殺道具を作ることに血道を上げてきたソ連の功績が大だと思う。


 “良いのか、お前そのスタイルで本当に良いのか?”と妙なところで心配性だったロシア人の教官は、なんやかんやと自分の国で作られていたさまざまな暗器を、俺の要望通りに改造を加えては支給してくれていた。


 このハイヒールもそのひとつ。弾痕だらけの腹の傷痕にこの一撃だ、もはやオノ男の命運は尽きた――はずだったのに。そうとも、ちゃんとハイヒールさえ履いてきてさえいればだ。


 我ながら完璧に決めてみせたハイキックは、穴だらけの癖してまだ鉄みたいに硬い腹筋にあっさり遮られてしまった。


 あっ。そうだ、そうだった・・・・・・今はハイヒールじゃなく、普通のブーツを履いてたんじゃないか。単なるゴム底VS鋭利な合金製なハイヒールの踵、殺傷力はどちらの方が上か、比べるまでもない。


 たび重なる連戦の熱に浮かされて、どうも俺は冷静さを欠いていたらしい。いつもの癖が出てしまったのだ。


 わりかし重い一撃であった筈だが、脂汗をかきながら見上げてみれば、ウドの大木のような大男は無表情。ただ無言で天に掲げたオノをこちらに振り下ろそうとしていた。


 踏み潰されるのもアレだが、死因・ど忘れというの如何なものだろう?


 オノが落ちてくる。


 くるくる刃先が舞って、コンクリの床へと突き立っていくのを、俺は茫然と横目で眺めていた。


 一瞬、なにが起きたのか理解できなかった。自分の顔に降り注いできた血飛沫が、高速弾が人体を貫いたとき特有の霧雨状のものであったことも、なかなか飲み込めずにいたほどだ。


 顔面から血を拭いながら見てみれば、頭を撃ち抜かれたオノ男はすでに絶命しており、遠くこちらにインベルを向けて、銃口から煙をたなびかせてるDEAの姿が見えた。


 ・・・・・・どうも、奴に助けられたらしい。


 流石にもう妨害してくる奴は、いやそれどころか進路上に生命体の姿形すらない。息を整え、俺はふたたび走りだした。


 道中、やっぱり銃は偉大だとガリルの弾倉を交換こそしたが・・・・・・それ以外は何もせず、ひたすらDEAが撃ちまくっている簡易バリケード、またの名を倒れた自販機の陰へとたどり着くことができた。


 さっきから振動ばかりだ。そのせいで倒れてしまったらしい自販機は見た目以上の防弾能力を発揮しており、しつこく抵抗してくるエレベーター組の残党からの攻撃を完璧に防いでいた。


 自販機のどこからこぼれ落ちたのやら、床に転がっているミネラルウォーターのキャップを片手で押し開け、中身を喉に流し込んでやっと人心地ついた。


 なんというか、1年分の戦いを今日一日で経験した気分だ・・・・・・身体が鉛のように重い。


「君には色々と言いたいことがあるけどね!!」


 淡々と等間隔に引き金を引いていくDEAは、プロらしい冷静な射撃法とは裏腹に、怒りを隠さずそう叫んできた。


「まず最初に聞きたい、なんであんな危ないところに走ってたよ!!」


 ちょうどインベルが弾切れになったらしく、身をかがめて新しいマガジンを引き抜いていくDEAに代わって、俺はガリルを構えて制圧射撃を開始した。


 無闇に弾をばらまいても意味はない。セミオートで的確に敵を狙い、あわよくば命中、最低でも頭を出せないようエレベーター組を封じ込めていく。そんな射撃の合間、合間に先ほどの質問へと俺は答えていった。


「ケティと――作戦――会議――する――必要が――あったんだ」


 弾切れ。身を引っ込め、即座にDEAと射撃役をスイッチした。


「作戦会議だってッ!! そのためにASの足元に飛び込んだのかい!? 新兵訓練所で最初に叩き込まれることだ!! 車のまえとASの足元には飛び出すなってねッ!?」


「俺だってやりたくはなかった。だがあの卑猥な股間のカメラに近づかなきゃ手話が見えないだろう」


「あのセンサーポッド? あれは戦闘ヘリ用だぞ!!」


「だから?」


「上空からターゲット識別するために開発された特殊なカメラだ。わざわざ足元に近寄らなくたって、1km先の相手の唇すら読みとれる高性能なズーム機能があるはずだ」


「・・・・・・俺だってやりたくはなかった。だがあの卑猥な股間のカメラに近づかなきゃ、手話が見えないだろう」


「あのねぇ・・・・・・君、戦闘力に知識がまるで追いついてないぞ。ひとこと僕に相談してたら、あんな危ない目に遭わずにすんだろうに、まったくもう!!」


「それだけか?」


「なに!?」


 小口径の5.56mm弾とはいえ、射撃のタイミングに被せて話すのは間違いだった。俺は仕方なく、インベルが火を吹かない合間を縫って質問し直した。


「他にも色々と言いたいことがあるんじゃないのか?」


「ああ、あるとも!! 命を救ってもらってお礼も無しかいとか!!・・・・・・まあいい。君の性格がだんだん読めてきたからね!!」


「そうか・・・・・・」


「で? わざわざ無駄に命を賭けて相談してきた作戦ってなんだい?」


「サベージの上半身あたりに、ツノみたいな突起があるだろう」


 俺が顎で示した方向を、チラッとアイアンサイトからできるだけ目を離さぬよう注意しつつ、DEAが確認していった。


「知ってる、発煙弾発射機スモーク・ディスチャージャーだね」


「あれはスモーク・ディスチャージャーと言って――」


「知ってるって僕、いま言ったよね?」


「ひとたび発動すると白い煙がそこら中に充満する。昔、兄弟カルナルの1人が誤って船内で起動させてえらい目にあったことがある」


「なるほど撤退には好都合か、まあ元来それ用の装備だしね。だがそれだけじゃ、決め手に欠ける気もするね」


「自分の格好を見てみろ」


「なんだい、いきなり」


「まだあの詰め場には、手榴弾を握らせたままのB.S.S.の連中がいる」


 指揮系統は違うが、それでも同じカルテルの旗のもと働いてる間柄だ。ザスカーの私兵どもも、逃げ出してきた警備員を撃つのを躊躇うはずだった。


 一瞬だけでも十分、その間に接敵できれば、いくらでも対処法はある。ザスカーにいわく、接近戦は俺の間合いなのだから。


 一通り作戦を聞いたDEAは、ぽつりと感想を漏らした。


「・・・・・・シカリオってのはやり方がえげつないね。相手が無視して、動くものすべてに銃弾を撃ち込んできたらどうする?」


「先頭に立たなければいい。先に行った人質が撃たれてる間に、煙幕に紛れて奴らを殲滅するだけだ」


「本当にもう・・・・・・君って奴は野蛮なんだから」


 それからは、これまでを思えばとんとん拍子に進んだ。


 適当な布地はすぐ見つかった。バンダナは持ち歩くにかぎる、汗もふけるし、口元も隠せる。それに俺は先ほどのミネラルウォーターの残りを振りかけて、煙幕が張られたあと用の即席マスクに仕立てていった。


 射撃役を適時交代しながら、何がなんだか分からず隅で縮こまっていたB.S.S.の人質から手榴弾を回収。DEAと視線で示し合わせてから、そいつを思い切りプロレスに興じるASに向けて投擲した。


 対人用としては凶悪無比でも、手榴弾なんてASからすれば足元でポップコーンが弾けた程度にしか感じられないだろう。だがASに搭載されている近距離用センサは、主に市街戦時の対人索敵用途に使われており、手榴弾の爆発を探知することはもちろん、その種類と投擲位置の推察までできる優れもの・・・・・・であるらしい。


 どれもDEAからの受け売りだから、偉そうな顔して語れやしない。でっかい爆発音がすれば、こと爆弾に関しては耳ざとい――聴力がなくとも――ケティのことだ、絶対に気づくはずというある種の信頼関係があったのだが、そういうことなら尚更に安心だ。ケティか、あるいはASのどちらかがちゃんと合図に気づくことだろう。


 またぞろ最初に相談しろよなんて、壊れたレコードのように繰り返すDEAのお小言を聞き流しながら、かくして撤退作戦が開始された。


 手榴弾の爆発から程なくして、サベージに貼りついてる束ねられたパイプから飛翔物が射出された。


 燃えるし爆発するし、見た目は新手の爆弾のようだったが、すぐマッチを擦ったあとの鱗の匂いと共に、煙があたりに立ち込めはじめる。


 真っ白い煙が、ただでさえ換気の悪い地下にすばやく充満していった。


「・・・・・・」


 足を引きずりながら、濃霧に覆われてしまったかのような世界を歩いていく。


 すでに場の混乱は極限に達していた。無闇に撃ちまくる者、状況を把握しようとして叫びまわり、逆に混乱を助長している者、切れ切れでとても聞き取れないノイジーな無線のささやき声も持節聞こえてくる。


 ケティたちASだけがまともに戦闘を継続しているようだが、煙幕のせいでそれすらも見ることはもう叶わなかった。


「撃つな!! 撃つんじゃない!!」


 銃声、悲鳴、味方を撃つなのワンセットが辺りで繰り返されていた。


 放流された捕らえられていた警備員たちはこちらの読み通りに、場を引っ掻き回してくれている。DEAは非人道的なやり口だと苦虫を噛みつぶしたような顔をしていたが、シカリオとはこういうものだ。


 立場が違えば、向こうも同じことをしたに違いない。生きるか死ぬか、こんなカルテルの要所を任される連中が、実は善人だったなんてありえないから、俺の心はまるで傷まなかった。


 一度でも手を汚せば、みんな同じ穴のムジナなのだ。


「誰だ!!」


 軽い9mm口径の銃声が、すぐそばを掠めていった。


馬鹿野郎カラホ!! 味方を殺す気か!!」


 撃った主は、エレベーターに篭ったまま進退極まった私兵の1人らしい。近づくにつれてMP5サブマシンガンの短い銃身が見えてきた。 


「この状況で敵味方の区別なんてできるかッ!! 止まらねえとぶっ殺すぞッ!!」


「だから味方だ!! この服が見えないのか!!」


「奴らも警備員の格好だった!! 服装が証明になるか!!」


「その奴らは2だったろうが!!」


 俺は、DEAと一緒に肩をかしている3人目を引きずりながらそう答えた。


 敵は2人組というイメージが先行しているせいで、煙幕の隙間からフラリと現れた3人組をどうすべきか、MP5男は量りかねているらしい。


 エレベーターに接近していくと、足元に真新しいB.S.S.の射殺体があった。腕の拘束痕からしても、ついさっきまで人質になっていた運のない警備員が誤射をくらったらしい。だからこそMP5男は、判断に慎重になっているのかもしれなかった。


「コイツは出血が酷い。なにか、止血キットとかないか?」


「・・・・・・」


 声色を変えての切羽詰った感じの演技は、我ながら悪くないつもりだった。あのカイビレスの隊員の例もあって、急遽アドリブを効かせたグアテマラ鈍りにも説得力があるはず。


 だいぶ近づいてきたから、お互いに顔がうっすらと見えるようになってはいたが、そこはバンダナ製の即席マスクで顔を覆っているから判別困難なはず。


 だがMP5男は疑念を隠さず、問いかけてきた。


「なんだその帽子・・・・・・TDD–1ってどういう意味だ?」


 ・・・・・・俺は反論する前に、偽装のために引きずっていた警備員の死体を放り捨てて、一気にガリルでエレベーター内を掃射した。


 虚をつけた分だけこちらが早く、ちゃかちゃかとMP5男はじめ他2名をエレベーターから排除することに成功した。


 うむ、まあ・・・・・・この帽子について言い訳させてもらうなら、警備員の服は割りかし簡単に手に入ったのに、なぜだかSEGURIDADと記された警備員用の帽子だけは、なかなか見つからなかったのである。


 いや正確には、馴染みの調達屋のお陰でひとつだけ手に入り、どうせ俺しか使わないのだしと満足した矢先にDEAの参加が急きょ決定したという背景があったりしたのだ。


 こうなれば時間もないし、代用品を使うしかない。例えばシルエットも色合いもそっくりなテッサから借り受けた・・・・・・というよりも、押し付けられてしまったこの謎のキャップとかはまさに好都合だったのだ。帽子の文字こそ違うが、そこら辺は俺の器量でどうにかするつもりだった。


 だがまさか会う相手すべてからツッコまれるとは、予想もしなかった。


 まあいい、どのみちエレベーターは確保できた。MP5男たちが籠もっていたのは、よりにもよってペドロが破裂したあのエレベーターだった。


 手榴弾が人体ごと爆発し、そこへさらにMP5男はじめの死体が追加でいくつも重なっているエレベーターの昇降ボタンを素早く俺は叩いた。ダメージは酷いがこのエレベーター、ちゃんと動いてくれてよかった。


「他になかったのかい、似たような帽子とかさ?」


 しまいにはDEAまで人の帽子を指摘しはじめた。頑丈すぎるエレベーターが上昇していく中、その問いに俺は答えていった。


「ひとつしかないB.S.S.純正の帽子を被っておきながら、言うじゃないかDEA」


「出会った全員が君の帽子についてツッコんでるんだ。一言ぐらい良いだろう」


「この帽子がなかったら、代用品として地元のサッカーチームが通販してるオフィシャルグッズを使うしかなかった。

 サッカーを知らない奴は、南米大陸では人権すらも否定される。アレを使うよりはマシだと思ったんだ」


 そもそも準備が急ぎすぎた。むしろ実質、1、2時間で小道具をすべて揃えてみせた俺を褒めて欲しいぐらいである。


「それでバレてちゃ元も子もないだろ」


「重ねていうが、ちゃんとした正規品を被ってたのに、ピアス男に速攻で正体バレてた奴が偉そうだな」


「君だってバレてたろう。潜入任務スニーキング・ミッションのはずなのに、目につく相手を片っ端からしばき倒してるだけじゃないか僕ら」


「いつも通りだ」


「・・・・・・僕の勤務初日、カルテルの抗争現場だとかいう現場にいきなり送られてね。行ってみたら、モーターボートが建物の上でひっくり返ってた」


「へー」


「どうも爆弾のせいで、運河から吹き飛んだモーターボートがくるくる回転して、ペンキ工場の屋上に引っかかったらしい。アレのせいで辺りに数十体も死体が散乱していたよ」


「何が言いたい」


「暴力でしか事態を解決できない奴は、はた迷惑だって話さ・・・・・・まさかとは思うけど」


「赤いボートだったか?」


「やっぱ君が・・・・・・」


「違う。赤ならケティだ、俺がやったのは青と黄色と紫と橙色と赤紫と」


「他にもボートがあったのか!!」


 DEAの奴らは本当に使えないな、たった数十体しか見つけられなかったのか? 死体の桁が間違ってる。


 エレベーターという閉鎖空間は誰にとってもどこか気まずいものだが、この沈黙は単にDEAの奴が絶句してるのが原因だろう。


 にしても、爆散した死体で赤色にペイントされているエレベーターに揺られながら、よくこんな程度の話で驚けるものだ。コイツ、まだこの国のことを全然、理解していないらしい。


「ああーもう・・・・・・そんな君に頼りっきりな自分が情けなくもあるけどさ。

 話は変わるけど、大佐殿のプラン通り、潜伏からのカルテルとの交渉という方針は良いにしても、まず脱出しないことには話にならない。

 現場レベルで具体的にどう脱出するのか? 考えがあるなら今のうちぜひ拝聴しておきたいね」


「侵入に使ったトラックまでとにかく移動する。立ち塞がる敵があれば、いつも通りに銃とナイフで解決するさ」


「さっきのボートの一件もそうだけど、そのいつも通りが一番、心配なんだって。

 戦闘でもっとも難しい局面は、撤退戦だ。

 間断なく戦闘を繰り返しながら敵の追撃を食い止めつつ、最後には逃げ切らないといけない。タイミングを見誤れば敵につけ込まれ、一気に殲滅されるリスクが付き纏う」


「そのために虎の子の装置デバイスを使って、B.S.S.の戦力を分散させたんだろう」


 もっとも分散させたのは、主にテッサの功績なのだが。何も考えずに撃ちまくってすべてを解決するつもりだった俺とは、まさに雲泥の差というものだ。


 頭の出来が違うとこれだから。


「・・・・・・だけどあのシカリオ、ザスカーの出方は予想外だよ。

 あのVIPルームでの会話からすると、あの男はこれまでの隠匿を旨とするカリの方針を真っ向から無視して、本気で市街戦をやらかしかねない。

 だって平然と仲間すら撃ち殺したんだぜ?」


「会話?」


 そうか、俺とは違ってDEAの盗聴器は快調に動いていたらしい。話についていけてない俺を無視して、早口気味にDEAが言い募っていく。


「ああ。もっともこの場合、徒歩の僕らは逆に有利だけどね。入り組んだ市内に逃げ込めば、巨大なASは動きが取りづらくなるだろう。

 だけどそれをいったら、あの顔面タトゥーの子が操るサベージも同じ条件なんだけどさ」


「・・・・・・」


「トラックで回収のは、ちょっと難しいかな。どこぞで乗り捨てるにしても、乗り降りする時は無防備になるから、その対策も考えないと」


「もしかしてお前、ケティの心配をしてるのか?」


 さっきからどこか話が合わないと思っていたが、そうか。こいつ俺たちだけじゃなく、ケティまで計算に入れていたのか。


「当然だろ。このHDDを持ち出すのは至上命題だけど、かといって援護しない訳にもいかないだろう。彼女は何歳ぐらい? 13? 14?」


「・・・・・・14だ」


「最低でもフロッグマンだけは叩かないと。僕はAS乗りじゃないけどね、今はお互いの機体が非武装だからこそ、どうにか互角にやりあえているというだけは分かる。

 生身でASとなんてやりあいたくはないけれど、対戦車兵器をどこかで入手できればなんとか――」


「ケティはここに残る」


「・・・・・・君、本気で言ってるのか?」 


 DEAのように軍隊経験こそないが、商売敵である警察官の心理を俺は、それなり以上に知っているつもりだ。


 奴らは絶対に身内を見捨てたりしない。その分、裏切り者には容赦がないのはカルテルと同じだが、身内であるかぎり、死体になったとしてもしゃかりきになって回収したがるのが警察や軍人の特徴だ。


 仲間を決して見捨てるな。その考え方はかつては軍人であり、今のところまだ警官であるDEAもまた、当たり前のものとして共有しているらしい。


 そうだ、俺とはまるで違う思考方法だ。だから本気で人の正気を疑うような、そんな口調でDEAは話しているのだった。


「相棒を捨て駒にするつもりか? そりゃ性格に問題はあるけど・・・・・・まだ子どもなんだぞ?」


 DEAにとって相棒であることか、あるいは子どもであること。どちらがより重要なのか判然としなかった。だがどうでもいい、これはそういう次元の話じゃない。


「アメリカの法律だと、100人殺した奴はどうなる?」


「・・・・・・望んでそうなった訳じゃないだろう」


「全員が死刑になる。環境がそうさせたなんて言い訳が今さら通用するか。それで罪は帳消しになったりしない」


 ケティと俺、2人合わせてこれまで何百人殺してきたことか。


 これがこの国の刑務所であれば、取り引き次第では15年ほどで釈放されたりもするだろう。だがひとたび国境を越えてアメリカの裁判所へと引き出されれば、俺とケティなんて論ずるまでもなく死刑か、無期懲役は免れない。


 正義とは、平等であることなのだ。


「俺もケティも、そういう覚悟はある。たまたま今回はケティの番だっただけだ」


「だけど・・・・・・」


 テッサだけでなくこのDEAもまた、サンタ・ムエルテを単なるカルテルの守護聖人として見てる節がある。だがそれは大きな間違いだ。


 どんな綺麗事を並べようとも、実際には地位と財力ばかり見て人を区別するような、腐りきった教会の態度に失望を感じた人々によって新たに信仰され出したのが、あの骸骨の聖母なのだ。


 サンタ・ムエルテが見るのはその者の地位ではなく、ただ、行いであるにすぎない。


 正しき行いには恩恵を、非道には報いを・・・・・・生まれなど見ず、その行いだけ眺めて裁断する。絶対的な平等こそがサンタ・ムエルテの――ひいては“ママ”の本質なのだった。


「俺たちは悪党バンディットだ。その罪はいずれ支払わなければならない、違うか?」


「・・・・・・」


 カネが手に入っても、端から国境を越えるつもりは俺とケティには無かった。


 軽率に命を救ってしまった、その借りをガキどもに返すためこれまで生き延びてきたが、それももう終わりだ。


 ろくな信者じゃなかったが、サンタ・ムエルテは最後の最後に俺の願いを聞き届け、理想的な救出者をあの船に差し向けてくれた。アホみたいなリボンをした三つ編み女、だがその能力だけは一級品だ。


 あとはすべてあいつに委ねればいい。そうすれば、いつ始まったのか知れないこの暴力の連鎖から、ガキどもだけは連れ出してくれるかもしれない。そうなったら後は、俺の自身の問題だけが残る。


 目的地に到着したエレベーターが、たび重なるダメージのせいで異音を奏でながらゆっくり扉を開け放っていった。


 会話は一時中断、いやもう再開する意味もない。エレベーターの死角から慎重に身を乗り出して、外の安全を確認クリアリングしていった。


 敵影はなし。ケティのサベージがくぐり抜けてきた直後だから、強引な拡張工事によってついさっき通ってきたばかりのトンネルは破片まみれ、かろうじてスタジアム側とつながっているあり様だった。降下の際に巻き込まれたとおぼしきキャットウォークが各所で千切れ落ちており、渡れないこともないが、落ちたら即座に死ねるちょっとしたアスレチックコースと化していた。


 だがこちらとしては、この惨状は好都合だった。敵に包囲されながら銃を撃ちまくって突破するとかに比べれば、はるかに良い。


 パルクールの訓練を思い出しながらDEAとともに、危なげなく障害物を突破し、入るのに使ったトンネルを逆にたどっていく。道中、運のないカイビレスのOBと若造だったものが破片にすり潰されているのを見たが、特に感想も抱かずそのまま通り過ぎていった。


 言ってみればこれも自業自得だ。コイツらにも選択肢はあった。カルテルの仕事なんて受けずに、そこらで畑を耕すという道もあった訳だ。だがコイツらはこの道を選んだ、俺もケティもそうだ。自分のろくでもない人殺しの才能を活かせる道を。


 トンネルから這い出ると、そこは戦場だった。


 DEAは声を無くして、停電しているスタジアム中から轟いてくる銃声の光や音を眺めている。俺はその光景の意味をすぐさま理解した。


「警備員姿の奴らが100万ドルを抱えてる・・・・・・そういう情報だけが1人歩きして、ザスカーの私兵どもが息巻いてるんだろう」


「内紛ってことかい?」


 館内放送で叫んだのはほとほと間違いだったな。とりあえず撃ち殺してから持ち物を探るほうがずっと楽だ。すべてを暴力で解決する人生を送っている奴らの常識なんて、そんなものなのだ。


 そもそもB.S.S.とザスカーの私兵連中は、指揮系統も違えば、性格もまるで異なる組織だ。カリの人間はそもそも同族意識に欠ける。高度に匿名化した果てに残ったのは、欲という共通言語だけだった。


 だからこれはある意味で当然の帰結といえる。ほとほと100万ドルという懸賞金は、逆効果に働いたわけだ。


 もはやこの戦いを統率しているのは誰もいない。あるとしたらそれはやはり、欲望だけなのだろう。


「✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎!!」


 急に銃弾が、コンクリ造りの素朴な観客席に突き立っていった。弾丸が飛び交うとき特有の死の羽音を聞きつけ、俺とDEAは揃って聞き取り不可能な叫び声に向かって即座に応射していった。


 あまりに遠すぎて誰に撃たれてるのかすらさっぱりだったが、撃たれる原因は心当たりが多すぎて、もう考えてもいられない。


 撃って、走って、脱出用のトラックが停めてある地点まで駆け抜ける。俺たちにできるのは、最早それだけだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る