第39話 先輩39 クリスマス3

 「ついたぁ!」



下道から森森したところを走ること30分、車を降りると、あたりにはバスや車が大きな駐車場にたくさん止まっているのが確認できた。

 

 「あー、疲れたわぁ」

 「お疲れー、橙子」


 後ろでは、おば……お姉様方が交代交代でのここまでの運転の疲れをねぎらう様子が見られた。


 「ん?お兄ちゃん、お母さんたちがすごい顔でこっち見てるけどどうかしたのかな?」

 「あ、あぁー、多分運転の疲れだと思うよ、あははは……」

 

 今日一日、刺されないように主に背後に気を付けよう……。ってか、人の心を勝手に除くのやめてください、お姉様方。


 


 「それじゃぁ、行こうか」

 

 バスの停留場の方に人の列が見えた。多分、あっちが入り口なんだろう。

 僕らもイワシが群れにすっと入り込むようになんとか列に潜り込み、その群れに倣って小魚のようにまだ見えぬ入り口に向かって濁流に流されていく。




 「にしてもすごい人数ねぇ」

 「ほんとねぇ、しかもリア充ばっか……」

 「見て見て、あそこの夫婦、私たちと同じくらいの年齢じゃない?」

 「ほんとだー。私たちは『婦婦』なのにねー」

 「ねー」


 などと列に並ぶカップル(老若男女を問わず)を見つけては引きつった笑顔と落ち着いた声で負のオーラを漂わせる○十代の女性2人を前方に僕らは赤の他人のふりを努める。




 「仲いいね、2人」

 「そうですね、腐れ縁みたいなもんなんですかね」

 

 その様子を眺めていた僕ら子供組は他に特にやることもないので、のんびりと世間話のように話す。


 「なんか仕事の同僚なんですよね?」

 「うん。でも、知り合ったのは学生時代からだってお父さんが言ってた」

 「へぇ、そうなんですか」

 「カイ君はそこらへん何も聞いてないの?」

 「はい、聞いたことないですね」

 「じゃぁ、お父さん同士も仲いいって知らない?」

 「えっ!?マジですか?」

 「マジみたい。っていうか、4人とも知り合いらしいよ」

 「いつから?」

 「学生時代から」

 「全員同級生?」

 「いや、先輩後輩関係かな」

 「マジか……」


 知らなかった。まさか恋人の親同士が学生時代からの知り合いだったなんて……しかも4人とも。


 「……クスクス」

 「な、なんで笑うんですか」


 横に目をやると、有希亜が口に手を当てつつも、肩を揺らして笑いをこらえようとしている。 


 「だ、だってカイ君、『マジ』連呼しっぱなしなんだもんっ……」

 「そ、それはびっくりしすぎて……」

 「えぇー?語彙力が足りないだけじゃなくてー?」

 「うっわ。それ言っちゃうんだー?いくら先輩だからってそれ言っちゃうんだー?」

 「あはははっ!怒ったー?」

 「……怒ってない」

 「もう、分かりやすすぎー。カイ君知ってた?君が私に対して敬語からタメ口になるときって、感情的になってることが多いんだよ?」

 「っ……そ、そんなことあるわけ……」

 「せいかーい。カイ君って意外と感情表現豊かだから、すぐ表に出るのよね

ー」

 「ちょ、か、母さん?!」

 「あらー、いいじゃないかわいらしくて」

 「エ、エリカさん!?」


 いつの間にか、前の列から母親2人がこっちの痴話……普通の喧嘩に参戦してきた。しかも、両方とも有希亜側っぽいし……。

 

 「へぇ、じゃぁやっぱり怒ってたってことなんだー?」

 「あー、もう黙秘しますっ」

 「あらあら」

 「ちょろいわね、うちの息子」 

 「ふふっ、やっぱカイ君おもしろい」


 まだ入り口すら見えてこないんですけど、もう帰っていいですか?

 女性3人対男子中学生1人ってあまりにも不利でしょ。反則でしょ。数の暴力でしょ。


 「まぁ、今日は男一人なんだから、有希亜ちゃんに歯向かわない事ね」

 

 だから、僕の心をかってに読むのやめてください、母さん。

 そう言い残して、また大人2人で話始める母親たち。



 有希亜はいつのまにか、妹の小春と楽しそうにおしゃべりをしている。


 なにこのアウェイ感……。



 「あ、一つだけ確認したいんだけどさ」


 ふと思い出したかのように、有希亜はこちらに顔を向けてきた。


 「……なんですか?」


 それに対して、僕はジト目で無言の敵意を見せようとするも、有希亜はそんな視線をものともせずといった感じで、間を一置きすると、なんとも今更なことを訪ねてきた。



 「結局、ここってどこ?」

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