第38話 先輩38 クリスマス2

 「お母さん、あとどれくらい~?」

 

 出発後に爆睡していた妹が、さすがに眠気は吹っ切れたのか、今は目をパッチリさせて運転手に尋ねる。


 「もう少しでつくよー」

 「やった~!」


 サービスエリアで軽い朝食をとった僕らは、そこからさらに2時間ほど右手に海岸、左手に山という少しばかりパラドックスな自然に囲まれた高速を走り、山頂までくっきり見える富士山が遠くにちらちらと覗いてくるのが確認できるところまで来ていた。



 「あ、次じゃない?」

 「あ、ホントだ」


 エリカさんはスマホを見ながら、母さんは前方に見える緑の標識を見ながら言った。僕も母さんにならって標識をかがみながら車の真ん中から覗き見ようとする。

 

 ゴツンッ!


 「「いっっったぁっ……!!」」

 「ちょっ……!?……とぉ、2人とも何やってんのー?」


 エリカさんが何事かと勢いよく振り返るが、後ろで頭を抱える僕と彼女の姿を見るなり、呆れ顔で言う。


 「きゃはははっ!」


 妹はそんな僕らを見て、大爆笑。


 「ご、ごめんなさいっ!横見てなくて……」

 「あ、いや、こっちこそごめん。標識見ようとしてて……」


 お互いに今のダブルヘディングショットを謝る。


 「今のは結構クリティカルに決まったねぇ」

 

 ゲラゲラと笑いしつつも安定の運転ぶりを見せる母さん。

 ……あー、バックミラー越しに後部座席が見えたのか……。


 「ほんとごめんね?大丈夫……?」

 

 自分のおでこを抑えながら、僕の頭をなでなでしてくれる有希亜。

 なにこれ。うれしい、けど……


 「わぁ!お兄ちゃん、甘えん坊さんだぁ!」

 「え?」

 「なっ!?」


 僕たちの様子を前の座席からじーっと見ていた妹が車内に響き渡る声で面白いものでも見つけたように叫んだ。


 「ほぉー、お母さんのおっぱいだけじゃ足りず、有希亜ちゃんにまで甘えようとしてるのかぁ」

 「えっ」

 「っておい!?」


 すかさず余計なツッコミをいれてくる母さん。

 

 「違うわ!っていうか、もう飲んでないわ!」


 こちらもしっかりと否定するところは否定しておく。じゃないと、目の前でドン引きとも驚愕ともとれる顔をした一つ上の女子にとんでもない誤解を植え付けることになりそうだったから。


 「なるほどねー。カイ君、橙子のただれたおっぱいなんてやめて、有希亜のきれいなおっぱいを飲みなさい」

 「は?!」

 「え」

 「ただれたおっぱいはお互い様でしょ?」


 今度はエリカさんがフォローどころか、さらに面倒くさい提案を繰り出す。それに対して、先ほどとは逆の反応する僕ら。そしてどうでもいいところで張り合う母さん。

 ちなみに、橙子とは母さんの名前である。


 先輩の方を見ると、あわわと口を開きっぱなしで赤面の彼女が同じくこっちを見ていた。両腕で胸あたりを隠すように抑えて。


 「か、カイ君、どこ見てるのっ!?」

 「みみみ、見てませんっ!」


 慌てて目をそらす。


 「あらあら、先輩の胸をガン見だなんて、とんだ変態息子ね~」

 「いいじゃない、多少変態な方が人間味があって。有希亜も胸くらい揉ませてあげなよー」


 いや、あんたらが一番変態だよ……。

 母親の下ネタマシンガントークに付き合わされる子供達の身にもなってほしい。妹の小春なんて、まだ下ネタという概念のない普通の世界にいるから、ポケーっとしている始末。


 「な、なに言ってんの、お母さん!?」


 あまりに赤面しすぎて、沸騰しそうな彼女は慌てた様子で叫ぶ。

 母さんとエリカさんはそんな彼女を見て、大爆笑している。



 初日でこんななのに、明日家に着くまで僕はもつのだろうか……。

 そんな不安を抱かせて、ようやく車は富士宮で高速道路を降りた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る