第35話 先輩35 フラグ投下
「24日、家族で旅行行くから予定空けといて」
「……はい?」
帰宅するやいなや、僕の、僕と有希亜のイヴデートの計画は、唐突な母親の宣告によって真っ黒に塗りつぶされた。
『ま、まぁ家族の予定なら仕方ないよ』
「ごめんっ、せっかくのイヴに……」
自分から誘っておいて、その日のうちにキャンセル報告をする羽目になるとは思わなかった。僕は電話越しにいる有希亜に土下座する勢いで謝罪の言葉を述べた。
『もともと私の方が全然予定空いてなかったせいでもあるからそんな謝らないで』
「そう言ってくれるとありがたいです」
『でも残念だなー』
「そーですね、せっかく好きな人とイヴ過ごせると思ったのに」
『んなっ!?』
「……あ」
しまった、ショックすぎてネガティブ思考になりすぎて口が軽くなりすぎてた。またからかわれ……。ん?『んなっ』……?
『きゅ、急にそういうこと言うのずるい……』
「あ、えっと……」
あれ?なんか……。
『こ、こんな耳元でそんな恥ずかしいこと言わないでよ……』
「ご、ごめんなさい」
電話越しでも有希亜の顔がつい一週間前まで咲いていた紅葉のごとく、真っ赤に染まっているのが容易に想像できた。
『な、なんで笑ってるの?』
「あ、バレた?」
『やっぱり~!もう知らないっ!』
小学生並みに分かりやすく拗ねた声を出すかわいい彼女。
「ごめんごめん」
『……ホントにー?』
「本当ですって。今度からは、ちゃんと直接面と向かって耳元で言えばいいんですよね?」
『っ……!それはダメっ、絶対ヤバいから……』
なにこれ、めっちゃかわいい……!
「ふーん?」
『あーもう、おしまいっ!またねっ!』
プツッ……ツーツーツー
あらら、ちょっとやりすぎたかな。でも……やっぱかわいかったな。
イヴの予定はなくなったけど、有希亜を弄るツボがだいぶわかってきたからそれで良しとした。
翌週
こうしてテストも無事挽回を記し、今年最後の校長の長ったらしい子守唄を聞き流し、ようやく二学期最終日を終えた。
「カイ君、26日はどうする?」
冬休みの宿題と机の中の残ったものをすべて詰め込むべく、かばんと短気にわたる苦戦を強いられていると、横から優斗ののんびーりとした声が聞こえてきた。
「んー、どうしようかなぁ。明日香は何かいい案ある?」
「もう、困ったらすぐ人に頼るんだから。そうだねぇ、なんかない、優斗?」
「って、お前も人任せなんかいっ」
漫画のようなツッコミ……。
「夏休みは花火大会行ったよなー」
「あ、それじゃぁイルミネーションはどうっ?」
「えー、それはちょっと……」
「なによ、優斗。なんか文句あるの?」
「あ、いや……」
優斗は明日香の顔を見て、すぐに訂正しようとする。
まぁ、わからんでもないけど。あ、わからんでもないのはイルミネーションの方だから。明日香の顔を見てっわけでは決してないから、ホントだから。
別に「そういう」わけではないが、一応明日香のフォローにつく。
「まぁ、イルミネーションだったら浜松駅か静岡駅でそれなりに大きいのが見れるはず……」
「カイ君、それはどこの先輩彼女との体験談からかしら~?」
「えっ……いやいやいやいやいやいや!僕も行ったことないから、初めてだから!」
フォローに入ったつもりなのに、予想外なところで彼女の地雷に踏み込んでしまったらしい。っていうか、「どこの先輩彼女」ってほとんど断定してるよね……?
「ほんとにぃ~?」
それでも疑いの視線をやめない明日香。
「ほ、ほんとだって。こんなところで嘘ついたってしかたないだろ?」
「……はぁ、まぁそういうことにしておく。それで、具体的にはどこのイルミネーションにする?」
「……御殿場の近くに『つま恋』があるよ」
信じる気ゼロじゃねーか、とか二次災害に発展しそうな発言は控え、話を進めることを優先する。やっぱ僕って大人。
「あー、テレビでよくやってるやつか!」
会話に入りにくそうにしていた(地雷幼馴染にびびっていた)優斗がすかさず反応する。
「つま恋」とは「つま恋リゾート 静の郷」のことで、静岡県掛川市にある県内では割と有名なイルミネーション観光地なのだ。地元テレビの「静岡テレビ」通称「静テレ」で、そこと「なごやか」と「コンドルド」のCMばっかり流れるので地元県民にはなぜかとても印象に残っているのだ。
「いいじゃん、御殿場なら静岡駅の方に行くよりだいぶ近いし、そこにしようよ!」
「そうだねっ。私もいいと思う!」
「よし、じゃぁ決定ってことで、当日は夕方5時くらいに浜松駅集合でいい?」
「「さんせーい!」」
そんな感じで、特に変なフラグも立てることなく、無事冬休みの予定も決まったところで、僕らはようやく解散した。っていっても、家の方角一緒だから結局今からも一緒に帰るんだけどね。
なんで下校しながら話さなかったんだろう……。
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