第21話 先輩21 通学路

 キーンコーンカーンコーン


 「はい、それじゃぁみんな、今日は先生たちが職員会議で部活はないはずだからすぐ下校しなさいねー?さようならー」

 「さよーならー」


 今日は月に1度の先生たちの職員会議があるらしく、帰りの会もいつもより早く終わった。みんなテスト週間でもないのに部活が休みなのがうれしいのか、友達と話しながらノロノロと帰り支度をしている。 



 「明日香、体調はもう大丈夫?」

 

 隣で黙々とかばんに教科書を入れる明日香に問いかけた。


 「んー?もう何ともないかな。ありがと」

 

 かばんを中をごそごそしながらいつもの落ち着いた顔で返事をする明日香。


 「そっか、それならよかった」

 「うん」


 そうは言いつつも、朝のテンションはどこに行ったのか、2時間目の終わりからずっとこの調子だ。

 結局、あの後トイレに行った明日香は2時間目の終わりに教室に戻ってきた。しかもなぜか優斗と。優斗いわく、明日香が体調不良を訴えたので一緒に保健室に行ったとの事。


 「じゃぁ、わたし帰るね」

 「あ、うん。また明日」

 「うん、また明日」


 大丈夫かな……?


 しかし僕に何ができるというわけでもないので、普通に下校支度を進める。



 「なぁ、カイ君」

 「え?」


 後ろから聞こえた男子の方を振り向くと、クラスメイトが手招きしている。


 「どうしたの?」 

 「今、廊下で2年の先輩がカイ君を呼んでって言われたんだけど」

 「2年の先輩?」

 「うん、同じ委員会の人だって言ってたけど」

 「あー、わかった、すぐ行くよ。ありがとね」

 


 なんとなく察しがついたので、ささっと荷物をスクールバッグに突っ込み、早々と教室を出た。


 


 「やっぱり」

 「あ、カイ君。やっほ」


 昇降口に行くと僕の学年の下駄箱のところにすでに運動靴を手に持った先輩が立っていた。

 

 「一緒に帰ろ?」

 「はい、帰りましょっか」


 下駄箱に体育館シューズを入れ、こちらも運動靴に履き替える。

 

 「一緒に帰るのは2回目だね」 

 「そういえばそうですね」

 「まさか忘れてたの?」

 「だって、だいぶ前の事じゃないですか。むしろ覚えてた先輩がすごい」

 「そりゃ覚えてるよっ」

 

 にへらと子供のようにうれしそうな顔をする先輩。



 ヒソヒソ……

 「あれ、カイ君じゃない?」

 「ほんとだ、隣にいる人、誰?」

 「先輩じゃない?かばんのヒモ、2年の色だし」

 「なんでカイ君が女子の先輩と一緒に……?」



 「カイ君、人気者だね」

 「もう、笑い事じゃないですよ」

 

 先輩は口に手を当て、ふふっと笑いを抑えている。

 今日は全校一斉下校なので、通学路にはたくさんの生徒がいる。当然、同じクラスの人達もちらほら見えるので、僕らの方を見てはヒソヒソと話している。といっても聞こえてるし、大体想像がつくんだけど……。

 なんかすごく恥ずかしい……。


 「あれ、カイ君顔真っ赤だけどどうかしたのー?」

 

 そんな僕にお構いなく、先輩は楽しそうに僕の反応をうかがう。

 

 「もう、からかわないでくださいよ。ただでさえ、先輩と一緒に帰るの見られるの恥ずかしいのに」

 

 言ってからしまったと思ったが、すでに時は遅し。ニヤニヤ顔の先輩はさらに調子に乗り始めた。


 「ふーん?どうして私と帰るのを見られると恥ずかしいのかなー?」

 「あ、いや、今のは……」

 「あははは、かわいい~」

 「っ……、もう一人で帰ろうかな」

 

 すると先輩は涙目になりながら、謝ってきた。もちろん、笑い泣きの方で。


 「ごめんごめん。でも、私だってちょっとは緊張してるんだよ……?」

 「え……?」

 

 ちょっと驚いて、先輩の顔を見ると、確かにその顔にほんのり赤みがかっているのが見えた。


 「でも、恥ずかしさよりうれしさの方が大きいかな~。カイ君はどう?うれしい?」

 「それは……」

 「ふふっ。まぁ周りの目なんて気にする必要ないと私は思うよ?2人の事なんだしさ?」

 

 たしかに、僕たちは付き合っているんだから、別に一緒に帰ったってなにも問題にはならない。


 「そうですね。わかりました、気にしないよう心がけてみますね」

 「うん、よろしい!それじゃぁ」


 そう言って、先輩は僕に右手を差し出してきた。


 「えっと……」

 「ん!」

 「さすがにこの人目でそれは……」

 「いいからー」


 「……はい」


 観念した僕は差し出された右手に自分の左手を重ねた。

 そこからは、先輩の手の温かさと、刺さる視線を堪能しながら通学路を歩いていった。

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