第18話 先輩18 新学期
「おはよー」
「おっはー、夏休みどうだったー?」
「俺は部活ばっか~。お前は?」
「俺もそんな感じ」
「加奈子~、夏休みの宿題見せて~!」
「え、あんた終わってないの?」
「えへへ、家族で海外旅行行ったり友達と海行ったりで忙しかったんだ~」
「へぇ、そんな楽しい思い出いっぱいの登紀子にはみせなくてもいいよね」
「え!?なんで、お願いしますっ」
新学期。
昇降口にはワイシャツ姿の中学生でにぎわっている。みんなそれぞれの夏休みを過ごしたようで、1か月ぶりに会うクラスメイト達との再会に会話を弾ませている。
「カイ君、おはよっ」
「やぁ、明日香。おはよー」
下駄箱に着くと、目の前にはちょうど上靴を履き終えた明日香の姿があった。
町内祭りからそんなに経ってないのに、なんだか会うのが久々に思えるのは、浴衣着でもお団子頭でもなく、修了式に見たワイシャツに爽やかな雰囲気を思わせるきれいなポニーテール姿だったせいもあるのだろう。
教室へ向かいながら2人は夏休みの思い出話に花を咲かせる。
「町内祭り以来だね」
「そうだね。カイ君はあれから夏休みはどう過ごしてたの?」
「特に何もなかったな。部活動ほぼ毎日言って、その合間縫って夏休みの宿題ギリギリで終わらせてって感じかな」
「はははっ、平凡な夏休みだったんだね」
「うん、来年はもっと効率よく生活しようと思いました」
「なにその感想文みたいな言い方」
お腹を抱えて、くすくすと笑う明日香。
「明日香の方はどうだったんだよ」
「私?夏休み後半は私も部活ばっかりだったかな。あ、宿題には追われなかったけどね」
「うわ、むかつく……」
「あはははっ、前半に結構頑張ってたからね。誰かさんとは違って」
「はいはい、余計なお世話です」
ガヤガヤ
「お、新学期早々夫婦で登校とはやるねぇ」
教室に入るなり、ニヤニヤと冷やかしの言葉を浴びせてくる女子たち。
「ち、違うわよっ。たまたま昇降口で一緒になっただけで」
「そんな恥ずかしがらなくてもいいのに~、明日香は2学期になっても相変わらず乙女だこと」
「もうっ。そんなこと言ってると、夏休みの宿題見せてあげないわよ」
顔を膨らませた明日香がそう言うと、女子たちは焦ったように笑いながら謝りだす。
「ご、ごめん、明日香っ。だからそんな冷徹な目をこっちに向けないで~」
いつも通りの学校生活だ。また、1学期と変わらないいつもの生活が始まるのだ。
そう思っていたのだが……。
「じゃぁみなさん。明日からは1時間目から授業だからね。遅刻しないように。では、さようなら」
「「「さよーならー」」」
始業式も学級活動も終わり、今日は部活もないので、みんな下校の支度をする。
僕もそろそろ帰ろう……。
ガラッ。
「失礼します。海斗君はいますか?」
「え……?」
教室の前の扉が開いたと思ったら、制服姿の副委員長が立っていた。
「あの人、誰……?」
「っていうか、2年生だよな、あの上靴の色」
「カイ君を呼んでたみたいだけど?」
と、クラスメイト達は少し驚いた声を上げる。
「お久しぶりです、副委員長。どうしたんです?」
騒がしくなるクラスメイトをよそに、僕は彼女のところへ行く。
「久しぶりー、海斗君。今ちょっと時間ある?」
「はい、大丈夫ですけど……」
「ちょっとついてきてくれる?」
「え、はい……」
どうしたんだろう。副委員長がうちのクラスに来るなんて初めてじゃないか?ちょっとって、委員会の話かな……?
そんなことを考えながら、彼女の後をついていく。
あれ、なんで上に上がるんだ?放送室なら下の階なのに……。
「あの、副委員長、放送室に行くんじゃないんですか?」
「ん?今日は君の担当じゃないだろ?」
「まぁそうですけど」
上ってことは上級生の階だ。ってことは、委員長のところに行くのかな?
ガラッ
2年2組の教室を開けると、そこには誰もいなかった。上級生はもうすでにみんな帰ってしまったようだ。というより、うちのクラスの先生がいつも帰りの階が遅いだけだと思うのだが。
「えっと、ここは副委員長のクラスですか?」
「いや、私のクラスは隣だ」
「え、どういうこ……」
「まぁ、詳しい話はこの後来る奴に聞きな。それじゃぁ、私は帰るから。また委員会でな」
「え、ちょ……」
ガラッ
他学年の僕を他学年の教室に一人残して、副委員長は帰ってしまった。
どういう事……?委員会の話かと思ったら、放送室でも委員長や副委員長の教室でもなく、挙句の果てに一人置き去りだし……。
たしか副委員長、この後来る奴って言ってたな。誰か来るのかな……?でもその前に他の見回りの先生来たら僕怒られるんですけど……。
ガラッ
ふいに後ろの扉が開く音が聞こえた。見回りに来た先生かと思い、バッと後ろを振り返る。
「あれ、先輩……?」
しかし、そこに立っていたのは先生でも副委員長でもなく、10日ぶりに見る先輩の姿だった。
「久しぶり、カイ君」
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